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<br> 甘かった。悪趣味な覗き見をしていた報いを受けたのだ。 | <br> 甘かった。悪趣味な覗き見をしていた報いを受けたのだ。 | ||
<br> きっしーは、たぶん岸田くんのアカウント。彼の投稿に、何人も同調するコメントを残していた。 | <br> きっしーは、たぶん岸田くんのアカウント。彼の投稿に、何人も同調するコメントを残していた。 | ||
<br> ''15: | <br> ''15:53 檸檬『それな』'' | ||
<br> ''16:02 墾田永年私財法『時間の無駄』'' | <br> ''16:02 墾田永年私財法『時間の無駄』'' | ||
<br> ''16: | <br> ''16:04 クリリン『構ってほしいんでしょw』'' | ||
<br> 目が離れてくれなかった。画面をなぞる指が止まってくれなかった。やがて右手が震えて、文面を見ることができなくなってようやく、スマホを置くことができた。動悸が激しくなっていた。 | <br> 目が離れてくれなかった。画面をなぞる指が止まってくれなかった。やがて右手が震えて、文面を見ることができなくなってようやく、スマホを置くことができた。動悸が激しくなっていた。 | ||
<br> 「鼠」という呼び名は、きっと私のあだ名「ミッキー」からの連想だろう。何より、今日の国語で黙ってしまった人なんて私しかいない。彼らは、私への不満を陰で話している。 | <br> 「鼠」という呼び名は、きっと私のあだ名「ミッキー」からの連想だろう。何より、今日の国語で黙ってしまった人なんて私しかいない。彼らは、私への不満を陰で話している。 | ||
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<br>「うん」 | <br>「うん」 | ||
<br> 和佳さんはカーテンを丁寧に閉めて、今度こそ帰っていった。上履きを脱いでベッドに横たわると、制服にくしゃりとしわが寄った。授業をしているクラスの気配が感じられなくて、この部屋だけは学校の他の教室と隔絶されているみたいに感じる。目を閉じるとさっき聞いた笑い声が蘇ってくるから、見慣れない天井を眺めて深呼吸を繰り返した。 | <br> 和佳さんはカーテンを丁寧に閉めて、今度こそ帰っていった。上履きを脱いでベッドに横たわると、制服にくしゃりとしわが寄った。授業をしているクラスの気配が感じられなくて、この部屋だけは学校の他の教室と隔絶されているみたいに感じる。目を閉じるとさっき聞いた笑い声が蘇ってくるから、見慣れない天井を眺めて深呼吸を繰り返した。 | ||
<br> | <br> 養護の先生と下級生の話し声だけが聞こえる。放っておかれたくて、私の存在に気づかれたくないように思えて、ひたすら物音を殺した。下級生が去って、先生も机に向かったらしく保健室に静寂が下りて、時間が過ぎるのをじっと待ち続けた。早退したいけど、鞄を取りに教室に戻る勇気なんてない。でも人に取ってきてもらうのは申し訳ないから、みんなが帰る放課後まで保健室にいるつもりだった。体調は回復しつつあったけど、気分は最悪だった。 | ||
<br> またやってしまった。でも、私だって好きで黙っているんじゃない。みんなの前に立つと、みんなの目を感じると、声の出し方が思い出せなくなってしまうのだ。 | <br> またやってしまった。でも、私だって好きで黙っているんじゃない。みんなの前に立つと、みんなの目を感じると、声の出し方が思い出せなくなってしまうのだ。 | ||
<br> また、嫌なことを言われる。そう気づいて、消えかけていた悪寒がぶり返してきた。しばらく迷ったけど、結局、スカートのポケットからスマホを取り出した。よせばいいのに、私はSNSのアプリを起動させる。 | <br> また、嫌なことを言われる。そう気づいて、消えかけていた悪寒がぶり返してきた。しばらく迷ったけど、結局、スカートのポケットからスマホを取り出した。よせばいいのに、私はSNSのアプリを起動させる。 | ||
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<br> 彼らのアカウントを検索して、投稿を表示した。最新の投稿がすぐに飛び込んできた。 | <br> 彼らのアカウントを検索して、投稿を表示した。最新の投稿がすぐに飛び込んできた。 | ||
<br> ''14:22 クリリン『また黙ってる』'' | <br> ''14:22 クリリン『また黙ってる』'' | ||
<br> ''14: | <br> ''14:23 きっしー『だるいって』'' | ||
<br> ''14:28 つっぱり棒マスター『2日連続はエグいだろ』'' | |||
<br> ''14:33 檸檬『毎日やるのかな?』'' | <br> ''14:33 檸檬『毎日やるのかな?』'' | ||
<br> たまらず画面を暗くした。スマホをベッドの端に投げ、袖を目の上に当てた。みじめなのか申し訳ないのか、自分でもわからない涙が出てきて、声を我慢するしかなかった。こんなときだけは音が出てくる自分の口が、恨めしくて仕方がなかった。 | |||
<br> 和佳さんの「なんでも言ってね」という言葉と、自分のふがいなさを詫びるような表情を思い出した。話してみようかな、と思った。 |
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