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七時をつげる時計台のおとが、小鳥をわれにかえらせました。にしの方をみると、あおぐろい雲の下、お日さまはほとんどしずみかかっています。小鳥は、かんがえるよりさきに、じめんに向かってすごいスピードでおちはじめました。カラスもやっぱりあとをおって、まっさかさまにおちてきます。 | 七時をつげる時計台のおとが、小鳥をわれにかえらせました。にしの方をみると、あおぐろい雲の下、お日さまはほとんどしずみかかっています。小鳥は、かんがえるよりさきに、じめんに向かってすごいスピードでおちはじめました。カラスもやっぱりあとをおって、まっさかさまにおちてきます。 | ||
「どうしたの小鳥くん、そのさきはただのじめんだよ! このままだとぶつかっちゃう!」 | |||
カラスの言うとおり、小鳥はじめんに向かってまっしぐら。あぶない、ぶつかる――! というところでおっとっと、くるりとからだをひるがえします。しかしのっぽのカラスは小回りがきかず、そのままじまんの大きな羽をじめんに打ちつけてしまいました。これでカラスも、しばらくのあいだはおいかけてこられないでしょう。 | カラスの言うとおり、小鳥はじめんに向かってまっしぐら。あぶない、ぶつかる――! というところでおっとっと、くるりとからだをひるがえします。しかしのっぽのカラスは小回りがきかず、そのままじまんの大きな羽をじめんに打ちつけてしまいました。これでカラスも、しばらくのあいだはおいかけてこられないでしょう。 | ||
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「いいやちがうね、小鳥くん。きみにどんなじじょうがあったのかはしらないけど、これだけはわかる――」 | 「いいやちがうね、小鳥くん。きみにどんなじじょうがあったのかはしらないけど、これだけはわかる――」 | ||
お日さまはもうはんぶんも顔を出しているのに、空は雲にじゃまされてどんどんくらくなっていきます。うっすらと、くすんだあお色がかかってきました。 | |||
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――小鳥は、じめんに向かってすごいスピードでおちはじめました。空はおぼろげに色あせていき、ぽつぽつと雨がふりはじめます。 | |||
「はは、小鳥くん、またそのさくせんかい? いっておくけど、もうそれはつうようしないよ!」 | |||
「……もう、いいんだ、ぼく。」 | |||
「は……え? ちょっと、小鳥くん? どうしたの?」 | |||
小鳥にはもう、なにをする気もありませんでした。なにもかんがえずに、このままじめんにおちることにしたのです。 | |||
雨はどんどんつよくなっていき、しだいにどしゃぶりになりました。雲の下、カラスとおなじ真っ黒にそまった空には、あちこちで風がふきあれて、いたいたしい音がなりひびいています。小鳥のからだはびしょびしょになりますが、赤黒い食べこぼしはいっこうにながれおちていきません。 | |||
いちごが腐ってしまうまえの夜、じぶんのおうちのなかで、小鳥は気づきました。あのとき、あの街で、小鳥の心をうばったあのにおいは――甘くてきれいで、しっとりしたあのいいにおいは――いちごのものでした。 | |||
その夜、小鳥は夢をみました、とっても甘くて、とってもおいしくて、とーってもひどい夢をみました。 | |||
そしてその夢は、げんじつになりました。 | |||
ごーーーん。 | |||
時計台の音がきこえてきました。きっと小鳥は、もうそろそろじめんにおちてしまうのでしょう。 | |||
けっきょく、小鳥のうそはうそのまま。雲の上にだなんて、まったくとどきませんでした。だけど小鳥は、だいきらいなじぶんがこんなさいごをむかえられて、とってもうれしそうです。 |
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