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帝国主義のパパイヤとは、他民族に対する盛んな軍事・経済的進出のもとに得た巨大な領域を植民地として運営し、国民国家の最大の繁栄を求める種類のパパイヤのことである。 | |||
==概要== | ==概要== | ||
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==来歴== | ==来歴== | ||
=== | ===「発見」=== | ||
帝国主義のパパイヤが人類によって発見されるには、'''野菜による知性 (Vegetable Intelligence)''' の概念がアンチヴィーガニズム団体「窓の裏のピイナツ」によって提唱され、かつ彼らの立ち上げた形而上知能測定センター (MIMC) が圧力団体として地球連合 (GU) <ref>このときにはすでに「地球主権」としての権力は失われていたが、超現代期の人類は科学的妥当性の判断を未だにこの組織に委ねていた。</ref>の首脳陣を手駒にするのを待つ必要があった。2312年、宮崎県のパパイヤ農場で行われたVIテストに合格したパパイヤが、「帝国主義」を指向する最初のパパイヤとして認められた。彼が拡張脳波検出機を通じて帝国主義のパパイヤの発見に沸く調査員たちに{{傍点|文章=語りかけた}}最初の言葉は、こうだった。 | 帝国主義のパパイヤが人類によって発見されるには、'''野菜による知性 (Vegetable Intelligence)''' の概念がアンチヴィーガニズム団体「窓の裏のピイナツ」によって提唱され、かつ彼らの立ち上げた形而上知能測定センター (MIMC) が圧力団体として地球連合 (GU) <ref>このときにはすでに「地球主権」としての権力は失われていたが、超現代期の人類は科学的妥当性の判断を未だにこの組織に委ねていた。</ref>の首脳陣を手駒にするのを待つ必要があった。2312年、宮崎県のパパイヤ農場で行われたVIテストに合格したパパイヤが、「帝国主義」を指向する最初のパパイヤとして認められた。彼が拡張脳波検出機を通じて帝国主義のパパイヤの発見に沸く調査員たちに{{傍点|文章=語りかけた}}最初の言葉は、こうだった。 | ||
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パパイヤに解放されたメリンダが、レクリエーション室周辺に詰めかけていた内部保全実行委員たちにパパイヤの「死の声」の幻覚を与えると、集団はパニックに陥って崩壊し、四方八方に散った。パパイヤとメリンダはその隙にレクリエーション室を脱出し、メリンダの透視能力の手引でMIMCの「活性化実験」に用いられている他の安楽死手術の同意者たちを次々に解放していった。こうして、パパイヤ最初の殺人から1時間29分後、パパイヤらはMIMC本部の主要三施設<ref>総合データセンター、拡張室、内部保全指揮室(モニタールーム)。</ref>を完全に掌握することに成功した。 | パパイヤに解放されたメリンダが、レクリエーション室周辺に詰めかけていた内部保全実行委員たちにパパイヤの「死の声」の幻覚を与えると、集団はパニックに陥って崩壊し、四方八方に散った。パパイヤとメリンダはその隙にレクリエーション室を脱出し、メリンダの透視能力の手引でMIMCの「活性化実験」に用いられている他の安楽死手術の同意者たちを次々に解放していった。こうして、パパイヤ最初の殺人から1時間29分後、パパイヤらはMIMC本部の主要三施設<ref>総合データセンター、拡張室、内部保全指揮室(モニタールーム)。</ref>を完全に掌握することに成功した。 | ||
=== | ===オランダ継承戦争=== | ||
拡張室から解放された者たちの中にメリンダほど芳しい成果を挙げている者はなかったが、パパイヤはある白髪の老人に注目していた。彼の名は'''ウィレム=リートフェルト'''、第15代オランダ王ウィレム7世の実の息子であった。しかし、リートフェルトの運命は奇特なものだった。彼は当時の皇太子アレキサンダーの双子の弟として生まれたが、皮肉にも、それはオランダ政府が人口問題に耐えかねて一人っ子政策を発した直後のことだったのだ。リートフェルトの母である当時の王妃クラウディアが自室に残していた鍵付きの日記には、こう記されている。 | 拡張室から解放された者たちの中にメリンダほど芳しい成果を挙げている者はなかったが、パパイヤはある白髪の老人に注目していた。彼の名は'''ウィレム=リートフェルト'''、第15代オランダ王ウィレム7世の実の息子であった。しかし、リートフェルトの運命は奇特なものだった。彼は当時の皇太子アレキサンダーの双子の弟として生まれたが、皮肉にも、それはオランダ政府が人口問題に耐えかねて一人っ子政策を発した直後のことだったのだ。リートフェルトの母である当時の王妃クラウディアが自室に残していた鍵付きの日記には、こう記されている。 | ||
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慎重な議論があった。どちらか一人は、その身元をすっかり隠して、どこか別の場所で育てさせることになった。そして、それは弟の方ということになった。もっと領土があれば。もっと領土があれば、家族は幸せだった。そう、領土さえあれば……。</blockquote> | 慎重な議論があった。どちらか一人は、その身元をすっかり隠して、どこか別の場所で育てさせることになった。そして、それは弟の方ということになった。もっと領土があれば。もっと領土があれば、家族は幸せだった。そう、領土さえあれば……。</blockquote> | ||
リートフェルトは最初国立の孤児院に引き取られたが、彼が二人目の王子であるという噂はすぐに広まった。そこで、次の「もっとも安全な場所」に名乗りを上げたのが、一般に認められるいわゆる「王族の権威」を検証することに積極的だったMIMCだった。その研究にはなんの成果もなかったが、MIMCにとって失敗はよくあることだったので、次第に彼の個性は忘れ去られ、結局彼は拡張室の一般被検体として30年余りを過ごしてきたのだった。パパイヤは、メリンダのテレパシー翻訳でデータセンターから被検体たちの情報をさらっていたとき、それを知って涙を流した<ref>もちろんそれは人間の流すような涙ではなく、むしろパパイヤの流すような涙だった。</ref> | リートフェルトは最初国立の孤児院に引き取られたが、彼が二人目の王子であるという噂はすぐに広まった。そこで、次の「もっとも安全な場所」に名乗りを上げたのが、一般に認められるいわゆる「王族の権威」を検証することに積極的だったMIMCだった。その研究にはなんの成果もなかったが、MIMCにとって失敗はよくあることだったので、次第に彼の個性は忘れ去られ、結局彼は拡張室の一般被検体として30年余りを過ごしてきたのだった。パパイヤは、メリンダのテレパシー翻訳でデータセンターから被検体たちの情報をさらっていたとき、それを知って涙を流した<ref>もちろんそれは人間の流すような涙ではなく、むしろパパイヤの流すような涙だった。</ref>。彼の魂は、帝国の拡張への欲望と深く結びついて産み落とされた、パパイヤの帝国主義をくすぐるものに他ならなかった。 | ||
==脚注== | ==脚注== | ||
<references/> | <references/> |
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