私はミステリが好きである。そのため、中学生の頃は「高校生になったら文芸部に入って、部誌にミステリを載せるんだ!」などと息巻いていた。そんな私だから、国語の夏休みの課題に「創作文」というコーナーがあるのを見て、ミステリを書いて提出することを決意した。結果として出来上がったのが、「水とちくわとカップ麺」である。 創作文を書くことを決意したとはいえ、レギュレーションはいくつかあった。その一つが文字数である。原稿用紙にして20枚以下ということで、既に書いていた「顔面蒼白」や「疑心暗鬼」よりも短いものを書かねばならなかった。また、文芸部に出すためのミステリも書かなければならず、「疑心暗鬼」をそれにあてることにしたため、リライトという手も使えなかった。かくして、短めの新作ミステリを書くという道が定まったのである。 当初の予定として、見当していた"盗聴もの"を、創作文課題に当てようと思っていた。しかし、考えども考えどもまとまらず、なかなか執筆に着手できなかった。そんな中、私は家族とともに帰省したのであった。岐阜の祖父母宅に宿泊しているとき、盗聴の見当に飽きた私は、別の枠や骨を考えていた。その一つが、何を隠そう、本作のメイントリックの国籍誤認トリックである。 テレビか何かで、ナオミという名の外国人がいることは知っていた。それから、眞栄田郷敦という俳優の名前が念頭にあり、「日本人が犯人→犯人は直美→と思ったら郷敦でした!」というイメージをしていた。このアイデア自体は、相当前から思いついていたと思う。このアイデアを生かすには、「日本人が犯人というロジック」と「舞台設定」が必要だった。後者に関しては、様々な国の宇宙飛行士が集う宇宙ステーションというのをイメージしていたが、事件の起こしにくさなどから、結局は放棄した。宇宙関連の記事・ノベルの腹案が多かった、というのもある。 しかし何を置いても、喫緊の課題は「日本人が犯人というロジック」であった。これをひねり出さねば、そもそもアイデアが使えない。そこで、私はこれを考えた。身体的特徴などではなく、国籍で明確に区別されるような要素が必要ということで、厳密さには欠けてしまうと思うし、結構難しかった。何はともあれ、日本人に特徴的な何かが必要となる。例えば、「犯人は犯行現場でお辞儀をした。だから、犯人は日本人である!」みたいな感じである。しかし、お辞儀や食前に手を合わせる行為などでは、さすがに厳しい。そこで思い浮かんだのが、箸である。 中国人など、日本人というよりは東洋人の習慣であるが、登場人物に東洋人が日本人だけならいいんだ、と思い直した。「犯人は箸でものを食べた。だから、犯人は日本人である!」というルートが定まったのである。
|