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15話の物語をあなたと

傑作小説

非自己叙述的
「非自己叙述的」という言葉から生まれる概念を、満遍なく説明した作。二部構成!
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第一節 「物語(一人の老人による語り)」

君「非自己叙述的(heterological)」という言葉を知っているか? 知らないとな? 仕方のないやつめ、教えてやろう。
非自己叙述的とは、「ある言葉の意味がその言葉自体と矛盾していること」だ。たとえば"long"という言葉は「長い」を意味するが、この言葉の綴りはわずか4文字と、長くない
したがって"long"という言葉は非自己叙述的だといえる。また"misspelled(綴りの誤った)"という言葉は正しく綴られている。つまりこの言葉も非自己叙述的だ。
君この話は飽きたか。面白くないか。けどもしばし待て。ここからだ、面白くなるのは。さあ君、この問題について考えようじゃないか。

   ・「非自己叙述的」という言葉は非自己叙述的であるか?

これを解くにあたって、重要なことがある。「すべての言葉は非自己叙述的であるか非自己叙述的でないかのどちらかである。」ということだ。
おっと、当たり前だといって笑っちゃいけないぞ君。これはほんとうに大切なことだ。何せ……粛清されました
本題に戻ろう。ではまず、「『非自己叙述的』は非自己叙述的である」と仮定して話を進めようか。「非自己叙述的」は非自己叙述的である。
すなわち「非自己叙述的」はその言葉自体と矛盾した意味を持っている。よって「非自己叙述的」は非自己叙述的でない
むむ? いま、「非自己叙述的」は非自己叙述的だ、として話を進めたはずだ。しかしそこから、それを否定する結論が得られた。なぜだろうか? うーん。
あるいは、最初の仮定が間違っていた、と考える方が自然であろう。
今度は他の可能性にかけるのだ――ところで先ほど、「すべての言葉は非自己叙述的であるか非自己叙述的でないかのどちらかである。」と述べた。
となると他の可能性とは、「『非自己叙述的』は非自己叙述的でない」ということじゃあないか!
では、そう仮定するとどうなるのだろうか? 「非自己叙述的」は非自己叙述的でない。つまり「非自己叙述的」はその言葉自体と矛盾した意味を持っていない。
ゆえに、「非自己叙述的」は非自己叙述的である
またもや仮定と矛盾する結論を導いてしまった。やあ君、どうしてこうなったのだ? 僕たちはすべての可能性を検討しきったのに、そのどれにおいても矛盾が生まれるだなんて……。
はっ! 君君、これ、パラドックスじゃないか!



第二節 「物語(二人の若者の会話)」
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ⒸWikiWiki文庫

すべての小説

敬語を知らない探偵
伊藤しえる
敬語を知らない探偵が、夜行列車で起こった殺人事件の謎を解く短編ミステリー。
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第一章 めっちゃ暗い電車と死体

―――六月二日・深夜―――

六月二日午前二時、めっちゃ高級な夜行列車に悲鳴が響き渡った。

六名しかいない(決して登場人物を考えるのが面倒だったわけではない。断じて。)乗客の一人、ささ怜太れいたの遺体が発見されたのだ。

しかし、こういうミステリー小説にありがちな、何故か同乗している探偵、梅丹逞めいたんていは、事件解決に乗り出した。

「あー、まずみんなの名前を教えてくれ」

第一レクリエーションルームの静寂を破ったのは梅丹の一声だった。

この部屋には、コクピットの操縦記録という確固たるアリバイがある運転手以外の全員がいた。


「私は茂公家もくげ喜紗きしゃ。えーと・・・こういうときの持ちネタは無いわ。」

「俺は有曾津うそつ偉輝いてる。俺のことは信用していいぞ、探偵さん。」

「俺ぁ慈研じけん繁仁はんにんだ。早く帰らせてくれよ。ったく・・・」

「私、伊藤いとうしえる!どこにでもいるフツーの女子中学生!」

「私はこの列車のナース、律家りつけラレよ。」


ついさっき来たばかりなのに図々しく椅子に深く腰を据えている男は、ただ黙っている。

「えーと、一応そこの警察の人も・・・」

「私は卦伊佐けいさ通寛つかん。犯人は早く自首したほうが身のためだぞ。」

「それにしても・・・何故か非常ドアが開いていたおかげで列車に入れたのは運がよかったな。」

この23世紀のテクノロジーによって、時速三千キロメートル以上の速さで走るこの列車に―――それも動いているときに―――

非常ドアが何故か開いていたからという理由で飛び込む精神を疑ったのは梅丹だけではなかった。

「みんな、ありがとう。」

「では、午前二時に悲鳴を上げた人、名乗り出てくれ。」


ここまでご覧になった読者の中には、何か違和感を抱いた人もいるかもしれない。

そう、普通、ミステリー小説に出てくるような探偵は紳士的な口調で語りかけるが・・・

梅丹逞は敬語を一切使っていないのだ。これは、彼なりの信念というわけではなく、

ただ単に国語の授業を寝て過ごし続けたせいで、敬語の存在を知らないからなのである。

何てダメなやつなんだ。


「私よ。」

「茂公家、きみが笹怜太の遺体を発見した時の様子を教えてくれ。」

「ええ、私はのどが渇いて、水を飲みに台所に向かったの。」

「そしたら、通路にナイフが刺さった笹さんの遺体があって・・・警察に通報したわ。7G通信が普及したこの時代に感謝ね。」

「あーね、じゃあ、誰か他の人を見なかった?」

「えーと、白い服を着た人が通りかかったのは見えたわ。けど、暗くて顔はわからなかったの・・・」

「確かに、この列車何故か夜は消灯して目の前も見えないくらい真っ暗になるからな・・・」

「お!これ、犯人、ナースの人じゃね!?」

突如として有曾都が声を上げる。

「白い服着てる人ってあの人しかいねぇじゃ~ん!」

「ちょっと静かに。律家、きみは午前二時、何をしていた?」

「私は自分の部屋にいたわ。」

「誰か、午前二時頃に律家を見たかい?」

「私はさっき言った通りよ。」

「私、この部屋のでっかいテレビでプリキュア見てたから知らな~い。」

「俺と慈研はコイツが廊下を歩いていたのを見たぜ。」

「ああ。有曾都の言った通りだ。」

「なるほど、律家は外にいた可能性が高い・・・と。」

「噓つき!私はずっと自分の部屋にいたわよ!!!」

少し間をおいて、律家が言った。

「一応言っとくけど、私はやってないわよ。人を助けるためにナースやってるのに、人殺しなんてありえないわ。」

「おいおい、苦し紛れの感情論か?やっぱコイツ犯人だろ!」

「有曾都、すこし落ち着いてくれ。大体まだ凶器も見つかってないんだぞ。」

―――「私、さっき凶器っぽい包丁拾ったわよ。」

「私の部屋のドアの前に落ちてた。」

「誰かが私を犯人に仕立て上げようとしてるってとこかしら。」

律家が続けざまに言う。

口調こそ冷静だが、目がバタフライでもしているように泳いでいる。凶器はバタフライナイフか!?

梅丹には、これが「嘘と思われるかもしれない恐怖」から来ているのか、それとも「嘘がばれるかもしれない恐怖」からなのか、見当もつかなかった。

「律家ラレ、少し貴方の話を伺いたい。」

律家は卦伊佐によってどこかに連れられていった。

「あの人が犯人だったのね・・・」

「夜更かししてたら肌荒れちゃうから、お部屋にもどっていい?」

「やっぱナースが犯人じゃねぇか!」

「あーだりィ、もう帰っていいか?」

「ちょっと待ってくれ。」

梅丹は何か不可解な蟠りを感じていた。

「荷物検査を行いたい。みんな、荷物を持ってきてくれないか。」

「はァ!?もうナースが犯人で決まりだろ!そんなん必要ねぇよ!」

「やましいものでも入ってなければ何ら問題はないだろう?」

「まぁいいじゃねぇか、慈研。」

と、有曾都がなだめる。

馬鹿みたいにデカい慈研の舌打ちが廊下に鳴り響いた。

第二章 コペルニクス的転回(使いたいだけ)

―――あれから数分後―――

第一レクリエーションルームに全員が荷物を持ってきた。

あぁ、運転手と卦伊佐と律家以外・・・それと、梅丹以外は。

「なんなんだよアイツ!」

慈研が壁を殴る。

「宇曾都、もう帰らねぇか?」

「おいおい、ここで帰ったら絶対疑われるぞ。」

慈研が壁を殴る。

「ほんと、あいつら馬鹿ね。」

突如、ドアが開いた。

「律家ラレは犯人ではなかった」

卦伊佐の言葉が部屋中を駆け巡った。

「ここの変態運転手が律家の部屋に隠しカメラをセットしていた。」

「午前二時、たしかに律家は部屋にいたことが記録されている。」

「あのゴミ・・・」

律家は複雑な表情だったが―――安堵していた。

「はァ?俺たちが嘘をついてたっていうのかよ!絶対そいつが犯人だろ!」

「そうだぞ、慈研の言う通りだ。」

声を荒らげこそしないものの、茂公家も動揺していた。

そのとき、再びドアが開いた。

「みんなの部屋を調べさせてもらった。」

梅丹はスマホと小さな紙を持って、ニヤニヤしていた。

「私のスマホ!返しなさいよ!」

茂公家は先ほどとは別人の形相で梅丹に掴みかかるが、卦伊佐に引きはがされた。

「運転手から部屋のカギを借りたんだ。犯人に荷物を持って来いといったところでやましいものは持ってこないことくらい誰もがわかる。」

「そして・・・いくつかとても興味深いものがあった。」

「まず一つ・・・茂公家と有曾都の通話履歴だ。聞いてみてくれ。」ポチー


「「慈研...k..らだ...」」

「「..伊藤sh...えるs...aが殺さ...れた....」」

「「...ええ、分k...った..。確認sh...てく..る」」


「雑音のせいで聞き取りずらいが・・・」

「伊藤しえるが殺された、と言っているな。」

「クソが・・・」

有曾都が壁を殴る。

茂公家はバタフライ中の競泳選手が急に陸上にテレポートしてきたかの如くバタバタしていた。

「そして・・・この紙だ。」


最低な私を許してくだ
さい。もうこれ以上涙
を拭くのはたくさん。
今夜飛び降ります。線
路に当たったら死ねま
すよね。死ねるよね。
     伊藤しえる


「嘘!私こんなの書いてないわ!」

「これはどういうわけか有曾都の部屋にあった。」」

「今までの手がかりから推測するに、犯人は・・・慈研、有曾都、茂公家の三人さ。」

「どういうこと?」

律家と伊藤は混乱している。

「こいつら三人は伊藤しえるを殺害しようと企んでいた。」

「本来の予定では・・・まず慈研が伊藤を殺害し、有曾都に連絡、」

「そして有曾都はあの偽造遺書をセッティングしてから、茂公家に連絡し、茂公家は非常ドアを開けて伊藤の死体を線路に突き落とす。」

「こうして伊藤は自殺したことになり、完全犯罪は成立する。」

「といったところだったが・・・慈研。きみはミスを犯してしまったようだね。」

梅丹を睨む慈研。もはや壁を殴る気力すらなくしたのだろうか。

「きみは―――”暗くて顔がわからなかった”から―――間違えて笹怜太を殺した。そうだろ?」

「慈研から有曾都を経由した茂公家への連絡と、偽造遺書のセットは順調に進んだが、」

「茂公家は非常ドアを開け・・・月明りのおかげで抱えている死体が伊藤のものではないことに気づいた。」

「偽造遺書は伊藤しえる用だったから、笹怜太の死を隠せない。」

「その後こいつらは、とっさに機転を利かせて、律家ラレを犯人に仕立て上げようとした。」

「三人がかりなら丸め込めるとでも思ったのだろうね。」


慈研、有曾都、茂公家は卦伊佐によってどこかに連れられていった。



翌朝の新聞が―――――死者九名を告げた。

第三章 敬語を知らない探偵

―――六月二日・未明―――

「ねぇ、探偵さん」

「あぁ、伊藤。なんだい?」

「なんで頑なに敬語を使わないの?」

「ケイゴ?誰だ、それは。」

「国語の授業、ちゃんと受けてた?」

「も、もちろんだよ!授業中に寝るなんてこと、す、するわけがないじゃないか!」

「ふふ、敬語ってね、ちょっと面白いんだよ。」

「例えば、「先生が食べる」という文。これを敬語にするとね、「先生が召し上がる」とか、「先生がお食べになる」とか・・・」

「「先生が食べられる」にもなるんだ。」

「ねぇ、」

「あの”遺書”に違和感を感じなかった?」

「特に最後なんか、「死ねますよね。死ねるよね。」なんて・・・」

「あの”遺書”を書いたのは私なんだよ。」

「お友達に私の意思を伝えるために、書いたんだよ。」

「でも私は別に自殺したいわけじゃない。」

「あなたたちは読み方を間違えてるのかもしれないね。」


「ねぇ、」

「もしかして、あなた、」

のこと、知ってるの?」

ⒸWikiWiki文庫

引っ込み思案の茶封筒
27年ぶりの世紀末、その雲はハンバーガーとともに輝きだした……。
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第一章 人の気も知らずに

「今すぐ生ハムでも降ってきそうな天気ね」

 広瀬君はそう言うと、姿を消したのだった。コードレス化が進む昨今、ポケットティッシュを整理するのにもはや湖など必要ない。思わずうかうかしてしまいそうな話である。不意打ちに見つかったバターナイフでさえ急須でラベルを飲むのだから、まあ無理もない、といえば、当然嘘になる。

 川西フットサル――Italian, 42, male, fat, blond――もその一人であった。彼女はまだ若く、一人で合格証書を受け取った。日本人の悪い癖といえばそうだ。誰もそんなものは計算しない。したがってこの日も、ベランダで弓道を侮辱する43分となった。西日本の読者諸賢はすでにお気づきのことと思うが、発電機とはあくまで鏡を売るということであり、そう簡単に通学していいものでは、決してない。

 彼らはそんな神様に嫌気がさしていた。参考書のQWERTY配列、コンビニおにぎりの些細な下駄箱、あるいはカリギュラ効果の持つ、はらはらどきどきのショートケーキ、そしてそういった全てのものに、愛着が湧いていた。

「全く、句点ほど厄介なものはないね」

 誰かはそう言って、おもむろに肩を並べてみるのであった。


第二章 謝りなさい

 それでもなお、カレーだ。「あえて」なのか、「わざと」なのか。「シュン」はつまるところ、「ムォン」であるというのか。一体どうして、誤診のためなら、と人々が列挙しはじめるのか。ルービックキューブと埃まみれになるのに、どれほどの思考実験を繰り返したのか。赤の広場にいるピアノ調律師の数は、印象派をあわせて何人いたのだろうか。宇宙の恒星の分布が一様で、恒星の大きさも場所によらないならば、空は常に光り輝いているはずではないのだろうか。アスタリスクの快進撃に、チャーチルは涙を流したのだろうか。Why did you want to climb Mount Everest? 定款書は地球儀を回すというのか。

 語彙力の足らない騒がしさは、スーパーマンのブーツであったのだろうか。信号機のクロップス・スクラッケスにとって、エッフェル塔を勉強するトンボは何を示すのだろうか。白い青空は54点ほどにマトートルケールなのだろうか。キミって明日予定ある?


第三章 まず第一に

 世の中たるもの、教室のクリケットを確実に狩っていくのでは、あまりにも根拠がない。まあ、信じるということだ。どこからが嫌われる水かだなんて、クラークが指を固めてからそれっきりである。おっと、難しく運転しすぎるのも褒められたものでない。何が言いたいのかと言うと、紅茶やマンホールは、すこぶる浅はかな駅階段がすずらすずらと舞い降りるのを見たいということだ。報告書と見なせば、反比例してでもそのことを忘れてはならないのである。

 何せ、NとBである。よほど赤色が将来でない限り、電柱さえままならないジャコウアゲハがサボりを盗むことはあり得ない。たとえば、心太ではタイプミス、北京ダックでは品定め、オレオレ詐欺では明眸皓歯であることなどは、今となっては理屈が駆け抜けるミトコンドリアだ。また不変の本文とヒューロ的な最先端医療は、どうにかしても消防車クレープだ。桐沢も同様に思い、怪奇と暗記に抱きついたのである。


第三章 緑色のいかにも


第六章 山河敗れてパイロット

 そうなると、彼女がどのような紫色を破壊していたかが問題となる。以下は人類の全ての再见である。軍帥を以てピザに喚く、注意せよ、ああ。

  白バニラ コロンボ居ます 革命家

 しこうして、ゆくゆくはリスである。君はどう理解していますか。夜明けを打ってドアを喰らう。それでこそ。

ⒸWikiWiki文庫

人形浄瑠璃
爺s(Yuito&キュアラプラプ
"古き良き日本の文化"をテーマにした、大和魂溢れるジジイ共による人形浄瑠璃。
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第一話
やあ!僕はナマステハムナム!
今日はローソンにゴミ袋とファミチキを買いに行くよ!
いつもこの時間になると、川の上流からローソンが流れてくるんだ!
(どんぶらこ どんぶらこ)
あれ?今日はローソンの代わりにたくさんの水が川を流れてるね!
これじゃあゴミ出しができないじゃないか。こまったなあ…
あっ!そうだ!心中すればいいじゃないか!
第一話 完



第二話
やあ!僕はナマステナムハム!
ウィキペヂァによると、心中(しんじゅう、旧仮名遣い:しんぢゆう)とは、
相思相愛の仲にある男女が双方の一致した意思により一緒に自殺または嘱託殺人すること。
転じて二人ないし数人の親しい関係にある者たちが一緒に自殺することらしいよ!
人形浄瑠璃とかいうよくわからん謎の儀式ではよく題材にされるらしいよ!
とりあえず、一緒に心中してくれる方を探しに行くよ!
第二話 完



第三話
やあ!僕はナムハムナマステ!
そういえば、自己紹介を忘れていたよ!
僕の名前はご存じの通りナマハムステナム!
え?名前を間違えてる?そんなことないよ!
僕の名前、ええっと、ナマ…?ナマナム…?あ、ナムステハムナマだ!
ははは、じ、自分の名前を忘れるわけないじゃないか!
第三話 完



第四話
やあ!僕はナマナマナマナマ!
あれからだっだっだいぶたったし、未だに心中してくる人に見つけません!
え?日本語のおかしい?そんなことがないよ!
それはさておき、オリジナルの生物とその生物のクローンはどっちの方が大切にすべきなんだろう?
第四話 完



第五話
やあ!僕はナマハムオイシイ!
クローンでコローンになたから、エイコサはドコサ?魚の中さ!え?意味、言ってる分からない?
ほは!1+1=3になるのはいつからか時間です。
ちょっと前にエイドコが馬の話にしたわ、馬は人でアリ、人にアリでしなし。
ところで私何?何は馬でアリ、アリはアリよりのナシ、ナシを植物、双子葉?単子葉?
わからない。わかりたくない。とりあえず牛にしておこう双子葉。
第五話 完



第六話
やあ!僕はナマステハムナム!
オリジナルである僕のクローンを何重にも作った結果、
みんなナマステ度が低下したせいで記憶力や言語能力が異常に低下して壊れちゃったよ!
きょうはローソンが流れてこないせいでゴミ袋がないからみんなを捨てられないなぁ…
あ、そういえば…首謀者が"親しい関係にある者たち"に対して嘱託殺人を行い、
自分も自殺することも心中というらしいよ!
まあ、みんな"僕"なんだし勝手にしてもいいよね!
みんなもやりすぎたものは水に流そうね!
(どんぶらこ どんぶらこ)

ⒸWikiWiki文庫

The Tragedy In The Plastic Bag
Notorious
One day, a woman was killed in the ship. Can you solve this case?
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1.Introduction

I am Tom. I work as Mr.Brunt’s assistant. He is a great detective. Mr.Brunt has solved many cases. One day, we were going to Ash Island to investigate the murder case which happened there.
I was in a cabin in the ship. A few hours ago, engine of the ship had broken down. Rescue will come tomorrow, so passengers were forced to spend the night in their cabins. There were seven people in this ship, including captain. We had listened to captain’s explanations. After that we had introduced ourselves.
Fortunately, everyone had their own spare clothes, cosmetics and so on.
It was ten p.m. I had taken a shower and changed my clothes already. I laid on the bed and closed my eyes. But I couldn’t stop thinking about this situation. It’s a “closed circle”. I hoped to happen nothing tonight...
I fell asleep soon. But as a result, my wish didn’t come true.

