「利用者:キュアラプラプ/サンドボックス/丙」の版間の差分

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 ――なぜこの「賭け駄段々」が、勝者がどちらかについての賭けをしないのか。その答えは単純で、{{傍点|文章=これは出来レースだから}}だ。この「駄段々」のゲームの展開は、すべてクリームパンダに仕組まれている。そもそも、「指や歯を手札にしたばば抜き」だとか、そういうほとんど残虐な刑に違わないようなサーカスが各地で行われている中で、このクリームパンダの「賭け駄段々」だけがただの「殺されるかもしれないゲーム」だなんていう{{傍点|文章=うまい話}}はないに決まっている。これはゲームの形を借りた単なる殺人ショーなのだ。これを可能にするのが、{{傍点|文章=手札の操作}}であった。クリームパンダに配られる手札、そして思想者に配られるカードは、事前に決められたものだったのだ。
 ――なぜこの「賭け駄段々」が、勝者がどちらかについての賭けをしないのか。その答えは単純で、{{傍点|文章=これは出来レースだから}}だ。この「駄段々」のゲームの展開は、すべてクリームパンダに仕組まれている。そもそも、「指や歯を手札にしたばば抜き」だとか、そういうほとんど残虐な刑に違わないようなサーカスが各地で行われている中で、このクリームパンダの「賭け駄段々」だけがただの「殺されるかもしれないゲーム」だなんていう{{傍点|文章=うまい話}}はないに決まっている。これはゲームの形を借りた単なる殺人ショーなのだ。これを可能にするのが、{{傍点|文章=手札の操作}}であった。クリームパンダに配られる手札、そして思想者に配られるカードは、事前に決められたものだったのだ。


 確かに、これは『駄段々』のルールに明確に違反していた。しかし、警官はこれを黙認する。国家元首がパンダにさえルール違反を許さないのは、「思想者を処刑する者は絶対的な正義に基づいている」ということをアピールするためであったからだ。彼女は、サーカスの観客の中に不正な手段で露悪的に苦しめられる思想者を見て同情してしまう者が現れることを恐れた。――その割には他のサーカスの華々しいスプラッタショーを認めているので、元首の倫理観がただひたすらに狂っているだけという話に落ち着くのだが。ともかく、手札の操作はゲーム開始以前に隠れて行われるルール違反である。実際、観客たちはうすうすそれに気づき始めていたが、それは客席に大々的に披露されるものではなかった。このために、手札の操作はルール違反といえども特別に許され、こんな風に決められていた――クリームパンダの手札は「Qが三枚、JK、黒の3、赤の10、赤の9」、そして思想者の手札は「Kが二枚、黒の4が二枚、赤のJが二枚、赤の10が一枚」だ。これによって作られる最初の見せ場が、この「取引」だった。
 確かに、これは『駄段々』のルールに明確に違反していた。しかし、警官はこれを黙認する。国家元首がパンダにさえルール違反を許さないのは、「思想者を処刑する者は絶対的な正義に基づいている」ということをアピールするためであったからだ。彼女は、サーカスの観客の中に不正な手段で露悪的に苦しめられる思想者を見て同情してしまう者が現れることを恐れた。……その割には他のサーカスの華々しいスプラッタショーを認めているので、元首の倫理観がただひたすらに狂っているだけという話に落ち着くのだが。ともかく、手札の操作はゲーム開始以前に隠れて行われるルール違反である。実際、観客たちはうすうすそれに気づき始めていたが、それは客席に大々的に披露されるものではなかった。このために、手札の操作はルール違反といえども特別に許され、こんな風に決められていた――クリームパンダの手札は「Qが三枚、JK、黒の3、赤の10、赤の9」、そして思想者の手札は「Kが二枚、黒の4が二枚、赤のJが二枚、赤の10が一枚」だ。これによって作られる最初の見せ場が、この「取引」だった。


