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(→しわくちゃ) |
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ただ、俺には一つ気になることがあった。祥子がほとんど言葉を喋らなくなったのだ。実際、認知症の末期には、会話がほとんどできなくなるというのは知っていたが、それにしては祥子はあまりにも急だった。薬を服用しはじめてからたった数日で、ほとんど幼児のような言葉しか喋れないようになったのだ。それに、本当に認知症の末期ならあるはずの、無気力や無表情といった症状は見られない。祥子は今まで通りに折り紙を折り、笑顔で孫と遊んでさえいる。 | ただ、俺には一つ気になることがあった。祥子がほとんど言葉を喋らなくなったのだ。実際、認知症の末期には、会話がほとんどできなくなるというのは知っていたが、それにしては祥子はあまりにも急だった。薬を服用しはじめてからたった数日で、ほとんど幼児のような言葉しか喋れないようになったのだ。それに、本当に認知症の末期ならあるはずの、無気力や無表情といった症状は見られない。祥子は今まで通りに折り紙を折り、笑顔で孫と遊んでさえいる。 | ||
リビングのテーブルに座っている俺の視線の先には、今日も来てくれた娘夫婦と孫が、祥子と遊んでいるのが見えた。祥子は目を細め、孫の頭を撫でている。症状の出方には個人差もあるそうだし、治験薬の副作用を疑うのは、やはり考えすぎだろうか。孫は立ち上がって、祥子の周りを歩きはじめたが、少しバランスを崩してよろけ、壁にもたれかかった。その時、壁にセロテープで留められた、祥子の作った黄色い折り鶴が、ぐしゃぐしゃに潰れてしまったのが見えた。すると祥子は、目を丸くして悲鳴をあげ、激しく泣き叫びはじめてしまった。 | |||
おかしい、と思った。あの治験薬を服用しはじめてから、今まではなかった症状が、明らかに、急激に増えている。本当に認知症の進行時期が偶然重なっただけなのか? 固まっている俺をよそに、娘夫婦は慌てて祥子をなだめようとしたが、今度は孫の方まで泣きはじめてしまった。「仲直り」という言葉が聞こえた。さながら二人の幼児の喧嘩を収めるように、娘夫婦は孫と祥子をあやしはじめた。祥子の背中を撫でているのが見えた。 | おかしい、と思った。あの治験薬を服用しはじめてから、今まではなかった症状が、明らかに、急激に増えている。本当に認知症の進行時期が偶然重なっただけなのか? 固まっている俺をよそに、娘夫婦は慌てて祥子をなだめようとしたが、今度は孫の方まで泣きはじめてしまった。「仲直り」という言葉が聞こえた。さながら二人の幼児の喧嘩を収めるように、娘夫婦は孫と祥子をあやしはじめた。祥子の背中を撫でているのが見えた。 |
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