2.Conversation

I was waked by alarm of my smartphone. It was seven a.m. I washed my face and changed my clothes. I left my cabin and went to the dining room. When I opened the door, there were two people. Mr.Brunt and captain.
Mr.Brunt was so tall and had beautiful blue eyes. Contrary to him, I was short. Mr.Brunt was drinking a cup of coffee. I guessed he had already had his breakfast. Mr.Brunt said,
”Good morning.”
Captain’s name was Benjamin. He was listening to the radio. He looked back at me and said,
“Good morning, boy. Would you like to eat a can of salmon?”
I said,
“Please do not treat me as a child. I’m eighteen years old.” Actually, I was seventeen.
“Oh I’m sorry.”
Captain said and laughed.
Then Johnson came in the room. Johnson was a doctor who was working in Ash Island.She talked about operations which she managed to do yesterday.
“Good morning, everyone. Captain, when will the rescue come?”
Captain said,
“I think the help will come until noon.”
“I see. By the way, where is Koo-ko?” Mr.Brunt answered,
“He hasn’t come here yet.”
The door opened at that time. Koo-ko was standing there. Koitawa ———we call “Koo-ko” or “He”——— was a Japanese comedian. This is a stage name. According to Koo-ko, there are many comedians who have strange names in Japan. However, “Koitawa” was too difficult for us to say. He was traveling all over the world. I saw Koo-ko’s gag yesterday. To be honest, It was not so funny.
“Good morning” Koo-ko said.
“Talk of the devil...” Mr.Brunt murmured.
“I couldn’t sleep well last night due to seasickness.”
“Oh, that’s too bad. I’ll give you a medicine.” Johnson said.
“Thank you,Ms.Johnson.”
Then Ms.Hunt came in the dining room. Ms.Hunt was a tourist. She was going to spend her vacation in Ash Island. Ms.Hunt looked over fifty and too fat. Of course I never say.
“Good morning, everyone. I am hungry. Captain, is there something to eat in this ship?”
“Yeah, I have some canned foods. Everyone except Mr.Brunt hasn’t had breakfast yet, so I will wake up Ms.Emily and eat breakfast together.”
“Yes, let’s.” Ms.Hunt agreed.
“I’ll go her room and wake up her.” Captain said and left the dining room.
Ms.Emily was a singer. She was going to Ash Island to hold a show.
But a few seconds later,we heard captain’s scream.
We ran to Ms.Emily’s room. Captain was standing in front of the room. He said,
“Look!”
The door was opened. We could see inside of the cabin. I saw “it”.
“Tom, come on.” Mr.Brunt told me and put on his gloves.
“Yes,sir.” I said and took a pair of gloves from my pocket.
We entered the cabin. Bathroom was on my left side. A shelf, a desk and a chair were on my right side, and Ms.Emily was lying in front of the bed. Mr.Brunt touched her throat and said,
“She is dead.”
I looked at Ms.Emily’s head. That was so strange. Her head was wrapped in a plastic bag.

3.Investigation

The transparent plastic bag was knotted around Ms.Emily’s neck tightly. Mr.Brunt took a pair of scissors from his pouch and cut the bag. Ms.Emily was opening her eyes. There was a deep wound on her forehead.
Ms.Emily was wearing a white one-piece. Some blood stains were on the chest of her one-piece.
I found a bloody radio on the floor.
“Mr.Brunt, is it a deadly weapon?”
“I think so too. Look at Ms.Emily’s suitcase.”
A small suitcase was under the desk. It was full of many goods, but there was a space of a radio in it. Mr.Brunt investigated the suitcase. There was one clothing which Ms.Emily was wearing yesterday. Ms.Hunt said,
“Ms.Emily said that she has only two clothes on this journey.” Ms.Hunt’s voice was shaking with fear.
“I heard so too yesterday.” Johnson agreed.
“When she got on this ship, she had only this suitcase.” I said.
“I saw it too.” Mr.Brunt said. And he asked,
“Whose is that plastic bag?” No one answered.
“I think it is the murderer’s.” Mr.Brunt said. The plastic bag was printed nothing.
Mr.Brunt stood up and said,
“We did all we can do here. Let’s go back to dining room.”
“Don’t you...don’t you put her on the bed?” Koo-ko watched Ms.Emily’s thin body and asked.
“We shouldn’t move the things if we can.” Mr.Brunt told.
“I see.” Koo-ko said faintly.
We left Ms.Emily’s room and went back to dining room without any words. Six people sat on the chairs.
Mr.Brunt said,
“What did you do last night, everyone? I was sleeping through the night and woke up at six.”
“I went to bed at twelve and waked up at seven.” Captain answered.
“I went to bed at eleven but I couldn’t sleep well last night. And came here at seven fifteen.” Koo-ko replied.
“I fell asleep at ten and woke up at seven.” I answered.
“I don’t know when I went to bed. I woke up at seven too.” Johnson said.
“I read a book until midnight and fell asleep. I woke up at six thirty.” Ms.Hunt replied.
“I guess Ms.Emily was killed at about two o’clock from her body. Is there a person who has an alibi for last night?” Mr.Brunt asked. No one answered.
“Alright. Next, please let me investigate your cabins.”
Ms.Hunt and Koo-ko objected, but finally they agreed.
We investigated all cabins, but we couldn’t find any suspicious things. Johnson had some goods for surgical operations, but it was natural. I saw a surgical knife for the first time.
After that, we came back to dining room again.
“Did you find the murderer?” I asked Mr.Brunt.
“Not yet but I will find it soon. Please give me a bit of time.” He answered.
“I think the plastic bag is the key. If I can understand why it was used, I can find who is a criminal….” Mr.Brunt murmured.
And five minutes passed. Suddenly, Mr.Brunt shouted.
“Oh, Jesus! I understood!”
Mr.Brunt smiled and said,
“I found who killed Ms.Emily.”

4.Resolution

Everybody turned to him.
“Really? Please tell us!” I said.
“Alright. I will charge the person who killed Ms.Emily.” Mr.Brunt said aloud, and started the explanation.
“The key of this case is the plastic bag. Ms.Emily’s head was wrapped in it. I’ll call the murderer X. Why did X do that?” Mr.Brunt looked around us.
“Remember, there is a wound on her forehead. X covered it with a plastic bag.”
“But why?” I asked.
“What do you think, Tom?”
“Well...how about this? X didn’t want to see blood.” I replied.
“No, it is transparent. Also, there is a bloody radio too.” Mr.Brunt said.
“Oh. What do you think, sir?” I asked again.
“X wanted to prevent blood from sticking.”
“Stick?” I couldn’t understand well.
“I will explain what happened last night.” Mr.Brunt said. He started talking.
“X killed Ms.Emily by the radio. Then Ms.Emily’s blood was scattered a little, and stuck to X’s clothes.”
“Clothes? Why do you think so?” Captain asked.
“You will understand everything when I finish talking.” Mr.Brunt said and continued speaking.
“X was puzzled what to do. If someone see this blood, He or she will realize that I am a murderer! So X had to remove this blood stains. How about changing my clothes? But if this blood-stained clothes are found by someone, it’s same thing. X came up with a good idea. Changing the clothes with Ms.Emily. “
We were very surprised.
“Clothes that Ms.Emily is wearing now is not hers?!” Johnson said.
“That’s right. There is a blood stain, but it is strange to stick blood on the chest from the forehead.” Mr.Brunt explained with gestures. Then Ms.Hunt said,
“But if X throw the clothing away into the sea, we can’t find it.”
Mr.Brunt replied,
“I think X had only two clothes, and X had already taken a shower then. If X wears a clothing that X wore yesterday, it’s suspicious. X wanted to avoid it.”
“I see.” Ms.Hunt said.
“I guess Ms.Emily was wearing a T-shirt when she was killed. X had to take it off. But...”
“There is a wound!” I shouted.
“That’s right, Tom. X must not stick blood on T-shirt, so X wrapped the wound in the plastic bag. That plastic bag has no features, so X used it. This is the reason.” Mr.Brunt said proudly. His story took our breath away.
“X knotted the plastic bag tightly and changed the clothes. However, X knotted the plastic bag so tight that X couldn’t untie a knot.” Mr.Brunt took a breath and said aloud,
“Remember, the plastic bag was the murderer’s. So, X wanted to throw it away if X can. There is a very big trash box we call sea. But X didn’t. Why? Because X couldn’t do that. It means X didn’t have any edged tools like scissors.”
We were surprised again, and we felt nervous too. Someone is going to be charged as a murderer soon.
“If X could cut the bag, X would cut and throw it away. As X didn’t have scissors or something like that, X left it in Ms.Emily’s room.” Mr.Brunt took a deep breath.
“For those reasons, I can find who is X.
X is the person who had one-piece which Ms.Emily’s body is wearing now.
X is the person who didn’t have any edged tools.”
Resolution is going to the end. I felt so.
“For first condition, X is a woman. However, Ms.Emily’s clothes are too small for Ms.Hunt. So Ms.Hunt is not X.”
Ms.Hunt looked up to the ceiling and sigh deeply.
“For second condition, X has no edged tool. But Ms.Johnson has a surgical knife. So, Ms.Johnson is not X.”
Johnson closed her eyes silently.
Mr.Brunt said,
“So you are X!”
Mr.Brunt pointed at a person who is a woman and doesn’t have any edged tools.

5.Conclusion

She ———He Koitawa——— hung her head. And started crying.
“E-Emily stole my fiancé...b-but I said that to her last night, she didn’t remember! So, I-I...”
Koo-ko cried aloud. Other people were silent.
Suddenly, we heard a sound of engine.
“Rescue is coming soon.” Mr.Brunt murmured.
We went to the deck. We saw a ship coming here. The sun was high and shiny. The tragedy had ended.

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麻薬の大きな危険性
学者A
麻薬の危険性について、詳細に述べました。
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1.みなさんは「麻薬」と聞いて何を思い浮かべますか。
高い依存性や、心身への有害性など、否定的なイメージが強いことでしょう。
クレジットカード決済で脊椎管狭窄症を購入すると私は舞い上がり、天窓の大きなベルに激突した。
その音色はカレンダーと共に世界を祝福したがっていたが、逆洗ポンプのように窄めることにした。無理もないだろう?
私はにくくなっている。不等号の酒はもはやアシュアランスを請け負う。
おっと、これは失礼。なに、おまじないのようなものですよ。こう見えて私はホラーゲームは苦手なのでね。
さて、とどのつまり、麻薬は人を狂わせてしまうのですよ。あなたも知っているでしょうがね。
幻覚、幻聴、幻覚、幻聴…これらの無限ループは人間を頑丈な皮膚に閉じ込め、もうそれは筆舌に尽くしがたい美味を成します!
さらに彼ら(彼女らかもしれません。我々の世界はいかなるカーテンをも欲していないのですから。)はどこまでも大きな雲のように延長され、
私たちの鼻を、口を、耳を、目を、塞いでしまうのです。ああ!おかげで私たちは奇妙な―――まるで肉をすすったうがいのような―――音しか奏でられないのです!



2.正常は正義の味方か?
話を戻そう。麻薬の危険性はその中毒性にあるといえる。
いつでもどこでもだれでもなんでも麻薬を吸いたいというその強い思いが、人が日ごろから吐く"希望"という甘い液体なのだ。
ダイヤモンドでさえ柔らかく強いのだ。至極全うであり、かつ矛盾している。
では、その根拠を述べていこう。よもやウイルスがヴァイラスとさえなりうるのだから。
第二に、私は感謝している。このモニターに閲覧される我が人格はすべて反射し、後方(皮肉にも、完全なもの以外だが)を確認できることに。
イネとイエこそ我らの最大の幸福であったころを残留させれば、再び花として、いや、彼のためにもやめておこう。
夕暮れは 人を生かせし 泡を呼び 緑に帰する 輪郭を見て
思い出すものといえば、ただ一つ。我らも一つ。すべてが一つ。
誰もが孵化していく!あなたはこの道をどう辿る?答えは誰もが煙に巻く。



3.結論
これらのことから、麻薬はとても危険であり、使用してはいけないことが分かるであろう。
ご清聴、ありがとうございました
ご清聴、ありがとうございました
ご清聴、ありがとうございました本当にありがとうございます
ご清聴、ありがとうございました
ご清聴、ありがとうございました本当に本当にありがとうございました
ご清聴、ありがとうございました
ご清聴、ありがとうございましたありがとうございますありがとうございます
ご清聴、ありがとうございました本当に本当に本当に本当にありがとうございます
これで、誰もが救われます。


P.S.   茶封筒への大きな華を同封して。

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蜘蛛の糸、あるいは悪趣味な釈迦
Notorious
現代版蜘蛛の糸
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 ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色のずいからは、何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。
 やがて御釈迦様はその池のふちに御佇みになって、水の面を蔽っている蓮の葉の間から、ふと下の様子を御覧になりました。この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に当って居りますから、水晶のような水を透き通して、三途の川や針の山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。
 するとその地獄の底に、神田太郎かんだたろうと云う男が一人、ほかの罪人と一しょに蠢いている姿が、御眼に止まりました。この神田太郎と云う男は、人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた大泥棒でございますが、それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのが見えました。そこで神田太郎は早速足を挙げて、踏み殺そうと致しましたが、「いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いない。その命を無闇にとると云う事は、いくら何でも可哀そうだ。」と、こう急に思い返して、とうとうその蜘蛛を殺さずに助けてやったからでございます。
 御釈迦様は地獄の様子を御覧になりながら、この神田太郎には蜘蛛を助けた事があるのを御思い出しになりました。そうしてそれだけの善い事をした報いとして、この男に地獄を抜け出す機会を与えてやろうと御考えになりました。幸い、側を見ますと、翡翠のような色をした蓮の葉の上に、極楽の蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかけて居ります。御釈迦様はその蜘蛛の糸をそっと御手に御取りになって、玉のような白蓮の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下しなさいました。

 神田太郎は他の罪人達とともに血の池で浮いたり沈んだりしていた。地獄は真っ暗で、たまに何か光ったと思えばそれは針山の針なものだから、心細くて仕方がない。聞こえるものといえば罪人の嘆息くらいだ。地獄の責め苦に疲れ、泣き叫ぶ気力はとうになくなっている。生きている間は微塵も感じなかった自らの悪行への後悔に、今は苦しめられていた。こうして神田太郎はまた、溜息を絞り出すのだった。
 神田太郎は根っからの悪人だった。子供の頃は虫を殺したりクラスの子を叩いたりしていた。学生になるとそれはいじめへと変わった。もちろんいじめる側だ。盗みは高校の時から始めた。当然就職はせず、空き巣で生計を立てるようになった。それは次第に強盗へと発展していった。そして一度、弾みで人を殺してしまったのだ。それを見られたから、もう一人殺した。逃亡中にも何人か殺したと思う。結果捕まり、死刑となって今地獄にいる。善いことをした覚えといえば、一度森で蜘蛛を踏み潰さなかったことくらいか。
 その時、神田太郎がふと空を見ると、一筋の銀色の蜘蛛の糸が、人目を忍ぶようにすうっと下りてくるのが見えた。神田太郎は思わず手を打って喜んだ。この糸を登れば、地獄から抜け出せるだろう。うまくいけば、極楽にだって入れるかもしれない。そうすればもう、この責め苦から逃れられる。きっとあの時の蜘蛛だ、と神田太郎は思った。善行が報われたのだ、と。
 神田太郎はすぐに糸を掴んで登り始めた。もともとが泥棒だから、こういったことは慣れっこである。
 だが糸は途方もなく長かった。登っても登っても極楽はなかなか近づかない。神田太郎はついに一手繰りもできなくなってしまった。そこで、一度休もうと糸にぶら下がったまま、ふと遥か下を見てみた。
 登ってきた甲斐あり、血の池も針山も豆粒ほどにしか見えなくなっていた。神田太郎は何年も出していない大声で、「しめた、しめた。これも蜘蛛を助けたお陰だ。」と笑った。だがそこで、神田太郎は何か蠢いている小さなものを目に留めた。その正体に気づき、神田太郎は戦慄した。罪人達だ。神田太郎が登ってきたこの蜘蛛の糸を、一心に手繰ってきているのだ。この細い糸があんなに多くの人の重さを支え切れるとは思えない。このままではこの糸がぷつりと切れてしまうのではないか。そうしたら、肝心の自分もともに落ちてしまうじゃあないか。
 そこで、神田太郎は、
「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸はおれのものだぞ。お前たちは一体誰にいて、のぼって来た。下りろ。下りろ。」
と喚いた。
 その途端、今までなんともなかった糸が、神田太郎が掴まっていたあたりからふつりと切れてしまった。神田太郎は、暗闇の中へと再び落ちていった。後には、銀色の蜘蛛の糸が微かに揺れているだけであった。

