「利用者:Notorious/サンドボックス/コンテスト」の版間の差分

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「起きたか、佐藤」
「起きたか、佐藤」
<br> 聞き慣れた低い声に後ろを振り向くと、先輩巡査の権田が座っているのに気づいた。壁に備え付けられた腰掛けのようなものがあるらしい。3年先輩の権田とは、バディを組んで5年になる。警察官の仕事や心構えを、みっちりと叩き込まれてきたものだ。多くのチンピラを投げ飛ばしてきた、鍛え上げた体軀をずしりと構えている。しかし、心なしか迫力が減ったような気がした。すぐにその原因に気づく。権田は警察官の制服のシャツとズボンを着けている。だが、帽子やベスト、ネクタイまでもが見当たらない。もちろん、警棒や拳銃を入れたホルスターもない。いつもの制服姿でないから、些か威厳に欠けて見えるのだ。
<br> 聞き慣れた低い声に後ろを振り向くと、先輩巡査の権田が座っているのに気づいた。壁に備え付けられた腰掛けのようなものがあるらしい。3年先輩の権田とは、バディを組んで5年になる。警察官の仕事や心構えを、みっちりと叩き込まれてきたものだ。多くのチンピラを投げ飛ばしてきた、鍛え上げた体軀をずしりと構えている。しかし、心なしか迫力が減ったような気がした。すぐにその原因に気づく。権田は警察官の制服のシャツとズボンを着けている。だが、帽子やベスト、ネクタイまでもが見当たらない。もちろん、警棒や拳銃を入れたホルスターもない。いつもの制服姿でないから、些か威厳に欠けて見えるのだ。
<br> そこまで考えて、自分の服装も似たり寄ったりなことに気づいた。業務中にこんな服装となることはない。下手をすれば譴責ものだ。いや、そもそも仕事中ではないのか? ならなぜ権田がいるのだ? いや待て、そんなことより。ようやく、もっと早くに浮かんでいてしかるべき疑問が、奔流となって僕の脳に襲いかかってきた。僕はそんな数多の疑問符をまとめて、とりあえずそこにいる権田にぶつけてみた。
<br> そこまで考えて、自分の服装も似たり寄ったりなことに気づいた。業務中にこんな服装となることはない。下手をすれば譴責ものだ。いや、そもそも仕事中ではないのか? ならなぜ権田がいるのだ? いや待て、そんなことより。ようやく、もっと早くに浮かんでいてしかるべき疑問が、奔流となって僕の脳に襲いかかってきた。僕はそんな数多の疑問符の中でもとりわけ大きなものを、とりあえずそこにいる権田にぶつけてみた。
<br>「先輩、ここってどこですか?」
<br>「先輩、ここってどこですか?」
<br> 返ってきた答えは、そっけないものだった。
<br> 返ってきた答えは、そっけないものだった。
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<br>「人を攫う目的なら色々ありそうですけど、こんな建物に中途半端に閉じ込めておく理由がわかりませんね」
<br>「人を攫う目的なら色々ありそうですけど、こんな建物に中途半端に閉じ込めておく理由がわかりませんね」
<br>「この建物だけでも、相当な手間と金がかかってる。ここは人を監禁するために建てられたってことでいいんだよな? 何か別の理由で建設されたものを監禁に転用したとは考えづらいよな」
<br>「この建物だけでも、相当な手間と金がかかってる。ここは人を監禁するために建てられたってことでいいんだよな? 何か別の理由で建設されたものを監禁に転用したとは考えづらいよな」
<br>「“何か別の理由”に見当もつかないので、そうでしょうね。でも、ただ監禁するだけなら、内から開けられる鍵なんてつけなきゃいいんです。何か理由があってこんな構造をしているとは思うんですけど……」
<br>「“何か別の理由”に見当もつかないので、きっとそうでしょうね。でも、ただ監禁するだけなら、内から開けられる鍵なんてつけなきゃいいんです。何か理由があってこんな構造をしているとは思うんですけど……」
<br> 権田が顔を上げ、小部屋に続くドアの方を見た。正確には、その奥にある倉庫の方を。
<br> 権田が顔を上げ、小部屋に続くドアの方を見た。正確には、その奥にある倉庫の方を。
<br>「ここには、数年くらいなら生きられる設備がある。つまり、奴らは{{傍点|文章=監禁された人間に生きててほしい}}んだ。そうじゃなきゃ、金かけて食料なんて用意するより、放って飢え死にさせる方を選ぶだろう」
<br>「ここには、数年くらいなら生きられる設備がある。つまり、奴らは{{傍点|文章=監禁された人間に生きててほしい}}んだ。そうじゃなきゃ、金かけて食料なんて用意するより、放って飢え死にさせる方を選ぶだろう」
