「利用者:Notorious/サンドボックス/ぬいぐるみ」の版間の差分

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<br> 麗の部屋の間取りは、風呂・トイレ付きの1DK。燿が通り魔なら、家に入れた時点で逃げ場はない。
<br> 麗の部屋の間取りは、風呂・トイレ付きの1DK。燿が通り魔なら、家に入れた時点で逃げ場はない。
<br> いや、周りに助けを求めれば……。そこまで考えて麗は頭を抱えた。2階の住人は麗を除いて1人だが、その1人は長期旅行中。更に、下の階の管理人老夫婦は耳が遠い。いくら泣き叫んでも助けは来ないだろう。
<br> いや、周りに助けを求めれば……。そこまで考えて麗は頭を抱えた。2階の住人は麗を除いて1人だが、その1人は長期旅行中。更に、下の階の管理人老夫婦は耳が遠い。いくら泣き叫んでも助けは来ないだろう。
<br> 燿を部屋に入れないのが一番安全だが、潔白だったら入れない訳にはいかない。やはり、燿が通り魔か否か、慎重に見極めなければならない。
<br> 燿を部屋に入れないのが一番安全だが、潔白だったら入れない訳にはいかない。追い返されて家に帰っている間に刺されました、なんてことになるかもしれないのだ。やはり、燿が通り魔か否か、慎重に見極めねばならない。




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<br>「バイト帰りだよ。N駅通りの居酒屋で働いてるって、前に言わなかったっけ?」
<br>「バイト帰りだよ。N駅通りの居酒屋で働いてるって、前に言わなかったっけ?」
<br> 随分前に言われた気がする。
<br> 随分前に言われた気がする。
<br>「酒に弱いあんたが、よく面接通ったわね」
<br>「店員は酒飲まねえからいいんだよ」
<br> 燿は、生粋の下戸だ。少し杯を舐めただけで、ベロベロに酔ってしまう。燿が二十歳になった日、あっという間に酔い潰れた燿を担いで店を出たのはいい思い出だ。
<br> そんな弟が通り魔じゃないかと疑っている、私の頭のネジが数本飛んでいることは間違いない。
<br>「とにかく、もうしばらく待ってなさい」
<br>「判ったよ」
<br> さて、落ち着いて見定めるのだ。選択を誤れば、最悪死ぬ。
 麗は足音を殺して、玄関に向かった。息を止めて、そっとドアスコープを覗いた。
<br> 充血した目がこちらを覗き返している……なんていうホラー展開はなく、燿が壁に凭れているだけだった。ちらちらと階段の方を気にしている辺り、本当に誰か来ないか怖がっているらしい。尤も、それが通り魔か警察官かは判らないが。
<br> 目を凝らしてよく観察してみた。燿は黒っぽい英字Tシャツとジーパンを着て、大きめのリュックサックを背負っている。
<br> 暗くてよく見えないが、少なくとも返り血がべったり付いているということはない。だが、写真では血が噴き出る前に犯人は被害者とすれ違っていた。それに、そもそも着替えを用意していれば何の問題も無い。
<br> 燿は、手にスマホだけ持っている。通り魔なら持っていたはずの物がある。例えば、ナイフや黒いジャンパー。しかし、リュックサックに入れてあるのかもしれないし、途中で捨ててきた可能性もある。
<br> 結局、何一つ確言できないままだ。
<br> 唐突に、燿がこちらを向いて話しかけてきた。
<br>「それにしても、連続通り魔なんて物騒だよな」
<br> 忍び足のまま距離を取り、
<br>「本当にね」
<br>と返す。動悸がうるさい。
<br>「被害者も、意識不明だってね。なんとか助かればいいんだけど」
<br> 喋りながら、麗はテレビに目を向けた。画面には一つのフリップがアップで映されている。
<br>『こちらが、独自インタビューから見えてきた犯人像です。犯人は身長160cm程度の男性。灰色のニット帽と黒のジャンパー、青いジーンズを着けています。また、右利きと見られます。では、詳しいインタビューのVTRをどうぞ!』
<br> 燿は、短髪で身長165cmほどの右利きの男だ。服装は着替えがあれば何の手掛かりにもならない。
<br> つまり、プロフィールは全て合致している。しかし、このプロフィールに合致する人間はごまんといるだろう。事態は全く変わっていない。
<br> テレビには、1人の男がマイクを向けられ、興奮気味に話していた。
<br>『すれ違ったと思ったらおっさんが腹を押さえて倒れてよお。通り魔はそのまま俺の横をスタスタ歩いていったよ。顔は帽子の鍔でよく見えなかったが、身長は160くらいだったぜ』
<br> その次は、犯人が写ったあの写真の撮影者の証言らしかった。色黒のギャルが、大仰な身振りを交えて喋っている。
<br>『そこのテラス席で、パフェと自撮りしようとしてたわけ。こう……スマホを構えて撮ろうとしてたんだけど、後ろの歩道に人が通りかかったから、画面見ながら待ってたんよ。そしたら、いきなりブスッと、男が右手で女の人を刺したのがパフェの横に見えたの。もう私びっくりしちゃってえ、思わずシャッター押しちゃったのが、この写真ってわけ』
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