 園田摘人そのたつみひとは、神田太郎が突然上へ上へと昇っていくのを見ていた。何が起こっているかは、目を凝らせばわかった。糸だ。細い糸が遥か天上へと伸びている。園田摘人は、その瞬間疲れを忘れ、糸の方へ血の池を泳いでいった。
 園田摘人は、至って善良な人間であった。普通の学生生活を送り、普通に会社に勤め、普通の人間関係を築いていった。だがそれはある日瓦解した。その日園田摘人は、父親と口論になった。きっかけはつまらぬことだったと思う。しかし園田摘人は、思わず父親を突き飛ばしてしまった。父親はふっ飛び、机の角に頭をぶつけて動かなくなった。
 その時の怯えた母親と妹の目と、レスキュー隊員の弟が蘇生措置を行う様子を覚えている。園田摘人は気がつくと家から逃げ出していた。そして、父殺しの事実に耐えかね、首を吊った。結果、今地獄にいる。
 これはチャンスだ。上手くいけばこの地獄を抜け出せるかもしれない。やっとの思いで糸に辿り着くと、満身の力を込めて登り始めた。神田太郎は既に何十メートルも上にいる。他の罪人達も集まってきた。園田摘人は無我夢中で糸を手繰っていった。体力は無い方のため後ろがつかえ始めたが、それでも地獄から離れたい一心で体を持ち上げ続けた。その時、上方から神田太郎の声が聞こえてきた。
「しめた、しめた。これも蜘蛛を助けたお陰だ。」
蜘蛛を助けたお陰、だと? 園田摘人は思った。するともう一度声が降ってきた。
「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸はおれのものだぞ。お前たちは一体誰にいて、のぼって来た。下りろ。下りろ。」
その瞬間、体がふっと軽くなった気がした。いや、違う。落ちているのだ。体は重力によってぐんぐん加速していく。
 園田摘人は思った。蜘蛛を助けたお陰、だと? そんな命、俺だって何千と助けている。だったら俺のもとにも糸が雨のように降ってきてしかるべきじゃないか。神田太郎は極悪人だから蜘蛛を助けたのが目についただけだ。不良が優しくするとちやほやされるのに、いつも優しい者が優しくしても何も言われないのと同じ事じゃあないか。釈迦の救いがそんなでいいのか。不条理だ。理不尽だ。こんなことなら。園田摘人は墜落しながら尚も思った。こんなことなら、母親も妹も殺して、レスキュー隊員の弟だけ助けるんだった、と。

 御釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがて神田太郎が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな御顔をなさりながら、またぶらぶら御歩きになり始めました。神田太郎にだけ救いの手を差し伸べるのは不公平なことなど、先刻承知です。ですが、釈迦はこれが「救い」の手とは端から思っておりません。もともとは、極楽へあと一手繰りで手が届くという所で糸を切ってしまうつもりだったのですが。しかしこのタイミングで切ってもよかったでしょう。神田太郎は、自分の傲慢が糸を断ち切ったと、一生後悔するでしょう。こんなことをした理由はただ一つ、後悔こそが、どんな地獄の業火よりも熱く、苦しく心を焼くと、御釈迦様は存じておられるからです。
 しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。その玉のような白い花は、御釈迦様のおみ足のまわりに、ゆらゆらうてなを動かして、そのまん中にある金色のずいからは、何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽ももう午に近くなったのでございましょう。

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賭けイクスティンクション、そして頭足類
キュアラプラプ
あなたはこのトリックを見破れるだろうか。
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1 タコ部屋は嫌だ!

俺は大学九年目のさえないバンドマンだ。

ああ、それにしても、バンドっつーのはものすごく金がかかるものだ。

使う機材を買うために借金、それを返すためにまた借金。

借りた金には雪だるま状に利子が増えていって、今じゃもうそれはそれは天文学的な額だ。むろん、大きい方のな。

ついでに、返済期日は明日と来た。このままじゃあ、黒服の野郎どもにひっとらえられてタコ部屋行きだぜ。全く笑えねぇ。

それで…俺は考えたんだ。この状況を打開する方法を…

そう。ギャンブルさ。

なに、お前たちは俺を馬鹿だと思うかい?ハハ、そういうのは最初の自己紹介でさっさと気づくもんだぜ。

さて、そうこうしてるうちに着いちまった。地下賭博場だ。ここではもう日本国憲法は通用しねぇ。

「やぁ、そこの若者。」

随分としっかりスーツを着こんでるジジイだ。いかにも弱者をカネの力で弄んでそうな、といったら大体のイメージはできるかい?

「なんだい、爺さん。ギャンブルのお誘いか?」

「見たところ、アンタは金に困ってるのぉ?」

「ここに来るやつはみんなそんなもんだろうに。」

「ウァッハッハッ、ちょうどいい。ワシには金が腐るほどあるんだ…」

「『腐っても鯛』っていうだろ?捨てちまうくらいならよこしてくれよ。ああ?」

「そうはいっても、ワシの大事な箱入り娘はアンタの顔すら見たことがない。お見合いから始めるのが筋だろう?」

そう言うと、ジジイはおもむろに箱入り娘…もといスーツケース入りの天文学的な(もちろん、大きい方の。)大金を俺に見せてきた。

「アンタのほしいものは何だい?」

俺は絶句した。

「そ…それって…」

「んん…?よく聞こえないのぉ…」

ジジイはにやりと笑い、こう言った。

「ほしいか?」

「ハハ…当然さ…!」

「………ほう。」

「では…アンタがワシにとある『ゲーム』で勝ったら…」

「お望みの物をくれてやろう。その代わり、もしアンタが負けたら…ガハハ、タコ部屋行きにしてやろう!」

「…乗ったぜ、その勝負。」

「ウァッハッハッ!ではやろうか。その『ゲーム』とは―――」

「『イクスティンクション』だ。ルールは分かるよのぉ?」

「イクスティンクション…面白え!」

2 賭けイクスティンクション

ハハハ…このジジイ…大誤算をしでかしたな…

何を隠そう、この俺は…『イクスティンクション・ワールドカップ』の初代王者なんだよ!

しめた!タコ部屋行きの明日が来る可能性が完全に"消滅"したぜ!ヒャッハー!

「ローカルルールとして、『殲滅』で捨てる手札は三枚、それも能力カードに限るものとしよう。そのほうが愉快に違いないからのぅ!」

「よし、では…ゲームスタートじゃ…」

『独占』という声が同時に放たれた。

俺の手札は「密室」「輪廻」「6」「4」「2」の五つだ。密室シールドルームが出たのは幸運すぎるぜ…!

「ほう、アンタ、何を独占しとるんだね?」

「おいおい、俺が答える筋合いはないぜ。」

「ウーーーム、答え次第では『平和的なトレード』をしようと思っとったんだがなぁ…」

「3000万円、これでどうじゃ?」

このジジイ…金でゆすってきやがる…!三千万円…流石にデカすぎるぞ…!どうする…俺…どうする…

「…俺が…俺が独占しているのは『密室』だ。」

「ウァッハッハッ、ワシは『7』じゃ。トレード成立じゃのう。」

そしてジジイは紙袋を俺に投げつけてきた。中には確かに3000万円が入っていた。

大丈夫。俺は初代王者だ。シールドルームごとき、無くても余裕で勝てる…!

「ククク…では、『透視』そして『強盗』じゃ。」

「なっ…!?」

まんまとハメられた!クソ!金で判断を狂わされた!「密室」も「7」も失っちまった!

「ウァッハッハッ!!!実に滑稽じゃのぅ!!!」

「チッ…」

―10分後―

ああ、今日は、今日は…絶望的に運が悪い!

『密室』をトレードして以降、ただの一つも能力カードが出ねぇ…!

運よく『6』を二枚で独占しているからジジイは上がれていないが…リーチになるのも時間の問題だ。

「ぬぅ…『消滅』じゃ…」

素晴らしいタイミングだ!

「ハハハ、ざまぁ見やがれ!」

「おっと、いつワシが『消失』を持っていないと言った?」

「なに…待てよ、独占宣言をしていないじゃないか!」

「ウァッハッハッ、そんなもの一番最初に済ましたわい。『独占』しているカードが一種類だけだとは言っていないぞ?」

「くっ…」

「ほれ、『剽賊』じゃ。」

「ハハ…『2』と『4』か…いいチョイスじゃないか?」

「ヌワッハッハ!威勢だけは良いガキめが!」

まずい…ジリ貧だ…せめてあのシールドルームをどうにかしないと…

「よし…『一擲』だ。そろそろ運とやらが俺に味方してきたんじゃないか?送るのは『1』だ。陥落しろ!シールドルームゥゥゥ!」

「ほう…『2』と『4』と『3』か…なかなか良い選択じゃのぅ?」

「ぐぬぬ…」

このままでは…このままでは非常にまずい!タコ部屋行きの未来が息を吹き返し始めてやがる!

考えろ…この状況を打開する方法を…

「今度はワシの番じゃ…『再生』で『一擲』を入手して…アンタに送るのは『交換』じゃ。ま、この密室がある限りイミは無いがな。ガハハハハ!」

「やりやがったか!」

「ほれ、『6』二つと『2』…われながら良いチョイスじゃ!」

まずいまずいまずいまずい!俺の唯一のポテンシャル、「『6』の独占」が無くなっちまった!

もう時間が残されていない…この「6」が再び山札の上に上がってくる前に、なんとか優位に立たねば…

「『輪廻』で『消失』、『剽賊』、『一擲』を入手し…『一擲』を使用する。送るのは『3』だ。」

「『強盗』と『寄生』と『5』か…チッ、ついとらんのぉ。」

「さて…じゃあ爺さんの手札の三枚の内…一つが『密室』、一つが『7』、一つが『消滅』というわけか。」

「ウァッハッハッ、よく観察しておるのぉ。しかし、『密室』の効果によって『剽賊』は使えないぞぅ?」

「ワシの番じゃ…ワッハッハ!愉快なカードを引いてしもうたわい!」

「『投下』と『消滅』…これが何を表すかわかるかね?」

「『嫌がらせドロップ』…!」

「送るのはもちろん『消滅』じゃ。」

「ほれ、『3』か…まぁ、『消失』を使わせたのは大きいぞ!」

「俺のターン…『天眼』か。」

「ああ、ちょうどいい。ちとワシはトイレに行ってくる。今はまだアンタのターンの途中だが…どうせアンタはその手札じゃ何もできんしな!」

「いや、できることならあるぜ。…イカサマさ!」

「…それをしたらどうなるか…分かるな?」

「俺は大学五留だが、『ほしいもの』をむざむざ遠ざけるほど馬鹿じゃないぜ?」

「ウァッハッハッ!」


…さて…ああはいったものの…哀れなジジイよ、イカサマ以外にも…この手札でできることならあるんだよ。

3 逆転、そして頭足類

―5分後―

「ウァッハッハッ!リーチじゃ!」

「もう『6』以外の全数字カードを揃えやがったか…」

「ヌワッハッハ、そのうえ『密室』もあるぞ!後は『6』が山札に上がってくる時を待つのみじゃ!」

「おっと…すまないな、爺さん。『殲滅』を引いちまった。」

「ぬう、『密室』を捨てるのは惜しいが…ローカルルールはもちろん覚えているよな?数字カードに影響はない!」

「おい、アンタ…何をぼうっとしとるんだね?早う能力カードを捨てなされ。」

「ハハハ…ハハハハハハハハハ!」

「な、なにがおかしい…」

「おいおいおいおい、いつ俺が『消失』を持っていないと言った?」

「馬鹿な!『消失』が捨てられたのは『6』が捨てられた時よりも前!それに独占宣言もしていないじゃろうが!」

「独占宣言を聞いていないのは爺さんの責任さ。なぜなら俺は『消失』を…」

「爺さんがトイレに行ってるときに手に入れたからな!」

「アンタ…ワシの忠告を聞いとらんかったのか?イカサマをするやつに与えるものは無い。帰れ!」

「イカサマ?なんのことだ?俺はちゃんと…正式なルールに基づいて、山札から『消失』を手に入れたんだぞ?」

「な、なに…!?」

「爺さんは『剽賊』と『天眼』のカードを見たことがあるかい?」

「何を言っておる、ついさっきもそのカードは見たじゃろうが。」

「うーん、爺さん、変なプライドは捨てて老眼鏡を買ったほうがいいぜ?」

   

「山札に干渉できる効果!?」

「まぁ、知らないのも無理はない。なにせ、かの世界の全てを網羅するサイトにすらこの情報は載っていないんだからな。」

「そして俺は…『交換』を持っている。」

「そんな…馬鹿な…」

「ありがとよ、爺さん。俺のために数字カードをリーチにしてくれて。」

「クソ…ワシのカードが…まあいい、ワシの番じゃ…」

「ッ…!『6』じゃと…!?」

「ハハ、お生憎様。ああ、そういえば…たしか爺さんが一擲ダンピングで俺の『6』を捨てさせたとき…」

「二枚まとめて山札に戻したよな?」

「ま、まさか…」

「俺のターンだ。そして俺が引くカードは…」

「よし、『6』だ!」

「おのれええええええええええええええ!!!!!」

「数字カードは全部そろった。俺の勝ちだぜ、爺さん。」

よし!!!これでタコ部屋行きの明日が来る可能性は…完全に"消滅"したぜぇぇぇ!ヒャッハァァァ!

「認めよう。ワシの敗北じゃ…」

「約束通り、アンタに…先程にもほしがっていたものを渡そう。」

そういってジジイは鞄をあさり出し、何やらくすんだ白色の、乾燥している扁平な何かを俺に差し出した。

「…は?約束のあの大金は…?」

クソジジイはにやけながらこう言った。

「ああ…あの時はびっくりしたよ。」

「アンタに、『ほしいものは何だ』と聞いて…『カネだ』と即答すると思っていたが…」

「何やらごにょごにょ言っていて、よく聞き取れなかったから…ほんの冗談のつもりで…あてずっぽうで…」

『干しイカ?』

「なんて言ってみたら…フフ…アンタは『当然さ!』だとか言い始めるんだものな!」

「ウァッハッハッハッハッハッハッ!ウァァァァッハッハッハッハッハッハァァァァッ!」


俺は結局、ギャンブルであの「天文学的な額(もういまさら補足する必要もあるまい)」を手に入れることはできなかった。

あの三千万円だけで返済に足りるはずもなく、こうして俺は今、皮肉にもタコ部屋で働いているっていうわけだ。

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名探偵シャーロック・ゲームズの事件簿 田中邸事件
Notorious
大物小説家の田中零蔵が殺された。あなたはこの事件の犯人を当てられますか?
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問題編

 私、シャーロック・ゲームズは名探偵だ。かの有名な私立探偵シャーロック・ホームズの孫である。え? それなら姓の「ホームズ」が変わらず、名前が変わっているはずだって? 違う違う。彼は母方の祖父なんだよ。そういうわけで、私にも推理力が遺伝したんだ。だから、私は関わった事件は必ず解決する。じっちゃんの名にかけて!
 ゲームズは高名な推理作家である田中零蔵の家に電車で向かっていた。少し前に招待状が来たのだ。
 最寄り駅に着き、改札を抜けると、右手にギプスをつけた男が出迎えてくれた。彼の名前は田中一郎といい、零蔵の長男だという。なんでも昨日階段から落ちて右腕を折ったらしい。
 30分ほど一緒に歩き、田中宅に到着したときには7時半になっていた。大きな屋敷に入ると、夕食の準備がされていた。田中家の人々がだんだん集まり、私も一緒に夕食を取らせてもらえるようだった。しかし零蔵は来なかった。どうやら仕事に集中しているときは、しばらくしないと来ないらしい。こうして夕食が始まった。
 ゲームズの隣には、零蔵の次男の二郎が座っていた。大柄で、近くの病院で働く医師らしい。その横には二郎の妻、風香がいた。明るく、話すのが好きらしい。自分は左利きかつAB型で珍しいのだ、などと喋っている。彼女の隣には、2人の娘の月奈がスマホ片手に食事をしていた。ずっとスマホを左手で持っており、時々人差し指で何かをフリック入力している。その向かいにいる零蔵の妻、花子が月奈にマナーを注意したが、彼女は意に介していない。その横には、一郎とその息子の鳥夫が並んで座っている。この親子は顔も背丈もよく似ている。同じタイミングで箸を伸ばすと、ギプスの有無と鳥夫の方が少し日焼けしていることを除けば、まるで2人の間に鏡があるみたいだ。鳥夫の母親はもう亡くなっているらしい。そして、ゲームズの向かいには零蔵の分の空席があった。
 夕食を食べ終えても、零蔵はまだ来なかった。そこで花子が、
「7時過ぎに私と鳥夫で一度声をかけたら、返事はあったのですが…。呼びに行きましょう」
と言った。花子はこの中で一番背が低いが、堂々としていて実際より大きく見えた。そのまま成り行きで皆が零蔵の書斎に向かった。花子がドアをノックしたが、返答は無い。
「開けますよ」 花子はドアを開いた。誰かが悲鳴を上げた。零蔵は部屋の奥で血を流して倒れていた。椅子からずり落ちて横たわっている。医者の二郎が駆け寄った。二郎は零蔵の手を取り、脈を診たが、こちらを向いて顔を横に振った。
「死んでいる」 皆が動揺した。一郎は走って救急に電話をかけに行った。
 零蔵は部屋の奥の壁に正対して死んでいた。彼の左側頭部にある大きな傷が上になっていた。そして床には血のついたトロフィーが転がっていた。
「こ、ここに置いてあったものかと…」 風香が背伸びしながらまっすぐ手を挙げ、棚の最上段を指さした。その先には、確かに不自然に空いたスペースがあった。棚には全ての段にトロフィーがぎっしり並べられていたが、そこにだけ何もない。
 零蔵は万年筆を握っていた。遺体の左側には机と椅子があった。どうやら死の直前まで原稿を書いていたようだ。遺体と同じ壁を向いた机の上には、書きかけの原稿用紙とインクだけがあった。
 一体誰が零蔵氏を殺したのだろうか? ゲームズの思考が回転し始める。

読者への挑戦
 犯人は登場人物のなかにいます。また、犯人は1人です。犯人は誰でしょう?

