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「小鳥くん、どうもこんにちは。」
「小鳥くん、どうもこんにちは。」


 小鳥がうしろをふりかえると、そこには真っ黒でのっぽのカラスがいました。りっぱなつばさをもっていて、とってもとぶのがはやそうです。かっこいい!
 小鳥がうしろをふりかえると、そこにはまっくろでのっぽのカラスがいました。りっぱなつばさをもっていて、とってもとぶのがはやそうです。かっこいい!


 ……だけど小鳥には、どこかぶきみなかんじがしました。
 ……だけど小鳥には、どこかぶきみなかんじがしました。
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 七時をつげる時計台のおとが、小鳥をわれにかえらせました。にしの方をみると、あおぐろい雲の下、お日さまはほとんどしずみかかっています。
 七時をつげる時計台のおとが、小鳥をわれにかえらせました。にしの方をみると、あおぐろい雲の下、お日さまはほとんどしずみかかっています。


 小鳥は、かんがえるよりさきに、じめんに向かってすごいスピードでおちはじめました。カラスもやっぱりあとをおって、まっさかさまにおちてきます。
 小鳥は、かんがえるより先に、じめんに向かってすごいスピードでおちはじめました。カラスもやっぱりあとをおって、まっさかさまにおちてきます。


「どうしたの小鳥くん、そのさきはただのじめんだよ! このままだとぶつかっちゃう!」
「どうしたの小鳥くん、その先はただのじめんだよ! このままだとぶつかっちゃう!」


 カラスの言うとおり、小鳥はじめんに向かってまっしぐら。あぶない、ぶつかる――!
 カラスの言うとおり、小鳥はじめんに向かってまっしぐら。あぶない、ぶつかる――!
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 ほほえましい気もちもひるがえって、雲の上へいちごをつれていくというやくそくをおもいだした小鳥は、じぶんのなさけなさがいやになりました。
 ほほえましい気もちもひるがえって、雲の上へいちごをつれていくというやくそくをおもいだした小鳥は、じぶんのなさけなさがいやになりました。


 あのときうそをついてしまったことが、いちごとのあいだの全てをだいなしにしているようにおもえました。
 ……小鳥には、あのときうそをついてしまったことが、いちごとのあいだの全てをだいなしにしているようにおもえました。


 だから小鳥は、いちごにほんとうのことをはなすことにきめました。
 だから小鳥は、いちごにほんとうのことをはなすことにきめました。
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「ほうほう、けっこう大きいね。これは……イチゴ、とかいったかな?」
「ほうほう、けっこう大きいね。これは……イチゴ、とかいったかな?」


 小鳥は、しばらくしていちごといっしょに森へかえってきました。リスさん、ウサギさん、ハトさんの顔をみてすこしだけ元気になれたけれど、明日のことをかんがえると気もちはしずむ一方です。
 小鳥は、しばらくしていちごといっしょに森へかえってきました。リスさんにウサギさん、ハトさんの顔をみてすこしだけ元気になれたけれど、明日のことをかんがえると気もちはしずむ一方です。


「こ、こら、いちごさんは食べものじゃない! ぼくのともだちだよ!」
「こ、こら、いちごさんは食べものじゃない! ぼくのともだちだよ!」
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「あはは、ごめんごめん!」
「あはは、ごめんごめん!」


 いちごは森のみんなとすっかり打ちとけたみたいで、小鳥との出会いや、ケーキやさんからつれ出してもらったことを、とってもたのしそうにおしゃべりしています。よかったよかった。
 いちごは森のみんなとすっかり打ちとけたみたい。小鳥との出会いや、ケーキやさんからつれ出してもらったことを、とってもたのしそうにおしゃべりしています。よかったよかった。


 ――気づけば空はすっかりまっくらになっていて、ともだちもみんなじぶんのおうちにかえっていったので、小鳥ももうねむることにしました。いちごといっしょに、木のみきのほら穴の中にねころがります。
 ――気づけば空はすっかりまっくら。ともだちもみんなじぶんのおうちにかえっていったので、小鳥ももうねむることにしました。いちごといっしょに、木のみきのほら穴の中にねころがります。


「小鳥さんのおうちのなか、あったかいね。」
「小鳥さんのおうちのなか、あったかいね。」
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「……そっか、それならたいくつしないかもね。」
「……そっか、それならたいくつしないかもね。」


