十円ハゲ

十円ハゲとは、十円硬貨の形状をとるハゲのことである。十円玉ハゲ十円硬貨ハゲとも。

概要編集

十円ハゲは、毛髪境界[1]が日本国政府の発行する法定通貨・十円青銅貨の形状を持つ頭頂のアスペクトとして定義される。十円ハゲが発生する原因としては、ストレスやアレルギー疾患との合併等による自己免疫疾患・円形脱毛症が最も多いとされる。また、ファッションとして意図的に十円硬貨型の剃りこみを入れた結果としての十円ハゲも多くある。

類するハゲ編集

十円硬貨以外にも、毛髪境界が何らかの形状をとるハゲは多数報告されている。ここでは、そのようなハゲを列挙する。

  麻薬の常用者親愛なる編集者の皆様へ
この節は大喜利である。面白いのを思いついたら追加していきなさい。
  • 一円ハゲ[2]
  • 五円ハゲ[3]
  • 五十円ハゲ[4]
  • 百円ハゲ[5]
  • 五百円ハゲ[6]
  • ギザ十ハゲ[7]
  • バーコードハゲ[8]
  • QRコードハゲ[9][10]
  • 前方後円墳ハゲ[11]

脚注編集

  1. ここでは、所与の空間における毛髪の分布について、その毛髪が占める空間とそうでない空間との境界として頭頂球面に沿った二次元または三次元上に現出する図形的な相のことをいう。
  2. 毛髪境界が一円アルミニウム貨の形状を持つハゲ。
  3. 毛髪境界が五円有孔黄銅貨の形状を持つハゲ。
  4. 毛髪境界が五十円白銅貨の形状を持つハゲ。
  5. 毛髪境界が百円白銅貨の形状を持つハゲ。
  6. 毛髪境界が五百円ニッケル黄銅貨または五百円バイカラー・クラッド貨の形状を持つハゲ。
  7. 毛髪境界が1951年から1958年に製造された縁にギザギザがあるタイプの十円青銅貨の形状を持つハゲ。
  8. 毛髪境界が一次元コードの形状を持つハゲ。
  9. 毛髪境界が二次元コードの形状を持つハゲ。
  10. 「QRコード」はデンソーウェーブ(株)の登録商標です。
  11. 毛髪境界が前方後円墳の形状を持つハゲ。

2008年 地球の陸地面積約1億4724万km²の内約9513万km²が消失







「因循姑息の音」――違う!







2013年 地球の陸地面積約1億4724万km²の内約2001万km²が消失







「王政復古の音」――違う!







2026年 地球の陸地面積約1億4724万km²の内約9513万km²が消失







「文明開化の音」――違う!


音声記録


> YGT財団 CCアーカイブスへようこそ

> 破棄された音声記録:2026-XX-XX 修復成功

> オート翻訳システム 実行

> 結果を表示します


「先輩……ほんとすいません! 実は今日寝不足で、さっきの会議も完全に居眠りしちゃってて……結局どんな話になったんですか?」

「お前なあ。まあ、しかし、どこから話したものか……」

「何やら衝撃的な発表だったらしいってことは聞いてますよ。蟹戦争関連ですよね?」

「ああ、そうだ。もしかしたら……この戦況が、ひっくり返るかもしれない」

「ど、どういうことですか」

「……約半年前、我々の研究班は、ある未探索の海底エリアに不明な遺跡群があることを発見した。彼らはすぐさま調査に向かい、いくつかの人工物であるとみられる物体を持ち帰った。調査時にはそのあまりの損傷によって気づかれていなかったが、研究機関での詳しい検査の結果、人工物のうち二つは、何らかの目的で海中に派遣された無人探査機の残骸であったことが分かった」

「無人探査機……?」

「二台の無人探査機には、それぞれ映像記録が残されていた。データの大部分が破損していたが、それでも我々はその七割以上を修復することに成功し、内容を確認した。それは……不可解な映像だった。海中を蠢く謎の黄色い生物を追い、最後にはその生物に吸収される、という映像。二つとも流れはほとんど同じだった。……しかし、何より今回の話題の中心となったのは、探査機が海に派遣される前に映っていた、『YGT財団職員』とかいう奴らの会話だ。彼らが当然のように言うことによれば、北アメリカと西ヨーロッパは西暦2013年に地球上から消滅したらしい」

