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人々が順番に自己紹介をしていく中、突如として放たれた奇声は場の雰囲気を大きく変えた。
人々が順番に自己紹介をしていく中、突如として放たれた奇声は場の雰囲気を大きく変えた。


「ぎぁぁぁぁあじざざさざじじざじざじじぎぎぎぎかぎぎじざささぎいいいいいぃぃぃぃぃぃぃいぁぃぃぃぃぃぁあぁぁぁ」
「じひいっ! ぎぁぁぁぁあじざざさざじじざじざじじぎぎぎぎかぎぎじざささぎいいいいいぃぃぃぃぃぃぃいぁぃぃぃぃぃぁあぁぁぁ」


困ったような顔をしたノレが、少し遅れてフォローを挟む。
困ったような顔をしたノレが、少し遅れてフォローを挟む。
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「……一応私が代理ということで。彼は<ruby>橘地<rt>きっち</rt></ruby><ruby>凱<rt>がい</rt></ruby>。この館の使用人で……たまに発作で{{傍点|文章=こう}}なっちゃうの。」
「……一応私が代理ということで。彼は<ruby>橘地<rt>きっち</rt></ruby><ruby>凱<rt>がい</rt></ruby>。この館の使用人で……たまに発作で{{傍点|文章=こう}}なっちゃうの。」


事実、シャンデリアにぶら下がってブリッジをしながら肘と膝のそれぞれ片方を用いて次々に知恵の輪を粉々にしていく彼は、この大豪邸の使用人であった。
事実、シャンデリアにぶら下がってブリッジをしながら肘と膝のそれぞれ片方を用いて次々に知恵の輪を粉々にしていく彼は、紛れもなくこの大豪邸の使用人であった。


「そっちの警察の人は挨拶しないのか? 失礼な奴だな。俺はアインシュタインだってのに。」
「そっちの警察の人は挨拶しないのか? 失礼な奴だな。俺はアインシュタインだってのに。」
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「私は<ruby>卦伊佐<rt>けいさ</rt></ruby><ruby>通署<rt>つしょ</rt></ruby>。犯人はさっさと自首した方がいいぞ。」
「私は<ruby>卦伊佐<rt>けいさ</rt></ruby><ruby>通署<rt>つしょ</rt></ruby>。犯人はさっさと自首した方がいいぞ。」


「……あれ? えーと、もしもし? 聞こえます? あのお……なんで一人しか警察の人来てないんですか? 殺人ともなれば、普通結構な人数で来るもんですよね?」
「……あれ? えーと、もしもし? 聞こえます? あのお……通報したの僕なんですけど、なんで一人しか警察の人来てないんですか? 殺人ともなれば、普通結構な人数で来るもんですよね?」


「通報を受けて出動したが、パトカーがあまりに遅かったもんでな。我慢できなくて仲間を置いて走って来たんだ。」
「いやあ申し訳ない、パトカーがあまりに遅かったもんでな。我慢できなくて仲間を置いて走って来たんだ。」


このあまりの荒唐無稽さに、アナーキストとキチガイ以外の全員が、彼が警察官であるというのを疑わしく思った。しかし、体からにじみ出る肉体の強靭さのオーラだけはまさしく本物であり、下手に刺激したら普通に殺される可能性があるので、みんな知らんぷりをしている。
このあまりの荒唐無稽さに、アナーキストとキチガイ以外の全員が、彼が警察官であるというのを疑わしく思った。しかし、体からにじみ出る肉体の強靭さのオーラだけはまさしく本物であり、下手に刺激したら普通に殺される可能性があるので、みんな知らんぷりをしている。
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「では、捜査に協力してもらおうか。分かっているとは思うが、お前ら全員が容疑者だ。一人一人、今までの状況を教えてくれ。」
「では、捜査に協力してもらおうか。分かっているとは思うが、お前ら全員が容疑者だ。一人一人、今までの状況を教えてくれ。」


