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とりあえず状況を把握しようということになった。権田はいち早く目覚めて少しこの部屋の探検もしたようだが、全貌を把握するには至っていないとのこと。 | とりあえず状況を把握しようということになった。権田はいち早く目覚めて少しこの部屋の探検もしたようだが、全貌を把握するには至っていないとのこと。 | ||
<br> まずは自分たちのことから。着ている衣服は、下着とシャツとズボンくらい。靴下すら履いていなかった。持ち物もほとんどない。ズボンのポケットに入れていたハンカチはあったが、腕時計は消えていた。体にも不調や違和感はない。怪しい番号を彫られたり、知らぬ間に臓器を摘出されたりはしていないようだ。だが、服を脱いで隅々までチェックするわけにはいかないから、鼠蹊部にICチップを埋め込まれたりしている可能性は拭えない。後で見てみよう。とにかく、ほとんどの所持品や衣服が奪われていることがわかった。携帯や無線ももちろん無いから、外部と連絡を取る術がない。 | <br> まずは自分たちのことから。着ている衣服は、下着とシャツとズボンくらい。靴下すら履いていなかった。持ち物もほとんどない。ズボンのポケットに入れていたハンカチはあったが、腕時計は消えていた。体にも不調や違和感はない。怪しい番号を彫られたり、知らぬ間に臓器を摘出されたりはしていないようだ。だが、服を脱いで隅々までチェックするわけにはいかないから、鼠蹊部にICチップを埋め込まれたりしている可能性は拭えない。後で見てみよう。とにかく、ほとんどの所持品や衣服が奪われていることがわかった。携帯や無線ももちろん無いから、外部と連絡を取る術がない。 | ||
<br> | <br> 次に、この部屋だ。広さは十畳くらいあるだろうか。床も壁も天井も真っ白で、清潔さを感じる。そして、異様に天井が高い。やはり5、6メートルはあるだろうか。もっとも、白一色だから目測が取りづらい。調度は、天井のライトと、権田が腰掛けていたベッドのみ。ベッドは飛び出た壁にマットレスを乗せただけのようで、枕も掛け布団も無い。ただし、そこそこ大きい。クイーンベッドくらいの広さはある。壁の一部であるから、権田がベッドを動かそうとしても、叶わなかった。マットレスを剥がそうともしたが、ベッドに固定されているらしく、これもできなかった。 | ||
<br> 部屋の四隅の床には、直径10センチほどの排水溝があった。穴の開いた金属の蓋が嵌まっている、学校のトイレなんかにあるタイプのもの。蓋を外せないか試してみたが、素手では到底できそうになかった。この部屋に水気はないのに、排水溝に何の必要性があるのだろう。 | <br> 部屋の四隅の床には、直径10センチほどの排水溝があった。穴の開いた金属の蓋が嵌まっている、学校のトイレなんかにあるタイプのもの。蓋を外せないか試してみたが、素手では到底できそうになかった。この部屋に水気はないのに、排水溝に何の必要性があるのだろう。 | ||
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<br> ドアの向こうは、今までより天井がぐっと低くなっていた。とはいえ、2メートル半くらいだから、普通の高さなのだが。どうやら、廊下のようだった。僕が先頭を切り、その後を権田が続く。 | <br> ドアの向こうは、今までより天井がぐっと低くなっていた。とはいえ、2メートル半くらいだから、普通の高さなのだが。どうやら、廊下のようだった。僕が先頭を切り、その後を権田が続く。 | ||
<br> 細長い廊下の中途。左右に向かい合うようにしてドアがあり、突き当たりにもう一つドアがある。僕は廊下を進み、右にあるドアを押し開いた。 | <br> 細長い廊下の中途。左右に向かい合うようにしてドアがあり、突き当たりにもう一つドアがある。僕は廊下を進み、右にあるドアを押し開いた。 | ||
<br> | <br> そこは、トイレだった。入ると、人感センサーで勝手に電気がつく。和式便座が一つと、壁に据え付けられた陶器の手洗い場。そして、便器の横に、もう一つ水槽がある。何に使うのだろう? トイレは概して清潔で、逆に違和感があるくらいだ。ただし、窓といった外への開口部は無い。 | ||
<br> トイレを出て、今度は向かいのドアを開ける。こっちは、脱衣所だった。とはいえ、これも備え付けの棚があるだけだ。横にあるスライドドアを開けると、やはり風呂があった。シャワーと浴槽がある。シャンプーの類もあるらしい。寮の風呂より広い。本当に僕らは監禁されているんだろうかと、疑問に思ってしまう。 | <br> トイレを出て、今度は向かいのドアを開ける。こっちは、脱衣所だった。とはいえ、これも備え付けの棚があるだけだ。横にあるスライドドアを開けると、やはり風呂があった。シャワーと浴槽がある。シャンプーの類もあるらしい。寮の風呂より広い。本当に僕らは監禁されているんだろうかと、疑問に思ってしまう。 | ||
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<br>「包帯に絆創膏、止血帯、薬も多い……。大抵の怪我や病気なら、対処できるな」 | <br>「包帯に絆創膏、止血帯、薬も多い……。大抵の怪我や病気なら、対処できるな」 | ||
<br> 水の瓶をらっぱ飲みしながら、権田が言った。この先輩は医者の家の出身で、医療知識がそれなりにある。 | <br> 水の瓶をらっぱ飲みしながら、権田が言った。この先輩は医者の家の出身で、医療知識がそれなりにある。 | ||
<br> | <br> 水を飲むと尿意を催したので、僕は一言断ってトイレに行った。小便を済ませると、水を流して手を洗う。水を流すと、傍らの謎の水槽の水も流れた。ともあれ、水道はちゃんと通っているようだ。その時、ふと気がついた。トイレットペーパーが無いのだ。そういえば、倉庫にも見当たらなかったはず。狭いトイレ内を探すと、先端にスポンジのついた鉄の棒を見つけた。僕の脳裏に、古代ローマを舞台とした映画の、トイレのシーンが思い浮かぶ。確か、海綿が先についた棒で汚れを拭き取っていたような……。まさか、これがトイレットペーパーの代わりなのか。ちょっと不衛生だろう。便意を覚えるまでに、ここを脱出できればいいんだが。 | ||
<br> 僕はトイレを後にし、倉庫へ戻った。すると、倉庫が先程より少し暗くなった気がした。その旨を権田に伝えると、 | |||
<br>「そうか? 一度ここを離れたから、わかるのかもしれないな」 | |||
<br>「外の日照サイクルに合わせてるのかもしれないですね」 | |||
<br>「そういや、室温もコントロールされてるみたいだな」 | |||
<br>「ええ。全館空調ってやつでしょうか」 | |||
<br>「ここはかなりの金がかかってるな」 | |||
<br>「この倉庫内の水と食料だけでも、かなりの量がありますからね」 | |||
<br>「まあそれだけの金があるから、人攫いなんてできるんだろうがな。そうだ、汗をかいたから、先に風呂に入ってきてもいいか?」 | |||
<br>「あ、はい。まるでホテルみたいですね」 | |||
<br>「こんなホテルごめんだよ」 | |||
<br> 苦笑した権田は、倉庫の隅から自分の着替えを取って、風呂へと向かった。僕は倉庫に寝そべり、物思いに沈んだ。 | |||
<br> 一体ここはどこなのか? 僕らを拐ったのは誰なのか? 目的は? いつか解放されるのか? |
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