「利用者:Notorious/サンドボックス/コンテスト」の版間の差分

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<br> 権田がここに座して待っている以上、薄々そうではないかと思っていた。しかし、明確に突きつけられると、やはり衝撃を受けた。まだ、心のどこかに、事態を楽観していた自分がいたのだろう。僕は誘拐監禁事件の被害者となったのだ。
<br> 権田がここに座して待っている以上、薄々そうではないかと思っていた。しかし、明確に突きつけられると、やはり衝撃を受けた。まだ、心のどこかに、事態を楽観していた自分がいたのだろう。僕は誘拐監禁事件の被害者となったのだ。


 とりあえず状況を把握しようということになった。権田はいち早く目覚めて少しこの部屋の探検もしたようだが、全貌を把握するには至っていないとのこと。
 まずは、大声を上げてみた。
<br>「おーい!」
<br>「誰かいませんかあ!」
<br> 何の返答も得られないまま5分ほど経ち、この試みはいたずらに喉を痛めただけだった。外を偶然通りがかった市民とはいかずとも、せめて犯人側からの説明だけでもあって欲しかった。自分たちが何のためにこんなところにいるのかわからないというのは、かなり不安にさせられる。
<br> とりあえず状況を把握しようということになった。権田はいち早く目覚めて少しこの部屋の探検もしたようだが、全貌を把握するには至っていないとのこと。
<br> まずは自分たちのことから。着ている衣服は、下着とシャツとズボンくらい。靴下すら履いていなかった。持ち物もほとんどない。ズボンのポケットに入れていたハンカチはあったが、腕時計は消えていた。体にも不調や違和感はない。怪しい番号を彫られたり、知らぬ間に臓器を摘出されたりはしていないようだ。だが、服を脱いで隅々までチェックするわけにはいかないから、鼠蹊部にICチップを埋め込まれたりしている可能性は拭えない。後で見てみよう。とにかく、ほとんどの所持品や衣服が奪われていることがわかった。携帯や無線ももちろん無いから、外部と連絡を取る術がない。
<br> まずは自分たちのことから。着ている衣服は、下着とシャツとズボンくらい。靴下すら履いていなかった。持ち物もほとんどない。ズボンのポケットに入れていたハンカチはあったが、腕時計は消えていた。体にも不調や違和感はない。怪しい番号を彫られたり、知らぬ間に臓器を摘出されたりはしていないようだ。だが、服を脱いで隅々までチェックするわけにはいかないから、鼠蹊部にICチップを埋め込まれたりしている可能性は拭えない。後で見てみよう。とにかく、ほとんどの所持品や衣服が奪われていることがわかった。携帯や無線ももちろん無いから、外部と連絡を取る術がない。
<br> 次に、この部屋だ。広さは十畳くらいあるだろうか。床も壁も天井も真っ白で、清潔さを感じる。そして、異様に天井が高い。やはり5、6メートルはあるだろうか。もっとも、白一色だから目測が取りづらい。調度は、天井のライトと、権田が腰掛けていたベッドのみ。ベッドは飛び出た壁にマットレスを乗せただけのようで、枕も掛け布団も無い。ただし、そこそこ大きい。クイーンベッドくらいの広さはある。壁の一部であるから、権田がベッドを動かそうとしても、叶わなかった。マットレスを剥がそうともしたが、ベッドに固定されているらしく、これもできなかった。
<br> 次に、この部屋だ。広さは十畳くらいあるだろうか。床も壁も天井も真っ白で、清潔さを感じる。そして、異様に天井が高い。やはり5、6メートルはあるだろうか。もっとも、白一色だから目測が取りづらい。調度は、天井のライトと、権田が腰掛けていたベッドのみ。ベッドは飛び出た壁にマットレスを乗せただけのようで、枕も掛け布団も無い。ただし、そこそこ大きい。クイーンベッドくらいの広さはある。壁の一部であるから、権田がベッドを動かそうとしても、叶わなかった。マットレスを剥がそうともしたが、ベッドに固定されているらしく、これもできなかった。
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<br>「……先輩、倉庫から救急箱取ってきます」
