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<br>「どうかしましたか? 早く読んで」 | <br>「どうかしましたか? 早く読んで」 | ||
<br> クラスのみんなが異常に気づいてざわめきはじめる。待ってください、すぐ読みますから。その一言が喉から出てこない。私は教科書を持ったまま、声を出せずに立ち尽くしている。恥ずかしさとみじめさに顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。読まないと、と思うのに、声の出し方が思い出せない。今まで十五年、どうやって話してきたっけ。 | <br> クラスのみんなが異常に気づいてざわめきはじめる。待ってください、すぐ読みますから。その一言が喉から出てこない。私は教科書を持ったまま、声を出せずに立ち尽くしている。恥ずかしさとみじめさに顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。読まないと、と思うのに、声の出し方が思い出せない。今まで十五年、どうやって話してきたっけ。 | ||
<br> | <br> みんなの視線を感じる。みんなが押し黙ってしまった私を見ている。その目を見ることができず、私はますます下を向く。顔は燃えるように熱いのに、背筋は震えるほど冷たくて、おなかがきゅっと痛む。読むんだ。国語の授業の、なんでもない音読だ。今までずっとやってきたように、喋ればいい。軋む音が聞こえそうなほどに力を込めて、ようやく顎が開き、声を出す。 | ||
<br>「こっ」 | <br>「こっ」 | ||
<br> 喉に息が引っかかって変な音が出た。顔から火が出そうなくらい恥ずかしいけれど、なんとか声が出てくれた。ようやく読めるようになってくれた教科書の文を見つめる。 | <br> 喉に息が引っかかって変な音が出た。顔から火が出そうなくらい恥ずかしいけれど、なんとか声が出てくれた。ようやく読めるようになってくれた教科書の文を見つめる。 | ||
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<br>「……もう大丈夫だから。戻っていいよ」 | <br>「……もう大丈夫だから。戻っていいよ」 | ||
<br> ちょっと迷った顔をした和佳さんは、けれど頷いて踵を返した。しかし振り返ると | <br> ちょっと迷った顔をした和佳さんは、けれど頷いて踵を返した。しかし振り返ると | ||
<br> | <br>「ねえ、なにか話したいことあったらなんでも言ってね……」 | ||
<br> | <br> と申し訳なげに言った。 | ||
<br>「ううん。大丈夫」 | |||
<br> 反射的に断っていた。 | |||
<br>「そう。じゃあ、私、もう行くね」 | |||
<br>「うん」 | |||
<br> 和佳さんはカーテンを丁寧に閉めて、今度こそ帰っていった。制服のまま、ベッドに力なく横たわる。 |
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