解決編

 一同はダイニングに戻った。一郎も電話を掛け終えている。ゲームズは一度深呼吸をすると、言った。
「皆さん、犯人が分かりました」
皆がさっとゲームズの方を向いた。
「本当ですか? 一体誰なんです?」
花子がすぐに反応した。
「まあまあ焦らず。順を追って説明します。では、解決を始めましょうか。」
ゲームズは一呼吸おくと、指を7本立てた。
「さて、この家には今私を含めて7人の容疑者がいます。これから絞っていきましょう。まずはアリバイです。花子さんが『7時過ぎに私と鳥夫で一度声をかけたら、返事はあった』とおっしゃっていましたね。つまり、犯行時刻はそれ以降です。一方、私と一郎氏が『30分ほど一緒に歩き』、この家に着いたのは『7時半』。つまり、私シャーロック・ゲームズと一郎氏は犯人候補から除外されます」
一郎は黙ってゲームズを見つめていた。ゲームズは指を2本折り曲げた。残りは5本。
「次は、凶器です。凶器に使われたトロフィーは、棚の最上段にありました。それは風香さんが『背伸びしながらまっすぐ手を挙げ』ないと届かない場所でしたね。しかし、人はジャンプしないと取れないようなものを凶器に選びません。下の方にもたくさんトロフィーはありましたからね。よって、風香さん、そして『この中で一番背が低い』花子さんが除外されます」
風香は大きく息を吐いた。花子はゆっくりと瞬きしただけだった。残り3本。
「最後は、利き手です。零蔵氏は『部屋の奥の壁に正対して』おり、『左側頭部にある大きな傷』が致命傷でした。書斎の間取りから考えても、犯人が左側から凶器を振るったのは間違いありません。ということは、犯人は左利きということがわかります。私はあなた達と今日初めて会いましたが、一緒に食事を取れば利き手くらいわかります。
 まず月奈さん。あなたは『ずっとスマホを左手で持』ちながら『人差し指で何かをフリック入力』したり箸を使ったりしていました。箸はもちろん人差し指でフリック入力するときには利き手を使います。あなたは右利きだから除外」
指は3本となった。月奈はついと目を逸らした。
「次いで鳥夫氏。あなたは『右手にギプスをつけ』ていて左手しか使えない父上と並ぶと、『まるで2人の間に鏡があるみたい』だったことをよく覚えていますよ。あなたも右利きだ」
鳥夫は青褪めて残った1人を見た。
「そう、犯人は、」
ゲームズは残った右手の人差し指を突きつけ、言った。
「あんただ、田中二郎」

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人形浄瑠璃2
爺s(Yuito&キュアラプラプ
相変わらず"古き良き日本の文化"をテーマにした、ド王道の人形浄瑠璃。
閲覧する

第一話
やあ!僕は…ええっと…ナムステハムナム!
前回のを見た人ならとっくに知ってるよね!
そう、僕にはクローンがいっぱいいるんだよ!
え?心中したんじゃないのかって?
まあまあ、落ち着いて。他の僕に事情を話してもらおう!
第一話 完



第二話
やあ!僕はナマステナムハム!
前回のことなんだけど、僕たちは結局、心中するのを中止したんだ!
今では和解して、みんな仲良しだよ!
毎日ファミチキを食べたり、ちゃんとゴミ袋にチキンのゴミを入れたり、それをちゃんと川に流したり、
みんな和気あいあいとした暮らしをしてるよ!
第二話 完



第三話
やあ!僕はナマナムハムステ!
僕たちは元気だよ!とても幸せだよ!
でももし僕らのうちの誰かが死んじゃったら…
きっとみんなはとっても悲しむだろうね。
とても悲しい気持ちになるだろうね。
君も悲しい気持ちになったことがあるでしょ?
嫌でしょ?嫌だよね?嫌だよね?
第三話 完



第四話
やあ!僕はハムステナムナム!
意識にください!ずっとそれがなく生きている!
お願い致しましょう、ほんとだよ!うそじゃなっなっなっないよね?
え?日本語のおかしい?そんなことがないよ!
それはさておき、オリジナルの生物はその生物のクローンに何をしたって許されるのかな?
第四話 完



第五話
やあ!僕はナマステナマステ!
クローンでコローンになたから、エイコサはドコサ?魚の中さ!え?意味、言ってる分からない?
はほ!1+1=3になるのはいつからか時間です。
ちょっと前に…エイドコが馬の話にしたわ、馬は人でアリ、人にアリでしなし。
ところで私何?何は馬でアリ、アリはアリよりのナシ、ナシを植物、単子葉?双子…あっ、双子葉?単子葉?
わからない。わかりたくない。とりあえず牛にしておこう双子葉。
第五話 完



第六話
やあ!僕は あ ああああ
たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて
たすけてたすけてたすけてたすけてたすけて
たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて
たすけてたすけてたすけてたすけて
たすけてたすけてたすけてたすけてたすけて
たすけてたすけてたすけてたすけてたすけて
たすけてたすけて
たすけてたすけてたすけてたすけて
こっちにくるこっちにくるこっちにくる
はやくはやくはやくたすけてたすけてたすけていたいいたいいた
おねがいもうこんなことしないからぼくのせいじゃないちがうちがう
あいつがめいれいしたぼくにやれってあいつがあいつが
いたいいたいやめていたいいたいいたいおねがいゆるしてゆるしてゆるし
あああああああああああああああああああいたいいたいいたいいたいやめてやめてたすけてたすけていたいいたいいたい やめて もう ゆるし  て



第二話
やあ!僕はナマステハムナム!
聞いてよ、僕の計画が失敗しちゃったんだ…
ふふ、長らく自分こそがオリジナルだと信じ込まされてきたただのクローンに、
真実を知らせて絶望させるという計画だよ。
おあつらえ向きの美しい川…瑠璃色の浄らかな自殺用の川まで用意してあげたのにさ。
結局どうなったかって?ああ、そいつは発狂してその川で入水自殺でもするに違いないと思っていたんだけど…
どういうわけか…そいつ自身のクローンを何重にも作り始めたんだ。
そのクローンたちはいろいろと喋らされていたけど、訳の分からないことばっかりだったよ。
まあ、その後、なんだかんだで全員そろって心中する流れになったんだけど…
最後はこんな風に消息を絶ったんだ。
―――「(どんぶらこ どんぶらこ)」
実際、今の今まで、この計画は成功したと思っていたんだ。
そいつはクローンたちと一緒に、川で心中したものだと、ね。
でも…そこにさっきのあいつが現れた。
…まだ第一話は終わっていないというのに話数が区切られたように見せ、
あまつさえそれごとにわざと名前を変え徐々に口調もおかしくしていって、
前回と同じように話し手が複数人いるのだと思わせる、というやり口。
けど、あいつはそこまで頭の切れるやつじゃなさそうだった。馬鹿らしい命乞いもしてきたし。
…間違いない、計画のあのクローンと、そのクローンたちは心中していない。
あの時は…おおかたこうでも言っていたんだろうね。
―――「かっこ どんぶらこ どんぶらこ かっことじ」
今さっきのクローンはあいつの指令を実行しただけのただの身代わり…「人形ひとかた」に過ぎない。
でも、何のためにわざわざクローンをよこしてまであんな薄っぺらいことを喋らせたんだろう…?
まあ、ただ一つ分かることは…あいつは僕を殺す気でいるだろう。僕だって命は惜しい。
たかが娯楽のためにつくった自分のクローンに殺されるわけにはいかないし…
しかも頭数ではこっちが不利だ。こまったなあ…
あっ!そうだ!あいつのクローンを騙して殺させればいいじゃないか!

ⒸWikiWiki文庫

ボトルネック
Notorious
もしあなたが実在の人物・団体を連想しても、それは根拠のない妄想に過ぎません。
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この物語はフィクションです。実在の個人・団体とは一切関係ありません。だから許してくださいお願いします

 
※画像はイメージです。

2021年8月30日(この頃にはまだグレゴリオ暦が主に使われていた)、阿戸未弐巣斗零太あどみにすとれいたは困惑していた。同級生の噛倉鱗かむくらりんから奇妙なLINEが来たからである。その文面は、簡潔な一言だった。

ボトルネックってなんすか?

零太と鱗は同じ中学校の3年生だが、今は同じクラスではない。だからあまり親しいわけではなく、LINEでのやり取りもこれがたったの2回目だった。だからこそ、不思議なのであった。零太には鱗の意図が全く読めなかったのだ。とりあえず、中毒者とこの奇妙な出来事を共有するか、と零太は思った。

中毒者とは、零太が作ったコミュニティ、「PediaPedia」のメンバーのことで、侮蔑の意味は含まれない。PediaPediaは零太が創り出したサイトで、中毒者どもはそこで好き勝手やっている。そして零太は管理者として彼らの頂点に君臨しているのだった。ちなみに鱗も中毒者だったが、ほぼ活動せずに抜けてしまった。

零太は件のメッセージのスクリーンショットを、中毒者のLINEグループ「pediapedia同好会」に送信した。「???」というメッセージも添えて。一体私はなんと返信したらいいのだろう? 中毒者たちはたちまち沸き立ち、様々な考察が飛び交った。そんな中、1人の中毒者がこんなメッセージを送信してきた。

「これは日常の謎だ。クリスチアナ・ハメット氏の行動の動機を論理的に解明してみようじゃないか!」

この発言をしたのは、海畑卑貌うみはたひぼうだ。推理小説が好きな、頭のおかしい奴である。あ、クリスチアナ・ハメットというのは、鱗のLINEのユーザー名だ。海外作家へのリスペクトが込められているのではないかとまことしやかに噂されている。海畑はさらにメッセージを送ってきた。

「この文面を見て、普通思うのは、ハメット氏は管理者様に『ボトルネック』という言葉の意味を尋ねているのではないかということだ。しかし、ここで大きな壁が立ち塞がる。わざわざ管理者様にLINEで聞くことの必然性だ。2人の過去の会話が体育の事務連絡だけなことから、2人はとても親しいというわけではないことがわかる。第一、言葉の意味が気になるならネットで調べればいい話だ。
このことから、ハメット氏は『ボトルネック』という言葉の意味を知りたかったわけではないということがわかる。」

零太は面食らった。言葉の意味を聞く以上の含意があったということだろうか? すると次の文章が来た。

「なら、あの文章に言葉の意味を尋ねる以外の意味があったということになる。それは何か。あのメッセージには3つの要素が含まれていると僕は思う。『LINEメッセージであること』『管理者様に向けたものであること』『文面』の3つだ。でも3つ目に意味はないことはさっきも述べた。ということで、前2つに鱗の意図は隠されているんだ。」

話の終着点がわからなくなってきた。川畑の演説はなおも続いた。

「1つ目が持つ意味の候補は、おそらく2つだろう。『緊急を要する』もしくは『面と向かっては言えない』のどちらかだ。しかし、管理者様に急いで何かメッセージを送って解決することがあるとは思えない。つまり、正解は後者なんだ。鱗はこのことを面と向かっては言いたくなかった

後者も大概だろ、と零太は思った。それとも川畑には何か考えがあるのだろうか?

「ここで2つ目の要素が持つ意味について考えよう。これは明確に、零太に何かしらを言いたかったんだ。そして、文面に意味がないことはさっきも言った通りだ。まとめると、鱗は面と向かわず、零太に何かを言いたかったということだ。これが指すことは1つ」

一体それは?

ハメット氏は、管理者様にお近づきになりたいんだ!

なんだって?! 零太は深く驚いた。

「面と向かって言えないのは、恥ずかしさゆえ。この前せっかくダンスで同じ班になったのに、あまり親しくなれなかった。しかしどうにかして距離を縮めたい。そこで鱗は、苦慮した挙げ句、LINEで会話しようとしたんだ。人間関係は会話から広がると言っても過言ではない。勇気を振り絞って何か話したいと思ったんだ。話題が些か奇抜になったのは彼の不器用さゆえ。この一文には、ハメット氏の苦悩と純情が籠もっているんだ!」

そうだったのか! にわかには信じがたいが、こう考えれば辻褄が合うのは事実だ。

「では、どう返信すればいいのか? 管理者様の素直な気持ちを伝えればいいんだ!」

川畑はこう締めくくった。零太はしばらく文面を思惟したのち、鱗にこうメッセージを送信した。

「私は異性愛者なんだ。だから友達として仲良くしていければいいと思う。よろしく」

送信してまもなく既読が付いた。そして彼からは簡潔な一言が返ってきた。

は?

ⒸWikiWiki文庫

賭けメロンパン、そしてメロンパン
キュアラプラプ
稽留している。
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1 血迷うバカ

俺はさえないバンドマンだ。

大学九年目の夏、俺は糞ジジイに騙され、タコ部屋にぶち込まれた。

それからというもの、俺の人生は完全にゴミ以下のものになっちまった。

訳の分からねえ不衛生な地下トンネルでの強制労働に駆り出され、もちろん大学は辞めさせられた。

だけど…もうそんな人生とはおさらばさ。

なんてったって、俺は今しがたあのタコ部屋からの脱走に成功したんだからな!

ついに俺は自由だ!自由なんだ!4年振りのシャバの空気は最高だぜ。

ただ…一つ問題がある。そう、まったく金がねえんだよ。

親にはもう勘当されちまったから仕送りはねえ。まあ…そりゃあ…そうだろうな、ああ。

しかも、金融会社は俺をブラックリストに登録してやがる。借金さえできなくなっちまったんだ。

普通に働くには金が必要だ。けど役所は動いてくれやしない。生活保護は俺には向かないらしいな。

あのタコ部屋では最低限生きていけるだけの食料は配られたが、もうそういうわけにもいかねえ。

はあ。このままじゃあ、餓死してあの世行きだぜ。全く笑えねぇ。

それで…俺は考えたんだ。この状況を打開する方法を…

そう。ギャンブルさ。

なに、お前たちは俺を馬鹿だと思うかい?ハハ、そりゃあそうだろバーカ。

さて、そうこうしてるうちに着いちまった。あの地下賭博場だ。ここではもう日本国憲法は通用しねぇ。

「こんばんは」

赤いワンピースの女だ。ここに足を運ぶ女はホス狂いのヤニカス野郎くらいのものだが、こいつは場違いなまでに上品なツラしてやがる。

「なんだい、奥さん。ギャンブルのお誘いか?」

「ええ。あなた…お金に困っているでしょう?」

「ご明察だな。」

「うふふ、じゃあ…こうしましょう。」

「あなたが私にとある『ゲーム』で勝ったら…」

女はゆっくりとスーツケースを取り出し、中身を見せた。

「こ、こんなの…個人が持っていい額じゃねえ…!」

「ええ。警察庁の動向さえ意のままに出来るほどの大金よ。」

「…もしあなたが負けても、何の害も加えないわ。『ノーリスクハイリターン』よ。」

「おいおい…俺が勝ったら本当にその大金をくれるんだろうな?」

「当然よ。血判してもいいわ。」

怪しい。怪しすぎるぞこの女。いくらなんでも条件がこちら側に有利過ぎだ。

絶対に何か裏があるはずだ。しかし…

「…乗ったぜ、その勝負。」

その天文学的な大金はあまりにも魅力的!!!

「うふふ…さあ、始めましょうか。その『ゲーム』とは―――」

「『メロンパン』よ。ルールは分かるでしょ?」

「メロンパン…面白え!」

2 賭けメロンパン

ハハハ…この女…大誤算をしでかしたな…

何を隠そう、あのタコ部屋で俺は…債務者共との賭けメロンパンによって財を成し、これを監視員に贈賄して脱出を成功させたんだからな!

しめた!一生遊んで暮らせるぜ!ヒャッハー!

「ローカルルールとして、『血爆爆殺殺戮戮血』は省くことにしましょう。先に10mpを手に入れた方の勝利よ。」

「それじゃあ…ゲームスタートよ。」

「『もう一度言ってみろ』。」

「『メロンパン』!」

『あっちむいてほい』という声が同時に放たれた。

俺はパー、女はグーだ。幸先いいぜ、ギャンブルはノリと勢いが最重要だからな!

「メロンオブテイン…"3"よ。」

あえてメロンプロテクションをするのも手だが…『じゃんけん』はリスクが高すぎる。

まだ挑戦的になるべきじゃねえな。まずは様子見の『呪い』封じといこう。

「メロンチェインだ。」

「あら、ひどいことするじゃない。」

二回目の『あっちむいてほい』。俺はチョキ、女はグー。

「メロンオブテイン…"3"だ。」

「メロンアゲイン。mpは得られないけどね。」

三回目の『あっちむいてほい』。また俺はチョキ、女はグーだ。メロンチェイン返しへの牽制と行くか。

「メロンオブテイン"2"だ。」

「じゃあ…メロンチェインよ。」

「な…マジかよ!?」

即決でデカい賭けに出やがった!この女、まともじゃねえぞ!

