Sisters:WikiWikiオンラインノベル/名探偵シャーロック・ゲームズの事件簿 田中邸事件

問題編

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 私、シャーロック・ゲームズは名探偵だ。かの有名な私立探偵シャーロック・ホームズの孫である。え? それなら姓の「ホームズ」が変わらず、名前が変わっているはずだって? 違う違う。彼は母方の祖父なんだよ。そういうわけで、私にも推理力が遺伝したんだ。だから、私は関わった事件は必ず解決する。じっちゃんの名にかけて!
 ゲームズは高名な推理作家である田中零蔵の家に電車で向かっていた。少し前に招待状が来たのだ。
 最寄り駅に着き、改札を抜けると、右手にギプスをつけた男が出迎えてくれた。彼の名前は田中一郎といい、零蔵の長男だという。なんでも昨日階段から落ちて右腕を折ったらしい。
 30分ほど一緒に歩き、田中宅に到着したときには7時半になっていた。大きな屋敷に入ると、夕食の準備がされていた。田中家の人々がだんだん集まり、私も一緒に夕食を取らせてもらえるようだった。しかし零蔵は来なかった。どうやら仕事に集中しているときは、しばらくしないと来ないらしい。こうして夕食が始まった。
 ゲームズの隣には、零蔵の次男の二郎が座っていた。大柄で、近くの病院で働く医師らしい。その横には二郎の妻、風香がいた。明るく、話すのが好きらしい。自分は左利きかつAB型で珍しいのだ、などと喋っている。彼女の隣には、2人の娘の月奈がスマホ片手に食事をしていた。ずっとスマホを左手で持っており、時々人差し指で何かをフリック入力している。その向かいにいる零蔵の妻、花子が月奈にマナーを注意したが、彼女は意に介していない。その横には、一郎とその息子の鳥夫が並んで座っている。この親子は顔も背丈もよく似ている。同じタイミングで箸を伸ばすと、ギプスの有無と鳥夫の方が少し日焼けしていることを除けば、まるで2人の間に鏡があるみたいだ。鳥夫の母親はもう亡くなっているらしい。そして、ゲームズの向かいには零蔵の分の空席があった。
 夕食を食べ終えても、零蔵はまだ来なかった。そこで花子が、
「7時過ぎに私と鳥夫で一度声をかけたら、返事はあったのですが…。呼びに行きましょう」
と言った。花子はこの中で一番背が低いが、堂々としていて実際より大きく見えた。そのまま成り行きで皆が零蔵の書斎に向かった。花子がドアをノックしたが、返答は無い。
「開けますよ」 花子はドアを開いた。誰かが悲鳴を上げた。零蔵は部屋の奥で血を流して倒れていた。椅子からずり落ちて横たわっている。医者の二郎が駆け寄った。二郎は零蔵の手を取り、脈を診たが、こちらを向いて顔を横に振った。
「死んでいる」 皆が動揺した。一郎は走って救急に電話をかけに行った。
 零蔵は部屋の奥の壁に正対して死んでいた。彼の左側頭部にある大きな傷が上になっていた。そして床には血のついたトロフィーが転がっていた。
「こ、ここに置いてあったものかと…」 風香が背伸びしながらまっすぐ手を挙げ、棚の最上段を指さした。その先には、確かに不自然に空いたスペースがあった。棚には全ての段にトロフィーがぎっしり並べられていたが、そこにだけ何もない。
 零蔵は万年筆を握っていた。遺体の左側には机と椅子があった。どうやら死の直前まで原稿を書いていたようだ。遺体と同じ壁を向いた机の上には、書きかけの原稿用紙とインクだけがあった。
 一体誰が零蔵氏を殺したのだろうか? ゲームズの思考が回転し始める。

読者への挑戦
 犯人は登場人物のなかにいます。また、犯人は1人です。犯人は誰でしょう?

解決編

 一同はダイニングに戻った。一郎も電話を掛け終えている。ゲームズは一度深呼吸をすると、言った。
「皆さん、犯人が分かりました」
皆がさっとゲームズの方を向いた。
「本当ですか? 一体誰なんです?」
花子がすぐに反応した。
「まあまあ焦らず。順を追って説明します。では、解決を始めましょうか。」
ゲームズは一呼吸おくと、指を7本立てた。
「さて、この家には今私を含めて7人の容疑者がいます。これから絞っていきましょう。まずはアリバイです。花子さんが『7時過ぎに私と鳥夫で一度声をかけたら、返事はあった』とおっしゃっていましたね。つまり、犯行時刻はそれ以降です。一方、私と一郎氏が『30分ほど一緒に歩き』、この家に着いたのは『7時半』。つまり、私シャーロック・ゲームズと一郎氏は犯人候補から除外されます」
一郎は黙ってゲームズを見つめていた。ゲームズは指を2本折り曲げた。残りは5本。
「次は、凶器です。凶器に使われたトロフィーは、棚の最上段にありました。それは風香さんが『背伸びしながらまっすぐ手を挙げ』ないと届かない場所でしたね。しかし、人はジャンプしないと取れないようなものを凶器に選びません。下の方にもたくさんトロフィーはありましたからね。よって、風香さん、そして『この中で一番背が低い』花子さんが除外されます」
風香は大きく息を吐いた。花子はゆっくりと瞬きしただけだった。残り3本。
「最後は、利き手です。零蔵氏は『部屋の奥の壁に正対して』おり、『左側頭部にある大きな傷』が致命傷でした。書斎の間取りから考えても、犯人が左側から凶器を振るったのは間違いありません。ということは、犯人は左利きということがわかります。私はあなた達と今日初めて会いましたが、一緒に食事を取れば利き手くらいわかります。
 まず月奈さん。あなたは『ずっとスマホを左手で持』ちながら『人差し指で何かをフリック入力』したり箸を使ったりしていました。箸はもちろん人差し指でフリック入力するときには利き手を使います。あなたは右利きだから除外」
指は3本となった。月奈はついと目を逸らした。
「次いで鳥夫氏。あなたは『右手にギプスをつけ』ていて左手しか使えない父上と並ぶと、『まるで2人の間に鏡があるみたい』だったことをよく覚えていますよ。あなたも右利きだ」
鳥夫は青褪めて残った1人を見た。
「そう、犯人は、」
ゲームズは残った右手の人差し指を突きつけ、言った。
「あんただ、田中二郎」