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家に帰りたい、と思った。祥子の介護のために、認知症の症状はよく調べていたが、それを自分に結び付けるのは難しかった。しかし、今、俺にも認知症の症状が出はじめていたことを、ようやく悟った。強い「帰宅願望」がある。外出時の服装がおかしい。自宅に歩いて帰れない。怒鳴る。すぐに泣いてしまう。娘の名前も、孫の名前も、思い出せない。 | 家に帰りたい、と思った。祥子の介護のために、認知症の症状はよく調べていたが、それを自分に結び付けるのは難しかった。しかし、今、俺にも認知症の症状が出はじめていたことを、ようやく悟った。強い「帰宅願望」がある。外出時の服装がおかしい。自宅に歩いて帰れない。怒鳴る。すぐに泣いてしまう。娘の名前も、孫の名前も、思い出せない。 | ||
薄れゆく意識の中、サイレンの音を聞いた。玄関から入ってくる人の気配がした。「もう大丈夫ですからね」と、二人がかりで俺を担ぎ上げた。俺はこれから、どうしたらいいのだろう。娘のことも、孫のことも、祥子の名前も、祥子のことも思い出せなくなったら、俺はどうしたらいいのだろう。葬儀場で、あなたの遺影を見つけられなかったら、どうしたらいいのだろう。 | |||
そのとき俺は、あの薬を飲むのだろうか。 |
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