「利用者:Notorious/サンドボックス/コンテスト」の版間の差分

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<br>「祖父の介護で、見たことがあるんです。ちょうどこんな感じでした。味も悪くはないですよ」
<br>「祖父の介護で、見たことがあるんです。ちょうどこんな感じでした。味も悪くはないですよ」
<br> 空腹を覚えていたので、そのまま一本飲み干してしまう。権田も、おっかなびっくり口に運んでいた。
<br> 空腹を覚えていたので、そのまま一本飲み干してしまう。権田も、おっかなびっくり口に運んでいた。
<br> 腹ごなしが済むと、倉庫内の調査に取りかかった。手分けして積み上がった瓶を精査していく。ほどなく、水と流動食の二種類の瓶があることがわかった。それらは微妙に形が異なっていて、区別がつくことがわかった。一方、どの瓶にもラベルの類は無い。僕は、瓶の山に分け入って、数着の着替えと三つの救急箱を見つけた。権田は、缶詰の一角と四本の缶切り、それから1ダースくらいのボディーソープなどのボトルを発見した。
<br> 腹ごなしが済むと、倉庫内の調査に取りかかった。手分けして積み上がった瓶を精査していく。ほどなく、水と流動食の二種類の瓶があることがわかった。それらは微妙に形が異なっていて、区別がつくことがわかった。一方、どの瓶にもラベルの類は無い。僕は、瓶の山に分け入って、数着の着替えと三つの救急箱を見つけた。権田は、缶の一角と四本の缶切り、それから1ダースくらいのボディーソープなどのボトルを発見した。
<br> それは、捜索開始から30分ほど経ったときだった。僕は瓶の山の反対側へぐるりと回った。すると、何かが落ちているのが見えた。いや、置かれていたのかもしれない。ぽっかりと空いた床の一隅に、それは無造作に置かれていた。それを拾い上げ、僕は思わず叫んだ。
<br> それは、捜索開始から30分ほど経ったときだった。僕は瓶の山の反対側へぐるりと回った。すると、何かが落ちているのが見えた。いや、置かれていたのかもしれない。ぽっかりと空いた床の一隅に、それは無造作に置かれていた。それを拾い上げ、僕は思わず叫んだ。
<br>「先輩、カードです! 番号が書かれてます!」
<br>「先輩、カードです! 番号が書かれてます!」
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<br>「倉庫には、文字通り食料の山がありますけど……」
<br>「倉庫には、文字通り食料の山がありますけど……」
<br>「{{傍点|文章=鉄の瓶や缶は小部屋を通せない}}。山はあるのに、その山をドアの前まで移せないんだよな」
<br>「{{傍点|文章=鉄の瓶や缶は小部屋を通せない}}。山はあるのに、その山をドアの前まで移せないんだよな」
<br> 小部屋の磁力のバリアの強さは、身をもって味わった。あのバリアがある限り、缶詰一つだってこの部屋に持ち込めない。あの小部屋は、{{傍点|文章=この部屋に物を移させないため}}にあるのだ。
<br> 小部屋の磁力のバリアの強さは、身をもって味わった。あのバリアがある限り、缶一つだってこの部屋に持ち込めない。あの小部屋は、{{傍点|文章=この部屋に物を移させないため}}にあるのだ。
<br>「向こうにある物には、徹底して鉄が使われている。食料、ボトル、缶切り、剃刀、トイレのスポンジ……。どれも踏み台には使えない。鉄でない物は、ほとんど固定されてしまっているし」
<br>「向こうにある物には、徹底して鉄が使われている。食料、ボトル、缶切り、剃刀、トイレのスポンジ……。どれも踏み台には使えない。鉄でない物は、ほとんど固定されてしまっているし」
<br>「陶器の便座を砕くってのはどうです?」
<br>「陶器の便座を砕くってのはどうです?」
159行目: 159行目:
<br>「{{傍点|文章=排水溝}}……」
<br>「{{傍点|文章=排水溝}}……」
<br>「ああ。ドアの真下には排水溝がある。流動食を積み上げるのは、まず不可能だろうな」
<br>「ああ。ドアの真下には排水溝がある。流動食を積み上げるのは、まず不可能だろうな」
<br> 暗い顔で権田は続ける。
<br> 固形食だと、中身を取り出して踏み台にできる。その手を封じるために、ここには流動食しかないというのか。暗い顔で、権田は尚も続ける。