 思想者の手札の中の{{傍点|文章=使える}}「数字カード」は、実質的に二枚の黒の4だけだ。赤のJや10は、思想者がどの段にいようとも――ゲーム開始時はもとより、黒の4を使ったときの4段目、二枚目の黒の4を使ったときの8段目では、階段を上りきるという敗北条件を満たしてしまうから――使えない。だから、思想者は一ターン目も、必ず黒の4を使う。そこに、黒の3を使ったクリームパンダがやって来て、「取引」を持ちかけるのだ。ちなみに、クリームパンダの手札の赤の10と9は、この取引でKと交換するカードとして用意されている。なぜこの組み合わせなのかといえば、先程の赤のJや10と同様、「使えないから」に決まっている。さて、パンダの実銃にも怖気づかず、このゲームにひょっとすると勝てるかもしれないと思っている傲慢な思想者は、この取引を持ち掛けられたとき、それを断るか、あるいは二枚のKのうち一枚だけを渡す。もし残ったKで「革命」を起こせたら、例の赤のJや10を使って、ひといきにこのゲームに勝利できるかもしれないからだ。無論、クリームパンダは思想者の「革命」すべてを打ち消せる分のQを持っているからそんなことは起こりえないし、そもそもこういう無礼を働いた時点で、思想者はJKによってその{{傍点|文章=分かりきった手札}}を公開され、殺される。……今起ころうとしていることは、まさにそのパターンだった。
 思想者の手札の中の{{傍点|文章=使える}}「数字カード」は、実質的に二枚の黒の4だけだ。赤のJや10は、思想者がどの段にいようとも――ゲーム開始時はもとより、黒の4を使ったときの4段目、二枚目の黒の4を使ったときの8段目では、階段を上りきるという敗北条件を満たしてしまうから――使えない。だから、思想者は一ターン目も、必ず黒の4を使う。そこに、黒の3を使ったクリームパンダがやって来て、「取引」を持ちかけるのだ。ちなみに、クリームパンダの手札の赤の10と9は、この取引でKと交換するカードとして用意されている。なぜこの組み合わせなのかといえば、先程の赤のJや10と同様、「使えないから」に決まっている。さて、パンダの実銃にも怖気づかず、このゲームにひょっとすると勝てるかもしれないと思っている傲慢な思想者は、この取引を持ち掛けられたとき、それを断るか、あるいは二枚のKのうち一枚だけを渡す。もし残ったKで「革命」を起こせたら、例の赤のJや10を使って、ひといきにこのゲームに勝利できるかもしれないからだ。無論、クリームパンダは思想者の「革命」すべてを打ち消せる分のQを持っているからそんなことは起こりえないし、そもそもこういう無礼を働いた時点で、思想者はJKによってその{{傍点|文章=分かりきった手札}}を公開され、殺される。……今起ころうとしていることは、まさにそのパターンだった。
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 そう言うと、助手はすぐに分電盤のレバーを上げ、エスカレーターは再び停止した。この一連の運動でパンダが立っているステップが移動した距離はたった1段分に過ぎなかったが、それでも元が3段目だったから、ステップはほとんど終端に迫っていた。やはりエスカレーターらしく、段どうしの段差も狭まっているようだ。そんな中、彼は仁王立ちで腕を組み、『数字カード』を宣言した。
 そう言うと、助手はすぐに分電盤のレバーを上げ、エスカレーターは再び停止した。この一連の運動でパンダが立っているステップが移動した距離はたった1段分に過ぎなかったが、それでも元が3段目だったから、ステップはほとんど終端に迫っていた。やはりエスカレーターらしく、段どうしの段差も狭まっているようだ。そんな中、彼は仁王立ちで腕を組み、『数字カード』を宣言した。


