「利用者:Notorious/サンドボックス/コンテスト」の版間の差分

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<br>「真下から何かをぶつけてカバーを上げて、さらにタイミングよくボタンに物をぶつけるんです」
<br>「真下から何かをぶつけてカバーを上げて、さらにタイミングよくボタンに物をぶつけるんです」
<br>「野球のピッチャーも真っ青な計画だな。食料が尽きる前に成功すればいいな」
<br>「野球のピッチャーも真っ青な計画だな。食料が尽きる前に成功すればいいな」
<br>「食料は、たぶん一年は持ちますよ。毎日トライすれば、いつか成功するかも」
<br>「食料は、たぶん5年は持ちますよ。毎日トライすれば、いつか成功するかも」
<br>「何回間違えたら永久にロックされるみたいな設定が無いことを祈るか。他に妙案が思いつかなければ、試してみよう」
<br>「何回間違えたら永久にロックされるみたいな設定が無いことを祈るか。他に妙案が思いつかなければ、試してみよう」
<br> そろそろ脱出方法のアイデアが尽きてきた。顎に手を当てて考えていると、権田が呟いた。
<br> そろそろ脱出方法のアイデアが尽きてきた。顎に手を当てて考えていると、権田が呟いた。
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 僕は倉庫にいた。ぼんやりとしか見えない光の中、何度も躓きながら奥の方を目指す。手探りで瓶の山を分け入っていくと、権田が見つけた缶詰の一角に辿り着いた。一角とはいえ、缶詰の数は100を下らない。その中から、できるだけ場所をばらして五つほど取る。
 僕は倉庫にいた。ぼんやりとしか見えない光の中、何度も躓きながら奥の方を目指す。手探りで瓶の山を分け入っていくと、権田が見つけた缶詰の一角に辿り着いた。一角とはいえ、缶詰の数は100を下らない。その中から、できるだけ場所をばらして五つほど取る。それから、床にある缶切りも一本拾う。
<br> それらを抱えて、僕は倉庫を出た。廊下の中途にあるトイレのドアを開けると、人感センサーで明るく光が灯った。眩しさに目を細めながら、ドアを開けたままにして戦利品を床に置いた。祈るような気持ちで、缶詰の蓋を開けていく。三つ目、恐れていたものが現れた。{{傍点|文章=それ}}を呆然と見下ろす。
<br>「実験なんかじゃなかった……」
 
「なら何なんだ?」
<br> 思わず小さく悲鳴を上げ、体のバランスを崩してしまう。便座にドボンしそうになったところを、ギリギリで権田が腕を掴んで止めてくれた。
<br>「す、すみません……」
<br> いつの間に後ろにいたのだろう?
<br>「佐藤、何をしていたんだ? 物音がしたから、様子を見にきたんだが」
<br> 僕が答えられずにいると、権田は床の缶詰に目を向けた。中には、白い粉がいっぱいに入っている。
<br>「この缶がどうかしたのか? これは……まさか<ruby>覚醒剤<rt>エス</rt></ruby>⁈」
<br>「そんな物騒なものじゃないですよ。舐めてみてください」
<br> 権田は粉を少し指に取り、おそるおそる舐めた。
<br>「こりゃ……脱脂粉乳?」
<br>「……近いですけど、ちょっと違います」
<br>「佐藤はわかるのか? それに、さっき、『実験じゃない』とも言っていたな。どういうことだ? 奴らの企みがわかったのか?」
<br> こうなっては、誤魔化しようもないだろう。僕は重苦しい気持ちのまま、寝台に戻ることを提案した。
 
