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選り抜き記事 |
ある日の涼しい午後のこと。比路子さんは言った。
「ねえ、『非自己叙述的』ってどういう意味?」
「『ある言葉の意味がその言葉自身に反していること』さ」十萩君が得意げに答えた。
「ちょっとよくわからないわ。たとえば?」十萩君の説明に納得しなかった比路子さんはさらに訊きかさねる。
十荻君は少し考えてから、丁寧に答えた。「うーんと、たとえば、『動詞』という言葉それ自体は動詞ではない。名詞だ。あとまあ、英語だと、"hyphenated(ハイフンでつながれた)"という言葉のどこにも、ハイフンなんて無いんだ[1]。つまりこれらの言葉はみんな、意味がその言葉自身に反しているから、非自己叙述的だというわけだ」
「なるほどね」
「わかったようだね。じゃ……」
「あ、帰らないで。また一つ疑問が湧いてきたの」
「ええ、なんだって?」
「『非自己叙述的』って言葉は、非自己叙述的なのかしら」
「えっとね……うーん? もし非自己叙述的だとすると……」
「つまり、『非自己叙述的』という言葉はその意味がその言葉自身に反する、ってことだから……」
「『非自己叙述的』は非自己叙述的でない、ということか」
「ええ? でも……」
「うん、仮定(注*四行上太字部を参照)と噛み合わないよね」
「そんなことがあるの?」
「いやいや、仮定がつねに正しいとは限らないじゃないか。もし仮定が間違っていたならば、矛盾が起こってもおかしくはないだろう?」
「確かに。じゃあ仮定を変えてみよう。もし『非自己叙述的』が非自己叙述的でないとすると……?」
「『非自己叙述的』という言葉はつまり、意味がその言葉自身に反しない、ということだね……」
比路子さんは結論を導いた。「そうね。つまり、『非自己叙述的』は非自己叙述的である……」
「何だって? こんなことはありえないのに」ここへきて十荻君はうろたえた。
そのことに気づいて彼女もつぶやき返す。「これって……嘘……」
そして彼らは言うのだった。「「私たち、入れ替わってる?」」[2]
重言(じゅうげん、じゅうごん)とは、同じ意味を重複して使っている言語の言葉のことである。多くの場合、誤った誤用とされる。「屋上屋を架す言葉」とも呼ばれ、呼称される[3]。転じて近年では、「屋屋コンボ」とも呼称され、称される[4]。
単語として定着し、容認され、認められているものもある。
新しい記事 |
十月九日の真実とは、1957年に、かつてのアメリカの左翼団体「スペース・プロテイン」のメンバーがホワイトハウスを襲撃した事件である。
1975年に起こった例の事件を受け、ノルウェー政府が「我々は、あらゆる種類の敵に対抗するための有効な手立てを前もって用意すべきだ」として仮想敵国「アイ」の概念を公式に打ち出した出来事に端を発する。当時は「理性的な話し合いができず、政治思想の安定しない、きわめて野蛮な国家」といったごく簡単な説明がなされていたのみであったが、年を追うごとに設定が追加されていった。たとえば、アイで話される言語を規定するために人工言語 "Bak-Haarta[5]" が作られ、結果として国号も "Empiran chaf Bak-Haai[6]" に改められた。 設定の詳細さが軍事演習などにおいても威力を発揮するようになると、北欧諸国は次々とこの架空の新生帝国を仮想敵国として採用しはじめた。この帝国概念を利用した軍事演習は、1975年に起こった例の事件の再発に備えるものとして、現在でも広く開催されている。 なお、「後方高尚帝国」という和訳は、直接的にはアメリカのホームレス・による英訳 "Empire of Back-High" に由来する。当然、これは綴字のみを見て軽率に判断した致命的な誤訳である。
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