「さて、今は俺のターンだよな? じゃあ、赤のAだ」
「さて、今は俺様のターンだよな? じゃあ、赤のAだ」


 ここで、観客の中にもちらほらと、クリームパンダの「打開策」を理解したものが現れ始めた。彼はエスカレーターを使うことで、両者に同等に与えられたジレンマによる膠着状態を解消し、代わりに思想者一人にジレンマを押し付ける状況をつくることに成功したのだ。――このクリームパンダの「赤のA」宣言は、いうまでもなく嘘だと分かる。手札を一枚も持っていないのだから、当然だ。しかし、思想者はこれに対して「駄段々」を行うことができない。なぜならば、この状況で「駄段々」を成功させてしまえば、{{傍点|文章=思想者はクリームパンダと階段上の位置を交換しなければならない}}からだ。それはつまり、階段を上りきる一歩手前に移動してしまうことを意味する。そうなった場合、何が起こるかは明白だ――クリームパンダは再びエスカレーターを起動させ、強制的に思想者を階段の終端まで運んでしまうだろう。こうして、思想者の敗北によって、クリームパンダは勝利を手にするのだ。
 ここで、観客の中にもちらほらと、クリームパンダの「打開策」を理解したものが現れ始めた。彼はエスカレーターを使うことで、両者に同等に与えられたジレンマによる膠着状態を解消し、代わりに思想者一人にジレンマを押し付ける状況をつくることに成功したのだ。――このクリームパンダの「赤のA」宣言は、いうまでもなく嘘だと分かる。手札を一枚も持っていないのだから、当然だ。しかし、思想者はこれに対して「駄段々」を行うことができない。なぜならば、この状況で「駄段々」を成功させてしまえば、{{傍点|文章=思想者はクリームパンダと階段上の位置を交換しなければならない}}からだ。それはつまり、階段を上りきる一歩手前に移動してしまうことを意味する。そうなった場合、何が起こるかは明白だ――クリームパンダは再びエスカレーターを起動させ、強制的に思想者を階段の終端まで運んでしまうだろう。こうして、思想者の敗北によって、クリームパンダは勝利を手にするのだ。
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 「膠着状態」ならば、前後に小さな数字を宣言し続けることで、ゴールはできずともターンを回すことはできた。しかし思想者は今、何もできない。ターンを回すことすらできないのだ。――そして、それが実際のところ「ターンを渡さないための度を越した遅延行為」などではないとどれだけ主張しようとも、敗北を避けるためにターンを回さないことは、結果として、明確にルールで禁止されているその行為と見た目上全く変わらなかった。これこそが、クリームパンダの「打開策」だった。{{傍点|文章=何をしても敗北するし、何もしなくても敗北する}}。この思想者は、取りうる行動のすべてが敗北に直結する袋小路に陥れられてしまったのだ。
 「膠着状態」ならば、前後に小さな数字を宣言し続けることで、ゴールはできずともターンを回すことはできた。しかし思想者は今、何もできない。ターンを回すことすらできないのだ。――そして、それが実際のところ「ターンを渡さないための度を越した遅延行為」などではないとどれだけ主張しようとも、敗北を避けるためにターンを回さないことは、結果として、明確にルールで禁止されているその行為と見た目上全く変わらなかった。これこそが、クリームパンダの「打開策」だった。{{傍点|文章=何をしても敗北するし、何もしなくても敗北する}}。この思想者は、取りうる行動のすべてが敗北に直結する袋小路に陥れられてしまったのだ。


 観客席からは拍手が聞こえ始めた。狡猾なクリームパンダは、こういう状況を幾度となく生還してきた。だからこそ、「<ruby>"大勝ち"のパンダ<rt>Panda the "Creamer"</rt></ruby>」なのだ。彼は使えるものすべてを利用して、相手を叩きのめす。数々の違法賭博を実施・運営し、「国民堕落罪」によって極刑を言い渡されながらも、国に刑の執行を猶予され、このサーカスの執行人として生きることを許されたのは、ひとえに彼のそのカリスマ性、エンターテイナーとしての才能――実用的に言えばその{{傍点|文章=集客能力}}のおかげだったのだ。拍手はいつしか手拍子に移行し、思想者の自殺行為を急かすために熱狂した。
 観客席からは拍手が聞こえ始めた。狡猾なクリームパンダは、こういう状況を幾度となく生還してきた。だからこそ、「<ruby>"大勝ち"のパンダ<rt>Panda the "Creamer"</rt></ruby>」なのだ。彼は使えるものすべてを利用して、相手を叩きのめす。数々の違法賭博を実施・運営し、「国民堕落罪」によって極刑を言い渡されながらも、国に刑の執行を猶予され、このサーカスの執行人としてのみ生きることを許されたのは、ひとえに彼のそのカリスマ性、エンターテイナーとしての才能――実用的に言えばその{{傍点|文章=集客能力}}のおかげだったのだ。拍手はいつしか手拍子に移行し、思想者の自殺行為を急かすために熱狂した。