「でしょ? ……でも、明日はついにほんとうに雲の上にいけるんだね。……なんだか夢をみてるみたい!」
「でしょ? ……でも、明日はついにほんとうに雲の上にいけるんだね。なんだか夢をみてるみたい!」


「……。」
「……。」
357行目: 357行目:
 ハトさんはようやく、小鳥がかかえている汚いものがいちごさんなのだと気づいたようです。
 ハトさんはようやく、小鳥がかかえている汚いものがいちごさんなのだと気づいたようです。


「今さっき起きたら、こんなことになってて……。」
「今さっきおきたら、こんなことになってて……。」


「これは……そうか……。たしかいちごさんは、ケーキやさんからにげてきたんだよね?」
「これは……そうか……。たしかいちごさんは、ケーキやさんからにげてきたんだよね?」
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「……『賞味期限』は『おいしく食べられる期限』、『消費期限』は『安全に食べられる期限』のことだよ。まあつまり、はっきり言ってしまえば……いちごさんはもう腐ってしまっているんだ。」
「……『賞味期限』は『おいしく食べられる期限』、『消費期限』は『安全に食べられる期限』のことだよ。まあつまり、はっきり言ってしまえば……いちごさんはもう腐ってしまっているんだ。」


 小鳥には、ハトさんの言っていることのいみがわかりませんでした。いちごさんが腐っている? 食べものでもないのに?
 小鳥には、ハトさんの言っていることのいみがわかりませんでした。おいしく食べられる? 安全に食べられる? いちごさんが……腐っている?


「……! た、食べるとか腐るとか言って、だからいちごさんは食べものじゃなくてぼくのともだちで……!」
「……! た、食べるとか腐るとか言って、だからいちごさんは……た、食べものじゃなくて、ぼくのともだちで……!」


「たしかに、小鳥くんにとってはともだちかもしれない。けど、きびしいことを言うと……けっきょくいちごさんはただのくだものなんだ。もちろん腐ることだってある。……どこまでいっても、食べものにすぎないんだよ。」
「たしかに、小鳥くんにとってはともだちかもしれない。けど、きびしいことを言うと……けっきょくいちごさんはただのくだものなんだ。もちろん腐ることだってある。……どこまでいっても、食べものにすぎないんだよ。」
407行目: 407行目:
「そ、そんな……。」
「そ、そんな……。」


「……わたし、あんなふうに食べられて、なくなっちゃうのはぜったいにいや。だから、その……。よ、よければわたしを――」
「……わたし、あんなふうに食べられて、なくなっちゃうのはぜったいにいや。だから、その……さ。よ、よければわたしを――」


お日さまがようやくのぼりはじめて、空の下の方が黄色くかがやきはじめました。しめってゆがんだいちごのすがたが、うすあかりにてらし出されます。
 お日さまがようやくのぼりはじめて、空の下の方が黄色くかがやきはじめました。しめってゆがんだいちごのすがたが、うすあかりのもとにてらし出されます。




421行目: 421行目:
「小鳥さんになら、いいの。食べられてもいい。だって……わたし、小鳥さんのことが好きだから。」
「小鳥さんになら、いいの。食べられてもいい。だって……わたし、小鳥さんのことが好きだから。」


 さらさらと風がふきました。おきっぱなしになっていたあのお気にいりの甘あい実たちがゆれて、ごきげんに歌をうたっているようにみえました。大きくひびくどくどくという音に耳をすませば、その歌声はじぶんのなかからもきこえてきていました。小鳥は、それが気のせいだとは思いませんでした。
 さらさらと風がふきました。


 小鳥は、いちごを食べることにしました。
 おきっぱなしになっていたあのお気にいりの甘あい実たちがゆれて、ごきげんに歌をうたっているようにみえました。
 
 大きくひびくどくどくという音に耳をすませば、その歌声はじぶんのなかからもきこえてきていました。
 
 小鳥は、それが気のせいだとは思いませんでした。だから。
 
 ――小鳥は、いちごを食べることにしました。




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「ほ、ほんとうはね、……雲の上にいったことなんてないんだ! ……こわいから。」
「ほ、ほんとうはね、……雲の上にいったことなんてないんだ! ……こわいから。」
 いちごはびっくりしたようすで――やさしくほほえみました。


「……ふふ、こどもみたいなりゆう!」
「……ふふ、こどもみたいなりゆう!」


「はは……。」
「……そう、だよね。……うん。」


「でも、これでおあいこだね。」
「でも、これでおあいこだね。」
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「……ゆるしてくれるの?」
「……ゆるしてくれるの?」


