Sisters:WikiWikiオンラインノベル/怪異との遭遇

 夜遅く、私はアパートの自室に帰ってきた。奥へと上がり、マスクを取ってゴミ箱に入れ、一息つく。外で夕食は済ませてきた。独り暮らしの住まいは、静まりかえっている。

 携帯電話が鳴ったのは、その時だった。こんな時間に、誰からだろう? そう訝りながら、私は電話に出た。

「もしもし、あたしメリーさん。今、最寄り駅にいるの」

 幼い女の子の声が聞こえ、あとはツー、ツーという不通音が聞こえるだけだった。切れている。誰だろう? 間違い電話だろうか?

 すると、またも電話が鳴った。少し不気味に思いながら、通話ボタンを押す。

「もしもし、あたしメリーさん。今、商店街にいるの」

 また、電話は切れた。近づいている? そして、メリーさんという名前。どこかで聞いたことがあるような……。

 三度、電話がかかってきた。気味が悪い。すると、携帯に触っていないのに、勝手に電話が繋がった。

「もしもし、あたしメリーさん。今、道の向かいにいるの」

 私は思わず小さな悲鳴をあげた。ようやく思い出した。小さい頃、お父さんから貰った、可愛らしい西洋人形。でも、すぐに飽きたから捨ててしまった。その人形の名前が、メリーさんだった。震える指で携帯の電源を切る。なのに。

「もしもし、あたしメリーさん。今、アパートの前にいるの」

 不気味な女の子の声が流れる。思わず私は携帯を投げ捨てた。どうなってるの?

 怯える私を嘲笑うかのように、またメリーさんの声が流れ始めた。

「もしもし、あたしメリーさん。今、玄関の前にいるの」

 恐る恐る私は立ち上がり、携帯を拾い上げた。ゆっくりと玄関へ向かう。深呼吸をすると、ドアスコープを覗き込んだ。誰の姿も無い。

 なんだ、誰もいないじゃない。私は大きく息をついた。その時、携帯がまた鳴った。

「もしもし、あたしメリーさん」

 今までと全く違う邪悪な声に、背筋が凍る。

「今、あなたの後ろにいるの」

 はっと振り返った私の目の数センチ先で、虚ろな眼が私を凝視していた。禍々しい空気を纏った、人形だった。

 私は思わず叫んだ。いや、喉が引き攣ってそれすらできない。人形の口が、鋭い歯を剥き出しにしてぐわあっと開く。

「きゃあぁぁぁああああ!!!」

 次の瞬間、人形の姿がふっとかき消えた。

 私は、あんぐりと口を開けたまま、へたり込んだ。最後まで声が出せないまま、ふと自分がマスクを外していたことに気がついた。

 人形から見ても私は醜いのか。口裂け女の私は、少し落胆した。