 ――しかし、この状況でさえ、思想者の顔に張り付いたにやけ顔は一向に曇らない。
 ――しかし、この状況でさえ、思想者の顔に張り付いたにやけ顔は一向に曇らない。


「なあ、『革命』っていうのは恐ろしいもんだよな。完全に取り除いたと思っていても、気づけば足元に潜伏している。権力者の盲点で、黙々とその時を待っているんだ」
「なあ、『革命』っていうのは恐ろしいもんだよな。完全に取り除いたと思っていても、気づけば足元に潜伏している。権力者の盲点で、黙々と{{傍点|文章=その時}}を待っているんだ」


「ビャハハハハ、おいおい、遅延行為はルール違反だぞ。誌的な負け惜しみなんてやめて、さっさと『数字カード』を宣言しな」
「ビャハハハハ、おいおい、遅延行為はルール違反だぞ。詩的な負け惜しみなんてやめて、さっさと『数字カード』を宣言しな」


「分かってる。俺の『数字カード』は……うーん、どうしよう。じゃあ、黒の8だ!」
「分かってる。俺の『数字カード』は……うーん、どうしよう。じゃあ、黒の8だ!」
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 鳴りやまない拍手の中、思想者はクリームパンダと位置を交換した。クリームパンダは目を細めて、5段上にいる思想者の男を見上げている。とどめだ。彼は助手に合図を送り、助手は力を籠めてレバーを押し下げ――その瞬間、思想者はしゃがんで、自身が乗っているステップの前面に立てかけられた何かを拾い、真上に掲げた。トランプのカード。それも、Kだ。
 鳴りやまない拍手の中、思想者はクリームパンダと位置を交換した。クリームパンダは目を細めて、5段上にいる思想者の男を見上げている。とどめだ。彼は助手に合図を送り、助手は力を籠めてレバーを押し下げ――その瞬間、思想者はしゃがんで、自身が乗っているステップの前面に立てかけられた何かを拾い、真上に掲げた。トランプのカード。それも、Kだ。
「見ろ、今が{{傍点|文章=その時}}だ」


 摩擦と回転の音がして、エスカレーターが動き始める。思想者が乗っているステップがエスカレーターの終端に飲み込まれるその瞬間、彼は「革命」を宣言し、Kのカードを5段下にいるクリームパンダに投げつけた。{{傍点|文章=勝利条件と敗北条件が入れ替わり}}、思想者はエスカレーターの終端、銀色の板の上に流れ着いて、勝利した。
 摩擦と回転の音がして、エスカレーターが動き始める。思想者が乗っているステップがエスカレーターの終端に飲み込まれるその瞬間、彼は「革命」を宣言し、Kのカードを5段下にいるクリームパンダに投げつけた。{{傍点|文章=勝利条件と敗北条件が入れ替わり}}、思想者はエスカレーターの終端、銀色の板の上に流れ着いて、勝利した。
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<big>'''6 思想者'''</big>
<big>'''6 思想者'''</big>