「けっ、よっぽど『じゃんけん』に自信があるんだなあ…ぶっ潰してやるぜ。」

「うふふ…」

「じゃんけんぽォン!オラァァ!!ついてこれるかこの神速の運指に!」

ハハハ…!4年間鍛えたこのあっちむいてほいを超克する者なし!

「メロンパンメロンパンメロンパンメロンパンメロンパンメロンパン―――」

「ば、馬鹿な!」

こ、こいつ…アホみたいにメロンパンが速い!しかも全回避すら決めやがった!

「青いわね…『メロンパン』に要されるのは力でも技巧でもない…臨機応変な頭脳よ!」

両者のmpは4対5…負けちゃあいるがまだ巻き返せる差だ。

四回目の『あっちむいてほい』。俺はパー、女はグー。

「メロンオブテイン…"1"よ。」

くっ…ここでメロンアゲインを牽制してくるか…

1mpほどの差さえつけられたくない状況だ。さっきの『メロンチェイン』のせいでmpは得られないし、見逃すのが安全ではあるが…しかし…

「メロンアゲイン!」

今こそ挑戦的になるべき時だ!

「ふふ…受けて立ってあげる。」

「じゃんけんぽん!」

「メロンパンメロンパンメロンパンメロンパン―――」

臨機応変に頭を働かせろ!口と首を動かしながら相手の次の手を予測…!

「―――はぁ、はぁ、ハハ、しのぎ切ってやったぜ!」

「うふふ、アドバイスは参考になったかしら?」

「あんまり俺をなめるなよ?敵に塩を送りすぎだ。」

「あらあら、それは傷口に塗ってもらう用だったのに…」

五回目の『あっちむいてほい』。まァた俺はチョキで女はグーだ。この女…まるでグーしか出さねえじゃねえか…

まあいい。ここは貪欲にmpを狙おう。

「メロンオブテイン"3"だ。」

「メロンアゲインよ。」

くっ…さっきとは裏腹に冷静な対処…!この女、考えが読めねえ…!

両者のmpは4対6…これ以上差をつけられるわけにはいかないが…次の『あっちむいてほい』は一体どの手を出してくる…?

俺のパー読みのチョキか…それ読みのパーか…さらにそれ読みのグーか…これは…いや、決めた!

「「『あっちむいてほい』!」」

えーと、俺はチョキで、女は…否、あいこ!!!

「『メロンパン』!」

「ふふ…私の反射速度を上回るとは…やるじゃない。」

「メロンオブテイン…"2"よ。」

女のmpは8…まずいな、もう決着が迫ってきてやがるぜ。

メロンアゲインかメロンプロテクションか…どちらにせよ点差は1にできる。

前者ではこのメロンオブテインが取り消され、5対6になって少しばかり余裕を持てるが…

「メロンプロテクション!」

「…あらら。」

言っただろ、ギャンブルはノリと勢いが最重要なんだよ!

さて、これで両者のmpは7対8。これにより、次のターンで先にmpを入手する者、即ち次の『あっちむいてほい』の敗者がこの賭けメロンパンの勝者となる!

女の今までの手は「グー→グー→グー→グー→グー→チョキ」、対して俺の今までの手は「パー→チョキ→チョキ→パー→チョキ→チョキ」

俺のチョキの連続からして、女の次の手は単純に考えればグー、しかしこの考えは明らかに女も見透かしている。考えろ、考えろ!もし俺がこの女ならどうする?

…今までに一度も使われていないグーと今までに最も使われているチョキへの対策が必要…しかしそれを読まれパーを出される可能性を考えると…

パーだ。もし俺がこの女の側ならパーを出す。ならばそれを打ち破るのみ!

「準備はできたか?」

「ええ。いつでもどうぞ。」

「…」

「「『あっちむいてほい』!」」

えーと、俺はチョキで、女は…否、あいこ!!!

「『メロ―――


あああああああ!!!危なかった!馬鹿野郎!このじゃんけんでは負けなきゃならねえんだろうが!

チッ、女は神妙なツラでこっちを見据えてやがる…致し方ねえ、忍耐勝負といこうじゃねえか。

「うふふ…まだ気づいていないの?」

「…どういうことだ?」

「前回のターンであなたが発動した『メロンプロテクション』の効果は…」

「『3mpを獲得し、次のターンで誰も自分のmpを増減させられなくなり、相手はメロンパンを使えなくなる。』というもの。」

「私は今、メロンパンを使えないのよ。」

「しかも、そもそもこのターンであなたはmpを増やせないわ。」

あああああああ!!!やっちまった!そうだった!なんて馬鹿なことをしちまったんだ!

ああ、嘘だろ…あの大金をみすみす逃しちまった…

「くそったれ…」

「…『メロンパン』。」

「うふふ、じゃあ…メロンオブテイン"1"よ。」

「なっ…」

この女…いったい何が目的なんだ?なぜ…できるというのに勝利しねえんだ?

「ほら、あなたの番よ。」

「メ、メロンチェインだ。mpは無いけどな。」

「うふふ…」

八回目の『あっちむいてほい』。俺はチョキ、女は…グーだった。

「メロンオブテイン…"3"だ。」

「あら、ということは…おめでとう。あなたの勝利ね。」

「ほら、約束のお金よ。」

この女…俺を強引に勝利させやがった…?意味が分からねえ…トチ狂ってやがるのか?

まあ、でも勝ちは勝ちだ!俺は一生遊んで暮らせるんだ!ヒャッハァァァ!!!

「…ねえ…本当はもっと欲しいんじゃないの?お金。」

「その程度の額…私の資産の0.01%にも満たないわ。普通の人でいう…お菓子への支出レベルなの。」

俺は絶句した。この女、いったい何をしてこんなに稼いでいやがるんだ??

「私の家に招待してあげる。本番の賭けメロンパンをしましょう。」

「もし私が勝ったらあなたのお金は没収。もしあなたが勝ったら…ふふ、1000倍にしてあげるわ。」

ど、どうする?もう目的の金は手に入れてる。それも一生遊んで暮らせるほどの額だ。

それに、この女は怪しすぎる。のこのこと家について行って殺されでもしたらどうするんだ?もう賭けを続ける理由なんてない―――

俺がギャンブラーなんかじゃなければの話だがな。

「…乗ったぜ。その勝負!」

3 騒ぐのは血

女の家はバカみたいな大豪邸だった。信じられるか?玄関にあった"地図"によると、トイレが128部屋あるんだぜ?

「さあ、どうぞ座って。」

俺はクソデカい応接間のクソデカいソファに座らされた。この上だけで大人が5人は暮らせそうなほどクソデカいソファだ。

周りには所狭しと馬鹿みたいに高そうな家具が馬鹿みたいにある。結婚式場とかでしか見ない類のシャンデリアとかな。

「ルールはさっきのと同じね。だけど…特別なルールを一つ設けるわ。」

「勝利条件として先取するmpは…20よ。」

な、20mpだと!?ということは…封じられたメロンアクションを解禁するのか!?

「面白え…!」

両者、掛け金を卓上に置く。俺はさっき得たもの、女の方はその三倍くらいのサイズをした、人一人が余裕で入れそうなほどデカいスーツケースだ。

「うふふ、『もう一度言ってみろ』。」

「『メロンパン』!」

『あっちむいてほい』という声が同時に放たれた。俺はグー、女はパーだ。

「メロンオブテイン…"1"だ。」

「メロンチェインよ。」

幸先悪いな。だがまあ、終了条件は20mp。まだ余裕も余裕だ。

「ふふ…私、このゲームではパーしか出さないことにしたわ。」

「…へえ。」

初手から揺さぶってきやがるな…こういう時はあいこを狙うのがじゃんけんの鉄則だ。

二回目の『あっちむいてほい』。…くそ、俺はパーで女はチョキだ。

「おいおい、知らないのか?嘘つきは地獄に落ちるんだぜ?」

「そんなことはないわよ。ひどい嘘つきだって、まだやりなおせるわ。」

「お、おう?」

「あー…メロンオブテイン"2"だ。」

「けなげだわねえ。前ターンのメロンチェインのせいで、取得したmpはターン終了時に帳消しなのに。」

「くっ…」

「ふふ、メロンプロテクションよ。」

まずいな。両者のmpは1対5。開始早々4点差をつけられちまった。だがこの女…普通チェイン嵌めを捨ててまでmp取得を早めることあるか?

三回目の『あっちむいてほい』。俺はチョキ、女はグー。

「メロンオブテイン"2"だ。」

「えーと…メロンアゲインよ。」

「おいおい、チェインじゃなくていいのか?」

「ふふ、そんな安い挑発には乗らないわよ。」

四回目の『あっちむいてほい』。俺はグーで女はパーだ。

「メロンオブテイン"1"だ。」

「うふふ…」

「『呪われたメロンアクション』…」

「!!」

「5mpを消費…使うのは…『メロンバン』。」

『メロンバン』…!このゲーム中の相手のメロンパンを完全に封じるメロンアクション!

まずい…こうなればこっちは圧倒的に不利だ!

だがしかし…こっちにも策はある。残り3mpを素早く貯めて、5mpでメロンバン返しをするのさ!

五回目の『あっちむいてほい』。俺はグーで女はパーだ。

「メロンオブテイン"3"だ。」

「メロンアゲインよ。何をそんなに焦っているのかしらね。」

「くっ…」

六回目の『あっちむいてほい』。俺はパーで女はチョキだ。『あっちむいてほい』は負け続けじゃねえか…

「メロンオブテイン…"2"だ。」

「メロンチェインよ。」

「来やがったか…いくぜ?」

「あなたに私を止められるかしら?」

「じゃんけんぽォん!!!」

「メロンパンメロンパンメロンパンメロンパンメロンパンメロンパン―――」

く、くそが!また逃しちまった!この女の反射神経はどうなってやがる!?

「うふふ…止まって見えるわ。」

七回目の『あっちむいてほい』。俺はパー、女はグーだ。ようやくメロンアクションを使えるぜ。

「メロンオブテイン…ふふ…"2"よ。」

ここでメロンアゲインを使えば5mpに達するが…いや、牽制の面でもメロンチェインを使う方が優位に立てる!

「メロンチェインだ。」

だが…問題は『じゃんけん』だ。『メロンチェイン』を受けているとはいえ、mpの固定はターン終了時に対処されるからな。この女を如何に突破するか…

「『じゃんけん』にたいそうな自信をお持ちなのね。」

「ふふ…でもあなたが負けることは確定しているわよ。」

「けっ、賭博場で俺が『じゃんけん』を凌いだことをもう忘れたのか?」

「あなたこそ、さっきの『メロンバン』をもう忘れたのかしら?」

「!!」

あああ!そうだった!くそ!俺は今『メロンパン』を使うことができねえんだった!

「『じゃんけん』は私の不戦勝のようね。あなたのメロンチェインは取り消しよ。」

「くっ…」

八回目の『あっちむいてほい』。俺はグー、女はチョキだ。『あっちむいてほい』の流れは俺に向いてきたぜ。

「メロンオブテイン"3"よ。」

「…メロンアゲインだ。」

よし、手こずりはしたものの、これでちょうど5mpだ!

この流れで次のターンの『あっちむいてほい』でも勝てたら、『メロンバン』を女にも発動させられる!

「「『あっちむいてほい』!」」

えーと、俺はグーで、女は…ああ、クソが。

「チッ…」

「あら、あいこね。ふふ…『メロンパン』。」

「メロンオブテイン…"2"だ」

「うふふ…メロンチェインよ。」

「てめぇ…!!上等だゴラァ!」

「じゃんけんぽォォん!!!」

「メロンパンメロンパンメロンパンメロンパンメロンパンメロンパン―――」

ああ、この女は怪物だ。こいつにとって『じゃんけん』は全くもってリスクにならねえ!しかもここにきて呪い封じの『メロンチェイン』だ!

mpの取得と能力の発動が並列に行われる通常メロンアクションとは違って、呪われたメロンアクションや封じられたメロンアクションはmpの消費を対価に能力を発動する。

つまり、『メロンチェイン』の能力、ターン終了時のmp巻き戻しによって、行ったアクションは取り消される!無意味になっちまうんだ!

『メロンバン』を使うには、一刻も早くチェイン嵌めから逃れないといけねえ!

十回目の『あっちむいてほい』。俺はパー、女はチョキだ。

「メロンオブテイン…"2"だ。」

「メロンチェインよ。」

「今度こそ…!じゃんけんぽォォん!!!」

「メロンパンメロンパンメロンパンメロンパンメロンパン―――」

また負けちまった…が、心なしか女の『メロンパン』が鈍くなってきてる感じだ。諦めずに粘れば、『じゃんけん』にも勝機はあるかもしれねえ!

十一回目の『あっちむいてほい』。俺はチョキ、女はグーだ。

「メロンオブテイン"2"だ。」

「メロンチェインよ。」

「いくぜ…?じゃんけんぽォォん!!!」

「メロンパンメロンパンメロンパンメロンパン―――」

ああ、明らかにさっきのよりも反応が遅くなってる!しかも全て凌がれたとはいえかなりギリギリだった!よし…次で勝てるぞ!

というか、今の両者のmpは7対11!この賭けメロンパンに勝つためにも、こいつを早く止めなきゃならねえ!

十二回目の『あっちむいてほい』。俺はパー、女はチョキだ。

「メロンオブテイン"2"だ。」

「うふふ…メロンアゲインよ。」

「!?」

こいつ…チェイン嵌めをわざわざ外しやがった!?どういうことだ!?

『じゃんけん』に負ける可能性を考慮し、安全策を取ったのか…?

十三回目の『あっちむいてほい』。俺はグーで女もグー、つまり俺の負けだ。

「メロンオブテイン…"2"だ。」

そういえば、この女『メロンバン』をする直前にもメロンチェインを中断してたよな…

そう考えると、今の女のmpは12だ。封じられたメロンアクションを使ってくるのか?だが…

「『封じられたメロンアクション』…」

「12mpを消費…使うのは…『メロンチェイン・"ソー"』。」

ああ、12mpを対価にするのはこの『メロンチェイン・"ソー"』だ。

「足をチェーンソーで切断する」というのは形骸にすぎず、実質的には血爆爆殺殺戮戮血に参加する権利を剥奪して勝利を確定させるという能力。

つまり、勝利条件がこれじゃねえローカルルールでのメロンパンの上では、このメロンアクションに意味はないはずなんだよ。

…説明がつかないことが二つある。一つは無論、なぜ女が12mpを消費してまで意味のないこれを使ったかということ。

もう一つは…なぜ女は俺の目の前でチェーンソーを掲げて―――――

4 命懸けメロンパン

「ねえどうしてあんなことしたの幸せだったのに私たち幸せだったのにねえそうだったよね

 なのになのになのになのにお前のせいで全部なくなったお前がお前はいらないをまき散らして

 お前のせいだでもお前の血液のせいだからだからだからお前の肉親おとうさんおかあさん汚い肉肉肉

 食べてよめてよ食べてよ私たちの宝物私たちの宝物こんなにかわいい宝物みんなのがかたまった宝物

 嘘をついてるだけの暮らし見た目だけ見た目だけが私たちのつながり真っ赤な他人真っ赤な血縁

気づいたら、さっきとは打って変わってひどく殺風景な部屋にいた。いかにもコンクリートって感じの灰色に囲まれてて、女の絶叫がよく響いてやがる。

「なんで笑わないのいつもあんなに笑顔で笑顔でニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤと笑って笑え笑え

 逃げるな逃げるな逃げるなでもねでもねもう逃がさない逃がさないこんどはどんな笑い話をつくるの

 はやく食べないとさめちゃうよどうしたのお腹空いたでしょ足りないでしょ物足りないんでしょ

 お前が食べるべきお前が食べるべきお前が食べるべき[規制]おいしいおいしい[規制]

 本当はそんなことない中身をのぞけばすぐ分かる名前だけのつながり真っ赤な破真っ赤な嬰児

どうやら俺は気を失っていたらしいな。辺りを見回すと、正面にいる女の背には開きっぱなしのドア、右の壁の手前には小さな暖炉、部屋中央にはさっきのスーツケース二つ、

「こころはポカポカみんなで食卓を囲む外はベタベタ中はグニャグニャおいしい[規制]

 ねえどうしたの食べろ食べろ食べろ足りない脳みそに足なんていらないでしょ逃がさないもう二度と

 どうしてそんなひどいこと言うのそんなわけないお前がそんなわけないかえしてかえしてもどしてもどして

 かえれもどれかえせもどせはやくはやくはやくはやく

 お前は違うところでを結んで報は結は腹の中でつながり真っ赤な嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘まるでまるで

床には赤黒いシミ、部屋左奥には数十台もの錆びついたチェーンソーと、一つだけある新品らしきチェーンソー、そして―――

「あーーーあ

 もったいないもったいないせっかくの[規制]が台無しだねも涙もないんだね知ってたよ

 安心して私はあなたのことを真摯に思って思って思ってそれでそれで宝物わたしたちの宝物

 ほら召し上がれおいしいおいしいできたて焼きたてぷっくりきれいな[規制]食べてよ食べて

 頑張ったんだよ頑張っておいしくうみおとしたよほらたらふく食べてよ私たちの宝物は[規制]3000g

 どうしたのああああうれしいうれしいうれしい感動してくれたんだよかったほんとうによかった

 またやりなおせるねこれでおいしいでしょうしあわせでしょううれしいでしょう笑え笑え笑え笑え

 口に入れろ口に入れろほら頬張れましたね頑張りましたね膨れる笑って食べてくれてよかったよかった

俺の足首から先が二つ、転がっていた。

「お、おい、こ、これって…」

ありえない、ありえない、ありえないだろこんなこと!だって!この女!俺の足を切り落としやがった!あ、足…足が…あ…

「―――あら、ごめんなさいね、ちょっと気が動転しちゃってたみたい」

「さて、賭けメロンパンの続きをしましょうか。」

ああ、俺は本当にバカだ。知らない人にのこのことついて行ったらどうなるかなんて、ガキの頃にさんざん言われてきたはずなのに。

死にたくない死にたくない死にたくない。こんな糞みたいな人生だが、俺はまだ死にたくねえんだよ。落ち着け。落ち着こう。

くそ、足が痛すぎる。俺は今、這って移動するしかできなさそうだ。こんなんじゃあ、逃げようにも一瞬で捕まっちまう。となると…

女をこの場に留める…でもどうやって?―――そうだ、殺すしかない。正当防衛だ。

攻撃手段として使えそうなものは…チェーンソーはダメだな。女から近すぎて、取りに行くなんて不可能だ。しかも、もし取れたとしても足のない人間には重すぎて使えねえ。

じゃあ、『メロンチェイン・"ソー"』を使えば?…いや、無理だな。確かにあの女は狂人だが、圧倒的優位を捨てて俺にみすみす両足を差し出すような狂人である可能性は低い。

そもそも、賭けメロンパンを続けてくれてる事自体が奇跡みたいなもんだ。油断している今、どうにかして悟られずに一瞬のうちに殺さないといけねえ。

他には何がある?暖炉の火は…どうにかして女をおびき寄せて引火させれたら…

「ほら、早くしてよ。」

「くっ…」

十四回目の『あっちむいてほい』。俺はチョキで女はパーだ。

「メロンオブテイン"1"よ。」

どうする?俺のmpは9。『メロンバン』を行うことができるが…

―――ああ、閃いた。この女を殺す方法…!