「……あーあー、もしもし? じゃあ、第一発見者の僕から行きましょう。そもそもは週刊誌記者として、良い感じのゴシップとか持ってないかなあと思って律家律氏に会いに来たんですよ。あ、もちろんアポは取ってますよ? んでまあ、大した情報も得られなかったんでそのまま帰ろうとしたら、どうにも玄関にたどり着けない。何時間も右往左往して、なんと結局律さんに取材した書斎に戻ってきちゃったんですね。このままじゃ埒が明かないし、家主である律さんに道を聞いて帰ろう、と思って部屋に入ったら……胸に包丁が刺さって死んでました。アポ取りの時にノレさんに電話した履歴が残ってたので、そこからノレさんに連絡して……今に至る、って感じですね。皆さんダイニングルームにいるんですよね? 今屋敷の道を総当たりで攻略してるので、絶対動かないでくださいね!?」
「……あーあー、もしもし? じゃあ、まあ第一発見者の僕から行きましょう。そもそもは週刊誌記者として、良い感じのゴシップとか持ってないかなあと思って律家律氏に会いに来たんですよ。あ、もちろんアポは取ってますよ? んでまあ、大した情報も得られなかったんでそのまま帰ろうとしたら、どうにも玄関にたどり着けない。何時間も右往左往して、なんと結局律さんに取材した書斎に戻ってきちゃったんですね。このままじゃ埒が明かないし、家主である律さんに道を聞いて帰ろう、と思って部屋に入ったら……胸に包丁が刺さって死んでました。アポ取りの時にノレさんに電話した履歴が残ってたので、そこからノレさんに連絡して……で、警察にも電話して、今に至る、って感じですね。皆さんダイニングルームにいるんですよね? 今屋敷の道を総当たりで攻略してるので、絶対そこから動かないでくださいね!?」


「……その電話をもらった私が、みんなにこれを伝えたの。私を含めた残りの五人はダイニングルームで各々くつろいでた。娘のラレは自室で寝ていたわ。律の書斎に行って、此井江さんの言ってたことがが本当だったと分かってから、またこの部屋に戻って来たってところね。」
「……その電話をもらった私が、みんなにこれを伝えたの。私を含めた残りの五人はダイニングルームで各々くつろいでた。娘のラレは自室で寝ていたわ。律の書斎に行って、此井江さんの言ってたことがが本当だったと分かってから、またこの部屋に戻って来たってところね。」
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「宇曾都てめえ……私刑に処すぞ。お前瞑想なんてしてなかったろ。……てか殺したのお前だろ。動機が十分すぎる。」
「宇曾都てめえ……私刑に処すぞ。お前瞑想なんてしてなかったろ。……てか殺したのお前だろ。動機が十分すぎる。」


「ほう……詳しく聞かせてもらいたい。」
卦伊佐はその言葉に食らいついた。


「俺が代わりに説明しよう。何分血を分けた兄弟だからな、俺はこの家によく来るんだが……その度にこいつは兄貴に怪しいビジネスを持ちかけてた。ヘリウム水だのオーガニック水だの……だが、兄貴は人一倍優しい奴だったからな。こいつが家に来るのを禁止するようなことはしなかったんだ。その結果が今日だ。大方こいつは遂に逆上し、兄貴を殺したんだろうな。うう……。」
「ほう……! 詳しく聞かせてもらいたい。」


「私刑! 私刑! 準備は良いかてめえら!」
「俺が代わりに説明しよう。何分血を分けた兄弟だからな、俺はこの家によく来るんだが……その度にこいつは兄貴に怪しいビジネスを持ちかけてた。ヘリウム水だのオーガニック水だの……だが、兄貴は人一倍優しい奴だったからな。こいつが家に来るのを断るようなことはしなかったんだ。……その結果が今日だ。大方こいつは遂に逆上し、兄貴を殺したんだろうな。うう……。」
 
