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「四人は電車の中に入っていきましたね。お、四人とも着席しました。刑務所予選でありがちな『座席で寝転がる』といったミスもないようです」
「四人は電車の中に入っていきましたね。お、四人とも着席しました。刑務所予選でありがちな『座席で寝転がる』といったミスもないようです」


「そうこうしているうちに、早くも次の駅に着きました。このロールプレイは、電車が三駅分移動するまで続きます。しかし短いながらも油断は禁物、この車両には、各駅から悪人を炙り出すための刺客が送り込まれてくるのです!」
「そうこうしているうちに、早くも次の駅に着きました。このロールプレイは、電車が三駅分移動するまで続きます。しかし、短いながらも油断は禁物。この車両には、各駅から悪人を炙り出すための刺客が送り込まれてくるのです!」
 
「車両はだいぶ混雑してきましたね。座席もほとんど残されていない状況ですが……」
 
「おっと、これは!? 『暗記の善人』囚人番号249番、高齢者に席を譲ろうとしています! さて、判定は……?」
 
「審判、レッドカードを掲げています。アウトですね。『プライドおじいさん』に席を譲ろうとするという痛恨のミスです。暗記に頼ったことでの弱さが出てしまった形でしょうか」
 
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 この刑務所に入ってから、ようやく「善」というものの素晴らしさを理解した。
 
 ……自分で言うのもなんだが、僕は天才だった。だから、幼稚園を卒業するときに大学の試験を受けて、そのまま飛び級で最高学府に入学したんだ。その結果、誰にも「道徳」をきちんと教わらないまま、大人になってしまった。「愛」だの「正義」だのを賛美するような寓話的な絵本もアニメも、一度だって見なかった。見ようという発想自体なかった。テレビに犯罪者が映るたびに、馬鹿だなあと思った。だって、犯罪はバレなければ犯罪にならないのだから。
 
 でも、バレてしまった。無期懲役刑で、この刑務所に入れられることになった。悲しかったし、悔しかった。もう研究なんてできたもんじゃない。だから、半分やけくそみたいな感じで、置いてあった絵本を読んでみたんだ。多分、バカにしてやろうっていう魂胆で。
 
 その絵本は、いたって普通の絵本だった。犬を猫が助けて、その恩返しに犬が猫を助けるというだけの、起伏も何も無いような話だ。……でも、僕には、何か強く惹かれるものがあった。だから、他の絵本もとにかくたくさん読んでみた。それでようやく、今更になって分かったのが、「善」というものの素晴らしさだった。
 
 それからは、道徳の教科書を何回も読んだ。読むたびに発見があって、楽しかった。……いつしか、「ちゃんと道徳心を持ちたい」と思うようになった。今はまだ道徳の知識を覚えることしかできないけど、これを積み重ねていけば、みんなと同じような「普通の良い人」になれるかもしれないと思った。だから頑張って、「道徳」を暗記し続けた。
 
 けれど、どうやら僕は間違っていたらしい。善意による行動でも、受け取る人が善いことだと思わないなら、善ではないのか。人によって「善」は違うのか。おかしい、おかしい。分からない。じゃあ、僕のやってきたことは何だったんだ?
 
 「きれいごと」という言葉の意味を、みんなより何週も遅れて理解して、僕はこの挫折に耐えられなさそうだ。僕の焦がれていた「善」、世界中の誰もを喜ばせ、みんなで輪になれるような、そんな「善」への希望は、たった今、打ち砕かれてしまった。
 
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