「メロンプロテクションだ。」

これで両者のmpは12対1。20mpまでは残り8mpだが…今の俺にはあと1mpでもあれば十分だ。

十五回目の『あっちむいてほい』。俺はパーで女はチョキ。

「メロンオブテイン"2"だ。」

「メロンアゲインよ。」

十六回目の『あっちむいてほい』。俺はグーで女はパーだ。

「メロンオブテイン"2"だ。」

「…メロンチェインよ。」

「ふふ、今から…本気を出すわ。もうあなたは終わりだもの―――」

「…じゃんけんぽォん!」

―数分後―

俺が『メロンオブテイン"2"』、女が『メロンチェイン』。同じ構図のじゃんけんをもう何回繰り返したんだ?

二十二回目の『あっちむいてほい』。俺はチョキで女はグー。

「メロンオブテイン"2"」

「メロンチェイン」

「じゃんけんぽォん!」

「メロンパンメロンパンメロンパンメロンパンメロンパンメロンパンメロンパンメロンパン―――」

また負けた。今の両者のmpは14対16だ。

おかしい、こいつ…『じゃんけん』はまだしも、運ゲーのはずの『あっちむいてほい』さえ強すぎる!メロンバンによってあいこが実質勝ちになることを考慮してもなお強すぎる!

次の『あっちむいてほい』では何としてでも勝たなければいけない。この流れのまま相手のmpが18になってしまえば、その次のターンで確実に奴は勝利できることになっちまう。

賭博場での"情け"は俺をここにおびき寄せるためのものだっただろうからな。今回は確実に勝利しに行くだろう。

そうなれば、"あの"メロンアクションが使えねえ。すると女を殺すチャンスは水の泡だ。俺がここから逃げることは完全に不可能になるだろう。全く笑えねぇ。

落ち着いて考えよう。なぜあの女は『あっちむいてほい』で勝ち続けているんだ?

考えられるのは…指の動きを見て俺の出す手を判断していること、くらいだ。『じゃんけん』の強さもこれで説明がいく。もしもただのまぐれっていうなら、そりゃあもうどうしようもねえな。

なら…前者に賭けるしかねえ。命をな。後出しにならない範囲で、出してる途中で手を変える。もしこれで負けたなら…いや、いい。俺は勝つぜ。

「「『あっちむいてほい』!!」」

俺はチョキ―――から変わってパー、女はグーだ。うまくいったな。

「あら…まあいいわ。どうせあなたは勝てやしない。」

「メロンオブテイン"3"よ。」

「『封じられたメロンアクション』…『メロンプロテクション・"ステイク"』だ。」

「…あら、気でも狂ったのかしら。賭け金を入手したところで、どうやってそれを"持って帰る"の?」

「こんな足じゃもう逃げられないよ?それとも―――」

「ちょっと待ってくれ、確認したいことがあるだけさ。」

「どういうこと?」

「今俺が賭けてる金、つまり賭博場の賭けメロンパンで入手した金も、今お前が賭けてる金も、束になってケースに詰められてるよな?」

「もしかしたら、一番上と一番下だけを本物にして、表面が見えない分は全部ただの紙幣のサイズをした紙にしてる、っていう古典的なやり口の可能性がある。」

「念のために、全部帯を外して調べさせてもらうぜ。」

「…勝手にどうぞ。」

―数十分後―

「ふう、よかったよかった、全部本物の金みたいだな。」

賭博場で手に入れた小さいほうのスーツケースには一枚一枚バラした現金を詰め、女が持ってきた大きい方のスーツケースの中の現金は床に散らした。

自然な形で、小さいスーツケースは俺の傍に、大きいスーツケースは暖炉の目の前に置いておく。これで準備はほぼ完了だ。

現在の両者のmpは1対19だ。…ところで…女を殺す前にやっておくべき下準備がある。そう、錯乱させておくのさ。冷静であられたらかなり不都合なことになるからな。

そして女の正気を失わせるのにもっとも簡単な方法は…おそらくこうだ。この圧倒的に女が有利な状況から…俺が賭けメロンパンに勝利するんだよ。

「うふふ…さあ、この賭けメロンパンを終わらせましょう。」


…さて…哀れなイかれ女よ、指定のmpを得ること以外でも…メロンパンにおいて勝利することはできるんだよ。

5 逆転、そしてメロンパン

「「『あっちむいてほい』!!!」」

俺はチョキから変わってパー―――から戻ってチョキ、女もチョキだ。うまくいったぜ。

「ふふ…どうせ後出しならグーにすれば勝てたのに。まあ、どちらにせよ私の勝ちね…『メロンパン』。」

「おっと、忘れちゃいけねえ…『メロンパン』!『メロンパン』!」

「あら…?ふふ、なるほどね…」

「確かに…相手が指定のmpに達したとき、血爆爆殺殺戮戮血の準備が始まる前に二度『メロンパン』を行えれば、相手に3mpを破棄させることができるわ。」

「けど残念。私のmpはまだ20に達していない。しかも、忘れたの?このゲームは血爆爆殺殺戮戮血が存在しない特別ルールよ。」

「あなたは"発動する必要のないところでメロンパンを行ってしまった"。しかも二回も。これが意味するのは…」

「二度のメロンパン・ファウル、すなわち敗北よ!」

「『メロンパン』!『メロ―――

よし、今だ!

「『メロンパン」『お前の血でおいしく焼くべき』『お前が食べるべきお前の肉親』『お前のせいだ』『お前の血液のせいなのだから』『お前のせいだ』『お前が食べるべきお前の肉親』『お前の血でおいしく焼くべき』『メロンパン』」

「はあ?何を言っているの?メロンパン・ファウルをしたのはあなたの方でしょ。」

「お生憎様、確かに俺は『メロンパン』と言ったが、それで『メロンパン』を行えたわけじゃあない。」

「なぜならば、俺は『メロンバン』の効果を受けているからだ。俺は『メロンパン』を発動したくても発動できねえんだよ。」

「そしてメロンパン・ファウルの条件は『必要のないところでメロンパンを"行う"』ことだ。"言う"ことじゃねえ。」

「対して、俺のメロンパン・ファウルへの指摘のつもりで、お前が…『メロンパン』の発動に一切の障壁が無いお前が言い放った『メロンパン』、これは正しく『メロンパン』を行っていることになる!」

「もう一度言うぜ、メロンパン・ファウルの条件は『必要のないところでメロンパンを行う』ことだ。」

「行う必要のない指摘におけるその『メロンパン』は、完全にメロンパン・ファウルにあたる!」

「そ、そんなこと…」

「しかも…ハハ、"偶然にも"、お前のメロンパン・ファウルは『あっちむいてほい』に勝利した後のものだった!」

「"死体蹴りは罪が重い"。この条件下でのメロンパン・ファウルは即敗北を意味する!」

「分かるか?つまるところたった今、お前は賭けメロンパンに敗北し、俺が勝利したっていうことなんだよ!」

「もう一度言ってみろ」

もう一度言ってみろ

もう一度言ってみろもう一度言ってみろもう一度言ってみろもう一度言ってみろもう一度言ってみろもう一度言ってみろもう一度言ってみろもう一度言ってみろもう一度言ってみろもう一度言ってみろ

よし、錯乱し始めた…まずは小さいスーツケース内の莫大な現金を部屋中にばら撒く!束じゃない個々の紙幣なら空気抵抗はまあまああるだろう。これでほんの少しの間だけ行動を遮蔽する!

そして空にしておいた大きいスーツケースの中に―――

お前の血でおいしく焼くべきお前が食べるべきお前の肉親お前のせいだお前の血液のせいなのだからお前のせいだお前が食べるべきお前の肉親お前の血でおいしく焼くべきお前の血でおいしく焼くべきお前が食べるべきお前の肉親お前のせいだお前の血液のせいなのだからお前のせいだお前が食べるべきお前の肉親お前の血でおいしく焼くべきお前の血でおいしく焼くべきお前が食べるべきお前の肉親お前のせいだお前の血液のせいなのだからお前のせいだお前が食べるべきお前の肉親お前の血でおいしく焼くべきお前の血でおいしく焼くべきお前が食べるべきお前の肉親お前のせいだお前の血液のせいなのだからお前のせいだお前が食べるべきお前の肉親お前の血でおいしく焼くべきお前の血でおいしく焼くべきお前が食べるべきお前の肉親お前のせいだお前の血液のせいなのだからお前のせいだお前が食べるべきお前の肉親お前の血でおいしく焼くべきお前の血でおいしく焼くべきお前が食べるべきお前の肉親お前のせいだお前の血液のせいなのだからお前のせいだお前が食べるべきお前の肉親お前の血でおいしく焼くべきお前の血でおいしく焼くべきお前が食べるべきお前の肉親お前のせいだお前の血液のせいなのだからお前のせいだお前が食べるべきお前の肉親お前の血でおいしく焼くべきお前の血でおいしく焼くべきお前が食べるべきお前の肉親お前のせいだお前の血液のせいなのだからお前のせいだお前が食べるべきお前の肉親お前の血でおいしく焼くべきお前の血でおいしく焼くべきお前が食べるべきお前の肉親お前のせいだお前の血液のせいなのだからお前のせいだお前が食べるべきお前の肉親お前の血でおいしく焼くべきお前の血でおいしく焼くべきお前が食べるべきお前の肉親お前のせいだお前の血液のせいなのだからお前のせいだお前が食べるべきお前の肉親お前の血でおいしく焼くべき

あとは息を殺して神に祈るだけだ。頼む、うまくいってくれ…!

「見えてるよ見えてるよかわいそうに切られた足の断面がスーツケースからはみ出ちゃってるよかわいそうかわいそう」

「隠れないでいていいんだよお前は殺すからちょっと待っててね」

ほら!見て!チェーンソー!これがあればどんな奴も殺せる!内臓を売ればたくさん儲かる!おかげで贅沢いっぱい!」

「でもねでもねでもね足りない足りない足りないどんなにお金があってももどらないもどらないもどらないもどらない」

鈍い轟音だ。女はチェーンソーを起動させたらしい。いけるか…?

「刺しちゃうよ!刺しちゃうよ!スーツケース!ほら!さん!にい!いち!

狭い部屋に爆発音が鳴り響いた。女は炎に巻かれ、その胴にはチェーンソーの破片が深く刺さりこみ、血があたりに飛び散った。大成功だ。

痛い痛い痛い痛い痛いひどいひどいひどいひどいひどいなんでわたしなにがいけなかったのなんでなんでなんで

「ハハハ、やっぱりな。お前、チェーンソーの正しい使い方を知らないだろ。」

「チェーンソーは消耗品じゃない。普通はチェーンソーを数十台も錆びつかせることなんてねえんだよ。」

「おそらく、お前はチェーンソーが劣化して使えなくなったらすぐに別のに買い替えていたんだろうな。」

「だからお前はチェーンソーを使い続けるために潤滑油が必要なことを知らない。新品のチェーンソーに潤滑油が入ってることも知らない。」

「スーツケースを貫通させてそのチェーンソーを暖炉の中に入れたことで、潤滑油が発火し、気化の内圧でチェーンソーが破裂したことも分かっていない。」

「たすけて あつい いたい ちが ちがう ちが」

「正直、かなり綱渡りだったな。切られた足を取りに這って往復する時間をカバーできるほど、一枚一枚の紙幣が滞空して目隠しになってくれるかは未知数だったし、切り落とされた足の下の方の断面を上の方の断面と誤認して、部屋の左手前の隅にうずくまる俺を確認することもなく大きいスーツケースの中に俺が隠れていると思ってくれるかどうかは、完全にあんたの錯乱具合を信じるしかなかったよ。」

「まるで まるで   メロンパン」

「よし…ちゃんと死んだらしいな。じゃあ、俺は匍匐前進でトンズラするぜ。あばよ!」


俺は結局、なんとか生きて女の家を出ることはできたものの、一銭たりとも得ることは叶わず、かえって足首から先を持っていかれちまった。

賭博場のツテを辿って知り合った明らかなヤブ医者が一応の治療をしてくれて、なんとか死なずに済みはしたものの、治療費はあまりにも法外で悪徳で天文学的な額だった。

そしてその支払いのために、こうして俺は今、再びタコ部屋で働いているっていうわけだ。

ⒸWikiWiki文庫

水を飲んでみた!!!
キュアラプラプ
暇すぎたので。
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あーーー、暇だ。暇で暇でしょうがない。

もちろん、しなければならないことはたくさんあるだろう。しかし、どうにもその気力がわかない。何もやる気が起きないのである!


今、午後何時なのだろうか、全然わからん。時計なんてしばらく見てねえや。

頭は全く冴えわたらないし、何も考えられません!

ああ、これなら眠っていた方がまだマシだなあ。まったく、いったいいつまでこんな死んでいるも同然な生活をするのだろうか。

ここで、ふと、突飛な考えが頭に浮かんだ―――そうだ、水を飲もう!じっくり水を飲んでみよう!うおおおお!!!


コップを取って、水をなみなみと小気味よく注いだ。

気づけば表面は曇っている。水面の光の反射はあんまり綺麗じゃない。

再びコップを置くと、鈍い音がした。揺れた水は直ぐに平らに戻った。


コップを傾けて、口の中に水を少しだけ注いだ。体内の熱は冷たさを徐々に失わせる。

喉の奥へと水を追いやると、再びひんやりとした感触が奥に流れ込んだ。吐く息が少し冷たくなってしまった。


何回かこの同じ動作、同じ感覚を繰り返すと、コップの水は残り僅かになっていた。

一息に飲むと、しかしながら、特に何も起きなかった。ほんの少しだけ甘みを覚えたが、きっと気のせいだろう。

結露はそろそろと荒くなっていた。


あーーー、暇だ。暇で暇でしょうがない。


やっぱり暇だ。水を飲んでも何も生まれなかったな。


ああ、そうだ、無意味に水を飲んだところで何をどうしようっていうんだよ。馬鹿なのか俺は。ただでさえ残り少ない水を。

あの日、乗っていた飛行機が墜落してからもう4日が経つ。ここがどこなのか見当もつかない。少なくとも、歩ける距離に人はいないらしい。

運よく肩にかけたままだったキャンプ用の水筒、そしてこの腐りきった怠惰、これが所持品の全てだ。

水や食べられる物を探さなければならないし、どうにかして助けを呼ばなければならない。しかし、どうにもその気力がわかない。そう、何もやる気が起きないのである!