<br>「……先輩、倉庫から救急箱取ってきます」
<br>「おう……」
<br>「おう……」
<br> 僕は痛む肩を押さえて倉庫へと歩いた。さっき見つけた救急箱を一つ持ち、ついでに水の瓶も一本掴み、引き返す。倉庫を出て、廊下を渡って、小部屋へと入ったときだった。ぐんと横に手が引っ張られ、耐えきれずにその場に倒れる。続いて、ゴンッという衝撃音。すぐに小部屋の向こうのドアが開き、権田が現れた。
 
 僕は痛む肩を押さえて倉庫へと歩いた。さっき見つけた救急箱を一つ持ち、ついでに水の瓶も一本掴み、引き返す。倉庫を出て、廊下を渡って、小部屋へと入ったときだった。ぐんと横に手が引っ張られ、耐えきれずにその場に倒れる。続いて、ゴンッという衝撃音。すぐに小部屋の向こうのドアが開き、権田が現れた。
<br>「大丈夫か、何があった⁈」
<br>「大丈夫か、何があった⁈」
<br> 倒れた僕に駆け寄ってくる。しかし、僕は横の壁をぼんやりと見遣っていた。僕の視線を追って、権田がそれに気づいた。
<br> 倒れた僕に駆け寄ってくる。しかし、僕は横の壁をぼんやりと見遣っていた。僕の視線を追って、権田がそれに気づいた。
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<br>「包帯に絆創膏、止血帯、薬も多い……。大抵の怪我や病気なら、対処できるな」
<br>「包帯に絆創膏、止血帯、薬も多い……。大抵の怪我や病気なら、対処できるな」
<br> 水の瓶をらっぱ飲みしながら、権田が言った。この先輩は医者の家の出身で、医療知識がそれなりにある。
<br> 水の瓶をらっぱ飲みしながら、権田が言った。この先輩は医者の家の出身で、医療知識がそれなりにある。
<br> 水を飲むと尿意を催したので、僕は一言断ってトイレに行った。小便を済ませると、水を流して手を洗う。水を流すと、傍らの謎の水槽の水も流れた。ともあれ、水道はちゃんと通っているようだ。その時、ふと気がついた。トイレットペーパーが無いのだ。そういえば、倉庫にも見当たらなかったはず。狭いトイレ内を探すと、先端にスポンジのついた鉄の棒を見つけた。僕の脳裏に、古代ローマを舞台とした映画の、トイレのシーンが思い浮かぶ。確か、海綿が先についた棒で汚れを拭き取っていたような……。まさか、これがトイレットペーパーの代わりなのか。ちょっと不衛生だろう。便意を覚えるまでに、ここを脱出できればいいんだが。
 
 水を飲むと尿意を催したので、僕は一言断ってトイレに行った。小便を済ませると、水を流して手を洗う。水を流すと、傍らの謎の水槽の水も流れた。ともあれ、水道はちゃんと通っているようだ。その時、ふと気がついた。トイレットペーパーが無いのだ。そういえば、倉庫にも見当たらなかったはず。狭いトイレ内を探すと、先端にスポンジのついた鉄の棒を見つけた。僕の脳裏に、古代ローマを舞台とした映画の、トイレのシーンが思い浮かぶ。確か、海綿が先についた棒で汚れを拭き取っていたような……。まさか、これがトイレットペーパーの代わりなのか。ちょっと不衛生だろう。便意を覚えるまでに、ここを脱出できればいいんだが。
<br> 僕はトイレを後にし、倉庫へ戻った。すると、倉庫が先程より少し暗くなった気がした。その旨を権田に伝えると、
<br> 僕はトイレを後にし、倉庫へ戻った。すると、倉庫が先程より少し暗くなった気がした。その旨を権田に伝えると、
<br>「そうか? 一度ここを離れたから、わかるのかもしれないな」
<br>「そうか? 一度ここを離れたから、わかるのかもしれないな」
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<br> 苦笑した権田は、倉庫の隅から自分の着替えを取って、風呂へと向かった。僕は倉庫に寝そべり、物思いに沈んだ。
<br> 苦笑した権田は、倉庫の隅から自分の着替えを取って、風呂へと向かった。僕は倉庫に寝そべり、物思いに沈んだ。
<br> 一体ここはどこなのか? 僕らを拐ったのは誰なのか? 目的は? いつか解放されるのか?
<br> 一体ここはどこなのか? 僕らを拐ったのは誰なのか? 目的は? いつか解放されるのか?
