「利用者:キュアラプラプ/サンドボックス/丁」の版間の差分

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「うーむ、ちなみに、来る人の順番を決めることに何か理由はあったのか?」
「うーむ、ちなみに、来る人の順番を決めることに何か理由はあったのか?」


「さあ……あ、でも、夫は書斎に来た人に、ホットミルクかアイスコーヒーか好きな方の飲み物を入れてくれるの。もしそれが知人の場合、彼は既に好みを把握しているから、あらかじめ順番を決めておけばその人が来る前に飲み物の準備を済ませられる、というのがあるかもしれないわね。まあでも、結局は彼の気分だと思うわ。そんなに効率化したいなら、ミルクの人とコーヒーの人を前半後半に分けておけばいいけど、そんなことはやってなかったし。」
「さあ……あ、でも、夫は書斎に来た人に、ホットミルクかアイスコーヒーか好きな方の飲み物を入れてくれるの。もしそれが知人の場合、彼は既に好みを把握しているから、あらかじめ順番を決めておけばその人が来る前に飲み物の準備を済ませられる、というのがあるかもしれないわね。彼、飲み物によってコップさえ変えるのよ。確か、ミルクはマグカップ、コーヒーはタンブラーね。まあでも、結局は彼の気分だと思うわ。そんなに効率化したいなら、ミルクの人とコーヒーの人を前半後半に分けておけばいいけど、そんなことはやってなかったし。」