 クリームパンダの最大の失策は、あの「ありえない赤の9」のことをすっかり忘れていたことだった。Kを一枚しか渡してこなかったのにも関わらず、なぜKを二枚持っているはずの思想者の手札には残り一枚のKがなく、代わりに赤の9があったのか。あるいはそういう意味で、クリームパンダの最大の失策というのは、むしろ{{傍点|文章=後片付けを徹底しなかったこと}}なのかもしれない。というのも、思想者が最初に黒の4を使って下降したとき、彼はその4段目のステップから見て、3段目のステップの前面に何かがへばりついているのを発見していた――それは、前の思想者の血液と、その血液に濡れてへばりつくことができた一枚の厚紙だった。そう、赤の9のカードだ。ちょうどカードの背面が赤いのもあり、遠くから見ただけでは分からなかったのかもしれない。
 クリームパンダの最大の失策は、あの「ありえない赤の9」のことをすっかり忘れていたことだった。Kを一枚しか渡してこなかったのにも関わらず、なぜKを二枚持っているはずの思想者の手札には残り一枚のKがなく、代わりに赤の9があったのか。あるいはそういう意味で、クリームパンダの最大の失策というのは、むしろ{{傍点|文章=後片付けを徹底しなかったこと}}なのかもしれない。というのも、思想者が最初に黒の4を使って下降したとき、彼はその4段目のステップから見て、3段目のステップの前面に何かがへばりついているのを発見していた――それは、前回の思想者の血液と、その血液に濡れてへばりつくことができた一枚の厚紙だった。そう、赤の9のカードだ。ちょうどカードの背面が赤いのもあり、遠くから見ただけでは分からなかったのかもしれない。


 思想者はそもそも、手札が渡された時点で、このゲームが仕組まれていることをほとんど確信していたし、当然ながら、エスカレーターはどこかのタイミングで動くだろうとも思っていた。この自分の動きを操作するようなカードの組み合わせに加え、その後パンダが{{傍点|文章=都合よく}}一段上に来て、{{傍点|文章=都合よく}}二枚もKを持っている自らにあの「取引」を仕掛けてきたことで、彼は「仕組まれたゲーム」の考えが十中八九正しいだろうとして、さらにこう考えた――ここに来た他の思想者も、自分と同じ手札を渡され、自分がこれから辿る展開と同じ展開を辿っただろう。とすると、この血の付いた3・4段目では、何らかの戦闘行為が発生する可能性が高い。だから、その{{傍点|文章=戦闘に乗じてクリームパンダの手札を失わせ}}、さらに{{傍点|文章=Kを赤の9と交換してここに立てかけておく}}のには、絶好の機会だ!
 思想者はそもそも、手札が渡された時点で、このゲームが仕組まれていることをほとんど確信していたし、当然ながら、エスカレーターはどこかのタイミングで動くだろうとも思っていた。この自分の動きを操作するようなカードの組み合わせに加え、その後パンダが{{傍点|文章=都合よく}}一段上に来て、{{傍点|文章=都合よく}}二枚もKを持っている自らにあの「取引」を仕掛けてきたことで、彼は「仕組まれたゲーム」の考えが十中八九正しいだろうとして、さらにこう考えた――ここに来た他の思想者も、自分と同じ手札を渡され、自分がこれから辿る展開と同じ展開を辿っただろう。とすると、この血の付いた3・4段目では、何らかの戦闘行為が発生する可能性が高い。だから、その{{傍点|文章=戦闘に乗じてクリームパンダの手札を失わせ}}、さらに{{傍点|文章=Kを赤の9と交換してここに立てかけておく}}ことにしよう。またとない機会だ!


 彼は、恣意的なエスカレーターの作動・停止によってあのような状態に追い込まれるゲームのパターン、そしてその解決策である「傍に『革命』のカードを隠しておくこと」を最初から思いついていた。クリームパンダが説明した「駄段々」のルールには、「捨てられたカードは拾ってもいい」とこそあったが、「{{傍点|文章=カードを勝手に捨ててはならない}}」などというものは存在しなかった。だから、こうしてKをステップの隅に捨てておき、その時が来たタイミングで再び取得することは、完全に{{傍点|文章=適法}}の行いだったのだ。赤の9は実際手に入れなくても大した支障はなかったが、カードが一枚失くなっているという状況で下手に粗をつかれるよりは、むしろ最初から手札にあったのは二枚目のKではなく赤の9だという風に見せておくことで、クリームパンダに「自分が不正に操作したはずの相手の手札が不正に改竄されている」という馬鹿馬鹿しい主張以外の何も言えないようにさせるという意味があった。
 彼は、恣意的なエスカレーターの作動・停止によってあのような状態に追い込まれるゲームのパターン、そしてその解決策である「傍に『革命』のカードを隠しておくこと」を最初から思いついていた。クリームパンダが説明した「駄段々」のルールには、「捨てられたカードは拾ってもいい」とこそあったが、「{{傍点|文章=カードを勝手に捨ててはならない}}」などというものは存在しなかった。だから、こうしてKをステップの隅に捨てておき、{{傍点|文章=その時}}が来たタイミングで再び取得することは、完全に{{傍点|文章=適法}}の行いだったのだ。赤の9は実際手に入れなくても大した支障はなかったが、カードが一枚失くなっているという状況で下手に粗をつかれるよりは、むしろ最初から手札にあったのは二枚目のKではなく赤の9だという風に見せておくことで、クリームパンダに「自分が不正に操作したはずの相手の手札が不正に改竄されている」という馬鹿馬鹿しい主張以外のどんな主張もできなくさせるという意味があった。


