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「で、これがそのダイイングメッセージってわけか……」
「で、これがそのダイイングメッセージってわけか……」


 文面の写しを渡され、<ruby>藤原朝也<rt>ふじわらあさなり</rt></ruby>は辟易していた。旧友である<ruby>赤田充<rt>あかたみつる</rt></ruby>警部補は、毎日のようにこの探偵事務所を訪れ、捜査線に浮上した無理難題を押し付けてくる。しかし、彼の探偵としての専門は浮気調査であった。
 文面の写しを渡され、<ruby>藤原朝也<rt>ふじわらあさなり</rt></ruby>は辟易していた。旧友である<ruby>赤田充<rt>あかたみつる</rt></ruby>警部補は、週に一度はこの探偵事務所を訪れ、捜査線に浮上した無理難題を押し付けてくる。しかし、彼の探偵としての専門は浮気調査であった。


「藤原、俺はお前のシャーロック・ホームズ級推理のおかげでここまで登りつめたんだぜ。この難解なダイイングメッセージ、お前の目にはどう写る?」
「藤原、俺はお前のシャーロック・ホームズ級推理のおかげでここまで登りつめたんだぜ。この難解なダイイングメッセージ、お前の目にはどう写る?」
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「はあ、いつも言ってるが、これだけじゃ何もわからねえよ」
「はあ、いつも言ってるが、これだけじゃ何もわからねえよ」


「残念だが、俺が言えるのは『これが被害者の死体の傍で床に書き残されていた』ってだけだ……ギブアップするか?」
「残念だが、俺に言えるのは『これが被害者の死体の傍で床に書き残されていた』ってことだけだ……ギブアップするか?」


「いや……待て。必ず{{傍点|文章=作為}}があるはずだ。時間をくれ」
「いや……待て。必ず{{傍点|文章=作為}}があるはずだ。時間をくれ」


「ハハ、そうくると思ったぜ」
「ハハ、そうくると思ってたぜ」


 ただし藤原は、不可解なものに関して「理屈付け」をしなければ気が済まない性格をしていた。その理屈はたいていの場合バカげた話にしかならないが、時には真実へたどり着くための重大な示唆として機能することもある。八方塞がりの行き詰った捜査には、思いのほかこれが効くらしい。だから赤田はいつも、大して推理能力に長けているわけでもないこの浮気調査探偵を訪れていたのだ。
 ただし藤原は、不可解なものに関して「理屈付け」をしなければ気が済まない性格をしていた。ひとたびその「モード」に入れば、何時間でも熟考してしまう、まさに悪癖だ。その理屈はたいていの場合バカげた話にしかならないが、時には真実へたどり着くための重大な示唆として機能することもある。八方塞がりの行き詰った捜査には、思いのほかこれが効くらしい。だから赤田はいつも、大して推理能力に長けているわけでもないこの浮気調査探偵を訪れていたのだ。


「まずこの文面から見て取れる情報は、漠然と三つある。まず『意味不明』、ダイイングメッセージにしちゃあ『長すぎる』、そして『消されていない』ってところだな」
「まずこの文面から見て取れる情報は、漠然と二つある。まず『意味不明』、そして『消されていない』ってところだな」


「ほう」
「ほう」
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「……へっ、ホントだよ」
「……へっ、ホントだよ」


「ただ、錯乱して無意味な文章をしたためたと考えると、{{傍点|文章=それにしてはまとまりすぎている}}という印象だ。確かにこれは意味不明だが、それは文章が破綻していて解釈が不可能であるからというよりは、何故こんなことを書いたのかが分からないからだ。……だから一旦、この文章を『特定の人物に何かを伝えようとしたもの』だと仮定しよう。つまり、この文章には俺たちが気づいていない何らかの解読方法が存在する」
「ただ、錯乱して無意味な文章をしたためたと考えると、{{傍点|文章=それにしてはまとまりすぎている}}という印象だ。確かにこれは意味不明だが、それは文章が破綻していて解釈が不可能であるからというよりは、何故こんなことを書いたのかが分からないからだ。……だからこのメッセージはおそらく、『特定の人物に何かを伝えようとしたもの』だろう。つまりこの文章には、俺たちが気づいていない何らかの解読方法が存在する」


「まあ、ダイイングメッセージってそういうもんだしな」
「まあ、ダイイングメッセージってそういうもんだしな」


「そう考えると、被害者が生命の危機を感じてから実際に死ぬまでには、ある程度の時間があったことがいえる。何せこのメッセージは長すぎるからな。しかし……ここからが難しいな。このメッセージは『消されていない』」
「しかし……ここからが難しいな。このメッセージは『消されていない』」


「というと?」
「というと?」
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