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 小鳥は、また吐き気をこらえました。
 小鳥は、また吐き気をこらえました。
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 いちごさんをふたたびおうちにつれてきてからずっと、小鳥はぼんやりしていました。ときおりふいてくる風は、はっぱにたまった雨のしずくをふりはらい、小鳥といちごをくすぐって、ひゅうひゅうと音を立てます。
 いちごさんをふたたびおうちにつれてきてからずっと、小鳥はぼんやりしていました。
 
 ときおりふいてくる風は、はっぱにたまった雨のしずくをふりはらい、小鳥といちごをくすぐって、ひゅうひゅうと音を立てます。


「ねえ、小鳥さん。」
「ねえ、小鳥さん。」
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「小鳥さんになら、いいの。食べられてもいい。だって……わたし、小鳥さんのことが好きだから。」
「小鳥さんになら、いいの。食べられてもいい。だって……わたし、小鳥さんのことが好きだから。」


 さらさらと風がふきました。おきっぱなしになっていたあのお気にいりの甘あい実たちがゆれて、ごきげんに歌をうたっているようにみえました。大きくひびくどくどくという音に耳をすませば、その歌声はじぶんのなかからもきこえてきました。小鳥は、それが気のせいだとは思いませんでした。
 さらさらと風がふきました。おきっぱなしになっていたあのお気にいりの甘あい実たちがゆれて、ごきげんに歌をうたっているようにみえました。大きくひびくどくどくという音に耳をすませば、その歌声はじぶんのなかからもきこえてきていました。小鳥は、それが気のせいだとは思いませんでした。


 小鳥は、いちごを食べることにしました。
 小鳥は、いちごを食べることにしました。
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 つばさをはためかせ、小鳥は空にとびあがっていきました。きれいな朝やけがかがやいて、ぶあつくうかぶ雲をくっきりとみせてくれます。にぎやかな歌やようきな音楽だって、どこからともなくきこえてきます。すずしい空気が小鳥をやさしくつつんで、とっても気もちよさそうです。
 つばさをはためかせ、小鳥は空にとびあがっていきました。きれいな朝やけがかがやいて、ぶあつくうかぶ雲をくっきりとみせてくれます。にぎやかな歌やようきな音楽だって、どこからともなくきこえてきます。すずしい空気が小鳥をやさしくつつんで、とっても気もちよさそうです。


 小鳥は、今ならほんとうに雲の上までとべるだろうとおもっていました。もうにどとかえってこられないほど空たかくにだって、あっというまにとんでいけるだろうとおもっていました。いちごといっしょなら、なにもこわくないような気がしたのです。
 小鳥は、今ならほんとうに雲の上までとべるだろうとおもっていました。もうにどとかえってこられないほど空たかくにだって、あっというまにとんでいけるだろうとおもっていました。
 
 いちごといっしょなら、なにもこわくないような気がしたのです。


 ――しかしそのときとつぜん、ばさばさという大きな音がちかづいてきました。
 ――しかしそのときとつぜん、ばさばさという大きな音がちかづいてきました。
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「なあに、同族のカンってやつだよ。まあそんなことより、はやく食べさせてくれない?」
「なあに、同族のカンってやつだよ。まあそんなことより、はやく食べさせてくれない?」


 カラスは大きなつばさをひろげて、小鳥をだきしめようとしますが、ひらりとかわされてしまいました。そのままにげようとした小鳥でしたが、やはりカラスにまわりこまれてしまいます。お日さまはあたたかい色の雲にかくされ、小鳥とカラスを真っ黒なかげがおおいました。
 カラスは大きなつばさをひろげて、小鳥をだきしめようとしますが、ひらりとかわされてしまいました。そのままにげようとした小鳥でしたが、やはりカラスにまわりこまれてしまいます。
 
 お日さまはあたたかい色の雲にかくされ、小鳥とカラスを真っ黒なかげがおおいました。


「ひどいなあ小鳥くん、ぼくの言ったこと、ちゃあんとわかっていたくせに。」
「ひどいなあ小鳥くん、ぼくの言ったこと、ちゃあんとわかっていたくせに。」
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 小鳥にはもう、なにをする気もありませんでした。なにもかんがえずに、このままじめんにおちることにしたのです。
 小鳥にはもう、なにをする気もありませんでした。なにもかんがえずに、このままじめんにおちることにしたのです。


 雨はどんどんつよくなっていき、しだいにどしゃぶりになりました。雲の下、カラスとおなじ真っ黒にそまった空には、あちこちで風がふきあれて、いたいたしい音がなりひびいています。小鳥のからだはびしょびしょになりますが、赤黒い食べこぼしはいっこうにながれおちていきません。
 雨はどんどんつよくなっていき、しだいにどしゃぶりになりました。雲の下、カラスとおなじ真っ黒にそまった空には、あちこちで風がふきあれて、いたいたしい音がなりひびいています。
 
 小鳥のからだはびしょびしょになりますが、赤黒い食べこぼしはいっこうにながれおちていきません。


 いちごが腐ってしまうまえの夜、じぶんのおうちのなかで、小鳥は気づきました。あのとき、あの街で、小鳥の心をうばったあのにおいは――甘くてきれいで、しっとりしたあのいいにおいは――いちごのものでした。
 いちごが腐ってしまうまえの夜、じぶんのおうちのなかで、小鳥は気づきました。あのとき、あの街で、小鳥の心をうばったあのにおいは――甘くてきれいで、しっとりしたあのいいにおいは――いちごのものでした。
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「小鳥くん……?」
「小鳥くん……?」


 ――ハトさんの言ったとおり、いちごは「消費期限切れ」でした。腐っているし、カビだってはえているんだもの。とうぜんのことです。……だけど、すくなくとも小鳥にとって、いちごは「賞味期限切れ」ではありませんでした。
 ――ハトさんの言ったとおり、いちごは「消費期限切れ」でした。腐っているし、カビだってはえているんだもの。とうぜんのことです。
 
 ……だけど、すくなくとも小鳥にとって、いちごは「賞味期限切れ」ではありませんでした。


 だって、あの腐ったいちごの味は、あの甘くてすっぱくて、鼻をつくひどい味は、小鳥にとってまちがいなく――おいしかった、から。
 だって、あの腐ったいちごの味は、あの甘くてすっぱくて、鼻をつくひどい味は、小鳥にとってまちがいなく――おいしかった、から。
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「まさかほんとうになにもせずおちるなんて……。」
「まさかほんとうになにもせずおちるなんて……。」


 じめんにおりたったカラスは、真っ黒なつばさをはためかせ、みずをはらっています。雨のいきおいはましていくばかりで、小鳥のからだはすでにみずびたしです。
 じめんにおりたったカラスは、真っ黒なつばさをはためかせ、みずをはらっています。
 
 雨のいきおいはましていくばかりで、小鳥のからだはすでにみずびたしです。


「まあいいや。……好きだよ、小鳥くん。」
「まあいいや。……好きだよ、小鳥くん。」
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