 トイレの床に缶詰は置いたまま、僕は最初の部屋に戻った。後ろを権田がついてくる。先刻のディスカッションのように、僕らはベッドに座った。ただし、権田はベッドの上で胡座をかいているが、僕は端に腰掛け、横を向いた。
<br>「それで、佐藤は何に気がついたんだ?」
<br> 真っ直ぐに権田が問いかけてくる。僕は俯いた。どこから話せばいいのだろうか? こんな残酷なことを、どうやって伝えればいいというのだ? 迷った末に、僕は口を開いた。
<br>「気づいたのは、脱出方法です。でも、とてもやろうとは思えない方法です。覚悟して、聞いてくれますか?」
<br> 権田は、黙って頷いた。
<br>「ここには、大量の食料や医薬品、衛生設備までもがあります。前にも辿り着いた結論ですが、奴らは僕らにしばらく生きていてほしい。でも、脱出はされたくない。だから、磁石の部屋なんていう手の込んだ仕掛けがある。では、{{傍点|文章=なぜしばらく生きていてほしいのか}}? そもそも、{{傍点|文章=奴らは僕らに何をしてほしいのか}}?」
<br> 一息ついて、また言葉を継ぐ。
<br>「僕らに何をしてほしいのか。何か実験をして、僕らの振る舞いを見ているんじゃないかと考えましたが、今となってはそうじゃないと言い切れます。奴らは、{{傍点|文章=僕らに脱出してほしい}}んです。いや、ひょっとしたら脱出する過程が目的なのかもしれませんが……」
<br>「どういうことだ? 勿体ぶらずにはっきり言え」
<br>「ここから脱出する方法が、一つだけあるんです。奴らは、{{傍点|文章=僕らにその唯一の手段を取ってほしい}}んです」
<br>「その、唯一の脱出方法ってのは、一体何なんだ?」
<br> 権田の性急な問いを無視して、外堀を埋めていく。叶うなら、僕が説明する前に、権田に気づいてほしい。僕が何を言わんとしているかに。
<br>「さっき、なぜ奴らは僕らにしばらく生きていてほしいのか、と言いましたね? その答えは、脱出には時間がかかるからです。1年、いや3年、もっとかかるかもしれない。その間僕らを生かすために、生きられると判断させて僕らにその脱出方法を取らせるために、これだけの設備を用意したんです」
<br>「その方法ってのは、何なんだ……?」
<br>「取るのは、踏み台戦法です。足りない1メートルを、稼ぐ方法があるんです」
<br>「しかし、ここにあるものは、どれも使えないという結論に至ったじゃないか」
<br>「その通りです。ここにあるものでは、1メートルに届かない。だから、{{傍点|文章=ここに無いものを使う}}んです」
<br>「外から何かを調達する方法があるのか?」
<br>「そうじゃありません。{{傍点|文章=今はここに無いけど}}、{{傍点|文章=後でここに現れるものを使う}}んです」
<br>「どういうことだ?」
<br>「まだわかりませんか⁉︎」
<br> きっと権田を睨むと、本気で戸惑っている顔が薄闇の中に浮かんでいた。思わず顔を伏せた。
<br>「……ごめんなさい。先輩にあたってもどうにもならないのに」
<br> 暗くてよかった。今の、今からの自分の顔を、権田に見せられる勇気は、僕にはない。
<br>「僕ら二人の体だけでは、テンキーには届きません」
<br>「……そうだな」
<br>「でも、{{傍点|文章=三人いれば届く}}。{{傍点|文章=三人目さえいれば脱出できる}}んです」
<br>「……ちょっと待て」
<br>「そして、三人目を用意するのは、僕らにとって不可能なことではない」
<br>「不可能だろう⁉︎」
<br>「なぜです? 食料も衛生環境も、時間もある。あの缶の中身は、{{傍点|文章=粉ミルク}}ですよ、先輩」
<br>「まさか……まさか……」
<br> 権田は驚愕に目を見開いて叫んだ。
 
「{{傍点|文章=わたしに子供を産めと}}、{{傍点|文章=そう言いたいのか}}⁈」
<br>「赤ん坊が数年育てば、身長は1メートルに達するでしょう。そして、ここには{{傍点|文章=成人男女が一組いる}}んです。これが、脱出方法ですよ」
<br>「でも、でも……色々ないだろう、その、病院とか……」
<br>「原始時代でも、人類は繁殖できたんです。不可能ではないでしょう」
<br>「でも……え……そんな……」
<br>「だから言ったでしょう。とてもやろうとは思えない方法だと」
<br> 権田は絶句していた。でも、僕は事実を押し通さねばならない。
<br>「これでわかったでしょう? ここは、{{傍点|文章=セックスしないと出られない部屋}}なんですよ」
<br>「セッ……そんな……」
<br> 権田の整った顔が赤く染まったのが、闇の中でも見えた。思わず僕は権田の両肩を掴んで、マットレスに押し倒す。ボブカットの黒髪がふわりとシーツに広がり、薄着の下の乳房が魅力的に揺れる。
<br>「これが、脱出する唯一の方法なんです。……先輩、いいですか?」
<br> ほのかな灯りの下、権田の目の奥が、小さく揺れた。
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