「イエス! 私刑! 私刑! 準備は良いかてめえら!」
 
宇曾津は声を荒らげて反論する。


「おいおい待て待て待ちやがれ絶世の馬鹿ども、このエジソンに向かってなんて口の利き方だ。動機の話をするんならお前らにもデケえのがあるだろうが!」
「おいおい待て待て待ちやがれ絶世の馬鹿ども、このエジソンに向かってなんて口の利き方だ。動機の話をするんならお前らにもデケえのがあるだろうが!」
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「続けてくれ。」
「続けてくれ。」


「ああ、ああ、そうだよ。ニュートンとして言わなくちゃいけねえ。威山横世哉にはな、多額の遺産が相続されるんだ!真実はいつも小説より平凡だ。オッカムの剃刀は面白みに欠ける。だから物書きは刺激的なトリックや動機を考えるんだ。しかしここは現実!これは現実の事件!金持ちの殺害動機に遺産ほどシンプルなものはねえ!」
「ああ、ああ、そうだよ。ニュートンとしてこれだけは言わなくちゃいけねえ。律家律が死んだとき……実弟である威山横世哉には莫大な額の遺産が相続される手筈になってんだよ! ……真実はいつも小説より平凡だ。オッカムの剃刀は面白みに欠ける。だから物書きは刺激的なトリックや動機を考えるんだ。しかしここは現実!これは現実の事件!金持ちの殺害動機に遺産ほどシンプルなものはねえ!」


「うあうあああうあふさふあっしゅああさうさふさうああああ!!!!」
「じひじひひいっ!? うあうあああうあふさふあっしゅああさうさふさうああああ!!!!」


怒号と奇声が飛び交い、ダイニングルームでの口論は白熱する。しびれを切らした卦伊佐は、質問を変えることにした。
ダイニングルームには怒号と奇声が飛び交い、とても有意義とは思えない口論が白熱していく。しびれを切らした卦伊佐は、質問を変えることにした。


「じゃあ、事件発生までの被害者の行動を知ってる人はいるか?」
「じゃあ、事件発生までの被害者の行動を知ってる人はいるか?」


「律はずっと部屋にいたわ。……あ、そうだ、もしかしたら……。」
「律は、今晩はずっと自室である書斎にいたわ。……あ、そうだ、もしかしたら……。」


「何だ?」
「何だ?」
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「いや、夫はとても几帳面な人で、自分の書斎に来る人の順番まで決めちゃうほどだったの。だからもしかしたら、最後に書斎に行った人が分かれば、犯人が分かるんじゃないかな……って。確か今日は、ここにいたラレ以外の全員が書斎に行ってたわよね。」
「いや、夫はとても几帳面な人で、自分の書斎に来る人の順番まで決めちゃうほどだったの。だからもしかしたら、最後に書斎に行った人が分かれば、犯人が分かるんじゃないかな……って。確か今日は、ここにいたラレ以外の全員が書斎に行ってたわよね。」


全員が頷く。うち一人は、ブリッジしながらヘドバンしていると形容する方が適切であるが。
全員が頷く。うち一人は、ブリッジしながらヘドバンしていると形容する方が適切だが。


「なるほど……まあ取り敢えず、その書斎に案内してくれないか。」
「なるほど……まあ取り敢えず、その書斎に案内してくれないか。」


「……もしもし? ついでに僕も探してくれませんかね? この調子だと餓死しちゃいますよ……。」
「……もしもし? あの……ついでに僕も探してくれませんかね? この調子だと餓死しちゃいますよ……。」


卦伊佐とノレが書斎に赴き、ダイニングルームには言い争いをする三人と発狂するキチガイだけが残った。
卦伊佐とノレが書斎に赴き、ダイニングルームには醜く言い争いをする三人と、シャンデリアを揺らしながら発狂するキチガイだけが残った。


<big>'''第二章 几帳面すぎる男'''</big>
<big>'''第二章 几帳面すぎる男'''</big>
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