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「うまい脱出方法が思いつかない以上、ひょっとしたら長くここにいることになるかもしれん。だから、物資は節約しよう」
「うまい脱出方法が思いつかない以上、ひょっとしたら長くここにいることになるかもしれん。だから、物資は節約しよう」
<br> 権田がぽつりと呟いた。僕も力なく同意する。
<br> 権田がぽつりと呟く。僕も力なく頷いた。
<br> 天井のライトは随分暗くなり、権田の顔もよく見えないほどになっていた。暗くなると何も見えないから、必然的に寝るくらいしかできなくなる。僕は権田にベッドを譲り自分は床で寝ることを主張したが、権田の頑固な説得と恫喝、果ては先輩命令までもが発せられ、結局僕もベッドを使うことになった。マットレスの端ギリギリに横たわり、権田に背を向けて固く目を閉じる。
<br> 天井のライトは随分暗くなり、権田の顔もよく見えないほどになっていた。暗くなると何も見えないから、必然的に寝るくらいしかできなくなる。僕は権田にベッドを譲り自分は床で寝ることを主張したが、権田の頑固な説得と恫喝、果ては先輩命令までもが発せられ、結局僕もベッドを使うことになった。マットレスの端ギリギリに横たわり、権田に背を向けて固く目を閉じる。
<br> 権田はもう寝入ったのか、ぐうぐうという寝息が聞こえてきた。僕は頭が冴えていて、全然眠れそうになかった。数々の疑問が渦巻いて、脳内をぐるぐると回っている。
<br> 権田はもう寝入ったのか、ぐうぐうという寝息が聞こえてきた。僕は頭が冴えていて、全然眠れそうになかった。数々の疑問が渦巻いて、脳内をぐるぐると回っている。
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「なら何なんだ?」
「なら何なんだ?」
<br> 思わず小さく悲鳴を上げ、体のバランスを崩してしまう。便座にドボンしそうになったところを、ギリギリで権田が腕を掴んで止めてくれた。
<br> 思わず小さく悲鳴を上げ、体のバランスを崩してしまう。便器にドボンしそうになったところを、ギリギリで権田が腕を掴んで止めてくれた。
<br>「す、すみません……」
<br>「す、すみません……」
<br> いつの間に後ろにいたのだろう?
<br> いつの間に後ろにいたのだろう?
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<br>「その方法ってのは、何なんだ……?」
<br>「その方法ってのは、何なんだ……?」
<br>「取るのは、踏み台戦法をひねった方法です。足りない1メートルを、稼ぐ方法があるんです」
<br>「取るのは、踏み台戦法をひねった方法です。足りない1メートルを、稼ぐ方法があるんです」
<br>「しかし、ここにあるものでは、どれも高さが足りないという結論に至ったじゃないか」
<br>「しかし、ここにあるものでは、どうにも高さが足りないという結論に至ったじゃないか」
<br>「その通りです。ここにあるものだけでは、5メートルに届かない。だから、{{傍点|文章=ここに無いものも使う}}んです」
<br>「その通りです。ここにあるものだけでは、5メートルに届かない。だから、{{傍点|文章=ここに無いものも使う}}んです」
<br>「外から何かを調達する方法があるのか?」
<br>「外から何かを調達する方法があるのか?」
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<br>「まさか……まさか……」
<br>「まさか……まさか……」
<br> 権田は驚愕に目を見開いて叫んだ。
<br> 権田は驚愕に目を見開いて叫んだ。


「{{傍点|文章=わたしが子供を産むことが}}、{{傍点|文章=脱出方法だと言いたいのか}}⁈」
「{{傍点|文章=わたしが子供を産むことが}}、{{傍点|文章=脱出方法だと言いたいのか}}⁈」
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|style="text-align:right"|『セックスしないと出られない部屋』了
|style="text-align:right"|──『セックスしないと出られない部屋』了
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