「Sisters:WikiWikiオンラインノベル/顔面蒼白」の版間の差分

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改稿
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 深夜12時57分、川上功大は隣家のインターホンを押した。理由は、住人の森金吾を殺すためである。
 深夜0時57分、川上功大は隣家のインターホンを押した。理由は、住人の森金吾を殺すためである。
<br> 1ヶ月前、この家に森が引っ越してきた。挨拶に来た森の顔を見たとき、俺は戦慄した。忘れもしない、中学の時俺を虐めていた奴だったからだ。だがそれ以上に恐ろしかったのは、森が俺の顔はおろか名前すら覚えていないことだった。
<br> 1ヶ月前、この家に森が引っ越してきた。挨拶に来た森の顔を見たとき、俺は戦慄した。忘れもしない、中学の時俺を虐めていた奴だったからだ。だがそれ以上に恐ろしかったのは、森が俺の顔はおろか名前すら覚えていないことだった。
<br> 俺を元同級生とは露知らず、森は順風満帆な近況を得意げに語った。小さなIT会社を設立し、経営が軌道に乗り始めたのだと。俺に水を掛け、靴を隠し、腹を蹴ったこいつが、キラキラした面でキラキラした生活を送ってやがる。俺は毎日ボロ工場で汗みずくになりながら働いているのに。
<br> 俺を元同級生とは露知らず、森は順風満帆な近況を得意げに語った。小さなIT会社を設立し、経営が軌道に乗り始めたのだと。俺に水を掛け、靴を隠し、腹を蹴ったこいつが、キラキラした面でキラキラした生活を送ってやがる。俺は毎日ボロ工場で汗みずくになりながら働いているのに。
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<br> この家には昨日──いや、もう一昨日か──にも訪れた。森が挨拶ついでに招いてくれた前回は、茶を飲んで早々に退散したが。
<br> この家には昨日──いや、もう一昨日か──にも訪れた。森が挨拶ついでに招いてくれた前回は、茶を飲んで早々に退散したが。
<br> 森は、薄いTシャツと短パンにスリッパという格好だった。寝間着だろう。ビンゴだ。お前がFacebookで「毎日夜1時丁度に寝る」と投稿していたから、この時間にしたんだ。
<br> 森は、薄いTシャツと短パンにスリッパという格好だった。寝間着だろう。ビンゴだ。お前がFacebookで「毎日夜1時丁度に寝る」と投稿していたから、この時間にしたんだ。
<br> 森が、両手に手袋をしている俺を怪しむ素振りは無い。俺は靴を脱ぐと、森が差し出した黒いスリッパを履いた。靴箱も、傘立ても、絨毯も、お洒落に揃えやがって。吐き気がする。
<br> 俺は両手に手袋をしているが、森が俺を怪しむ素振りは無い。俺は靴を脱ぐと、森が差し出した黒いスリッパを履いた。靴箱も、傘立ても、絨毯も、お洒落に揃えやがって。吐き気がする。
<br> 森は俺が提げている紙袋に目を留めた。ずっと前に誰かから貰った京都銘菓の袋だ。
<br> 森は俺が提げている紙袋に目を留めた。ずっと前に誰かから貰った京都銘菓の袋だ。
<br>「京都ですか」
<br>「京都ですか」
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<br> 俺達は廊下を真っ直ぐ歩いていった。森は場を持たせようと何か喋っている。
<br> 俺達は廊下を真っ直ぐ歩いていった。森は場を持たせようと何か喋っている。
<br>「京都ですかあ。中学の修学旅行で行ったきりですねえ」
<br>「京都ですかあ。中学の修学旅行で行ったきりですねえ」
<br> 廊下の突き当たりにある扉をくぐった。ここが居間だ。
<br> その修学旅行に俺もいたんだがな。廊下の突き当たりにある扉をくぐった。ここが居間だ。
<br>「その時買った木刀はまだ持ってますよ」
<br>「その時買った木刀はまだ持ってますよ」
<br> 奥にはカーテンをひかれた、庭に続く窓。右手の扉の向こうが寝室。
<br> 奥にはカーテンをひかれた、庭に続く窓。右手の扉の向こうが寝室。
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 ただ殺しただけでは、すぐに疑われてしまう。俺は森の隣人なのだし、中学で同級だったと判れば、一躍最重要容疑者だ。
 ただ殺しただけでは、すぐに疑われてしまう。俺は森の隣人なのだし、中学で同級だったと判れば、一躍最重要容疑者だ。
<br> だから、計画を立てた。俺の計画はシンプル、“強盗の仕業に見せかける”というものだ。森が寝ている時、居間の窓を割って強盗が侵入してくる。しかし目を覚ました森と鉢合わせ。慌てて刺してしまい、怖くなって何も盗まず逃走、というシナリオだ。
