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「ありがとう」
「ありがとう」
祐介の話をホワイトボードに書き加える。
祐介の話をホワイトボードに書き加える。
僕は数分ほどそれに向かい合って考えていたが、その後すぐに落胆した。衝撃の新事実に少し興奮したが、状況はあまり好転していないないことに気づいたのだ。これでは納得のいく仮説は立てられない。会計など、ジャージに着替えるまでもないような作業だしそのために着替えたとは考え難い、そのうえ生徒会室に来るはずだった由紀さんが来なかった、という新しい謎まで作り出してしまった。
僕は数分ほどそれに向かい合って考えていたが、その後すぐに落胆した。衝撃の新事実に少し興奮したが、状況はあまり好転していないことに気づいたのだ。これでは納得のいく仮説は立てられない。会計など、ジャージに着替えるまでもないような作業だしそのために着替えたとは考え難い、そのうえ生徒会室に来るはずだった由紀さんが来なかった、という新しい謎まで作り出してしまった。
僕は思いつくままの思考を口にした。
僕は思いつくままの思考を口にした。
「由紀さんは体調が悪かったのかもしれない。でもこれは違うかな。体調が悪い時により防寒性の低いジャージに着替えることは考えにくい……。または、何か家の用事があって早めに帰ったのかもしれない。昼休みに生徒会活動をサボってまでジャージに着替えないといけないような用事が……」
「由紀さんは体調が悪かったのかもしれない。でもこれは違うかな。体調が悪い時により防寒性の低いジャージに着替えることは考えにくい……。または、何か家の用事があって早めに帰ったのかもしれない。昼休みに生徒会活動をサボってまでジャージに着替えないといけないような用事が……」
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「由紀はね。簡単に言うと真面目でかわいいドジっ子だよ」
「由紀はね。簡単に言うと真面目でかわいいドジっ子だよ」
瞳は破顔した。
瞳は破顔した。
「この間だってね、料理が苦手だから練習したいって由紀の家で二人でお菓子を作ったんだけど、その時由紀、砂糖と塩を間違えて入れちゃって、本当に塩辛いマフィンができたんだもの。あの時は笑ったなぁ……」
「この間だってね。料理が苦手だから練習したいって、由紀の家でお菓子を作ったんだけど、その時由紀、砂糖と塩を間違えて入れちゃって、本当に塩辛いマフィンができたんだもの。あの時は笑ったなぁ……」
瞳の話を聞いて、僕は頭のなかで再び事実を確認しはじめる。可能性が限りなく広がっていく感覚がする。
瞳の話を聞いて、僕は頭のなかで再び事実を確認しはじめる。可能性が限りなく広がっていく感覚がする。
そして、僕はすぐに一つの仮説に辿り着いた。ずっと初めの方に捨ててしまっていた仮説だ。確認は必要だけど、きっと間違いはないだろう。しかし、これは……この状況はまずい。
そして、僕はすぐに一つの仮説に辿り着いた。ずっと初めの方に捨ててしまっていた仮説だ。確認は必要だけど、きっと間違いはないだろう。しかし、これは……この状況はまずい。
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「ねえ、どうしてあの時点で全部わかったの?」
「ねえ、どうしてあの時点で全部わかったの?」
通学路。粉のような雪が降りしきる中、真っ白な息を吐きながら瞳が聞いてくる。僕は少し考えてから答えた。
通学路。粉のような雪が降りしきる中、真っ白な息を吐きながら瞳が聞いてくる。僕は少し考えてから答えた。
「瞳の話と祐介の話、それぞれ聞いて整理すると、まず最初に、由紀さんと祐介と二人きりの状況が生まれるはずだったことがわかる。そこでまず『バレンタインチョコをあげる』という可能性を考えたんだ。そして、西棟へ行くまでのになんらかの事件があって、生徒会活動ができなくなったんだ、って思ったんだ。他にもたくさん考えつくことはあるけど、情報がなかったから検証のしようがなかった。それに、バレンタインデーに特別二人きりという状況において、そう考えるのが妥当だと思ったからね。でも、その時は上手に仮説を立てることができなかった。由紀さんが生徒会室に行かなかったという事実と、ジャージ着替えていたという事実、それぞれにしっかりとした整合性を持った仮説が考えつかなかったんだ。でもそれは、僕が由紀さんの人柄について誤解していたからだったんだよ。瞳が由紀さんの人物像を教えて、僕の視野が狭窄してしまっていたのを気づかせてくれたおかげでこの謎は解決したんだ。由紀さんを瞳から聞いたような人であると考えることで、中庭を通って西棟に行くまでの間に転倒し、そのうえチョコを壊して制服を汚してしまった、という仮説を思いつくことができたんだ。それによって昼休みにジャージに着替えて生徒会活動を休み、そして放課後部活を休んで学校を出ていってしまったことにそれぞれ納得のいく説明ができる」
「瞳の話と祐介の話、それぞれ聞いて整理すると、最初に、由紀さんと祐介と二人きりの状況が生まれるはずだったことがわかる。そこでまず『バレンタインチョコをあげる』という可能性を考えたんだ。そして、西棟へ行くまでになんらかの事件があって、生徒会活動ができなくなったんだ、って思ったんだ。他にもたくさん考えつくことはあるけど、情報がなかったから検証のしようがなかった。それに、バレンタインデーに特別二人きりという状況において、そう考えるのが妥当だと思ったからね。でも、その時は上手に仮説を立てることができなかった。由紀さんが生徒会室に行かなかったという事実と、ジャージ着替えていたという事実、それぞれにしっかりとした整合性を持った仮説が考えつかなかったんだ。でもそれは、僕が由紀さんの人柄について誤解していたからだったんだよ。瞳が由紀さんの人物像を教えて、僕の視野が狭窄してしまっていたのを気づかせてくれたおかげでこの謎は解決したんだ。由紀さんを瞳から聞いたような人であると考えることで、中庭を通って西棟に行くまでの間に転倒し、そのうえチョコを壊して制服を汚してしまった、という仮説を思いつくことができたんだ。それによって昼休みにジャージに着替えて生徒会活動を休み、そして放課後部活を休んで学校を出ていってしまったことにそれぞれ納得のいく説明ができる」
「でも、なぜ転んじゃったことがわかったの? そんなのわからないんじゃない?」
「でも、なぜ転んじゃったことがわかったの? そんなのわからないんじゃない?」
「まあ、確かにそう言いきることはできないかもね。でも制服を全身ジャージに着替えるなんて全身が濡れてしまうことくらいしか考えつかないし、それに昼頃まで……」
「まあ、確かにそう言いきることはできないかもね。でも制服を全身ジャージに着替えるなんて全身が濡れてしまうことくらいしか考えつかないし、それに昼頃まで……」
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