「利用者:Notorious/サンドボックス/ピカチュウプロジェクト」の版間の差分

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校訂
(下書き)
(校訂)
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<br>「急になんだよケン。まあ知ってるけどさ」
<br>「急になんだよケン。まあ知ってるけどさ」
<br> ケンってのは俺、健児のあだ名だ。詳しくは覚えちゃいないが、お前と同様叙述トリックって言葉を何かの本で見たんだろう。亮二兄さんとは年が離れててな、子供心には何でも知ってるすごい人に思えたのさ。
<br> ケンってのは俺、健児のあだ名だ。詳しくは覚えちゃいないが、お前と同様叙述トリックって言葉を何かの本で見たんだろう。亮二兄さんとは年が離れててな、子供心には何でも知ってるすごい人に思えたのさ。
<br>「叙述トリックっていうのはな、'''作者が読者に仕掛けるトリック'''のことだ」
<br>「叙述トリックっていうのはな、'''作者が読者に仕掛けるトリック'''のことだ。そしてそれは必然的に、'''文字媒体であるが故の特性を利用するもの'''になる」
<br>「作者が読者に?」
<br>「作者が読者に?」
<br>「そうだ。普通のトリックってのは、'''犯人が被害者やら探偵やらに仕掛けるもの'''だろう? ほら、例えば」
<br>「そうだ。普通のトリックってのは、'''犯人が被害者やら探偵やらに仕掛けるもの'''だろう? ほら、例えば」
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<br>「頭で想像しながら聞くんだぞ。ここには俺の部屋のドアがある。部屋の中に死体が転がってると思え。そして俺はこの部屋を密室にしようとする。そこで、俺は長い長い、部屋のドアから向かいの壁くらいの長さの氷の棒を持ってくる。あくまで例だから、『どこから?』とかは考えなくていいぞ」
<br>「頭で想像しながら聞くんだぞ。ここには俺の部屋のドアがある。部屋の中に死体が転がってると思え。そして俺はこの部屋を密室にしようとする。そこで、俺は長い長い、部屋のドアから向かいの壁くらいの長さの氷の棒を持ってくる。あくまで例だから、『どこから?』とかは考えなくていいぞ」
<br> まさにそう質問しようとしていた俺は慌てて口を噤んだ。兄さんはエアーで簡易トリックを実演し始めたようだ。
<br> まさにそう質問しようとしていた俺は慌てて口を噤んだ。兄さんはエアーで簡易トリックを実演し始めたようだ。
<br>「まずドアを左手で人が通れるくらいに開けておく。そうしながら氷の棒の端をドアの向かいの壁につける。すると、もう片方の端はドアにつっかえる。まあドアに氷の棒を立てかけてるイメージだ。とりあえずこのギターを氷の棒と思って立てかけよう。そうしたら…、よっと、部屋の外へ出ると同時に氷の棒を放す!」
<br>「まずドアを左手で人が通れるくらいに開けておく。そうしながら氷の棒の端をドアの向かいの壁につける。すると、もう片方の端はドアにつっかえる。まあドアに氷の棒を立てかけてるイメージだ」
<br>「んん? ちょっと待ってよ兄さん」
<br> 一旦頭を整理しないと。黙って兄さんの言うことをトレースしていると、階下からは母さんの笑い声が聞こえてきた。我が家は一軒家とはいえ、部屋と部屋の間の壁が薄いのだ。
<br>「どうだ?」
<br>「うん、何となくわかったよ」
<br>「じゃあ説明を続けるぞ。とりあえずこのギターを氷の棒と思って立てかけよう。そうしたら…、よっと、部屋の外へ出ると同時に氷の棒を放す!」
<br> ゴトッとギターが倒れる音がした。
<br> ゴトッとギターが倒れる音がした。
<br>「こうすると、氷がつっかえ棒となって、ドアは開かなくなる。密室ができるわけだ。あとは鍵が掛かっているように見せかけて、氷が溶けるのを待ってドアを破り突入した瞬間鍵を閉めれば、密室の完成というわけだ! まあ床が濡れているのをどうにかして誤魔化さないといけないんだけどな」