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 しばらくして、権田が風呂から出てきた。濡れた髪をタオルで拭いている。備えつけのタオルがあったようだ。
 しばらくして、権田が風呂から出てきた。濡れた髪をタオルで拭いている。備えつけのタオルがあったようだ。
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<br>「ははっ、そうだったな」
<br>「ははっ、そうだったな」
<br> 僕は権田と入れ替わるようにして風呂に向かった。脱衣所で服を脱ぐと、権田の脱いだ服が棚にまとめて置かれていたから、その横に離して自分の服を置く。スライドドアを開いて風呂に入った。シャワーをひねると、さっきまで権田が使っていたからか、いきなり温水が出た。温かい湯を全身に浴びると、強ばった筋肉がほぐれていく。監禁されているというのに、こうして温かいシャワーを浴びていると、リラックスして安心すら覚えてくるのだから、呑気というか能天気というか。
<br> 僕は権田と入れ替わるようにして風呂に向かった。脱衣所で服を脱ぐと、権田の脱いだ服が棚にまとめて置かれていたから、その横に離して自分の服を置く。スライドドアを開いて風呂に入った。シャワーをひねると、さっきまで権田が使っていたからか、いきなり温水が出た。温かい湯を全身に浴びると、強ばった筋肉がほぐれていく。監禁されているというのに、こうして温かいシャワーを浴びていると、リラックスして安心すら覚えてくるのだから、呑気というか能天気というか。
<br> 風呂の中に、椅子や風呂桶は無かった。ボディソープやシャンプーを使おうとして気づいたが、ボトルが重い。これも鉄製だろうか。おそらく倉庫にあったものも同じなのだろう。中身は至って普通のようだ。
<br> 風呂の中に、椅子や風呂桶は無かった。ボディソープやシャンプーを使おうとして気づいたが、ボトルが重い。これも鉄製だろうか。おそらく倉庫にあったものも同じなのだろう。中身は至って普通のようだ。小さな剃刀もあったので、それで髭を剃る。この剃刀も鉄製なのか、大きさの割に重量がある。髭の伸び方からして、地下のパブで拐われてから一日は経っていないようだ。
<br> 欲を言えば湯舟につかりたかったが、今日はやめておこう。そう考えてから、ここに明日以降もいることを想定している自分に気づき、驚いた。ここが安全な場所とはまだ限らないのだ。気分を変えるために顔に湯をかけ、僕は風呂から出た。棚の隅にタオルが一本あったので、それで体を拭く。倉庫から持ってきた着替えは、誰も袖を通していない新品らしく、心地良い肌触りだった。薄いTシャツとトレーニングパンツ。何となく外部から助けがくることはないと思っていたが、もし今助けが来たら、くつろいでいるようにしか見えないだろうな、と一人苦笑する。
<br> 欲を言えば湯舟につかりたかったが、今日はやめておこう。そう考えてから、ここに明日以降もいることを想定している自分に気づき、驚いた。ここが安全な場所とはまだ限らないのだ。気分を変えるために顔に湯をかけ、僕は風呂から出た。棚の隅にタオルが一本あったので、それで体を拭く。倉庫から持ってきた着替えは、誰も袖を通していない新品らしく、心地良い肌触りだった。薄いTシャツとトレーニングパンツ。何となく外部から助けがくることはないと思っていたが、もし今助けが来たら、くつろいでいるようにしか見えないだろうな、と一人苦笑する。
 廊下に出ると、風呂のドアが開いた音を聞きつけたのか、権田が小部屋から手招きしていた。小部屋を通り抜けるときは緊張したが、今度は何ともなく通過できた。着替えの服に鉄は無いようだ。
<br> 最初の部屋に戻ると、権田はベッドの上に胡座をかいた。僕は固辞したが、結局権田の薦めを断れず、ベッドの反対端に腰掛ける。
<br>「佐藤、状況の把握は終わった。だから、次は検討に移ろう」
<br>「検討、というと?」
<br>「もちろん、脱出方法の検討だ」
<br> こうして、囚われた二人のディスカッションが始まった。
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「まずは定義づけだ。これからの議論を円滑に進めるために、言葉の意味を定める。まあ何がしたいかっていうと、部屋の正式名称を決めたいんだ」
<br>「なるほど。この部屋からいきますか。ドアがあるから、『玄関』とかにします?」
<br>「うーん、あのドアの向こうが外とは限らないがな。でも、意味さえ伝わればいいんだから、いいか。よし、この部屋は玄関だ」
<br>「次は、壁が磁石なその部屋ですね。僕は『小部屋』と呼んでますけど」
<br>「いいな、それで決まりだ」
<br> 部屋の命名作業は滞りなく進行し、『廊下』『トイレ』『風呂』『倉庫』もさっさと決まった。
<br>「後は、あの高いドアだな。ここが玄関だから、『玄関ドア』と呼ぼうか」
<br>「いいですね」
<br> 権田は腕を組み直した。
<br>「定義づけは終わりだ。いよいよ、本題に入ろう。脱出方法の検討だ。まずは脱出ルート」
<br>「……まずは玄関ドアでしょう」
<br>「だな。だが、その方法は最後に検討しよう。他の脱出ルートをまず洗い出せ」
<br>「他の脱出ルート……壁を破る、とかですか?」
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