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私は保健室の先生におなかが痛いと噓をついた。一人で行けると言ったけど、和佳さんは保健室に着くまで私と並んで歩いてくれた。先生はいくつか問診した後、体育で怪我をしたらしき下級生の治療に向かった。ライトグリーンのカーテンで仕切られたベッドには、端に腰掛けた私とそばに立つ和佳さんだけが残された。みじめに思えるから、一人になりたかった。 | |||
<br>「……もう大丈夫だから。戻っていいよ」 | <br>「……もう大丈夫だから。戻っていいよ」 | ||
<br> ちょっと迷った顔をした和佳さんは、けれど頷いて踵を返した。しかし振り返ると | <br> ちょっと迷った顔をした和佳さんは、けれど頷いて踵を返した。しかし振り返ると | ||
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<br>「そう。じゃあ、私、もう行くね」 | <br>「そう。じゃあ、私、もう行くね」 | ||
<br>「うん」 | <br>「うん」 | ||
<br> | <br> 和佳さんはカーテンを丁寧に閉めて、今度こそ帰っていった。上履きを脱いでベッドに横たわると、制服にくしゃりとしわが寄った。授業をしているクラスの気配が感じられなくて、この部屋だけは学校の他の教室と隔絶されているみたいに感じる。目を閉じるとさっき聞いた笑い声が蘇ってくるから、見慣れない天井を眺めて深呼吸を繰り返した。 | ||
<br> 養護の先生と下級生の話し声だけが聞こえる。放っておかれたくて、私の存在に気づかれたくないように思えて、ひたすら物音を殺した。下級生が去って、先生も机に向かったらしく保健室に静寂が下りて、時間が過ぎるのをじっと待ち続けた。体調は回復しつつあったけど、気分は最悪だった。 | |||
<br> またやってしまった。でも、私だって好きでやってるんじゃない。みんなの前に立つと、みんなの目を感じると、声の出し方が思い出せなくなってしまうのだ。 |
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