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「え、まあ、そりゃあ知ってますけど……」
「え、まあ、そりゃあ知ってますけど……」


「日本国の十円青銅貨の形状をとる毛髪境界の相、十円ハゲ。……実は我々は、この現象を大きく勘違いしていたんだ」
「日本国の十円青銅貨の形状をとる毛髪境界の相、十円ハゲ。……実は我々は、この現象を大きく見くびっていたんだ」


「勘違いも何も、髪の毛のない部分が十円玉みたいに見えるから十円ハゲってだけなんじゃないですか?」
「見くびるも何も、髪の毛のない部分が十円玉みたいに見えるから十円ハゲってだけなんじゃないですか?」


「そう、そこだ、そこなんだよ。{{傍点|文章=十円ハゲの成立は十円玉の実在の成立を要求するという勘違い}}。実際には、まったく逆だったんだ。この二項の間にある関係は、『{{傍点|文章=十円ハゲがあるならば}}、{{傍点|文章=すなわち毛髪境界の相が十円玉の形状であることが成立するならば}}、{{傍点|文章=十円玉が形而下的に実在することが成立する}}』というものだったんだ!」
「そうだな……まず、十円ハゲと十円玉の関係について、こういうことが言える。『{{傍点|文章=十円ハゲがあるならば}}、{{傍点|文章=すなわち毛髪境界の相が十円玉の形状であることが成立するならば}}、{{傍点|文章=十円玉が形而下的に実在することが成立する}}』」


「え……? つまり、十円玉が実際に存在しているのは十円ハゲがあるからだ、っていうことですか?」
「え……? つまり、十円玉が実際に存在しているのは十円ハゲがあるからだ、みたいなことですか?」


「うーん、まあ、もっと正確に言うと、『○○ハゲが成立することは、○○の実在が成立することの{{傍点|文章=十分条件}}である』という話だ。お前のそれは後件肯定だし、さらに言えば、十円ハゲが示すのは、『十円玉が{{傍点|文章=存在している}}』というよりも『十円玉が実際の存在として{{傍点|文章=成立したことがある}}』ということだ。現在の状態には関係なく、ただ過去いつかのタイミングでの『成立』という一点のみを担保する」
「うーん、まあ違うな。正確に言えば、十円ハゲが示すのは、『十円玉が{{傍点|文章=存在している}}』ことというよりも『十円玉が実際の存在として{{傍点|文章=成立したことがある}}』ということだ。現在の状態には関係なく、ただ過去いつかのタイミングでの『成立』という一点のみを担保する」


「はあ。いや、でも……おかしいですよ。○○ハゲはそもそも、成立要件からしても、○○の形状というその事物の実在に基づいたものを必要としているじゃないですか。それなら{{傍点|文章=必要条件}}ですよ。十円玉が存在しえない世界では、『十円ハゲ』なんていう概念が生まれるはずもありません」
「なるほど。でもそれって結局、当たり前のことじゃないですか? ○○ハゲが存在する以上、その成立要件である『○○の形状』が必要になってくるわけだから、必然的に○○は実際の存在として少なくとも過去のどこかにはあったことが分かりますし」


「話が散らかって来たから、いったん整理するぞ。つまり……まあ、もう感づいたかもしれないが、YGT財団は」
「……そうだな、話が散らかってきたから、いったん整理しよう。つまり……まあ、もう少しは感づいているかもしれないが、YGT財団は『{{傍点|文章=大陸ハゲ}}』{{傍点|文章=を作り出すことで大陸を修復している}}んだ」


「大陸ハゲ……なるほど、確かに実在が毀損されたものであるなら、『破壊される前の形状』という{{傍点|文章=その事物の実際の実在に基づかない形状}}が存在する……しかし、それでも、大陸ハゲを生み出すことで大陸が修復されるというのはおかしいでしょう。その論理に則れば、大陸ハゲが示すのは『大陸が実際の存在として成立したことがある』というだけのことであって、まあもちろんそれは誤りではないでしょうけど、大陸を修復するなんて大仕事と結びつくはずがありません」
「ああ、そうだ。破壊される前の大陸の形状を毛髪境界の相として落とし込んだところで、その大陸が復活するなんてことはない。そもそも、実は{{傍点|文章=我々は大陸の形状なんてもの知らない}}だろう? 普通に大陸ハゲを作ろうとしても、それは成功したところで『世界地図ハゲ』にしかならない」
「じゃあ、『大陸の修復』は、いったいどうやって……」
「いったん話を戻そう。『○○ハゲが成立することは、○○の実在が成立することの{{傍点|文章=十分条件であるが必要条件ではない}}』。お前は、○○ハゲの成立要件に含まれる『○○の形状』は○○の実在に規定されると言った。しかし……さっきの『破壊される前の形状』という論理以外にも、抜け穴があるんだよ」
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