「は、はあ!? その範囲が消し飛んだのは、蟹戦争によるものでしょう。つい数か月前の話ですよ」

「ああ、そうだ。我々は非常にこの映像に当惑させられた。手の込んだいたずらだという説は、最初のうちは多くの……消極的な賛成を受けた。しかし、探査機のプログラムが徐々に解析されていき、その中の地形マッピング情報に本当に北アメリカと西ヨーロッパが存在していないことが判明してからは、誰も『この探査機はいわばパラレルワールドから来たのではないか』という意見を笑うことができなくなっていった。その地形情報において、北アメリカと西ヨーロッパがあるはずの陸地領域は、何か人為的なものにえぐり取られたかのように描写されていて、その領域を貫くような線条痕が、周辺海域に刻まれていた」

「パ、パラレルワールドって……そんなの……」

「そこで我々は、『YGT財団』の調査を開始した。強固な情報統制をしている組織ではあったが、幸いにも蟹戦争の影響で管理システムが少々脆弱になっていたらしく、情報保護の重要度が比較的低いらしい情報の一部を盗み出すことに成功した。いわくYGT財団は、異常な存在から人類を守るために暗躍する組織であるらしい。そこには様々な異常存在への対処に関するプロトコルやデータが記録されていた。……その中で我々が着目したのは、『CCアーカイブス』というサービスだった」

「CCアーカイブス……?」

「そこには、音声や画像、動画といった様々な形式で、様々な過去の記録が残されていた。ひとつ共通していたのは、その内容があの映像記録と同様に不可解なものだったということだ。第三次世界大戦が勃発したという2008年のニュースの紙面や、謎のカルト集団が2021年に日本国北海道で蜂起した際の建国宣言の音声……中には、2013年にロシアが謎の破壊兵器を用いて北アメリカと西ヨーロッパを消し飛ばしたという、あの映像記録との関連が強く推測されるような情報もあった」

「ちょっと待ってください、つまるところ、これは何を意味しているんですか?」

「我々が盗み出せた情報の中には、その真相は記されていなかった。しかし、断片的な情報から推理するにつれて、我々の中には、ある一つの可能性が浮かび上がってきた。……つまり、おそらくYGT財団は破壊された大陸を何度も修復してきているということだ」

「大陸を……修復……」

「CCアーカイブスに記録されている情報は、すべて何かしら大陸規模の地球の破損に関連したものだ。我々の知らないこれらの大陸的ダメージは、当初は何の関係もないパラレルワールドで起きた話だと考えられていた。……しかし、結論としては、これは我々のいるこの世界の……まあ、何と言うか、この世界がこの世界に上書きされる前の過去に起きた話だということで合意された。ここにおいて、CCアーカイブスもそうだし、先の探査機の記録さえ残しているYGT財団が一枚噛んでいるのはまず間違いない。彼らの本分からしても、大陸を修復しているのはおそらくYGT財団なのだろう」

「うーん、いやあ、全然意味わかんないですね。そもそも大陸を修復って、具体的にどういうことなんですか?」

「ああ、そこがミソなんだよ。この大陸修復のアイデアは、あまりにも浮世離れしていて、非常識で、天才的だ。……お前、『十円ハゲ』って知ってるか?」

「え、まあ、そりゃあ知ってますけど……」

「日本国の十円青銅貨の形状をとる毛髪境界の相、十円ハゲ。……実は我々は、この現象を大きく見くびっていたんだ」

「見くびるも何も、髪の毛のない部分が十円玉みたいに見えるから十円ハゲってだけなんじゃないですか?」

「そうだな……まず、十円ハゲと十円玉の関係について、こういうことが言える。『十円ハゲがあるならばすなわち毛髪境界の相が十円玉の形状であることが成立するならば十円玉の形而下的実在の成立の既遂が成立する』」

「え……? つまり、十円玉が実際に存在しているのは十円ハゲがあるおかげだ、みたいなことですか?」

「うーん、まあ違うな。正確に言えば、十円ハゲが示すのは、『十円玉が存在している』ことというよりも、『十円玉が実際の存在として成立したことがある』ということだ。現在の状態には関係なく、ただ過去いつかのタイミングでの『成立』という一点のみを担保する」

「なるほど。でもそれって結局、当たり前のことじゃないですか? ○○ハゲが存在する以上、その成立要件である『○○の形状』が必要になってくるわけだから、必然的に○○は実際の存在として少なくとも過去のどこかにはあったことが分かりますし」