<br>「排水溝の役割はそれだけじゃない。排水溝がなければ、風呂かトイレの水道を使ってこの部屋を{{傍点|文章=水没させる}}という荒業が使えるんだ。天井ギリギリまで水位を上げ、{{傍点|文章=泳いで水面近くのテンキーまで到達する}}んだ。でも、排水溝があるおかげで、絵に描いた餅だよ」
<br>「排水溝の役割はそれだけじゃない。排水溝がなければ、風呂かトイレの水道を使ってこの部屋を{{傍点|文章=水没させる}}という荒業が使えるんだ。天井ギリギリまで水位を上げ、{{傍点|文章=泳いで水面近くのテンキーまで到達する}}んだ。でも、排水溝があるおかげで、絵に描いた餅だよ」
<br>「……どうにかして、排水溝を塞げませんかね?」
<br>「……どうにかして、排水溝を塞げませんかね?」
168行目: 168行目:
<br>「うん、いい視点の変え方だな。だが……」
<br>「うん、いい視点の変え方だな。だが……」
<br> 僕らは同時に天井を見上げた。目覚めたときより少し光量を落とした電灯は、天井に埋め込まれている。天井はつるりと滑らかで、何かが引っかかるような突起は全くない。
<br> 僕らは同時に天井を見上げた。目覚めたときより少し光量を落とした電灯は、天井に埋め込まれている。天井はつるりと滑らかで、何かが引っかかるような突起は全くない。
<br>「まだだ。小部屋のドアは外開き。あれを開けて登れば、鍵穴に届くかも……」
<br>「まだだ。小部屋のドアは外開き。あれを開けて登れば、テンキーに届くかも……」
<br> ベッドを飛び降りて、権田は小部屋のドアを開け、すぐに閉めてすごすごと戻ってきた。そもそも、小部屋はドアがある壁から離れた位置にある。テンキーには、距離も高さも全然足りない。どうやら、このアイデアも不発のようだ。
<br> ベッドを飛び降りて、権田は小部屋のドアを開け、すぐに閉めてすごすごと戻ってきた。そもそも、小部屋はドアがある壁から離れた位置にある。テンキーには、距離も高さも全然足りない。どうやら、このアイデアも不発のようだ。


181行目: 181行目:
<br>「順にボタンに当てるのは難易度が高すぎる。それに、プラスチックカバーがネックだ。あれを上げないとボタンを押せない」
<br>「順にボタンに当てるのは難易度が高すぎる。それに、プラスチックカバーがネックだ。あれを上げないとボタンを押せない」
<br>「真下から何かをぶつけてカバーを上げて、さらにタイミングよくボタンに物をぶつけるんです」
<br>「真下から何かをぶつけてカバーを上げて、さらにタイミングよくボタンに物をぶつけるんです」
<br>「野球のピッチャーも真っ青な計画だな。食料が尽きる前に成功すればいいな」
<br>「野球のピッチャーも真っ青な計画だな。食料が尽きる前に成功すればいいが」
<br>「食料は、たぶん5年は持ちますよ。毎日トライすれば、いつか成功するかも」
<br>「食料は、たぶん5年は持ちますよ。毎日トライすれば、いつか成功するかも」
<br>「何回間違えたら永久にロックされるみたいな設定が無いことを祈るか。他に妙案が思いつかなければ、試してみよう」
<br>「何回間違えたら永久にロックされるみたいな設定が無いことを祈るか。他に妙案が思いつかなければ、試してみよう」
228行目: 228行目:
<br>「ここには、1年くらいなら生きられる設備がある。つまり、奴らは{{傍点|文章=監禁された人間に生きててほしい}}んだ。そうじゃなきゃ、金かけて食料なんて用意するより、放って飢え死にさせる方を選ぶだろう」
<br>「ここには、1年くらいなら生きられる設備がある。つまり、奴らは{{傍点|文章=監禁された人間に生きててほしい}}んだ。そうじゃなきゃ、金かけて食料なんて用意するより、放って飢え死にさせる方を選ぶだろう」
<br>「僕らに生きててほしい……」
<br>「僕らに生きててほしい……」
<br> 僕の頭にある仮説が浮かんだ。
<br> そう考えると、一つ腑に落ちることがある。
<br>「だから、トイレットペーパーが無いんですね」
<br>「何?」
<br>「長く生きられるような衛生環境を保つには、大量のトイレットペーパーが必要です。そこを疎かにすると、病原体の蔓延に繋がってしまう」
<br>「ははあ、読めたぞ。だが、{{傍点|文章=それだけのトイレットペーパーを用意すれば}}、{{傍点|文章=踏み台に利用されてしまう}}。紙に鉄を使うのは難しいだろうからな」
<br>「そうです。苦肉の策として、スポンジが採用されたんでしょう」