<br> だから、計画を立てた。俺の計画はシンプル、“居直り強盗の仕業に見せかける”というものだ。森が寝ている時、居間の窓を割って泥棒が侵入してくる。しかし目を覚ました森と鉢合わせ。慌てて刺してしまい、怖くなって何も盗まず逃走、というシナリオだ。
<br> 警察も忙しい。一度強盗の仕業に見えれば、そう結論づけてくれるだろう。
<br> 警察も忙しい。一度強盗の仕業に見えれば、そう結論づけてくれるだろう。
<br> 俺はまず、返り血を浴びていないか確認した。全身を軽く見ていく。どうやら、右の手袋以外は無事のようだ。左手で紙袋からビニール袋を取り出し、両手袋を脱いでそれに入れる。口をきつく閉じ、ビニール袋をまた紙袋に戻した。入れ替わりに軍手を出し、それを両手にはめる。
<br> 俺はまず、返り血を浴びていないか確認した。全身を軽く見ていく。どうやら、右の手袋以外は無事のようだ。左手で紙袋からビニール袋を取り出し、両手袋を脱いでそれに入れる。口をきつく閉じ、ビニール袋をまた紙袋に戻した。入れ替わりに軍手を出し、それを両手にはめる。
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<br> カーテンをくぐり、窓を開けた。紙袋から新しい靴を一足出し、それを履いて庭へと出る。靴もナイフも、道具は全て入手ルートを辿れないものを用意した。これらから俺に捜査の手が及ぶ心配は無い。
<br> カーテンをくぐり、窓を開けた。紙袋から新しい靴を一足出し、それを履いて庭へと出る。靴もナイフも、道具は全て入手ルートを辿れないものを用意した。これらから俺に捜査の手が及ぶ心配は無い。
<br> 紙袋を地面に置くと、庭を囲う柵にとりつき、乗り越えた。柵とはいっても、俺の胸くらいしかない。柵の外は小道で、向かい側はだだっ広い田圃になっている。一帯は真っ暗で、この時間に人通りはまず無い。
<br> 紙袋を地面に置くと、庭を囲う柵にとりつき、乗り越えた。柵とはいっても、俺の胸くらいしかない。柵の外は小道で、向かい側はだだっ広い田圃になっている。一帯は真っ暗で、この時間に人通りはまず無い。
<br> 俺は一度深呼吸をした。俺は強盗。今からこの家に侵入する。よし。
<br> 俺は一度深呼吸をした。俺は泥棒。今からこの家に侵入する。よし。
<br> 柵に手をかけ、体を引き上げる。さっきのように柵を乗り越え、庭に降り立った。ポケットからスマホを取り出し、ライトを点ける。紙袋に入れてあったハンマーを持ち、窓に近づいた。狙うはクレセント錠の付近。手首を素早く振り、ハンマーを打ち付けた。鈍い音がし、僅かに罅が入る。もう少し強く。再度ハンマーを振ると、バリンと拳大の穴が開いた。完璧。
<br> 柵に手をかけ、体を引き上げる。さっきのように柵を乗り越え、庭に降り立った。ポケットからスマホを取り出し、ライトを点ける。紙袋に入れてあったハンマーを持ち、窓に近づいた。狙うはクレセント錠の付近。手首を素早く振り、ハンマーを打ち付けた。鈍い音がし、僅かに罅が入る。もう少し強く。再度ハンマーを振ると、バリンと拳大の穴が開いた。完璧。
<br> ハンマーを仕舞い、穴に手を突っ込む。当然鍵は最初から掛かっていないが、強盗はこうして窓の鍵を開けるのだ。
<br> ハンマーを仕舞い、穴に手を突っ込む。当然鍵は最初から掛かっていないが、泥棒はこうして窓の鍵を開けるのだ。
<br> 窓をそっとスライドさせ、俺は室内に侵入した。日本の警察は優秀だ。こうして土足の足跡を残しておかないと、怪しまれかねない。だが、庭の土は乾いていたし、あまり気にする必要はなさそうだ。
<br> 窓をそっとスライドさせ、俺は室内に侵入した。日本の警察は優秀だ。こうして土足の足跡を残しておかないと、怪しまれかねない。だが、庭の土は乾いていたし、あまり気にする必要はなさそうだ。
<br> ゆっくりと机の近くまで歩み寄った。机の向こう側には森の死体がある。この後、不審な音を聞きつけた森が寝室から出てきて、居間の電気を点ける。そこで森と強盗は互いを視認する。森は逃げようと廊下への扉に向かうが、強盗は机の右側を駆け、持っていたナイフで森を正面から刺す。怖気づいた強盗はそのまま遁走する……。
<br> ゆっくりと机の近くまで歩み寄った。机の向こう側には森の死体がある。この後、不審な音を聞きつけた森が寝室から出てきて、居間の電気を点ける。そこで森と泥棒は互いを視認する。森は逃げようと廊下への扉に向かうが、泥棒は机の右側を駆け、持っていたナイフで森を正面から刺す。怖気づいた泥棒はそのまま遁走する……。
<br> 問題はないか? 俺は注意深く部屋を見渡した。何か不自然な点は……あっ!