「なるほど。……最後に書斎に来た人を判明させるのは難しそうだな。」
「なるほど。……最後に書斎に来た人を判明させるのは難しくなりそうだな。」


「そうね……。夫はね、本当に几帳面な人だったわ。起きたらまず20秒間顔を洗う、流しに置いたままにしていい食器は一つまで。ネクタイピンの位置は毎日10分くらいかけて調整してたし、お辞儀の角度だって完璧になるまで練習してた。ほんと、馬鹿げてるわ。でも、どんなに忙しくても朝食は家族で一緒にとってくれた。特別な日には仕事をほっぽり出して、みんなで遊んだわよね。ねえ、覚えてる? 律……。」
「そうね……。夫はね、本当に几帳面な人だったわ。起きたらまず20秒間顔を洗う、流しに置いたままにしていい食器は一つまで。ネクタイピンの位置は毎日10分くらいかけて調整してたし、お辞儀の角度だって完璧になるまで練習してた。ほんと、馬鹿げてるわ。でも、どんなに忙しくても朝食は家族で一緒にとってくれた。特別な日には仕事をほっぽり出して、みんなで遊んだわよね。ねえ、覚えてる? 律……。」
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「……もしもしー? 聞こえてます? いやーちょっと、諦めてダイニングルームに帰ってるじゃないですか! マジで希望がないんですよこっちは! 早く僕を見つけて!!」
「……もしもしー? 聞こえてます? いやーちょっと、諦めてダイニングルームに帰ってるじゃないですか! マジで希望がないんですよこっちは! 早く僕を見つけて!!」
「えー、まあ、そういうわけで、各自書斎に行ったときのこと、特に部屋の状態を、覚えているだけ精細に話してほしい。」
「……ちょっと! 無視しないで!」
「嘘の証言を防ぐために、まあ、なんだ、所謂ウソ発見器ってやつを持ってきた。もちろん23世紀の技術によって、大幅に性能は向上しているんだが、残念ながら科学捜査倫理法のせいで犯行についての直接の質問に使うことはできない。あと、わざと何かをぼかしたり隠していることは感知できない。あくまでも嘘かどうかを発見するマシーンだからな。」
一気に室内の緊張感が増す。これには橘地も、ブリッジしたまま硬直していた。
「じゃあ、まずは此井江からだ。声紋鑑定タイプなので、電話越しでも大丈夫だぞ。」
「……あーはい、分かりました。えー、まあさっきも言った通り、僕は取材のために書斎に行きましたね。あ、そうそう、アポ取りの時にノレさんにミルクとコーヒーどっちが好きかって聞かれて、どういうことなんだろうと思ってたんですけど、飲み物出すための質問だったんですね。僕はコーヒーを飲みました。えー、で、部屋の状態……部屋の状態ねえ……うーん、流しにマグカップがあったはずです。それ以外は全然注目してませんでしたね。あ! あと、部屋を出てから廊下の方で取材したことのメモを見返してたんですけど、その時に亜奈貴さんが書斎に入っていくのを見ました。このくらいですかね。あと、早く助けてください。」
「よし、反応は出なかったな、じゃあ次は弟さんの方から。」
「うい。えー、俺はまあ、母の話をしに行ったんだ。そろそろ認知症がやばいから、施設に預けたほうがいいかもしれないってな。飲み物は俺もコーヒーだったぜ。状態……うーん、流しは見てなかったけど、律が洗ったらしいマグカップを拭いてたのは覚えてる。あーあと、コーヒーマシーンのスイッチを切ってたから、少なくとも次出される飲み物はコーヒーじゃないだろう。こんなとこかな。」
「よし、これも無反応。じゃあ続いてそっちの……亜奈貴さんだっけ?」
「ええ。亜奈貴よ。私は……その……せ、世間話をしに行ったのよ。」
瞬間、ウソ発見器から警告音が放たれた。卦伊佐はニヤニヤしながら言う。
「おっと、あんた大丈夫か? なあに、誤作動ってこともあるからな。どうなんだ?」
「ぐ……あー、正直に言うと、世哉の誕生日のサプライズパーティーの相談に行ってたの。今の今で台無しになったけどね。」
「亜奈貴……うう……。」
世哉の目は潤い、卦伊佐をはじめ他の人たちはめっちゃ気まずくなった。橘地でさえもがあまりの気まずさに耐え兼ね、ブリッジを解除してトリプルアクセルした。
「……まあ、その話は今は良いわ。とにかくそれで書斎に行ったの。飲み物はミルクだったわ。あ、そうそう、確かに私も、部屋に入る前に廊下にいる記者の人を見たわ。」
「なるほど。あー。うん。なるほどね。うん。じゃあ次は宇曾都さん。」
「おう。まあ、コペルニクスである俺にしてみれば……。」
ウソ発見器がけたたましく嘶いた。橘地は驚きのあまり、五回転アクセルを成功させた。
「何でバレた!? 何で嘘ってバレた!? ……まあいい。くっくっく……! そうだ! 俺はコペルニクスじゃない。本当はアリストテレスだからな!」
しかしこの時、怒りのあまりウソ発見器を破壊した卦伊佐が放った殺気は、宇曾都のいたずら心をへし折ってしまった。卦伊佐は彼にウソ発見器よりも大きな恐怖を与えたのである。23世紀に入って人間の行動が科学技術のもたらした機能を超克したのは、これが初めてのことであった。
「はい……あの……はい……まあうまい事騙して金をむしり取ってやろうとしてました……飲み物はコーヒーっした……あと……はい……俺の時も律家さんはマグカップを拭いてました……はい……。」
「よし。あー、じゃあ次は奥さんで。ウソ発見器の予備はちゃんとあるのでご安心を。」
「……あ、はい、えっと、私はまあ……なんというか、とりとめのないどうでもいいような話をしました。今日は天気がいいね、とか。飲み物はミルクでした。あと……入るときに冷蔵庫からミルクを出してるところが見えたのは覚えてます。ちょっと早かったかな、って思って。あ、あと、私が出ていくときにコーヒーマシーンのスイッチを入れてました。それくらい……ですね。」
「よし、無反応。じゃあ次は……その……そちらの方は……。」
調子に乗って五百六回転アクセルまで成功させてしまった橘地は、遂にその口を開いた。
「はい。そうですね。私もノレ様と同様、大した目的があったわけではありませんでした。いただいた飲み物はホットミルクでしたね。部屋の状態はあまり観察しておりませんでしたが、コーヒーマシーンをオンにしていたことは記憶しています。」
「(え……びっくりした……めっちゃ普通に喋れるじゃん……怖……)あ、うん。よし、無反応。無反応でした。」
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