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<br>「その通り。だから、徹底的に調べました」 | <br>「その通り。だから、徹底的に調べました」 | ||
<br> 警部補は高らかに言った。 | <br> 警部補は高らかに言った。 | ||
<br> | <br>「犯人は盗人の仕業に見せかけようとした。なら、犯人はどこから家に入ったのか。当然、客として玄関から、でしょう。だから、玄関から死体のあるリビングまでを隈なく調べました。するとね、出たんですよ」 | ||
<br>「……何が?」 | <br>「……何が?」 | ||
<br> 問いかける俺の声は、震えていた気がする。 | <br> 問いかける俺の声は、震えていた気がする。 | ||
<br>「ルミノール反応が、来客用スリッパから。つまり、スリッパに血が付いていたんです」 | <br>「ルミノール反応が、来客用スリッパから。つまり、スリッパに血が付いていたんです」 | ||
<br> 俺は愕然とした。必死に記憶を辿る。森を刺し、傷口を押さえていた森の右手がだらりと{{傍点|文章=垂れ下がる}}……。 | <br> 俺は愕然とした。必死に記憶を辿る。森を刺し、傷口を押さえていた森の右手がだらりと{{傍点|文章=垂れ下がる}}……。 | ||
<br> | <br> ……あの時か! | ||
<br> {{傍点|文章=スリッパは黒かった}}。だから、見落としたのか……。 | <br> {{傍点|文章=スリッパは黒かった}}。だから、見落としたのか……。 | ||
<br> 警部補は尚も喋り続ける。 | <br> 警部補は尚も喋り続ける。 | ||
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「ところで、川上さん。森さんはあなたと同じ中学校出身らしいですね」 | |||
<br> | <br> ハッと思わず顔を上げた。そこまで調べがついているのか。想定より、ずっと早い。 | ||
<br> 警部補は顔に憐憫の情を滲ませた。 | <br> 警部補は顔に憐憫の情を滲ませた。 | ||
<br>「随分酷く、彼に虐められていたそうじゃないですか」 | <br>「随分酷く、彼に虐められていたそうじゃないですか」 | ||
<br> | <br> だったら俺は無罪になるか? そんなことはない。 | ||
<br>「それを恨んで、俺が森を殺したって言うんですか? 冗談じゃない!」 | <br>「それを恨んで、俺が森を殺したって言うんですか? 冗談じゃない!」 | ||
<br> そう叫ぶと、警部補は心なしか悲しげな顔をした。が、すぐに引き締まった表情に戻ると、俺を真っ直ぐ見つめた。 | <br> そう叫ぶと、警部補は心なしか悲しげな顔をした。が、すぐに引き締まった表情に戻ると、俺を真っ直ぐ見つめた。 | ||
<br> | <br>「ところで、川上さん。先程血痕の話をした時、あなたは{{傍点|文章=強盗が森さんを刺した}}、と仰いましたよね?」 | ||
<br> 何を当たり前のことを。俺は思わず頷いた。 | <br> 何を当たり前のことを。俺は思わず頷いた。 | ||
<br> | <br>「私は事件の概要を話す時、こう言ったんです。『{{傍点|文章=盗人は金槌か何かで窓を割り}}』『{{傍点|文章=鉢合わせし}}』『{{傍点|文章=そのまま森さんに襲いかかり殺してしまった}}』と。そして、{{傍点|文章=私は森さんが刺殺されたとは一言も言わなかった}}」 | ||
<br> | <br> 口から、得体の知れない息が漏れた。 | ||
<br> そうか、そうだったのか。 | <br> そうか、そうだったのか。 | ||
<br>「{{傍点|文章=普通}}、{{傍点|文章=森さんは金槌で撲殺されたと思うでしょう}}。{{傍点|文章=なのになぜ}}、{{傍点|文章=あなたは森さんが刺殺されたことを知っていたんです}}?」 | <br>「{{傍点|文章=普通}}、{{傍点|文章=森さんは金槌で撲殺されたと思うでしょう}}。{{傍点|文章=なのになぜ}}、{{傍点|文章=あなたは森さんが刺殺されたことを知っていたんです}}?」 | ||
<br> 最初から、俺はこの男の掌の上で踊らされていたのか。 | <br> 最初から、俺はこの男の掌の上で踊らされていたのか。 | ||
<br> 咄嗟にコップを掴むが、茶はもう残っていない。 | |||
<br> ふと、恐怖が芽生えた。逮捕されたら、どうなる? 刑務所で何年暮らすんだ? 職場はどうなる? 親は? | <br> ふと、恐怖が芽生えた。逮捕されたら、どうなる? 刑務所で何年暮らすんだ? 職場はどうなる? 親は? | ||
<br> 駄目だ、嫌だ! | <br> 駄目だ、嫌だ! |
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