「ああ、そうだな。でも、ここで面白い考えが浮かんでくる。……もし、『存在しないもののハゲを作ることができたら?」

「……それは、つまり……『存在しないもの』がどこかで成立していたことになる? いやいや、でも、○○ハゲを作るにはその○○の形状が必要なんですよ。存在しないものの形状なんて無いでしょ。そもそも対偶をとれば、『○○が実際の存在として成立したことがないならば○○ハゲは存在しない』ですし。そんなもの作れませんって」

「そうだな……まあ、先に言っておくと……少しは感づいているかもしれないが、YGT財団は『大陸ハゲを作り出すことで大陸を修復しているんだ」

「『大陸ハゲ』……!? ……なるほど、確かに実在が破壊・毀損されたものであるなら、『破壊される前の形状』というその事物の実際の実在に基づかない形状が存在する……しかし、それでも、大陸ハゲを生み出すことで大陸が修復されるというのはおかしいでしょう。その論理に則れば、大陸ハゲが示すのは『破壊される前の大陸が実際の存在として成立したことがある』というだけのことであって、まあもちろんそれは誤りではないでしょうけど、大陸を修復するなんて大仕事と結びつくはずがありません」

「ああ、そうだ。破壊される前の大陸の形状を毛髪境界の相として落とし込んだところで、その大陸が復活するなんてことはない。そもそも、実は我々は実際の大陸の形状なんてもの知らないだろう? 普通に大陸ハゲを作ろうとしても、それは成功したところで『世界地図ハゲ』にしかならない。地学の専門家たちが結集した全地球の地理的データで以て大陸ハゲを作ろうとしてさえ、それは『大陸3Dモデルハゲ』にしかならないんだ」

「じゃあ、『大陸の修復』は、いったいどうやって……」

「いったん話を戻そう。……『存在しないもの』のハゲについて、お前は、『存在しないものの形状なんて無い』と言ったな。しかし……さっきの『破壊される前の形状』という論理以外にも、抜け穴があるんだよ」

「抜け穴……?」

「『ブーバ・キキ効果』は知ってるよな? つまるところ……音と図形的印象には意味の結びつきがある。それを利用するんだ」

「……! つまり……『大陸の音』を!?」

「そうだ。『大陸の音』から、現前たる大陸の形状そのままを図形的印象として一度に捉える。ただしこれは、当然だが、『ブーバ』や『キキ』のような普通の音からは到底導けない。この非常に細かいディティールさえ描写できるほどの異常な音象徴性を持つ特殊な音にしか、『大陸の音』の機能は果たせない。……ここまで来たら、分かるよな?」

「『特殊な音象徴性』……! 『文明開化の音』ですか!」

「そうだ。例えばそれこそ『文明開化』などという、複雑で入り組んだ人類世界の歴史の上に立ち、非常に多くの情報を内包した概念をも、頭頂殴打音はたった一つの音で描写できるよな。これを使うんだ。具体的に言えば……まるで冗談みたいな話だが、YGT財団は大陸を修復するために、まず変な髪形の人間を大量に用意して、そいつらの頭頂を叩きまくっているんだ。『大陸の音』が誰かの頭頂から鳴るのを待ちながらな」

「しかし……それで大陸の形状が判明したとしても、やっぱりさっきの話と同様に、『破壊される前の大陸が実際の存在として成立したことがある』ということにしかならないんじゃないですか?」

「いい質問だ。実際のところ、『大陸の音』が描写する大陸の形状は、『破壊される前の大陸』の形状そのものではない。そもそも実際の大陸の形状が分からないんだから、同定のしようも無いしな。……実際、『大陸の音』というのは、変な髪形の頭頂を叩きまくって出てきた音の中から選ばれる、大きさや形が最も『破壊される前の大陸っぽい』図形的印象を受けると評価された音のことなんだ。そんな音、普通はたった一つ出るだけでも天文学的確率だが、YGT財団は頭頂殴打音に関する研究や、あるいは何か異常存在にまつわる技術によるバックアップを駆使して、より高精度な『大陸の音』を生み出しているんだろう。ともかく重要なのは、それが『破壊される前の大陸』の形状とは違うってことなんだ」

「なるほど、それならつまり……えーっと、示されるのは、『破壊される前の大陸とは違う大陸が実際の存在として成立したことがある』……?」

「そう。その『大陸の音』から得られる形状を毛髪境界の相に落とし込み、『大陸ハゲ』を作ることで、その破壊される前の大陸に似た別の大陸が形而下的に実在を成立させていたことが確定するんだ。言ってしまえば、現実改変とかいうやつかもな。とにかく、ここにおいて、地球にはほぼ同型で同位置を占める二つの大陸が二重に存在していたことになる。『大陸が破壊された』という事象は、『重なる二つの大陸のうち一つが破壊された』という事象に上書きされ、こうしてそこには一つの大陸が残される……これがYGT財団による大陸の修復の全貌だ。さっき言ったように、第二の大陸が担保されるのはその成立だけであるから、第一の大陸が破壊され、大陸の『残機』としての役割を果たすまでに破壊されてしまうという可能性もある。しかしその場合でも、YGT財団が同じ大陸修復プロトコルを繰り返すだけだ。……こうして、大陸は続いていく」