<br>「こうすると、氷がつっかえ棒となって、ドアは開かなくなる。密室ができるわけだ。あとは鍵が掛かっているように見せかけて、氷が溶けるのを待ってドアを破り突入した瞬間鍵を閉めれば、密室の完成というわけだ! まあ床が濡れているのをどうにかして誤魔化さないといけないんだけどな」
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<br> 俺は唖然としていた。だって、そんなことないだろ? すると兄さんは少し焦ったような声で付け足した。
<br> 俺は唖然としていた。だって、そんなことないだろ? すると兄さんは少し焦ったような声で付け足した。
<br>「まあ、これは適当に作っただけだから。ちゃんとしたやつは、もっと丁寧に伏線が張られていて納得できるから安心しろ。こんな風に、'''作者が読者を直接騙す'''のが、叙述トリックだ」
<br>「まあ、これは適当に作っただけだから。ちゃんとしたやつは、もっと丁寧に伏線が張られていて納得できるから安心しろ。こんな風に、'''作者が読者を直接騙す'''のが、叙述トリックだ」
<br>「作者が読者を騙す…」
<br>「そしてそれは'''フェアでなくちゃいけない'''。さっきの例で行くと、途中で『花子は三郎の<ruby>妻<rt>、</rt></ruby>だ』と書いてあるのに、最後になって『花子は女なんです!』と言っちゃあダメだ。整合性が取れないだろ? ただし語り手が勘違いしているなどの事情があれば構わないから、'''三人称の地の文で虚偽を書いてはいけない'''とされるのが一般的だな」
<br> 当時の俺は分かったような分からないような感じだったが、疑問は残った。
<br> 当時の俺は分かったような分からないような感じだったが、疑問は残った。
<br>「なんでそんなことするの?」
<br>「なんでそんなことするの?」
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==破==
==破==
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 その次の日の晩、夕飯の時間になって、母親に言われて俺は2階にいる兄貴を呼びに行った。兄貴の部屋をノックしようとしたところで、急にドアが開き、俺は鼻をしたたかにぶつけた。兄貴は笑いながら「すまんすまん」と謝ったが、こっちは痛いのなんの。不貞腐れたよ。鼻の頭に絆創膏を貼らないといけなかった。
 その次の日の晩、夕飯の時間になって、母親に言われて俺は2階の自室にいる兄貴を呼びに行った。兄貴の部屋をノックしようとしたところで、急にドアが開き、俺は鼻をしたたかにぶつけた。兄貴は笑いながら「すまんすまん」と謝ったが、こっちは痛いのなんの。不貞腐れたよ。鼻の頭に絆創膏を貼らないといけなかった。
<br> ともかく夕飯になった。そのときは俺と兄貴、親父とお袋の4人暮らしだった。はは、今と同じだな。お袋は専業主婦、親父は市議会議員だった。俺は食卓のお誕生席で黙々と白飯を食ってた。兄さんには無邪気に接していたんだが、他の家族、特に親父の前でははしゃげなかった。今思えば、この時既に親に少し苦手意識を持ってたのかもしれないな。
<br> ともかく夕飯になった。そのときは俺と兄貴、親父とお袋の4人暮らしだった。はは、今と同じだな。お袋は専業主婦、親父は市議会議員だった。俺は食卓のお誕生席で黙々と白飯を食ってた。兄さんには無邪気に接していたんだが、他の家族、特に親父の前でははしゃげなかった。今思えば、この時既に親に少し苦手意識を持ってたのかもしれないな。
<br> そんなことは露ほども知らない、何かと心労の絶えない時期を通り抜けた親父は、陽気に「政治は~、政治を~」と理想を語っていた。だから母親が、
<br> そんなことは露ほども知らない、何かと心労の絶えない時期を通り抜けた親父は、陽気に「政治は~、政治を~」と理想を語っていた。だから母親が、
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