<br> 問題はないか? 俺は注意深く部屋を見渡した。何か不自然な点は……あっ!
<br> ──{{傍点|文章=寝室に続くドア}}!
<br> ──{{傍点|文章=寝室に続くドア}}!
<br> 今、それは{{傍点|文章=閉まっている}}。しかし、強盗と鉢合わせした状況で、{{傍点|文章=森が丁寧にドアを閉めるわけがない}}。森が寝室に蜻蛉返りせずに玄関を目指すのには、2つの理由がある。1つは寝室のドアに鍵がないこと、もう1つは寝室の窓に格子が嵌まっていることだ。要するに、寝室に戻っても、立て籠ることも逃げることもできないのだ。
<br> 今、それは{{傍点|文章=閉まっている}}。しかし、侵入者と鉢合わせした状況で、{{傍点|文章=森が丁寧にドアを閉めるわけがない}}。森が寝室に蜻蛉返りせずに玄関を目指すのには、2つの理由がある。1つは寝室のドアに鍵がないこと、もう1つは寝室の窓に格子が嵌まっていることだ。要するに、寝室に戻っても、立て籠ることも逃げることもできないのだ。
<br> 俺は机を左から回り、寝室へのドアを慎重に開けた。ついでに中も覗いてみる。恐らく点けっ放しの常夜灯、整えられたシングルベッド、本が1冊乗ったサイドボード。不都合なものは無さそうだ。
<br> 俺は机を左から回り、寝室へのドアを慎重に開けた。ついでに中も覗いてみる。恐らく点けっ放しの常夜灯、整えられたシングルベッド、本が1冊乗ったサイドボード。不都合なものは無さそうだ。
<br> 血痕を踏まないよう注意しながら、また窓際へと戻った。今更ながら、背中を冷や汗がつたった。危なかった。もし気づかなかったら、どうなっていただろう。
<br> 血痕を踏まないよう注意しながら、また窓際へと戻った。今更ながら、背中を冷や汗がつたった。危なかった。もし気づかなかったら、どうなっていただろう。
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<br> 最後に、森の蒼白な死に顔を眺めた。その無様な姿に、自然と笑みがこぼれる。
<br> 最後に、森の蒼白な死に顔を眺めた。その無様な姿に、自然と笑みがこぼれる。
<br> 俺の、勝ちだ。
<br> 俺の、勝ちだ。
<br> カーテンを押しよけ、開けっ放しの窓から外に出た。強盗はひどく動揺している。窓は閉めなくていいだろう。夜の冷気が心地よい。
<br> カーテンを押しよけ、開けっ放しの窓から外に出た。泥棒改め強盗はひどく動揺している。窓は閉めなくていいだろう。夜の冷気が心地よい。
<br> 紙袋を拾い上げると、俺は柵をまた乗り越えた。毛髪なんかは残っているだろうが、俺は昨日この家を訪れたのだ。何の問題もない。
<br> 紙袋を拾い上げると、俺は柵をまた乗り越えた。毛髪なんかは残っているだろうが、俺は昨日この家を訪れたのだ。何の問題もない。
<br> 電気は点いたままで窓は全開、さらに窓は割られてもいるのだ。事件の発覚は早いだろう。だが、俺に辿り着かれさえしなければ、一向に構わない。
<br> 電気は点いたままで窓は全開、さらに窓は割られてもいるのだ。事件の発覚は早いだろう。だが、俺に辿り着かれさえしなければ、一向に構わない。
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