「げ、現実改変……!? いやいや、全然納得がいきませんよ! さっきも言いましたけど、『○○が実際の存在として成立したことがないならば○○ハゲは存在しない』んでしょう? なら、存在しない『第二の大陸』を毛髪境界の相に持つ『大陸ハゲ』なんてものも、存在するはずがないじゃないですか! なのにそれが存在して、挙句の果てにはそれゆえに『第二の大陸』が存在するように世界が改変されるだなんて、信じられませんよ!」

「まあ、実際、難解な話ではあるよな。そうだな……じゃあ、例えば、スペースシャトルの中に浮かぶリンゴか何かを想像してみてくれ」

「は、はあ」

「そして一つ、ルールを設定しよう。『○○が地球にあるならば、○○は地表に対して落下する』……まあ重力のことだ」

「それは当然飲み込めますね」

「スペースシャトルは宇宙空間を飛んでいる。さて……まず、このとき、リンゴは地表に落下しているか?」

「物理はからっきしなので合ってるか分かんないですけど、まあ、無重力状態でしょうね。落下はしません」

「よし。厳密なことは良いんだ。それから数日後、スペースシャトルは地球に帰ってきた。もちろん、リンゴも一緒だ。このとき、リンゴはどうなる?」

「まあ、ルールに則れば、当然『地表に対して落下する』はずですね」

「……実際、この大陸修復理論も、これと同じ構造をしているんだ。『リンゴ』は『第二の大陸』に、『落下』は『形而下的な実在の成立の既遂』に、『地球にいること』は『大陸ハゲが存在すること』に、そしてルール『○○が地球にあるならば、○○は地表に対して落下する』は、同じくルール『○○ハゲが存在するならば、○○は実際の存在として成立したことがある』に対応している。……リンゴが『落ちるようになった』ことの意味も、これなら分かりやすいんじゃないか?」

「つまり……重力のルールの対偶は、『○○が地表に対して落下しないならば、○○は地球にない』。しかし、宇宙にある『地表に対して落下しない』リンゴでも、スペースシャトルに乗って地球へ向かうことができる。そして地球に到着したリンゴには、当然十分な重力がかかり、『地表に対して落下する』ようになる。なるほど……僕はまず、『毛髪境界の相に○○の形状を与える』ことが『スペースシャトルで○○を持って帰る』という役割まで果たせるという認識が無かったみたいです。『実際の存在として成立したことがないもの』を『毛髪境界の相に落とし込む』ことには、これで納得がいきました。でも……理論的にも感覚的にも、『重力』について一切の知識を持たない者ならば、そのリンゴの見た目上の性質の変化を『非合理的な現実改変』だと思うのは、無理もないんじゃないですかね」

「それはそうかもな。十円ハゲに関わる一連の現象は、我々の慣れ親しんだ世界よりも上のレイヤーにあるシステムから我々のもとに析出している。『実在』という曖昧で哲学的な概念さえ、そこでは我々にとっての落体運動とかと同レベルのことなのだろう。あのたとえ話における『物理学』に対応する理論を、我々はまったく知らないんだ。そこからの眺めでは、『変な髪形の人間の頭頂を叩いて出てきた音のイメージをもとにしたハゲを作ったら、地球に『第二の大陸』が成立していたことになる』という不可解な現象も、容易く説明できるのかもしれないな」

「しかし……大陸が修復されるとなると……かなりまずいですね」

「ああ。もう今にでも、YGT財団は大陸修復プロトコルを進めているだろう。そうなれば、我々がせっかく消し飛ばした大陸たちが復活してしまうし……それだけじゃない。もしかすると、我々は……絶滅させられてしまうかもしれないんだ」

「ぜ、絶滅!?」

「ずいぶん昔に思えるが、最初の話を覚えているか?」

「えーっと、確か……『CCアーカイブス』とやらで不可解なデータがたくさん見つかったって……あっ、ま、まさか!」

「そのまさかだ。大陸修復のための『現実改変』によって、我々が今いる世界がすっかり上書きされてしまう恐れがある。……一匹の蝶が羽ばたいただけで嵐が発生するんだ。この大陸がこれとよく似た大陸だったことになる影響は計り知れない。我々のこの会議だって、その『不可解なデータ』の一つにされてしまうかもしれないんだ」

「や、やばいじゃないですかそれ! もう、どうします? 残りの大陸も全部光線で消滅させちゃいますか!? 奴らもまさか深海の研究室で変な髪形の人間の頭頂を叩き続けるなんてことできないでしょう!

