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 クーラーの壊れた図書室は、窓を開けていても暑かった。まだ昼前だというのに、汗で制服のシャツが張り付いて気持ち悪い。夏休みにもかかわらず学校に来たのは冷房目当てだったのに、これでは宿題も捗らない。僕は頬の汗を袖で拭うと、ノートから目を離して窓の外を見やった。
 クーラーの壊れた図書室は、窓を開けていても暑かった。まだ昼前だというのに、汗で制服のシャツが張り付いて気持ち悪い。夏休みにもかかわらず学校に来たのは冷房目当てだったのに、これでは宿題も捗らない。僕は頬の汗を袖で拭うと、ノートから目を離して窓の外を見やった。


 青々とした葉をつけた桜の枝がすぐそこでわずかに揺れている。校舎の二階にある図書室からは、広い運動場の奥の街並みもよく臨めた。青空には立派な入道雲と容赦なく照る太陽があって、家々の黒い屋根が眩しく光を反射している。眼下の運動場では、同じクラスの甲野が一人きりで練習に励んでいた。陸上部の紅一点である甲野はトラックを黙々と走り続け、聞こえるのはその足音とセミの鳴き声だけだった。
 青々と葉を茂らせた桜の枝がすぐそこでわずかに揺れている。校舎の二階にある図書室からは、広い運動場の奥の街並みもよく臨めた。青空には立派な入道雲と容赦なく照る太陽があって、家々の黒い屋根が眩しく光を反射している。眼下の運動場では、同じクラスの甲野が一人きりで練習に励んでいた。陸上部の紅一点である甲野はトラックを黙々と走り続け、聞こえるのはその足音とセミの鳴き声だけだった。


 夏休みの図書室に、他の利用者はいなかった。司書の先生もいつの間にかいなくなっている。多分、冷房の利いている職員室に行ったのだろう。僕はシャープペンシルを置いてぐるりと首を回した。
 夏休みの図書室に、他の利用者はいなかった。司書の先生もいつの間にかいなくなっている。多分、冷房の利いている職員室に行ったのだろう。僕はシャープペンシルを置いてぐるりと首を回した。


 ふと、部屋の隅に目が留まった。そこは郷土資料の棚で、一度も近づいたことはない。学校の創立以来、誰もそこの本を借りたことはないのではないかとすら思う古臭さだ。そんな棚に並ぶ本と天板との隙間に差し込むようにして、一枚の紙が置いてあった。僕は立ち上がって棚に向かった。その紙は太い本の上にひっそりと横たわっており、たまたま目に留まらなければ決して気づかなかっただろう。それはどこか不思議な風格を備えていた。そっと紙を引き出し、埃を軽く払ってみる。A4くらいの白紙に、ペンで四角や文字がたくさん書き込まれている。
 ふと、部屋の隅に目が留まった。そこは郷土資料の棚で、一度も近づいたことはない。学校の創立以来、誰もそこの本を借りたことはないのではないかとすら思う古臭さだ。そんな棚に並ぶ本と天板との隙間に差し込むようにして、一枚の紙が置いてある。僕は立ち上がって棚に向かった。その紙は太い本の上にひっそりと横たわっており、たまたま目に留まらなければ決して気づかなかっただろう。それはどこか不思議な風格を備えていた。そっと紙を引き出し、埃を軽く払ってみる。A4くらいの白紙に、ペンで四角や文字がたくさん書き込まれている。


 読んでみてすぐにわかった。この紙は、この学校の地図だった。敷地の左半分は運動場で、右半分には校舎が横に二棟並んでいる。どちらも三階建てで、この図書室は左の棟の二階だ。地図には、それぞれの棟の各階の平面図も描かれており、教室の名前も丁寧な筆跡で書き込まれている。地図の左上には方角を示す記号が、右下には一つの目盛りの脇に「50m」という縮尺が書かれている。
 読んでみてすぐにわかった。この紙は、この学校の地図だった。敷地の左半分は運動場で、右半分には校舎が横に二棟並んでいる。どちらも三階建てで、この図書室は左の棟の二階だ。地図には、それぞれの棟の各階の平面図も描かれており、教室の名前も丁寧な筆跡で書き込まれている。地図の左上には方角を示す記号が、右下には一つの目盛りの脇に「50m」という縮尺が書かれている。


 暑さも忘れて僕は地図をまじまじと眺めた。これは誰が描いたのだろう。白紙にペンと物差しで描かれているようで、かなりの手間がかかっていそうだ。顔も知らない誰かの筆跡に、僕は身を乗り出して見入っていた。そのとき、頬を伝った汗が水滴となり、あっと思う暇もなくぽたりと落ちた。雫は、机上の地図の図書室のすぐ横に黒いしみを作った。
 席に戻った僕は、暑さも忘れて地図をまじまじと眺めた。これは誰が描いたのだろう。白紙にペンと物差しで描かれているようで、かなりの手間がかかっていそうだ。顔も知らない誰かの筆跡に、僕は身を乗り出して見入っていた。そのとき、頬を伝った汗が水滴となり、あっと思う暇もなくぽたりと落ちた。雫は、机上の地図の図書室のすぐ横に黒いしみを作った。


「やべっ」
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