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 I wanted to stay in her arms. The spring night breeze was still cold enough to make me shiver. But while I was holding her in my arms, I felt a warmth so deep that I did not even feel the chill.
 I wanted to stay in her arms. The spring night breeze was still cold enough to make me shiver. But while I was holding her in my arms, I felt a warmth so deep that I did not even feel the chill.
 I gently fell asleep in the warmth of a single completed warmth.
 I gently fell asleep in the warmth of a single completed warmth.
某一章
 
「ねえクオリア」
「なに?」
彼女はページを捲る手を止め、こちらを向いた。
「君は、<ruby>遍在転生観<rt>へんざいてんせいかん</rt></ruby>って知ってるかい? 」
「知らないわ。それって、どういうものなの?」
「この世界に存在してるのは自分だけなんじゃないかって考えることらしいんだ。」
「へえ、そうなのね。」
「いや、この説明では誤解を与えてしまうかもしれないね。わかりやすくいうと、ひとつの世界の捉え方のことなんだ。」
僕は彼女の目を見ながら続けた。
「この世界にあるそれぞれの“意識・自我”というものはただひとつ、自分しか存在せず、過去、未来、同年代のあらゆる知的生命体は唯一の“自己”つまり、“僕”が<ruby>輪廻転生<rt>りんねてんしょう</rt></ruby>した姿なのであって、“僕”は今地球にいる全ての人間だったし、全ての人間になるだろうという考え方なんだ。」
「つまり、私もあなたもいれものが違うだけでひとつの意識に過ぎないと言うことかしら?」
「そういうことになるね。入れ替える度に記憶は消えてしまうものらしいけれど。」
「それは…突拍子もない考えね。」
クオリアは笑った。
「もしその考えが正しいとしたら、貴方と私が今話しているのだって時空を超えたひとり遊びってことになっちゃうじゃないの」
「そうなんだよ」
僕も笑った。
「いつか僕はクオリアだったかもしれないし、クオリアは僕だったかもしれない。」
「もしくは―」
彼女は続けた。
「もしくは―これから私が貴方になるのかも。」
「そう…かもしれないね」
僕は窓の外の、灰色の空を見上げた。
「僕は…できることなら君になってみたいんだ」
彼女は少し驚いた様子で、目を見開いてこちらを見た。
「どうして?」
その視線に射られた僕は、肩をすくめて答える。
「僕が僕の身体に収まっているうちは、君のこと全部を理解できないように思うんだ。」
彼女は呆れたようにため息をついた。
「そんなものよ。でも、私は貴方に私の全てを理解して欲しいとは思わないわ」
「それは、何故なんだい?」
「ひとは秘密があったほうが魅力的に見えるもの。それに、知っても意味のないことばかりでしょう。」
だから―と彼女は続けた。
「だから、私は貴方になりたいだなんて思わない。でも、誤解しないで欲しいわ。貴方になることに魅力を感じない訳じゃないの。」
ひと息ついて彼女は言った。
「ただ、貴方を知ることが、少し怖いのよ」
僕はすこし気分を害して、彼女へ向き直った。
「もうちょっと信頼してくれないかい。僕は君を裏切ったりなんかしないさ。今までも、もちろんこれからもね。」
「そういうことじゃないのよ。」
僕の目を見つめ直した君は、再び言った。
「そういうことじゃないの。」
✳︎ ❇︎ ✴︎
「でもときどき、私もそう思うことはあるわ」
「そう思うって?」
「この世には”私”っていう意識しか、存在しないんじゃないかってね。」
いつの間にか君は窓辺に立って、枠に手を掛けていた。外の雨降る風景を見ている。
「そうなのかい。」
「むしろ、そういう思考になってしまうことの方が当然に思えるわ。ひとの気持ちに触れることなんてできないわけだし―」
君はティーカップを手に取り、いかにも余裕ありげにひと口啜った。
「―もし一度そうだと思ってしまったら、それを否定する根拠がいくら探しても見つからないだろうから。」
「たしかに…そうかもしれないね。どうしたって反例は見つけることはできないだろうね」
ひと息おいて僕は言った。
「―僕らが生きているうちは。」
「死んだらわかるのかしらね。」
「そればっかりは、僕らにはわからないさ。」
僕は微笑んだ。
彼女も笑った。
「もし遍在転生観を正しいと仮定したら、私たちが生きる意味ってあるのかしら。」
「安易なニヒリズムに浸ってはダメだよクオリア。僕らにはもっと他に考えるべきことがあるはずさ。」
こちらを向き微笑んだ彼女は窓の外に目をやった。
「たとえばこの雨。実は今日雨が降る予感がしたの。朝起きた時からこうなるかもって」()
某二章
「ねえクオリア」
「どうしたの?」
「君は、昼と夜どっちが好き?」
「また…貴方らしい質問ね。」
彼女は笑った。そして困った様子で考えはじめた。
「私は…そうね…私はどちらも好きよ。でも、しいて言うなら…」
数分の熟考の後、彼女は曖昧な微笑みを浮かべながら答えた。
「しいて言うなら、私は夜が好きだわ。」
「それは―」
好奇心の赴くままに僕は聞いた。
「―それはどうして?」
「夜の…雰囲気が好きなの。あの何もかもが溶け出してしまっているような、それでいて純粋なようにも感じる闇の雰囲気。光が届かないせいかしら、物事の輪郭がぼやけて見えて、区別されていたものたちが混じり合う。そこではどんなことが起きても説明はいらないわ。だから人は夜に恐怖するのかしらね。」
彼女は夜に陶酔したかのような妖艶な表情で続けた。
「私は夜の闇も好きだけど、月も好きなの。誰かの光でしか輝けない脆さとそれでも精一杯私達を照らしてくれる健気さを感じるの。」
某三章
「―洞窟の比喩」
本から目線を上げ、虚空をぼんやりと眺めいた君が、ぽつりと言った。
「―貴方は善のイデアはひとが認識できるものだと思う?」
「イデア論か…。また急だね、君は」
僕は苦笑した。しかし彼女は少し興奮しているのか、こちらの態度を気に留める素振りもなく話はじめた。
「かのプラトンは言ったわ。“魂には眼がある。それによってのみ真理を見ることができる”とね。」
彼女は暖炉に焚かれた火に視線を下ろした。
「プラトンにとって、真理というのは。」
某四章
「私、この景色見たことあるわ。」
君は突然そう言った。
熱い夏の日だった。僕らは海辺の小道を歩いていた。
「ははあ。それはデジャヴってやつだね。」
第五話
「この世界は仮想空間なのかしら」
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