「まて、落ち着くんだ。全大陸を消滅させるという案も会議に出たが……結局、『現段階ではすべきではない』という結論になった。なぜなら、我々が盗みだしたCCアーカイブスの数千のデータの中に、『全大陸が消滅した』という情報が一つも無かったからだ。それを可能にする十分な破壊兵器があるどの過去にも、全大陸を消滅させることはできなかった。我々より強い破壊能力を持つ、いかなる軍勢にもだぞ! ……YGT財団は、全大陸の消滅をトリガーにした何かを仕掛けている可能性もあるんだ」

「うーん、まあ、確かに……警戒するに越したことはないかもしれません。『十円ハゲ』と『文明開化の音』で大陸を修復してしまうような組織ですし。生存バイアスへの理解を導線にした罠とかかも」

「全大陸への攻撃に代わって、YGT財団への対抗策として決議された計画が一つある。……『文明開化の音』を、こちらも利用するんだ」

「なるほど、意趣返しですか」

「頭頂殴打音の本質は、『頭頂』というよりむしろ『髪型』だという指摘は多い。近年の研究でも、実際にそういう理解の方が関連する現象をコンパクトに記述できるということが分かってきている。そこで我々が行うのが……プロジェクト『地球殴打音』だ」

「『地球殴打音』……!?」

「『髪型』は、『毛髪境界』と隣接した、非常に近しい分野だ。そこで活きてくるのが、我々が研究を進めていた『マクロ毛髪境界学』の成果なんだ。人間一人の頭部に分布する毛髪だけでなく、共同体社会における毛髪のはたらきを調べるこの学問……そこに登場する『みなし頭頂』の概念を、地表全体に拡張する理論が構築できれば、『地球殴打音』が鳴らせる。『アフロの法則』によれば、頭頂殴打音における毛髪の総量と音量は比例するから、もし『地球殴打音』を鳴らすことができれば、YGT財団の『大陸の音』探索チームは地獄を見ることになるだろう。変な髪形の人間の頭頂を叩けども叩けども、全ての音は我々の『地球殴打音』にかき消されてしまうのだ!」

「……なるほど、しかし……この計画には重大な問題があります」

「重大な問題……? どういうことだ?」

「……地球を殴るにも、あるいは叩くにも、グーかパーが必要です。ただ我々は、我々は蟹……チョキしか持っていないじゃないですか! どうするんですか!」

「フン、いや、心配には及ばんぞ。ここが我々の残虐性の光るところ……蟹戦争で、我々蟹軍団が何本の人間の腕をもぎ取ったか忘れたか!」

「あっ! そうでした! これならイケますね!」

「予定されている計画はシンプルだ。研究班が作る特製のカプセルの中に人間の指や腕をセットした後、我々軍事班が率いる精鋭部隊・第一蟹師団の蟹光線をカプセルに向けて放つ。その莫大な指向性エネルギーを受け取って射出されたカプセルは外部制御で変形し、人間の指や腕を外部に層状に展開。地表に接触した瞬間、最大効率でエネルギーを伝える波動モジュールをも駄目押しに発動させ、鳴り響く『地球殴打音』が人類の鼓膜を打ち破るのだ! 拡張理論の計算は、現在急ピッチで進められている。三日もすればカプセル機構も完成するそうだ。『地球殴打音』でYGT財団を妨害できれば、あとは落ち着いてYGT財団の内情を探れる。全大陸攻撃も、ここから本腰を入れて再検討されていくだろう」

「なるほど……蟹の勝利の日は近いですね。……一つ、提案があるんですけど」

「何の提案だ?」

「プロジェクト名のことです。『地球殴打音』もいいですけど、もっとカッコよく、蟹の勝利の雄叫びという意味で……『かいきょう』なんてどうですか?」

「……いいじゃないか! 上層部に伝えておこう」

「ありがとうございます。いやあ、待望の蟹の時代が、もうすぐやってきますね。感無量です」

「『確カニ』つってね」

「……うーん、45点」

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