 実際、このゲームを仕組んでいたのは、最終的には思想者の方だったと言っていい。彼は、この「解決策」を用いるために、「革命」を隠しておく場所から逆に考えて、クリームパンダをこの3段目のステップに立ち往生させることにした。それは、足元に立てかけた「革命」が見つかるのを防ぐためでもあったし、そもそも「革命」のカードは、「駄段々」を成功させて自身と位置を交換してくるプレイヤーがステップを移動せずとも手が届く距離になければならなかったからだ。無論、そうでなければ、位置交換後の自身が「革命」を取得できないだろう。――そして、相手を立ち往生させるための最も手っ取り早い方法は、すべての手札を失わせることだった。
 実際、このゲームを仕組んでいたのは、最終的には思想者の方だったと言っていい。彼は、この「解決策」を用いるために、「革命」を隠しておく場所から逆に考えて、クリームパンダをこの3段目のステップに立ち往生させることにした。それは、足元に立てかけた「革命」が見つかるのを防ぐためでもあったし、そもそも「革命」のカードは、「駄段々」を成功させて自身と位置を交換してくるプレイヤーがステップを移動せずとも手が届く距離になければならなかったからだ。無論、そうでなければ、位置交換後の自身が「革命」を取得できないだろう。――そして、相手を立ち往生させるための最も手っ取り早い方法は、すべての手札を失わせることだった。
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 クリームパンダは激昂し、思想者の元に駆け上がってくる。このゲームは思想者の勝利という形で幕を閉じたから、勝手に階段を移動するのも最早ルール違反ではなくなった。屈辱的にも、クリームパンダは思想者を殺すための行動を思想者のおかげでようやく開始することができた。怒りに我を忘れたクリームパンダを前にして、思想者は冷静に、手札の中から適当に見繕ったカードを、エスカレーターのステップの隙間に挿し込んだ。その瞬間、警報音がけたたましく鳴り響き、エスカレーターの安全装置が作動した。ステップの移動は急停止し、これによってバランスを崩したクリームパンダは滑稽にすっ転んでしまった。
 クリームパンダは激昂し、思想者の元に駆け上がってくる。このゲームは思想者の勝利という形で幕を閉じたから、勝手に階段を移動するのも最早ルール違反ではなくなった。屈辱的にも、クリームパンダは思想者を殺すための行動を思想者のおかげでようやく開始することができた。怒りに我を忘れたクリームパンダを前にして、思想者は冷静に、手札の中から適当に見繕ったカードを、エスカレーターのステップの隙間に挿し込んだ。その瞬間、警報音がけたたましく鳴り響き、エスカレーターの安全装置が作動した。ステップの移動は急停止し、これによってバランスを崩したクリームパンダは滑稽にすっ転んでしまった。


