「利用者:Notorious/サンドボックス/ぬいぐるみ」の版間の差分

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次の瞬間、ヘリがぎゅんと急発進した、ように見えた。機体のバランスが崩れ、錐揉み状態になる。だが、まっすぐ、巨人の掌に向かってすっ飛んでいく。あっという間もなく、ヘリは巨人の掌に激突、爆発した。わずかに遅れて、衝撃波が雅登の周りの空気を揺らす。ヘリの破片が散っていくのを、雅登は呆然と見ていた。いや、散っていない。一瞬舞い散るが、すぐに巨人の掌に吸い寄せられている。はっと気づいた。{{傍点|文章=引き寄せているのだ}}。巨人はヘリを、引き寄せたのだ。
次の瞬間、ヘリがぎゅんと急発進した、ように見えた。機体のバランスが崩れ、錐揉み状態になる。だが、まっすぐ、巨人の掌に向かってすっ飛んでいく。あっという間もなく、ヘリは巨人の掌に激突、爆発した。わずかに遅れて、衝撃波が雅登の周りの空気を揺らす。ヘリの破片が散っていくのを、雅登は呆然と見ていた。いや、散っていない。一瞬舞い散るが、すぐに巨人の掌に吸い寄せられている。はっと気づいた。{{傍点|文章=引き寄せているのだ}}。巨人はヘリを、引き寄せたのだ。


いつの間にか、雅登の足は止まっていた。もう、体が限界だった。足がガクガクと震え、たまらずその場にへたり込む。ぜえぜえと荒い息しかできない。でも、目は巨人の手から離せなかった。
いつの間にか、雅登の足は止まっていた。もう、体が限界だった。足がガクガクと震え、たまらずその場にへたり込む。ぜえぜえと荒い息しかできない。でも、目は巨人の手から離せなかった。少し前に身を持って味わったあの重力。巨人は、それを自由に使えるのだ。まるっきり未知の能力に、既存の軍隊は太刀打ちできるのか? 急に背筋が寒くなった。
 
突然、シュウウッという空気を切り裂く音が、頭上から聞こえた。微かな航跡を残して何かが、巨人の胴にぶつかり、ドンと爆ぜた。一瞬、巨人が明るく照らされ、その体からいくつかの破片が落ちていくのが見えた。いつの間にか雅登の上方に来ていたヘリコプターから、ミサイルが発射されたのだった。
 
すぐにもう一発のミサイルが撃ち込まれる。それは正確に標的の方へ飛んでいき、今度は巨人の肩に着弾した。巨人は顕著に反応した。姿は見えないが虫の羽音が聞こえたときのように、盲滅法に腕を振り回す。みたびミサイルが巨人の鉄の皮膚を穿ち、巨人の恐慌はヒートアップした。
 
攻撃が効いている。そう喜ぶ余裕は、雅登には全く無かった。雅登の心中は、ヘリのパイロットへの怨嗟で満ちていた。なんだって俺の真上に陣取ったんだ、これじゃあ俺が巻き添えを食いかねねえじゃねえか。嫌な予感につき動かされ、雅登は立ち上がり、再び一目散に走り出した。巨人のいない方へ、道をまっすぐ逃げる。
 
ヘリは猛攻を加えていた。友機が撃墜された恨みも籠めてか、空対地ミサイルを絶え間なく発射し続ける。何せ的が大きい。巨人から300メートル離れていても、外れる攻撃は無かった。一発一発の威力は小さくとも、少しずつ少しずつ巨人の装甲を削ることができている。
 
それは、7発目のミサイルを発射したときだった。巨人の動きが止まった。ダメージを受けて動けなくなったのではない。巨人に顔はないのに、パイロットは視線に射すくめられるように感じた。ゆっくりと、巨人の左腕が上がっていく。
 
見つかった、と雅登は確信した。巨人は遂に、うるさい虫の姿を捉えたのだ。雅登は全力疾走しながら、首をねじ曲げて後ろを見ていた。巨人がヘリを見つけた。巨人の左腕が上がっていく。これは、まずい。ヘリもそれを察知したのだろう、ヘリが機首を上げ、後退しようとするが、それより早く巨人の掌がヘリを向いた。泣きそうになりながら、雅登は思った。だから言ったじゃないか。
 
グンッという音が聞こえた気がした。気がしただけで無音だったのだが、間違いなく、巨人が重力を発動したのだ。ヘリが、巨人の方にぐっと動く。しかし、ヘリは落ちていかなかった。機体を大きく傾け、機底を巨人に向け、平衡を保っていた。{{傍点|文章=下}}という方向の変化に、推力の方向を巧みに合わせたのだ。ヘリはほとんど真横になりながら、ホバリングしている。出力を上げたローターの轟音が、耳に刺さる。
 
雅登は心の中で、ヘリに向かって快哉を叫んだ。よくやった、頑張れ! ヘリからは100メートルほど離れたが、道がまっすぐだから、ヘリも巨人もよく見えた。もしかしたら、逃げ切れるかもしれない。
 
その瞬間、ヘリが巨人と反対方向に吹っ飛んだ。いや違う、巨人の重力がなくなったんだ、と雅登は瞬時に思い直した。引力を相殺するための推力が不要になり、放り出されたのだ。あたかも綱引きの最中に、相手が突然綱を離したかのように。ヘリは激しく回転して高度を下げてくる。ちょうど雅登の方へと。雅登の顔から血の気が引いた。だから、だから……。走るスピードを上げようとした途端、何かに激突し、胸をしたたかに打った。吐きそうになり、思わずアスファルトに倒れ込む。
 
後ろばかり見ていたのが仇となり、乗り捨てられた車にぶつかってしまったのだ。一瞬ののち雅登は空を見上げた。ヘリは体勢を整えていた。だいぶ高度は落ち、橇がしっかり見えるほどだったが。よかった、なんとか凌げた、と思った直後、雅登は巨人の動きに気づいた。
 
巨人の右腕の動きが、スローモーションのように見えた。後方からぐわあっと上がってきた右腕は、頭上にまっすぐ伸びていた。そのまま前方に振り下ろされてくる。これは、投球フォームだ。腕に遅れることコンマ数秒、右の掌に引かれた大量の瓦礫が猛スピードで射出された。こちら目がけて、まっすぐ。
 
「うわあぁぁああ」
<br>高速の瓦礫は、散弾のようにヘリを襲った。散弾の範囲は、動けない雅登の少しだけ上に広がっていた。唸りを上げて飛んできた無数のコンクリート片は、ヘリコプターと周りのビルや道路を砕いた。
 
ドガガガガと死の散弾が相次いで着弾し、雅登の後ろで石の煙が上がる。腰が抜けて、立つことができない。直後、上で爆発音がした。ヘリが胴から黒煙をあげ、激しく回転しながら落ちてくる。ヘリは最後の最後にバランスを崩し、50メートルほど先で、横倒しになって墜落した。その瞬間大きな爆発が起こり、外れたメインローターが一直線に道路を駆けた。雅登が横に
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