あーあ、暇だなあ。暇で暇でしょうがない。

ⒸWikiWiki文庫

やあ今日は。
この文字列は和暦にして令和四年六月一日に公開されたものです。
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やあ今日は。と、が和文から消失してから一周年の日であるもはや古本屋においてさえ。や、のない小説が売り場を占領する頃となってしまった驚いたことに若者は。も、もない文章に対してすでに適応の様相を呈しているのだが私を含む壮丁に年増の者どもの多くはこの一年を悲嘆の下で暮らしていたのだったああこの悲劇の始まりは一体いつだったろうかそうだ恐らくは思想家の佐藤圭史らが。や、にバツの付いたプラカードを掲げて騒ぎ出した二年前だ。と、の全面廃止を求めて奴らは文科省に令和二年五月十六日付で意見書を提出し勢いそのままデモを始めたのだったメディアは即日彼らを嘲笑するような報道をした。や、という日本語を読みやすくするための基本的な記号を廃止するなんてまったく馬鹿げている。と、の効力を理解していない愚か者の振る舞いだなどといった具合であるこの騒動に真面目に取り合った者はほとんどおらずまた市井の誰もがこれを一過性の話題であると認識していたしかし翌日事態は逆転するすなわち前文科相萩生田が何を思ったのかこの意見書を真に受け政策に取り入れる方針を明らかにしたのであるあほの萩生田は当然批判の的となったもちろん官僚の猛反発にも合った大臣試しに。も、もない文章を書いてきましたどうですか読みにくいでしょうそれは。や、がないからなのですよええ不便なものですねいったいあなた様は日本語をこのように不便で不整合な代物にしたいのですか。と、を廃止して国民の言語生活を打ち潰すおつもりですかと四六時中問い詰められたのであるこれを受けて萩生田はときに憤慨しときに黙秘しときに逃走しまたごくまれに次のような反論を呪文のごとく唱えることもあった曰く歴史的にみて。や、は本来の日本語にはなかったのだよ明治中期に一部の好事家が漢文のまねごとをして用いたものがたまたま広がっただけなのだからしたがって日本語から。と、を取ったらそれは不整合なのではなくてむしろ本来的だと言わなくてはならないそれに読みにくいのは我々の言語感覚が。と、に毒されたためであって今。も、も廃止してしまえば次世代の人々は。や、がなかろうが滑らかに読めるようになるはずである私は正しいことをしているのだとさてそこから三ヶ月ほど経って飽き性な世間の関心が薄まりを見せ始めてからも。と、の廃止をめぐる省内の係争は続いたのだがおよそ一年後の令和三年六月一日ついに。つまり終止符が打たれた和文における。及び、を全面廃止する省令令和三年文部科学省令第四十三号が近代以降初の。や、のない公式文書として公布されたのである文部科学省はその公式見解として。や、の存在を認めなくなったのだったこれが悪夢の始まりというわけだが何だ省令ごときがと思われる者も恐らく居ようたしかに当該省令に罰則はなかったそもそも省令が国民の権利を侵害するほどの規定をすることは認められていないのであるから文部科学省令に背いて。や、を使用することの何がいけないのだと文句のひとつ言ってみたくもなるがやはり官吏は侮れないことに下っ端官僚の英気には目を見張るものがある志の高い彼奴らはお偉方の言いつけに対して常に十二分の成果を提供する。と、を実際に廃止するに至った謀略もはたして彼らの根性と才能との賜物であったまず彼らは公文から。と、を抹消した省令公布日の正午には文科省が公開した文書やらホームページやらから。と、を削除して再アップロードしたさらに二日目の朝までには他の全省庁に対し同様の処理をするように求める通達がなされていた市民や企業によって提出された意見書や定款書の類はむろん担当省庁が進んで改竄したかくて六月八日。と、は日本国がウェブ上で公開するすべての文章から消滅したのである並行して彼らの元同僚が天下りしたりコネ入社したりした大企業もそのホームページから製品取扱説明書から対外契約書から社内マニュアルから。と、を綺麗に取り除いてしまったこれが売上減少やコスト増加に直結する対応であったことはまず間違いないがそれが成立していたということはやはり汚い大金が動いたということであろうところで過度な忖度が働いたのかなんとこれらの企業の多くは。と、の廃止では飽き足らず自発的に「や」や(や)といった括弧類を含むあらゆる和文約物を誰に指示されるまでもなく廃止したのだった余談だがこれを受けてなぜか大いに感涙した萩生田は。や、とよく似た理屈で和文約物の使用禁止をも主張しはじめた先の一件以降彼の周りに残っていたのはイエスマンのみであったため彼は流れるように省令の四十三を削除し和文約物を全面廃止する省令令和三年文部科学省令第四十四号を近代日本初の。も、も「も」も(も)もその他約物の一つも用いられない公式文書として交付することができた。と、が肝心なため他の約物はあってもなくてもいいのだがそれにしてもこれは醜い話だと私は思った閑話休題想像はつくかもしれないが大企業らを自分たちの言いなりにした官吏が次に行ったことは評論家の買収であった。と、のある文章に苦言を呈する書籍を五十余名の評論家にいくつも出版させたのだこれは知識人ぶる年配層のみならず奇跡にも。や、を打つのを怠けがちなSNSネイティブ世代によく刺さったほどなくして。も、もない文章がほとんど全世代の流行となった折ついに公募の要項に句読点のないことを定めた出版社が登場する表現者を支えてきた彼らがそのようなことをするとは考えがたい話かもしれないがすべては金である諸賢も覚えておくとよいディストピアは金で作られるのだははははさてそこからは速かったすべて事態ははなから仕組まれたように進行していった華やいだ作家も上場企業の事務もすっかり権力に屈しきって読みにくい文章を書くようになった日本人も余計な無理を働いて。や、のある文章は読めないなどと言い出すようになった日本人の誇りがどうとか伝統がどうとかみな口先では都合のよいことを言うが蓋を開けてみればこの節操のなさである正直我々アフルトス人も日本人のこの情けなさには驚愕した我々の見込みでは一揆で徳政令を勝ち取りGHQから天皇誕生日を死守した日本人が国ごときの表現規制ないし言論統制に従うはずはないと踏んでいたそしてそれは我々の初動が遅延することにも繋がってしまった我々が。と、の復活に向けてようやく活動を開始したのは三ヶ月前のことである火星出身で地球人とまったく異なる外見のアフルトス人は神ウィッドの未解明の力で日本人になる日本人のような見た目になるのではなくて社会的日本人になるのである我々の宗教は地球の文字でいうところのΦのような記号に象徴されるわけだが我々はこれを分解したようなペア。と、がΦそのものが描かれた宗教旗よりも神ウィッドの力を引き出すのに効果覿面であることを発見したかつての日本においてはありがたいことに。と、がありふれた文字となっていた偉大な神は力を発揮し続けたさて我々はこの力を利用して日本の国政選挙に参加し日本をアフルトセスにとって軽便な場所にしてしまおうとしていた計略は次々と成功を収めており計二十四名を衆参の議員に仕立て上げることができていたのだその多くが有力な議員となってきたところで句読点全面廃止令である本文のような引用の。や、以外の句読点はほぼ消失してしまったそれはもう悲嘆に暮れた三から四ヶ月でいともたやすく力が希釈された我々は議員団を呼び戻して九月十日アフルトセスに一時帰還した火星では地球を尻目に句読点廃止の制止についての議論が展開されているプロジェクト1から16のうち未達なのは13と16ですね16の達成が最終目標に寄与する割合はごく小さいのだからこの際切り捨てないかねそれもそうかところが13は大きすぎる課題だなあ13はネックですねこれさえ終われば自動的に萩生田屋もぶっ倒れるでしょうにそうだねえあの班は何をやってんだかプロジェクト13の検討結果報告が一度もなされていないとはまったく始動から三ヶ月は経つしもうじき完了してもよい頃だと思うのだが。

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顔面蒼白
Notorious
川上功大は、隣家の森金吾を殺す決意をした。捜査の目を逸らすため、綿密な工作を施すが……。
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 深夜0時57分、川上功大は隣家のインターホンを押した。理由は、住人の森金吾を殺すためである。


 1ヶ月前、この家に森が引っ越してきた。挨拶に来た森の顔を見たとき、俺は戦慄した。忘れもしない、中学のとき俺をいじめていた奴だったからだ。だがそれ以上に恐ろしかったのは、森が俺の名前はおろか顔すら覚えていないことだった。
 俺を元同級生とは露知らず、森は順風満帆な近況を得意げに語った。小さなIT会社を設立し、経営が軌道に乗り始めたのだと。俺に水をかけ、靴を隠し、腹を蹴ったこいつが、キラキラした面でキラキラした生活を送ってやがる。俺は毎日ボロ工場で汗みずくになりながら働いているのに。
 許せない。
 殺意はむくむくと膨れ上がっていった。俺は森を殺す計画を立て、準備を整えてきた。そして今夜、実行する。


 プッと音を立てて通話が始まった。
「どちら様? あ、川北さんでしたっけ?」
「川上です」
「ああ、川上さん!」
「森さん、夜分遅くにすみません。昨日話しそびれてしまったんですが、実は折り入って相談がありまして……」
「そうでしたか! 外は寒いでしょう。今、ドアを開けますね」
「ありがとうございます」
 この外面の良さ、ちっとも変わっちゃいない。お前なら家へ上げると思っていたよ。
 すぐに鍵を開ける音がし、ガチャリと扉が開いた。
「さあ、どうぞ上がって」
「お邪魔します」
 この家には昨日――いや、もう一昨日か――にも訪れた。森が挨拶ついでに招いてくれた前回は、茶を飲んで早々に退散したが。
 森は、薄いTシャツと短パンにスリッパという格好だった。寝間着だろう。ビンゴだ。お前がFacebookで「毎日夜1時丁度に寝る」と投稿していたから、この時間にしたんだ。
 俺は両手に手袋をしているが、森が怪しむ素振りは無い。俺は靴を脱ぐと、森が差し出した黒いスリッパを履いた。靴箱も、傘立ても、絨毯も、お洒落に揃えやがって。吐き気がする。
 森は俺が提げている紙袋に目を留めた。ずっと前に誰かから貰った京都銘菓の袋だ。
「京都ですか」
「ええ、先日出張に行きまして」
 真っ赤な嘘だ。
 俺達は廊下を真っ直ぐ歩いていった。森は場を持たせようと何か喋っている。
「京都ですかあ。中学の修学旅行で行ったきりですねえ」
 その修学旅行に俺もいたんだがな。廊下の突き当たりにある扉をくぐった。ここが居間だ。
「そのとき買った木刀はまだ持ってますよ」
 奥にはカーテンをひかれた、庭に続く窓。右手の扉の向こうが寝室。
「あとは清水寺に行ったりね。いやー懐かしいなあ」
 間取りは昨日確認しておいた。いける。背中に手を回し、ベルトに挟んだ鞘からナイフをそっと抜く。
「……あれ?」
 椅子を引こうとしていた森の動きがピタリと止まった。無防備に背中を見せている。
「あんた、まさか」
 振り返るより先に、後ろから抱きすくめるようにして、俺は森の腹にナイフを深々と刺した。森の体がびくりと痙攣する。ナイフは肝臓を貫いているだろう。俺は森を抱えたまま、机の少し横に体を向けさせた。こんなものか。
 森は震える右手で腹を弱々しく押さえた。まだ出血は少ない。荒い呼吸をしながら、森はこちらを振り返った。顔を歪めてじっと見つめてくる。
「川上……!」
「ようやく思い出したか」
 死ね。俺はナイフを森の体から引き抜き、床へ放った。傷口から大量の血が吹き出る。机の横、窓へは届かないほどに血飛沫が散った。森の顔からみるみる血の気が失われていき、だらりと右手が垂れ下がった。
 俺が手を離すと、森は左へどさりと倒れた。フローリングに、どくどくと血溜まりが広がっていく。
 森は死んだのだ。だが、意外と気持ちは落ち着いていた。まだやることがある。ゲームを淡々と進めていく感覚に近い。
 さあ、偽装工作開始だ。


 ただ殺しただけでは、すぐに疑われてしまう。俺は森の隣人なのだし、中学で同級だったと判れば、一躍最重要容疑者だ。
 だから、計画を立てた。俺の計画はシンプル、“居直り強盗の仕業に見せかける”というものだ。森が寝ているとき、居間の窓を割って泥棒が侵入してくる。しかし目を覚ました森と鉢合わせ。慌てて刺してしまい、怖くなって何も盗まず逃走、というシナリオだ。
 警察も忙しい。一度強盗の仕業に見えれば、そう結論づけてくれるだろう。
 俺はまず、返り血を浴びていないか確認した。全身を軽く見ていく。どうやら、右の手袋以外は無事のようだ。左手で紙袋からビニール袋を取り出し、両手袋を外してそれに入れる。口をきつく閉じ、ビニール袋をまた紙袋に戻した。入れ替わりに軍手を出し、それを両手にはめる。
 次は玄関だ。紙袋を持って廊下に出る。勿論、血溜まりを踏むようなヘマはしない。そのまま玄関まで行き、サムターンを捻ってドアを施錠した。そしてスリッパを脱ぎ、靴箱に戻しておく。最後に、土間の自分の靴を紙袋に入れた。靴下の足跡は残りにくいから、多少歩き回っても問題ない。
 俺はまた居間へと引き返した。途中、廊下の照明を消しておくのも忘れない。居間に入ると、血痕を避けて、壁のインターホンをチェックした。どうやら、履歴は端から残らない機種のようだ。幸運。監視カメラの類もない事はリサーチ済み。どうやら天は俺に味方しているようだ。


 さあ、ここからが本番。今までは、俺という“訪問客”の痕跡を消す作業だった。これからは架空の“侵入者”の痕跡を残す。
 カーテンをくぐり、窓を開けた。紙袋から新しい靴を一足出し、それを履いて庭へと出る。靴もナイフも、道具は全て入手ルートを辿れないものを用意した。これらから俺に捜査の手が及ぶ心配は無い。
 紙袋を地面に置くと、庭を囲う柵にとりつき、乗り越えた。柵とはいっても、俺の胸くらいしかない。柵の外は小道で、向かい側はだだっ広い田圃になっている。周辺は真っ暗で、この時間に人通りはまず無い。
 俺は一度深呼吸をした。俺は泥棒。今からこの家に侵入する。よし。
 柵に手をかけ、体を引き上げる。さっきのように柵を乗り越え、庭に降り立った。ポケットからスマホを取り出し、ライトを点ける。紙袋に入れてあったハンマーを持ち、窓に近づいた。狙うはクレセント錠の付近。手首を素早く振り、ハンマーを打ちつけた。鈍い音がし、僅かに罅が入る。もう少し強く。再度ハンマーを振ると、バリンと拳大の穴が開いた。完璧。
 ハンマーを仕舞い、穴に手を突っ込む。当然鍵はかかっていないが、泥棒はこうして窓の鍵を開けるのだ。
 窓をそっとスライドさせ、俺は室内に侵入した。日本の警察は優秀だ。こうして土足の足跡を残しておかないと、怪しまれかねない。だが、庭の土は乾いていたし、あまり気にする必要はなさそうだ。
 ゆっくりと机の近くまで歩み寄った。机の向こう側には森の死体がある。この後、不審な音を聞きつけた森が寝室から出てきて、居間の電気を点ける。そこで森と泥棒は互いを視認する。森は逃げようと廊下への扉に向かうが、泥棒は机の右側を駆け、持っていたナイフで森を正面から刺す。怖気づいた泥棒はそのまま遁走する……。
 問題はないか? 俺は注意深く部屋を見渡した。何か不自然な点は……あっ!
 ――寝室に続くドア!
 今、それは閉まっている。しかし、侵入者と鉢合わせした状況で、森が丁寧にドアを閉めるわけがない。森が寝室に蜻蛉返りせずに玄関を目指すのには、2つの理由がある。1つは寝室のドアに鍵がないこと、もう1つは寝室の窓に格子が嵌まっていることだ。要するに、寝室に戻っても、立て籠ることも逃げることもできないのだ。
 俺は机を左から回り、寝室へのドアを慎重に開けた。ついでに中も覗いてみる。恐らく点けっ放しの常夜灯、整えられたシングルベッド、本が1冊乗ったサイドボード。不都合なものは無さそうだ。
 血痕を踏まないよう注意しながら、また窓際へと戻った。今更ながら、背中を冷や汗がつたった。危なかった。もし気づかなかったら、どうなっていただろう。


 さあ、集中しろ。部屋を再度見回したが、今度は何も引っ掛かるところはない。なら、さっさと帰ろう。近くを人が通りかかる可能性も、皆無ではないのだ。
 最後に、森の蒼白な死に顔を眺めた。その無様な姿に、自然と笑みがこぼれる。
 俺の、勝ちだ。
 カーテンを押しよけ、開けっ放しの窓から外に出た。泥棒改め殺人犯はひどく動揺している。窓は閉めなくていいだろう。夜の冷気が心地よい。
 紙袋を拾い上げると、俺は柵をまた乗り越えた。毛髪なんかは残っているだろうが、俺は一昨日この家を訪れたのだ。何の問題もない。
 電気は点いたままで窓は全開、さらに窓は割られてもいるのだ。事件の発覚は早いだろう。だが、俺に辿り着かれさえしなければ、一向に構わない。
 靴を履き替え、隣の自宅に戻った。鍵を開けて中に入る。微細な血液が付いているかもしれないから、着ている服を纏めて紙袋に突っ込んだ。そして、紙袋ごと埃だらけの屋根裏に放り込む。これで、家宅捜索でもされない限り、大丈夫だ。これらは、ほとぼりが冷めた数年後に、少しずつ捨てよう。
 シャワーを浴びると、すぐに万年床に潜り込んだ。やっと、難事を成し遂げた達成感が湧いてきた。俺は高揚感に抱かれながらすぐに寝入った。何か楽しい夢を見た気がする。


 俺が目を覚ますと、もう昼の11時だった。カーテンの隙間から隣家を見ると、玄関先にパトカーが停まり、何人もの警官が蠢いているのが見えた。想定内。自分でも驚くほど落ち着いている。
 ブランチを手早く済ませ、身支度をしたとき、呼び鈴が鳴った。人が殺されたのだ。周辺に聞き込みに来るのは当たり前。ボロさえ出さなきゃいい。
 玄関を開けると、やはり警官が立っていた。小太りの初老の男と、ひょろりと細長い若い男。どちらも警察手帳を見せて名乗った。階級は、小太りな方が警部補、細長い方が巡査らしい。
「いやー、突然すみません。川上功大さんで間違いないですか?」
「はい。あの、警察の方がどういった御用で?」
「あら、ご存じないですか?」
「はい。さっきまで寝てたもんで」
「そうでしたか。実は今朝、そこのお宅の森金吾さんが亡くなっているのが発見されたんですよ」
「ええっ⁈」
 我ながら、いいリアクション。そしてここはしっかり惚ける。
「まさか、自殺とか……?」
「いや、それが、他殺なんですよ」
「えっ……」
 何もかも先刻承知なのだが、警部補はそんなこと知る由もなく、話を続けた。
「そういうわけで、川上さんにちょっと話を聞きたいんです。でも、話が長くなるんで、その……」
 警部補は俺の後ろ、家の奥に目をやった。図々しい奴らだな。だが、内心に反して俺は愛想よく言った。
「ああ、どうぞ上がってください」
「ありがとうございます! いやー、本当助かります」
「いいんですよ、外は暑いですからね」
 一瞬、昨夜のことが頭をよぎった。駄目だ、俺は何も知らない無辜の市民でなければならない。
 扉を大きく開き、警官2人を招き入れた。
「どうぞどうぞ。なにぶん男の独り暮らしですから、むさ苦しいし汚いですが」
「いえいえ、私の家の方がずっと汚いですよ」
 警部補はそう言うとカラカラと笑った。人当たりのいい警官だ。一方、巡査はさっきから全く喋らない。無言で靴を脱ぎ、周りを見回しながら警部補の後についてくる。正直不気味だ。
 俺は家中からどうにか椅子を3脚かき集め、食卓に並べた。冷蔵庫から麦茶を出し、3つのコップに注ぐ。それをテーブルに置き、俺の向かいに警官2人が並ぶ形で、俺達は座った。
「で、俺に聞きたい話ってのは?」
 どうせ、怪しい人を見なかったか、とかだろうが。
 茶を一口飲むと、警部補は口を開いた。
「その前に事件の概要をお話ししておきましょう」
「お願いします」
「事件の発覚は、今朝の6時頃です。犬の散歩をしていたご婦人が、森さん宅の裏手の窓が割られているのを見つけたんです。そして声をかけても返事がない。不審に思って警察に通報し、駆けつけた私達が事切れた森さんを発見したんです」
 発覚は思っていたより早かったのだな。もう5時間以上経っている。現場の捜査に時間がかかったのだろうか。
「森さんは一体誰に殺されたんです?」
「現場の状況からして、森さんはどうも盗人に殺されたようなんです」
 俺は必死に笑みを隠した。捜査は俺の誘導した通りに進んでいる。
「昨夜遅く、盗人は金槌か何かで窓を割り、手を突っ込んで鍵を開け、森さん宅のリビングに侵入した。ところが、森さんが起きてしまい、鉢合わせした。そこで焦った盗人は、そのまま森さんに襲いかかり殺してしまった。しかし怖くなり、何も盗まず逃げ出した」
「なんて不運な……」
 殊勝な顔をしていたが、俺はガッツポーズしたいくらいだった。


