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==来歴== | ==来歴== | ||
=== | ===「発見」と帝国主義の萌芽=== | ||
帝国主義のパパイヤが人類によって発見されるには、'''野菜による知性 (Vegetable Intelligence)''' の概念がアンチヴィーガニズム団体「窓の裏のピイナツ」によって提唱され、かつ彼らの立ち上げた形而上知能測定センター (MIMC) が圧力団体として地球連合 (GU) <ref>このときにはすでに「地球主権」としての権力は失われていたが、超現代期の人類は科学的妥当性の判断を未だにこの組織に委ねていた。</ref>の首脳陣を手駒にするのを待つ必要があった。2312年、宮崎県のパパイヤ農場で行われたVIテストに合格したパパイヤが、「帝国主義」を指向する最初のパパイヤとして認められた。彼が拡張脳波検出機を通じて帝国主義のパパイヤの発見に沸く調査員たちに{{傍点|文章=語りかけた}}最初の言葉は、こうだった。 | 帝国主義のパパイヤが人類によって発見されるには、'''野菜による知性 (Vegetable Intelligence)''' の概念がアンチヴィーガニズム団体「窓の裏のピイナツ」によって提唱され、かつ彼らの立ち上げた形而上知能測定センター (MIMC) が圧力団体として地球連合 (GU) <ref>このときにはすでに「地球主権」としての権力は失われていたが、超現代期の人類は科学的妥当性の判断を未だにこの組織に委ねていた。</ref>の首脳陣を手駒にするのを待つ必要があった。2312年、宮崎県のパパイヤ農場で行われたVIテストに合格したパパイヤが、「帝国主義」を指向する最初のパパイヤとして認められた。彼が拡張脳波検出機を通じて帝国主義のパパイヤの発見に沸く調査員たちに{{傍点|文章=語りかけた}}最初の言葉は、こうだった。 | ||
<blockquote>おお、長く苦しい旅路を経て、ついに発見したぞ! 我がインド亜大陸よ!</blockquote> | <blockquote>おお、長く苦しい旅路を経て、ついに発見したぞ! 我がインド亜大陸よ!</blockquote> | ||
こともあろうに、帝国主義のパパイヤは農場で実るという行為を大西洋での航海と勘違いし、さらに宮崎県の狭い農場を南北アメリカ大陸と勘違いし、さらに南北アメリカ大陸をインド亜大陸と勘違いしていたのであった。パパイヤはすでに、帝国主義の第一段階としての、植民地帝国への待望を抱いていた。この驚くべき事実によって、帝国主義のパパイヤはさらなる検査のためにアムステルダムのMIMC本部へと輸送されることになる。 | |||
===MIMCの陥落=== | ===MIMCの陥落=== | ||
MIMC本部の知能スコア検査で満点を叩き出したパパイヤは、すでにその異常な学習能力をもって拡張脳波検出機の仕組みを完全に把握していた。パパイヤが興味を示したのは、そこに使われている人口音声スピーカーだった。この音声生成のシステムに内蔵される、感情パラメータの検出によって自然な読み上げを行う機能を利用することを思いついたパパイヤは、即座に殺意ハイテンションになって自身の感情性を殺害方向に極端に大きく検出させ、人口音声スピーカーから死の音声を生成させることに成功し、周囲の検査官6人を殺害した<ref>むろんパパイヤに聴覚はないので、パパイヤ自身は死ななかった。</ref>。この後、パパイヤはスピーカーの振動によって施設内を這い回り、計81名の従業員を殺害したところで、MIMC内部保全実行委員の策略によって二階の「レクリエーション室」に閉じ込められた。このときの状況を、元MIMC内部保全実行委員のホセ=カリンジは著書の中でこう回顧している。 | MIMC本部の知能スコア検査で満点を叩き出したパパイヤは、すでにその異常な学習能力をもって拡張脳波検出機の仕組みを完全に把握していた。パパイヤが興味を示したのは、そこに使われている人口音声スピーカーだった。この音声生成のシステムに内蔵される、感情パラメータの検出によって自然な読み上げを行う機能を利用することを思いついたパパイヤは、即座に殺意ハイテンションになって自身の感情性を殺害方向に極端に大きく検出させ、人口音声スピーカーから死の音声を生成させることに成功し、周囲の検査官6人を殺害した<ref>むろんパパイヤに聴覚はないので、パパイヤ自身は死ななかった。</ref>。この後、パパイヤはスピーカーの振動によって施設内を這い回り、計81名の従業員を殺害したところで、MIMC内部保全実行委員の策略によって二階の「レクリエーション室」に閉じ込められた。このときの状況を、元MIMC内部保全実行委員のホセ=カリンジは著書の中でこう回顧している。 | ||
<blockquote> | <blockquote>サイレンが鳴って、俺のスキン・デバイスには「すぐさま武器を取り出して二階へ向かえ」と表示された。実際、あの組織には敵が多かったから、こんなことは日常茶飯事だったし、GUから内部保全部隊に支給されたエネルギー放射機銃にかかれば、いつも世間知らずの襲撃者たちは俺達の前で肉体の形を数分と留められなかった。だからこのときも、俺はこの司令を恐ろしいとも思わず、さっさと二階に上がっていったんだ。そこで――奇妙に思った。あちこちに転がっているスタッフの死体に、外傷がないんだ。化学兵器や放射線は検出されていない。なら、これは何なんだ? | ||
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拡張室から解放された者たちの中にメリンダほど芳しい成果を挙げている者はなかったが、パパイヤはある白髪の老人に注目していた。彼の名は'''ウィレム=リートフェルト'''、第15代オランダ王ウィレム7世の実の息子であった。しかし、リートフェルトの運命は奇特なものだった。彼は当時の皇太子アレキサンダーの双子の弟として生まれたが、皮肉にも、それはオランダ政府が人口問題に耐えかねて一人っ子政策を発した直後のことだったのだ。リートフェルトの母である当時の王妃クラウディアが自室に残していた鍵付きの日記には、こう記されている。 | 拡張室から解放された者たちの中にメリンダほど芳しい成果を挙げている者はなかったが、パパイヤはある白髪の老人に注目していた。彼の名は'''ウィレム=リートフェルト'''、第15代オランダ王ウィレム7世の実の息子であった。しかし、リートフェルトの運命は奇特なものだった。彼は当時の皇太子アレキサンダーの双子の弟として生まれたが、皮肉にも、それはオランダ政府が人口問題に耐えかねて一人っ子政策を発した直後のことだったのだ。リートフェルトの母である当時の王妃クラウディアが自室に残していた鍵付きの日記には、こう記されている。 | ||
<blockquote> | <blockquote>われわれは勇壮なオランダ人だった。われわれは海を沈めて国をつくり、近世に植民地帝国を築きあげ、暗黒の時代と二度の世界大戦を経て再びヨーロッパの支配者となった。しかし、繁栄はみずからを貪り始めたのだ。この枯渇の世紀には、われわれは増えすぎた人口を収容できるあたらしい土地のための土すら買えない。そのせいで、そのせいで私は、私のかわいい子どもが――子どもたちが――双子だと知ったとき、喜ばなかった。二人目以降の出産に罰則を設けるあの法は、国会でもぎりぎりの水準で採決された。今でも反対するものは多い。それなのに、他ならぬ王室が二つの子を育てるとは、まるで示しがつかないではないか。 | ||
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