「Sisters:WikiWikiオンラインノベル/賭けイクスティンクション、そして頭足類」の版間の差分
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「ウァッハッハッ!」 | 「ウァッハッハッ!」 |
2年1月2日 (ゐ) 20:55時点における版
1 タコ部屋は嫌だ!
俺は大学九年目のさえないバンドマンだ。
ああ、それにしても、バンドっつーのはものすごく金がかかるものだ。
使う機材を買うために借金、それを返すためにまた借金。
借りた金には雪だるま状に利子が増えていって、今じゃもうそれはそれは天文学的な額だ。むろん、大きい方のな。
ついでに、返済期日は明日と来た。このままじゃあ、黒服の野郎どもにひっとらえられてタコ部屋行きだぜ。全く笑えねぇ。
それで…俺は考えたんだ。この状況を打開する方法を…
そう。ギャンブルさ。
なに、お前たちは俺を馬鹿だと思うかい?ハハ、そういうのは最初の自己紹介でさっさと気づくもんだぜ。
さて、そうこうしてるうちに着いちまった。地下賭博場だ。ここではもう日本国憲法は通用しねぇ。
「やぁ、そこの若者。」
随分としっかりスーツを着こんでるジジイだ。いかにも弱者をカネの力で弄んでそうな、といったら大体のイメージはできるかい?
「なんだい、爺さん。ギャンブルのお誘いか?」
「見たところ、アンタは金に困ってるのぉ?」
「ここに来るやつはみんなそんなもんだろうに。」
「ウァッハッハッ、ちょうどいい。ワシには金が腐るほどあるんだ…」
「『腐っても鯛』っていうだろ?捨てちまうくらいならよこしてくれよ。ああ?」
「そうはいっても、ワシの大事な箱入り娘はアンタの顔すら見たことがない。お見合いから始めるのが筋だろう?」
そう言うと、ジジイはおもむろに箱入り娘…もといスーツケース入りの天文学的な(もちろん、大きい方の。)大金を俺に見せてきた。
「アンタのほしいものは何だい?」
俺は絶句した。
「そ…それって…」
「んん…?よく聞こえないのぉ…」
ジジイはにやりと笑い、こう言った。
「ほしいか?」
「ハハ…当然さ…!」
「………ほう。」
「では…アンタがワシにとある『ゲーム』で勝ったら…」
「お望みの物をくれてやろう。その代わり、もしアンタが負けたら…ガハハ、タコ部屋行きにしてやろう!」
「…乗ったぜ、その勝負。」
「ウァッハッハッ!ではやろうか。その『ゲーム』とは―――」
「『イクスティンクション』だ。ルールは分かるよのぉ?」
「イクスティンクション…面白え!」
2 賭けイクスティンクション
ハハハ…このジジイ…大誤算をしでかしたな…
何を隠そう、この俺は…『イクスティンクション・ワールドカップ』の初代王者なんだよ!
しめた!タコ部屋行きの明日が来る可能性が完全に"消滅"したぜ!ヒャッハー!
「ローカルルールとして、『殲滅』で捨てる三枚の手札は能力カードに限るものとしよう。そのほうが愉快に違いないからのぅ!」
「よし、では…ゲームスタートじゃ…」
『独占』という声が同時に放たれた。
俺の手札は「密室」「輪廻」「6」「4」「2」の五つだ。シールドルームが出たのは幸運すぎるぜ…!
「ほう、アンタ、何を独占しとるんだね?」
「おいおい、俺が答える筋合いはないぜ。」
「ウーーーム、答え次第では『平和的なトレード』をしようと思っとったんだがなぁ…」
「3000万円、これでどうじゃ?」
このジジイ…金でゆすってきやがる…!三千万円…流石にデカすぎるぞ…!どうする…俺…どうする…
「…俺が…俺が独占しているのは『密室』だ。」
「ウァッハッハッ、ワシは『7』じゃ。トレード成立じゃのう。」
そしてジジイは紙袋を俺に投げつけてきた。中には確かに3000万円が入っていた。
大丈夫。俺は初代王者だ。シールドルームごとき、無くても余裕で勝てる…!
「ククク…では、『透視』そして『強盗』じゃ。」
「なっ…!?」
まんまとハメられた!クソ!金で判断を狂わされた!「密室」も「7」も失っちまった!
「ウァッハッハッ!!!実に滑稽じゃのぅ!!!」
「チッ…」
―10分後―
ああ、今日は、今日は…絶望的に運が悪い!
『密室』をトレードして以降、ただの一つも能力カードが出ねぇ…!
運よく『6』を二枚で独占しているからジジイは上がれていないが…リーチになるのも時間の問題だ。
「ぬぅ…『消滅』じゃ…」
素晴らしいタイミングだ!
「ハハハ、ざまぁ見やがれ!」
「おっと、いつワシが『消失』を持っていないと言った?」
「なに…待てよ、独占宣言をしていないじゃないか!」
「ウァッハッハッ、そんなもの一番最初に済ましたわい。『独占』しているカードが一種類だけだとは言っていないぞ?」
「くっ…」
「ほれ、『剽賊』じゃ。」
「ハハ…『2』と『4』か…いいチョイスじゃないか?」
「ヌワッハッハ!威勢だけは良いガキめが!」
まずい…ジリ貧だ…せめてあのシールドルームをどうにかしないと…
「よし…『一擲』だ。そろそろ運とやらが俺に味方してきたんじゃないか?送るのは『1』だ。陥落しろ!シールドルームゥゥゥ!」
「ほう…『2』と『4』と『3』か…なかなか良い選択じゃのぅ?」
「ぐぬぬ…」
このままでは…このままでは非常にまずい!タコ部屋行きの未来が息を吹き返し始めてやがる!