 観客席でゲームを監視していた二人の警官は、ここでようやく状況を理解した――思想者がサーカスから脱走した! すでに彼は二階のフロアの角を曲がり、姿を消してしまっていた。クリームパンダは思想者の処刑のために「駄段々」を利用したつもりだったが、蓋を開けてみれば、「駄段々」はただ思想者の逃走のために利用されていたのだ。思想者がこのような迂遠な道筋に基づいてゲームを展開させたのは、すべて{{傍点|文章=ゲーム終了時にクリームパンダが無力化され}}、{{傍点|文章=自分はエスカレーターを上りきっている}}という状況をつくりあげるためだった。警官はすぐさま思想者を追おうとしたが、観客席は混乱状態で、まともに進むことができない。それは、「クリームパンダが敗北した」という現前の事実に加え、どこから漏れ出したのか、ある驚くべき事実が広まったことによるパニックだった――あの思想者は、我らが元首を裏切って鉛玉の制裁を受けたものの、その悪臭を放つ気性によってか死神にさえ拒まれ、未だに危険思想活動を繰り返している「第一級国賊」の一人、「<ruby>青臭い黴<rt>ブルーチーズ</rt></ruby>」その人だ!
 観客席でゲームを監視していた二人の警官は、ここでようやく状況を理解した――思想者がサーカスから脱走した! すでに彼は二階のフロアの角を曲がり、姿を消してしまっていた。クリームパンダは思想者の処刑のために「駄段々」を利用したつもりだったが、蓋を開けてみれば、「駄段々」はただ思想者の逃走のために利用されていたのだ。思想者がこのような迂遠な道筋に基づいてゲームを展開させたのは、すべて{{傍点|文章=ゲーム終了時にクリームパンダが無力化され}}、{{傍点|文章=自分はエスカレーターを上りきって二階の廊下の奥に消えている}}という状況をつくりあげるためだった。警官はすぐさま思想者を追おうとしたが、観客席は混乱状態で、まともに進むことができない。それは、「クリームパンダが敗北した」という現前の事実に加え、どこから漏れ出したのか、ある驚くべき事実が広まったことによるパニックだった――あの思想者は、我らが元首を裏切って鉛玉の制裁を受けたものの、その悪臭を放つ気性によってか死神にさえ拒まれ、未だに危険思想活動を繰り返している「第一級国賊」の一人、「<ruby>青臭い黴<rt>ブルーチーズ</rt></ruby>」その人だった!


「なあ、待ってくれ、憲兵の兄貴たち。俺様の人気はこんなもんじゃあ衰えねえ。まだ得意の{{傍点|文章=集客能力}}は見込めるぜ。だから……」
「なあ、待ってくれ、憲兵の兄貴たち。俺様の人気はこんなもんじゃあ衰えねえ。まだ得意の{{傍点|文章=集客能力}}は見込めるぜ。だから……」


 言い終わらないうちに、羽虫が耳の傍を通り過ぎるような音――サイレンサー付きライフルの射撃音――を感じて、クリームパンダの視界がひっくり返った。こうして、ショッピングモールの中央、停止したエスカレーターの表面には、また新しい鮮血の{{傍点|文章=しみ}}が与えられた。警官は銃声で人流を引き離せることに気づき、やたらめったら天井に向かって威嚇射撃を行いながら、二階のフロアに繋がる静止したエスカレーターを駆け下りていった。しかし、思想者は――チーズはすでにショッピングモールを脱出し、どこかの路地裏へと駆け込んでいた。――足元に横たわる「革命」に気づかず、まんまとしてやられたあの大男! 思い返すだけで噴きだしそうだ。今度誰かに話してやろう。……にやけ顔は、一向に曇らない。
 言い終わらないうちに、羽虫が耳の傍を通り過ぎるような音――サイレンサー付きライフルの射撃音――を感じて、クリームパンダの視界がひっくり返った。こうして、ショッピングモールの中央、停止したエスカレーターの表面には、また新しい鮮血の{{傍点|文章=しみ}}が与えられた。警官は銃声で人流を引き離せることに気づき、やたらめったら天井に向かって威嚇射撃を行いながら、二階のフロアに繋がる静止したエスカレーターを駆け下りていく。しかし、思想者は――チーズはすでにショッピングモールを脱出し、どこかの路地裏へと駆け込んでいた。足元に横たわる「革命」に気づかず、まんまとしてやられたあの大男! 思い返すだけで噴きだしそうだ。今度誰かに話してやろう――にやけ顔は、やはり一向に曇らない。
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