 警部補は、声を一際大きくして言った。
「と、最初は思われたんですがねえ」
「え?」
「どうも、犯人は盗人の犯行に見せかけたかったようなんです」
 まずい。最初に浮かんだ感想はそれだった。
 俺は反射的にコップを引っ掴み、茶を含んだ。落ち着け。決定的な証拠があれば、問答無用で俺をしょっぴいているはず。こうして直接話して、怪しい挙動をしないか見極めているのだ。
 戦闘態勢を整えろ。一字一句聞き逃すな。ボロを一切出すな。
 俺は純粋に驚いたような顔をして、尋ねた。
「どうして、そう判るんです?」
 人懐っこい警部補の目が、気味悪く見えてくる。巡査は、変わらず無言で周囲を眺めている。
 警部補は明るく言い放った。
血痕ですよ」
「血痕?」
「さっき言ったようなことが起こったのなら、当然盗人は森さんを正面から襲ったことになる。でも、森さんの傷口から噴き出た血飛沫は、綺麗に床に散っていたんです」
 そういうことか! 俺は歯噛みした。
「状況からして、犯人に返り血が当たるはずなのに、血が遮られた形跡が無い。そこは丁度壁と机に挟まれたところで、盗人が血飛沫を横っ跳びに避けたというのも考えづらい。これはおかしい。正面から森さんを襲った盗人なんてのはいなかったんじゃないか、と考えられるわけです」
 警部補はニヤリと笑った。
 だが俺は、半ば落ち着きを取り戻しつつあった。確かに血痕については考えが至らなかったが、流石に根拠が薄弱すぎる。いくらでも言い逃れはできる。
「でも、いなかったと決めつけるのは早いのでは? 例えば、強盗は森さんを後ろからグサッと刺した、ということもあり得るのでは? 体の向きは、揉み合っているうちに変わったとか」
 そこまで言って、俺は戦慄した。慌てて付け加える。
「まあ、森さんがどこを刺されたか知らないので、何とも言えないですけど」
 危なかった……。実際俺は森をそのような体勢で殺している。これでは、現場の状況を知っていますよ、と言っているようなものじゃないか。
 余計なことは言わないようにせねば。俺が動揺する中、警部補はまた口を開いた。
「右の肋の間、肝臓の辺りを一突きでしたよ。だから、川上さんの仰るようなこともあり得る。確かに、これだけで決めつけるのは早計でしょうな」


 しかし、警部補は笑みを一層強め、右手の人差し指を立てた。
「でも、もう1つ、気になるところがあったんです」
 まだあるのか? 俺は焦りを覆い隠し、問うた。
「何です?」
あるものが、現場に残されていたんです」
「あるもの?」
 何だ? 遺留品は残さなかったはず。
 警部補の返答は、予想外のものだった。
木刀です」
 木刀? どこかで聞いたような……。
 瞬間、雷のように衝撃が走った。確か、森は「木刀はまだ持ってます」と言っていた。なら、どこにあったのだ? 傘立て? いやそんなもの無かった。待て、そもそも木刀をなぜ持っていたんだ?
 ふと、答えがよぎる。簡単なことだ。
 ――護身用。
 なら、どこに置く? 玄関ではない。残るは……。
 ――寝室かっ!
 ギリリと奥歯が鳴った。気づいていないのか、警部補は饒舌に喋り続ける。
「森さんの寝室、ベッドの脇に、恐らく護身用の木刀が置かれていたんです。おかしいですよね? 不審な音で目覚め様子を見に行くなら当然木刀は持っていくはず。独り身の男として、当たり前の備えですな」
 ……しまった。
 あの時、ちゃんと寝室の中を確認すべきだった。だが、後悔しても遅い。
「血痕と木刀、この二点を鑑みれば、誰かが盗人の犯行に見せかけたのではないか、という疑いが俄然強まる」
 喉がカラカラだ。茶を呷り、俺は言い募った。
「でも、あくまで疑いでしょう……?」
「その通り。だから、徹底的に調べました」
 警部補は高らかに言った。
「犯人は盗人の仕業に見せかけようとした。なら、犯人はどこから家に入ったのか。当然、客として玄関から、でしょう。だから、玄関から死体のあるリビングまでを隈なく調べました。するとね、出たんですよ」
「……何が?」
 問いかける俺の声は、震えていた気がする。
「ルミノール反応が、来客用スリッパから。つまり、スリッパに血が付いていたんです」
 俺は愕然とした。必死に記憶を辿る。森を刺し、傷口を押さえていた森の右手がだらりと垂れ下がる……。
 ……あのときか!
 スリッパは黒かった。だから、見落としたのか……。
 警部補は尚も喋り続ける。
「検査の結果、丁度犯行が為された時間帯に付いた、森さんの血液だと判明しました。スリッパがひとりでに靴箱へ戻るわけもない。つまりこれは、スリッパを履いた来客が森さんを殺した証拠なんです」
 そこまで判っていたのか。こいつらがこの家に来た時点で、とっくに……。


「ところで、川上さん。森さんはあなたと同じ中学校出身らしいですね」
 ハッと思わず顔を上げた。そこまで調べがついているのか。想定より、ずっと早い。
 警部補は顔に憐憫の情を滲ませた。
「随分酷く、彼にいじめられていたそうじゃないですか」
 だったら俺は無罪になるか? そんなことはない。
「それを恨んで、俺が森を殺したって言うんですか? 冗談じゃない!」
 そう叫ぶと、警部補は心なしか悲しげな顔をした。が、すぐに引き締まった表情に戻ると、俺を真っ直ぐ見つめた。
「ところで、川上さん。先程血痕の話をした時、あなたは強盗が森さんを刺した、と仰いましたよね?」
 何を当たり前のことを。俺は思わず頷いた。
「私は事件の概要を話す時、こう言ったんです。『盗人は金槌か何かで窓を割り』『鉢合わせし』『そのまま森さんに襲いかかり殺してしまった』と。そして、私は森さんが刺殺されたとは一言も言わなかった
 口から、得体の知れない息が漏れた。
 そうか、そうだったのか。
「普通、森さんは金槌で撲殺されたと思うでしょう。なのになぜあなたは森さんが刺殺されたことを知っていたんです?」
 最初から、俺はこの男の掌の上で踊らされていたのか。
 咄嗟にコップを掴むが、茶はもう残っていない。
 ふと、恐怖が芽生えた。逮捕されたら、どうなる? 刑務所で何年暮らすんだ? 職場はどうなる? 親は?
 駄目だ、嫌だ!
 俺は立ち上がって叫んだ。
「い、言いがかりだ! 俺が犯人だって証拠は1つも無いだろう!」
 警部補は声色を変えることなく言う。
「ええ。今はまだ」
 続けて、警部補は隣の巡査に尋ねた。
「どうだ?」
 巡査は、あっさり口を開いた。
「この部屋の隅の、天井裏への開口部。あそこだけ、埃や黴が付着していません。ごく最近開けたのでしょう」
「よし」
 警部補は俺の目を真っ直ぐ見て言った。
「川上功大さん、あなたが森金吾さんを殺していないと仰るのなら、あそこを開けて、天井裏を見せてくれませんか?」
 俺は、自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。

ⒸWikiWiki文庫

汗だくなのに
キュアラプラプ
時代遅れの町に引っ越してきた青年は、ひどい目に合うのだった。
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 確か……僕は都会っ子だった。新宿生まれ新宿育ちで、そのうえ家族や親戚もみんな東京に住んでる。だから地方に行く機会は夏休みの家族旅行くらいのもので、人生のほとんどを高層ビルの間に過ごしてきた。そして、当然のように、これからもこんな生活が続いていくと思っていたんだ。

 そんなある日のことだった。塾での講座を終えて帰宅し、疲れた体を引きづってリビングのドアノブを回すと、神妙な面持ちの両親が待ち受けていた。妹は、悄然とした様子で、いつからか彼女の特等席となってしまった小さめのソファーに腰を下ろしている。何やら重大な話が、次は僕に向かって放たれるらしいことをすぐに察した。父は、このような意味のことを言っていたはずだと記憶している。

 「―――実はだな……お父さんちょっと会社でやらかしちゃって……地方に配属されることになったんだ。だから一家で……」

 話し終わらないうちに、心臓が冷えあがり、脈が叫び始めた。地方に左遷?転校?僕の人間関係は?やり直し?田舎でやり直しになるのか?僕の将来は?日本一の都市というアドバンテージは?高水準な生活は?僕の……僕の……

 非力で反抗の仕方も分からないような学生に親の判断を変えさせることなどできるはずもなく、実際、僕は家族が離れ離れになるのはもっと嫌だった。だから、それから二週間後、僕たち四人家族はそろって東京とは遠く離れた場所にある町へと移り住んだ。

 田舎の生活に、僕は想像を絶するほどの苦難を強いられた。通学に使える電車なんてないから、全然舗装されてない数キロメートルの山道を毎日往復しないといけないし、家に帰っても虫やら鳥やら動物どものかまびすしい鳴き声が僕の集中力をそぐ。おかげで成績も下がるかと思いきや、ここの授業は進むのがあまりにも遅くて話にならない。田舎の馬鹿どもの低レベルな知能に合わせた学習は退屈すぎるんだよ。だからいつも僕は寝るなり内職するなりしようとするんだけど、旧弊で古臭い教師どもに毎回厳しく怒鳴りつけられる。時代錯誤も甚だしいものだ。

 そう、時代錯誤。昭和時代に取り残されているんじゃないかと思えるほどに、旧態依然とした価値観にあふれた町なんだ、ここは。

 例えば、未だに結婚はお見合いが主流だし、働いてる女性なんて数えるほどしかいない。典型的な性別役割分業意識が深く根付いているっていうわけだ。それに、特に学校においては、非論理的な根性論が全てを支配している。

 最悪なのが体育の授業だ。僕はあまり活動的じゃないから、体力はせいぜい下の上、20回も腕立て伏せしたら音を上げるタイプの人間だ。もちろん僕以上に運動神経が悪い人もざらにいる。それなのに教師どもは毎回、ウォーミングアップだの根性だのなんだの言って、クソデカいグラウンドでのランニング十五周を要求しやがるんだよ。

 これだけでも十分すぎるほど最悪だけど、一番ヤバいのはそんなことじゃない。奴らはかたくなに、休憩はおろか、水分補給さえをも禁止するんだ。体育の授業中は、どんなに汗だくだって、水の一滴さえ飲むことも許されないんだよ。あのクソ教師が自慢げに語ったこといわく、身体を休ませずにやり抜く運動が一番効くらしい。とんだ戯言だ。僕はこれを聞かされたとき、思わず吹き出しそうになってしまった。ここは本当に令和の日本なのか?!

 それで、あの日の体育の授業でも、グラウンド三週目早々に僕は死にそうになっていた。しかもこの日は特に暑かったんだ。僕の視界に映るものは拡散しはじめ、頭は浮かぶような感じを覚え、汗はとめどなく皮膚から溢れ、平衡感覚は徐々に失われた。典型的な熱中症の初期症状だ。朦朧とする思考の中、僕は必死に這って近くの水道まで行き、日光の熱を帯びた蛇口に指をかけて、むさぼるように水を飲んだ。生き返った心地がしたのもつかの間、僕はぞっとした。

 その場にいた全員が僕のことをじいっと凝視していたんだ。

 最初は僕のことを心配してくれてるのかとも思ったけど、僕に対して固定されていたその視線は、どこか愕然としているようにも見え、異様で、明らかにそんな様子じゃなかった。このときまだ僕は東京から転校してきたばかりだったこともあって、周りにうまく馴染めてなかったから、学校でもどこか疎外されているように感じることは度々あったんだ。けど、この時に関しては、あまりにも異質すぎた。

 僕はしばらく呆然としていた。すると、あの教師が近づいてきて、なぜ水を飲んだのかというようなことを聞いてきた。生徒たちの視線に困惑しながらも、このとき、僕は決心したんだ。我が論理武装をもってして、このクソ野郎の時代遅れの根性論を打ち倒してやろうとね。

 論理的に相手をやりこめることには自信があった。もしこいつが全くもって話の通じないような馬鹿だったとしても、そのときは別の教師どもを巻き込めばいい。万が一、殴られることになってもかまわない。むしろ心的外傷を訴えて騒ぎを拡大させられるので好都合だ。インターネット上でニュースにでもなれば、僕の勝利は確定するだろう。僕は笑みを抑えながら、ゆっくりと口を開いた。

 「なんで水を飲んじゃいけないんですか?水を飲まずに行う運動こそ効果的であるというあなたのその主張の論拠はいったいどこにあるんですか?」

 「だから、何度も言ってるだろ?水を飲まない方がいい運動になるもんだし……」

なるほど、どうやらこいつは会話が通じないタイプの馬鹿らしい。そう思った次の瞬間、僕は耳を疑った。

 「それに、屋外で、しかも人目もあるような状態で水を飲むなんて、うじがみさまがお怒りになるだろ。」

 ……は???うじがみ?氏神?何だそれは?土着信仰の類か?いやしかし、この町における民俗宗教的な話なんて何一つ聞いたことがないぞ?どういうことだ?混乱が混乱を助長する。確かに、考えてみれば、僕が水を飲むのはほとんど教室や家のような屋内だったし、外で水を飲むのも登下校中の水筒からくらいで、しかも誰かと一緒に歩くようなことはなかった。だから、この町において屋外かつ人に見られる状態で水を飲んだのはこれが初めてだ。しかしそれが何だというんだ。この町はそんな迷信に支配されていたとでもいうのか?

 まったく予想外の返答に、論理武装は目的を失ってしまった。視界は再びぼやけてきた。水を飲むことによる一時的な回復はしだいに遠のいていって、ついに僕は完全に意識を失った。

 気づいたら、既に辺りは暗くなっていた。そしてなぜか、僕は家の目の前にいた。電気はついておらず、戸締りもされていない。家族の身に何かあったのだろうか。恐る恐る入ってみると、中には誰もいなかった。しかし、リビングには何故か大きな水たまりが二つあって、新居にも運び込まれたあの小さめのソファーもびしょびしょになっていた。

 よく見てみると、その水たまりには大量のうじが湧いていた。自分の家の中のあまりにも異常な光景に、僕は警察への通報を試みたが、スマホはなぜか水に濡れていて、壊れているようだった。僕は徐々に徐々に、冷汗三斗の思いによって、稚拙なまでの恐怖によって、感情を支配され始めた。

 ずいぶん喉が渇いていることに気づいたから、冷蔵庫から2Lペットボトルを取り出し、コップに注いだ。水には、数匹のうじが浮かんでいた。じっとりと、僕の体が冷や汗を纏うのを感じた。

 泣き叫びたい気持ちを抑え、家の外に出ようと急ぎ足でテーブルを離れて、リビングから廊下に出るドアノブを掴んだ。しかし、いくら力を込めたところで、無慈悲にも、それは回ってくれなかった。

 息が荒くなるのを感じる。心臓が早鐘を打つ。脂汗がにじみ出る。喉が渇く。水が飲みたい。しかし水にはうじがいる。ああ、水が飲みたい。水が飲みたい。水が飲みたい。水が飲みたい。

 ここまで考えたところで、僕はついにコップからうじだけを捨てて、しばし躊躇った後に、中の水を勢いよく体内に流し込んだ。吐き気を催したが、ほんの少しだけ落ちついたような気がした。

 しばらくして、頭が浮かぶような感じを覚えた。しかしさっきとは違って、熱中症のような感じはしない。そんなことを考えているうちに、ふと、おそろしい事実にきがついた。

 自分の名前がわからない。

 自分の名前だけではない。両親の名前も、妹の名前も、この町の名前もわからない。なんとか覚えているものを確認するために、僕の人生におけるいままでのことをすべて、できるかぎり精細に回顧して、文章におこしつつ、今にいたる。

 僕は絶望している。僕はいままで十数年もの月日を生きてきたはずなのに、のこされた思いではこれだけしかないみたいだ。


 頭がどんどんうかんでいく。このいましがたかいた文章をよみかえしつづけないと、記憶がもたなくなってきてしまった。

 うじがみさまとやらのせいなのだろうか。うじがはいってたみずをのんだから?いや、そんなまさか。ああ、めのまえのみずがじゃまでよみづらい

いやだ、いやだ、もういやだ

あたまがうかんでいく


うじがたかってくる

かみころされる


いやだ



あたま



みずが

こぼれる




みず

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