「だって、小鳥さんがわたしをたすけてくれたのはほんとうだもの!」
「だって、小鳥さんがわたしをたすけてくれたのは、ほんとうにほんとうだもの!」


「……ありがとう。」
「……ありがとう。」
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「小鳥くん、どうもこんにちは。」
「小鳥くん、どうもこんにちは。」


 小鳥がうしろをふりかえると、そこにはあの真っ黒でのっぽなカラスがいました。
 小鳥がうしろをふりかえると、そこにはあのまっくろでのっぽなカラスがいました。


「きみは……!」
「きみは……!」
507行目: 515行目:
 カラスは大きなつばさをひろげて、小鳥をだきしめようとしますが、ひらりとかわされてしまいました。そのままにげようとした小鳥でしたが、やはりカラスにまわりこまれてしまいます。
 カラスは大きなつばさをひろげて、小鳥をだきしめようとしますが、ひらりとかわされてしまいました。そのままにげようとした小鳥でしたが、やはりカラスにまわりこまれてしまいます。


 お日さまはあたたかい色の雲にかくされ、小鳥とカラスを真っ黒なかげがおおいました。
 お日さまはあたたかい色の雲にかくされ、小鳥とカラスをまっくろなかげがおおいました。


「ひどいなあ小鳥くん、ぼくの言ったこと、ちゃあんとわかっていたくせに。」
「ひどいなあ小鳥くん、ぼくの言ったこと、ちゃあんとわかっていたくせに。」
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 小鳥にはもう、なにをする気もありませんでした。なにもかんがえずに、このままじめんにおちることにしたのです。
 小鳥にはもう、なにをする気もありませんでした。なにもかんがえずに、このままじめんにおちることにしたのです。


 雨はどんどんつよくなっていき、しだいにどしゃぶりになりました。雲の下、カラスとおなじ真っ黒にそまった空には、あちこちで風がふきあれて、いたいたしい音がなりひびいています。
 雨はどんどんつよくなっていき、しだいにどしゃぶりになりました。雲の下、カラスとおなじまっくろにそまった空には、あちこちで風がふきあれて、いたいたしい音がなりひびいています。


 小鳥のからだはびしょびしょになりますが、赤黒い食べこぼしはいっこうにながれおちていきません。
 小鳥のからだはびしょびしょになりますが、赤黒い食べこぼしはいっこうにながれおちていきません。
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 街の時計台の音が、すぐ上からきこえてきました。きっと小鳥は、もうそろそろじめんにおちてしまうのでしょう。
 街の時計台の音が、すぐ上からきこえてきました。きっと小鳥は、もうまもなくじめんにおちてしまうのでしょう。


 けっきょく、小鳥のうそはうそのまま。雲の上にだなんて、まったくとどきませんでした。だけど小鳥は、だいきらいなじぶんがこんなさいごをむかえられて、とってもうれしそうです。
 けっきょく、小鳥のうそはうそのまま。雲の上にだなんて、まったくとどきませんでした。だけど小鳥は、だいきらいなじぶんがこんなさいごをむかえられて、とってもうれしそうです。
554行目: 562行目:
「小鳥くん……?」
「小鳥くん……?」


 ――ハトさんの言ったとおり、いちごは「消費期限切れ」でした。腐っているし、カビだってはえているんだもの。とうぜんのことです。
 ――ハトさんの言ったとおり、いちごは「消費期限切れ」でした。腐ったひどいにおいがするし、カビだっていっぱいはえているんだもの。とうぜんのことです。


 ……だけど、すくなくとも小鳥にとって、いちごは「賞味期限切れ」ではありませんでした。
 ……だけど、すくなくとも小鳥にとって、いちごは「賞味期限切れ」ではありませんでした。
562行目: 570行目:
「まさかほんとうになにもせずおちるなんて……。」
「まさかほんとうになにもせずおちるなんて……。」


 じめんにおりたったカラスは、真っ黒なつばさをはためかせ、みずをはらっています。
 じめんにおりたったカラスは、まっくろなつばさをはためかせ、みずをはらっています。


 雨のいきおいはましていくばかりで、小鳥のからだはすでにみずびたしです。
 雨のいきおいはましていくばかりで、小鳥のからだはすでにみずびたしです。


「まあいいや。……好きだよ、小鳥くん。」
「まあいいや。……好きだよ、小鳥くん。」
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