「利用者:キュアラプラプ/サンドボックス/丁」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
20行目: 20行目:
 我々は、いっそう身を引き締めて話に聞き入った。
 我々は、いっそう身を引き締めて話に聞き入った。


「最後に息子夫婦に会ったのは、あれから一年ほど経った後です。どうやら息子夫婦はその時、『◇◇地方誘拐被害児童の家族の会』だったかな、そういう集団に入ったみたいでしてね、私らに、『アヤカに関係する物がもし残っていたら、渡してほしい』と言うんです。話を聞いてみると、どうやら彼らの会では、『セキホウ』……『痕跡』の『跡』に『奉納』の『奉』で、『跡奉』です。そういう取り組みを行っているらしく、被害児童の持ち物や服などを会に納めて、無事に帰ってくることをお祈りするんだそうです。正直、少し……きな臭さというか。そういうものを感じなかったわけではありませんが、特に拒む理由もないと思って、アヤカのために置いてあった箸や食器を渡しました。
「最後に息子夫婦に会ったのは、あれから一年ほど経った後です。どうやら息子夫婦はその時、『◇◇地方誘拐被害児童の家族の会』だったかな、そういう集団に入会したみたいでしてね、私らに、『アヤカに関係する物がもし残っていたら、渡してほしい』と言うんです。話を聞いてみると、どうやら彼らの会では、『セキホウ』……『痕跡』の『跡』に『奉納』の『奉』で、『跡奉』です。そういう取り組みを行っているらしく、被害児童の持ち物や服などを会に納めて、無事に帰ってくることをお祈りするんだそうです。正直、少し……きな臭さというか。そういうものを感じなかったわけではありませんが、特に拒む理由もないと思って、アヤカのために置いてあった箸や食器を渡しました。


 それからまた一年くらい後、警察から電話が来ました。アヤカの件で何か進展があったのかと思いましたが、そうではありませんでした。……息子夫婦の死体が、発見されたんです。それも、○○山に埋められた状態の、明らかな他殺体だったそうです。私も女房も、愕然となりました。あんなに幸せだった暮らしが、ほんの数年で、ここまで破滅するものか、と」
 それからまた一年くらい後、警察から電話が来ました。アヤカの件で何か進展があったのかと思いましたが、そうではありませんでした。……息子夫婦の死体が、発見されたんです。それも、○○山に埋められた状態の、明らかな他殺体だったそうです。私も女房も、愕然となりました」


 白坂氏は大きな呼吸を置いて、再び話し始めた。
 白坂氏は大きな呼吸を置いて、再び話し始めた。


「事件の取り調べの中で、息子夫婦の交友関係について尋ねられた時、私はその『家族の会』のことを話したんです。すると、警察の方は驚いた様子で、慌ただしくどこかに連絡し始めました。なんでも、ちょうどその当時、この会に関わる捜査が別件でなされていたんだそうです。詳しいことまでは、教えてもらえませんでしたけどね。……しかし、結局、息子夫婦の事件も迷宮入りになってしまいました。不思議なことに、犯人の痕跡が一切見つからなかったそうです」
「事件の取り調べの中で、息子夫婦の交友関係について尋ねられた時、私はその『家族の会』のことを話したんです。すると、警察の方は驚いた様子で、慌ただしくどこかに連絡し始めました。なんでも、ちょうどその当時、この会に関わる捜査が別件でなされていたんだそうです。詳しいことまでは、教えてもらえませんでしたけどね。……しかし、結局、息子夫婦の事件も迷宮入りになってしまいました。不思議なことに、犯人の痕跡が一切見つからなかったそうです。
 
 それからは、心の傷も癒えぬまま、二人でひっそりと暮らしてきました。ただ女房は、年のせいもあってか、次第に病気がちになってしまってね、半年前にぽっくりと逝ってしまいました。……しかし、ほんの数日前のことです。女房の遺品を整理しているとき、思いがけないものが出てきました」
 
 そう言うと、白坂氏は机の上に一枚の封筒を置き、中身を出した。差出人は、白坂氏の息子になっている。
8,864

回編集