考えろ…この状況を打開する方法を…
「今度はワシの番じゃ…『再生』で『一擲』を入手して…アンタに送るのは『交換』じゃ。ま、この密室がある限りイミは無いがな。ガハハハハ!」
「やりやがったか!」
「ほれ、『6』二つと『2』…われながら良いチョイスじゃ!」
まずいまずいまずいまずい!俺の唯一のポテンシャル、「『6』の独占」が無くなっちまった!
もう時間が残されていない…この「6」が再び山札の上に上がってくる前に、なんとか優位に立たねば…
「『輪廻』で『消失』、『剽賊』、『一擲』を入手し…『一擲』を使用する。送るのは『3』だ。」
「『強盗』と『寄生』と『5』か…チッ、ついとらんのぉ。」
「さて…じゃあ爺さんの手札の三枚の内…一つが『密室』、一つが『7』、一つが『消滅』というわけか。」
「ウァッハッハッ、よく観察しておるのぉ。しかし、『密室』の効果によって『剽賊』は使えないぞぅ?」
「ワシの番じゃ…ワッハッハ!愉快なカードを引いてしもうたわい!」
「『投下』と『消滅』…これが何を表すかわかるかね?」
「『嫌がらせドロップ』…!」
「送るのはもちろん『消滅』じゃ。」
「ほれ、『3』か…まぁ、『消失』を使わせたのは大きいぞ!」
「俺のターン…『天眼』か。」
「ああ、ちょうどいい。ちとワシはトイレに行ってくる。今はまだアンタのターンの途中だが…どうせアンタはその手札じゃ何もできんしな!」
「いや、できることならあるぜ。…イカサマさ!」
「…それをしたらどうなるか…分かるな?」
「俺は大学四留だが、『ほしいもの』をむざむざ遠ざけるほど馬鹿じゃないぜ?」
「ウァッハッハッ!」
…さて…ああはいったものの…哀れなジジイよ、イカサマ以外にも…この手札でできることならあるんだよ。
3 逆転、そして頭足類
―5分後―
「ウァッハッハッ!リーチじゃ!」
「もう『6』以外の全数字カードを揃えやがったか…」
「ヌワッハッハ、そのうえ『密室』もあるぞ!後は『6』が山札に上がってくる時を待つのみじゃ!」
「おっと…すまないな、爺さん。『殲滅』を引いちまった。」
「ぬう、『密室』を捨てるのは惜しいが…ローカルルールはもちろん覚えているよな?数字カードに影響はない!」
「おい、アンタ…何をぼうっとしとるんだね?早う能力カードを捨てなされ。」
「ハハハ…ハハハハハハハハハ!」
「な、なにがおかしい…」
「おいおいおいおい、いつ俺が『消失』を持っていないと言った?」
「馬鹿な!『消失』が捨てられたのは『6』が捨てられた時よりも前!それに独占宣言もしていないじゃろうが!」
「独占宣言を聞いていないのは爺さんの責任さ。なぜなら俺は『消失』を…」
「爺さんがトイレに行ってるときに手に入れたからな!」
「アンタ…ワシの忠告を聞いとらんかったのか?イカサマをするやつに与えるものは無い。帰れ!」
「イカサマ?なんのことだ?俺はちゃんと…正式なルールに基づいて、山札から『消失』を手に入れたんだぞ?」
「な、なに…!?」
「爺さんは『剽賊』と『天眼』のカードを見たことがあるかい?」
「何を言っておる、ついさっきもそのカードは見たじゃろうが。」
「うーん、爺さん、変なプライドは捨てて老眼鏡を買ったほうがいいぜ?」
「山札に干渉できる効果!?」
「まぁ、知らないのも無理はない。なにせ、かの世界の全てを網羅するサイトにすらこの情報は載っていないんだからな。」
「そして俺は…『交換』を持っている。」
「そんな…馬鹿な…」
「ありがとよ、爺さん。俺のために数字カードをリーチにしてくれて。」
「クソ…ワシのカードが…まあいい、ワシの番じゃ…」
「ッ…!『6』じゃと…!?」
「ハハ、お生憎様。ああ、そういえば…たしか爺さんがダンピングで俺の『6』を捨てさせたとき…」
「二枚まとめて山札に戻したよな?」
「ま、まさか…」
「俺のターンだ。そして俺が引くカードは…」
「よし、『6』だ!」
「おのれええええええええええええええ!!!!!」
「数字カードは全部そろった。俺の勝ちだぜ、爺さん。」
よし!!!これでタコ部屋行きの明日が来る可能性は…完全に"消滅"したぜぇぇぇ!ヒャッハァァァ!
「認めよう。ワシの敗北じゃ…」
「約束通り、アンタに…先程にもほしがっていたものを渡そう。」
そういってジジイは鞄をあさり出し、何やらくすんだ白色の、乾燥している扁平な何かを俺に差し出した。
「…は?約束のあの大金は…?」
クソジジイはにやけながらこう言った。
「ああ…あの時はびっくりしたよ。」
「アンタに、『ほしいものは何だ』と聞いて…『金だ』と即答すると思っていたが…」
「何やらごにょごにょ言っていて、よく聞き取れなかったから…ほんの冗談のつもりで…あてずっぽうで…」
「『干しイカ?』」
「なんて言ってみたら…フフ…アンタは『当然さ!』だとか言い始めるんだものな!」
「ウァッハッハッハッハッハッハッ!ウァァァァッハッハッハッハッハッハァァァァッ!」
俺は結局、ギャンブルであの「天文学的な額(もういまさら補足する必要もあるまい)」を手に入れることはできなかった。
あの三千万円だけで返済に足りるはずもなく、こうして俺は今、皮肉にもタコ部屋で働いているっていうわけだ。