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 海だけの世界に生まれ落ちて、全てを海に見出し、かつ海に全てを見いだす彼らの自然観は、しかし宇宙飛行士には少し不気味に映っていた。それはあるいは、この時遠くの空に浮かんでいた黒く分厚い雲の接近や、徐々に高く、激しくとぐろを巻きはじめた海流の縦横のうねりに、恐るべき嵐の動乱を予感させられたからかもしれない。とにかく、その日が沈まないうちに、浮島は暴風雨に見舞われた。
 海だけの世界に生まれ落ちて、全てを海に見出し、かつ海に全てを見いだす彼らの自然観は、しかし宇宙飛行士には少し不気味に映っていた。それはあるいは、この時遠くの空に浮かんでいた黒く分厚い雲の接近や、徐々に高く、激しくとぐろを巻きはじめた海流の縦横のうねりに、恐るべき嵐の動乱を予感させられたからかもしれない。とにかく、その日が沈まないうちに、浮島は暴風雨に見舞われた。


 惑星を巡る風の均衡が破壊され、気流はパニックを起こしたようにのたうち回る。普段こそ空間をどっしりと満たしている大気は、浮き足立ち、恐慌状態の金切り声をあげながら自身を引き裂く。雲を、海を、力のままに殴りつける。宇宙服によって触覚が保護されている宇宙飛行士でさえ、平衡感覚を失った。絶え間なく、切れ目なく天空から染み出し、海を目指して流れてくる雨は、さながら河川のように空を侵食し、雷のような轟音を海面に散らしながら、滝のように眼前に迫ってくる。世界を海に囲まれている。惑星の内側に向かう暴力にあてられて、海もまた体を震わせた。巨大な水の肉体を構成するために、すべての水滴を結び付ける力が、弾性と粘性をもって暴力に反応する。鉛玉に撃たれた人間が傷口から鮮血を噴くのと全くもって同じように、この海もまた嵐に抉り取られ、引き裂かれ、ぶたれた傷口から、白くほとばしる泡だらけの大波を噴きだす。それが浮島を揺らして弄んだ。浮島の住民たち、そして宇宙飛行士は、自分たちが宇宙的な力学の世界に投げ出されたものだとさえ感じた。惑星の巨大な天体運動にしがみつく術は、陸地にしか無いのだ。
 惑星を巡る風の均衡が破壊され、気流はパニックを起こしたようにのたうち回る。普段こそ空間をどっしりと満たしている大気は、浮き足立ち、恐慌状態の金切り声をあげながら自身を引き裂く。雲を、海を、力のままに殴りつける。宇宙服によって触覚が保護されている宇宙飛行士でさえ、平衡感覚を失った。絶え間なく、切れ目なく天空から染み出し、海を目指して流れてくる雨は、さながら河川のように空を侵食し、雷のような轟音を海面に散らしながら、滝のように眼前に迫ってくる。世界を海に囲まれている。惑星の内側に向かう暴力にあてられて、海もまた体を震わせた。巨大な水の肉体を構成するために、すべての水滴を結び付ける力が、弾性と粘性をもって暴力に反応する。鉛玉に撃たれた人間が傷口から鮮血を噴くのと全くもって同じように、この海もまた嵐に抉り取られ、引き裂かれ、ぶたれた傷口から、白くほとばしる泡だらけの大波を噴きだす。それが浮島を揺らして弄んだ。浮島の住民たち、そして宇宙飛行士は、自分たちが宇宙的な力学の世界に投げ出されたものだとさえ感じた。惑星の巨大な天体運動にしがみつく術は、陸地にしか無いのだ。それほどひどい嵐だった。
 
 そのために、宇宙飛行士も最初はそれに気づかなかった。住民がぽつぽつと浮島から転落し、荒れ狂う海に投げ出されているのは、単なる自然災害による事故だとばかり思っていたが、それは明確に、住民が住民を突き落としているがためのものだった。ひどい災害のために、浮島の集落の間でパニックが発生しているものなのかとも考えたが、それにしては住民たちは冷静だった。意を決して宇宙飛行士が住民の一人に尋ねたところ、どうやらこれは「巨鳥祭」の準備であるということだった。彼らは経験則的に、嵐の後には巨鳥の死体が高確率で現れることを知っていた。これは、単純に嵐に巻き込まれて海面に叩きつけられて死ぬ巨鳥がいるのに加えて、巨鳥の主食でもある「魚」たちが嵐を恐れて数週間海の比較的深いところに潜っていくために、嵐の範囲をまぬがれた巨鳥も飢えて死んでしまうことがあるためだった。
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