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(ページの作成:「 その洞窟の中には、もちろん何の灯りもなかったから、奥に進めば進むほど暗くなっていく。そして、ある角を右に曲がったとき、外の光はついにほんの一片さえ届かなくなる。この蛍は、それが好きだった。蛍ならば誰しもが持つ、夜を独占したいという欲求が、この蛍にも当然あった。光のドレスで着飾って、空のすべてをレッドカーペット…」) |
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蛍が様子を見にきたとき、二人はちょうど沈んでしまったところだった。しかし、蛍には、あの声を赤毛の子供を呼びよせるために発されたものだと考えた自分の推理が見事に正解したように思えて、少しうれしかった。増水の勢いはみるみるうちに高まって、獰猛な水たちは死骸に集る小動物のようにぎらぎらと蠢き、威嚇の奇声をあげはじめた。住人である蛍は、この洞窟で周期的にこういう満ち引きが起きることを誰よりもよく理解していたので、自分まで水に飲み込まれてしまわないうちに洞窟を出ることにした。蛍の火花のような体は、洞窟のするどいバリケードでさえ、いとも簡単にすり抜けることができた。あの角を今度は左に曲がると、にっくき太陽の光があたりを包み始めた。岸壁は徐々に藍色に、また暗い灰色になり始めて、不格好だった。白い光にさらされて、立ち込める石のほこりがきらきらと輝く。洞窟の入り口を通過して、日向に入ってしまう直前、蛍は振り返って愛する洞窟を見た。水はあの光を拒む角に攻撃的に体をぶちかまし、獣にも似た低姿勢でこちらを追いかけてきている。それはまさしく、飢えた洞窟の唾液だった。 | |||
日向に出るのは半日ぶりで、蛍は自分の影の存在を思い出した後、焼けるような暑さにうなだれた。体をひるがえし、小さい羽をすばやく振り回して、砂浜のすぐ近くの森へと向かう。空を我が物顔で飛び回る鳥は、代わり映えしない声色でうっとうしく鳴いていた。これに比べたら、やはりあの子供の声は素晴らしいものだったと蛍は思う。人間はその声で自分の願いをかなえることさえできるのだと知り、蛍は実のところ感嘆していたのだ。もしも自分が人間の声を手に入れたら、いったい何をしようか、蛍はいろいろなことを考えた。あの洞窟をもっと広くするとか、自分の光を太陽にも負けないくらいに強くするとか、いっそのこと太陽を空から追い出してしまってもいい。そういうふうに気持ちのいい、自分のためだけの世界のことを考えると、蛍はなんだか楽しい気持ちになった。それはちょうど、魔法使いを夢見る子供と同じようなことなのだろう。 | |||
蛍が休む木陰の上空には、身を乗り出してまで地表を覗き込んでくる太陽が、飽きもせずに君臨している。時間はちょうど正午だった。気づくとあたりには大人の人間が大勢いて、やはり何かの声を出していた。どうやら、仲間の誰かを捜しているらしい。たぶんあの子供のうちのどちらかなのだろう。しかしここで、蛍はひとつ疑問に思った。どちらにせよ彼らは洞窟の奥に沈んでしまっているから、二人を捜し出すことは不可能だ。それなのに、あの大人たちはどうして声を出しているのだろう。もしかすると、実のところ、声に出してもかなわないような願いもあるのだろうか。そう思うと、蛍が声に抱いていた憧れは、少し色褪せてしまったように感じられた。誰かの名前を呼ぶ声は、海岸一面にもんどりをうつ波の騒音や、風に吹かれて昆虫のように体をこすりつける草と葉の雑音、見栄っ張りな鳥獣たちの甲高い大騒ぎにかき消され、次第にそれらと区別がつかなくなった。 |
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