<br> 些細なことだが、疑問が一つ氷解した。トイレットペーパーが無いという事実からも、奴らが僕たちの長期的な生存を望んでいるということが裏付けられる。では、なぜそうまでして奴らは僕らに生きていてほしいのか? 僕の頭にある仮説が浮かんだ。


「これは、何か大掛かりな実験なんじゃないですか? 極限状態で人はどう振る舞うのか観察する、みたいな」
「これは、何か大掛かりな実験なんじゃないですか? 極限状態で人はどう振る舞うのか観察する、みたいな」
239行目: 245行目:
<br>「さあな。わからんが、これが実験なら、あってしかるべきものがある」
<br>「さあな。わからんが、これが実験なら、あってしかるべきものがある」
<br>「何です?」
<br>「何です?」
<br>「カメラだよ。カメラでなくても、何らかの方法でこちらを観察してるはずだ」
<br>「カメラだよ。カメラでなくても、何らかの観測機器でこちらを観察してるはずだ」
<br> そう聞いて、僕は背筋に寒気を覚えた。今も、僕らは誰かに見られているのだろうか。
<br> そう聞いて、僕は背筋に寒気を覚えた。今も、僕らは誰かに見られているのだろうか。
<br>「……最近のカメラの小型化は凄まじいですからね。どこかに隠しカメラがあっても、おかしくない」
<br>「……最近のカメラの小型化は凄まじいですからね。どこかに隠しカメラがあっても、おかしくない」
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<br> 権田はもう寝入ったのか、ぐうぐうという寝息が聞こえてきた。僕は頭が冴えていて、全然眠れそうになかった。数々の疑問が渦巻いて、脳内をぐるぐると回っている。
<br> 権田はもう寝入ったのか、ぐうぐうという寝息が聞こえてきた。僕は頭が冴えていて、全然眠れそうになかった。数々の疑問が渦巻いて、脳内をぐるぐると回っている。
<br> 僕らはなぜ閉じ込められているのか? 実験ならば、それはどんな実験なのか? この建築物の構造の意味は?
<br> 僕らはなぜ閉じ込められているのか? 実験ならば、それはどんな実験なのか? この建築物の構造の意味は?
<br> 疑問の奔流はとどまるところを知らず、このままだと到底眠れそうになかったので、僕は必死に気を逸らせた。
<br> 疑問の奔流はとどまるところを知らず、このままだととてもじゃないが眠れそうになかったので、僕は必死に気を逸らせた。
<br> いつもなら、勤務を終えて寮に帰っている頃だろうか。いかんせん時計が無いため、今何時なのか全くわからない。ひょっとしたら、体内時計を狂わせるタイプの実験かもしれない。建物の構造や鍵の掛け方に疑問は残るが。
<br> いつもなら、勤務を終えて寮に帰っている頃だろうか。いかんせん時計が無いため、今何時なのか全くわからない。ひょっとしたら、体内時計を狂わせるタイプの実験かもしれない。建物の構造や鍵の掛け方に疑問は残るが。
<br> つらつらと思惟していると、連想は連想を呼び、だんだんと気分が落ち着いてきた。全く無関係なことを考えていると、ゆっくりと眠気に侵食されていく。もうしばらくすれば眠れる。そう思って意識を再び思索に飛ばした、その時だった。
<br> つらつらと思惟していると、連想は連想を呼び、だんだんと気分が落ち着いてきた。全く無関係なことを考えていると、ゆっくりと眠気に侵食されていく。もうしばらくすれば眠れる。そう思って意識を再び思索に飛ばした、その時だった。
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{{転換}}
{{転換}}


 僕は倉庫にいた。ぼんやりとしか見えない光の中、何度も躓きながら奥の方を目指す。手探りで瓶の山を分け入っていくと、権田が見つけた缶詰の一角に辿り着いた。一角とはいえ、缶詰の数は100を下らない。その中から、できるだけ場所をばらして五つほど取る。それから、床にある缶切りも一本拾う。
 僕は倉庫にいた。ぼんやりとしか見えない光の中、何度も躓きながら奥の方を目指す。手探りで瓶の山を分け入っていくと、権田が見つけた缶の一角に辿り着いた。一角とはいえ、缶の数は100を下らない。その中から、できるだけ場所をばらして五つほど取る。それから、床にある缶切りも一本拾う。
<br> それらを抱えて、僕は倉庫を出た。廊下の中途にあるトイレのドアを開けると、人感センサーで明るく光が灯った。眩しさに目を細めながら、ドアを開けたままにして戦利品を床に置いた。祈るような気持ちで、缶詰の蓋を開けていく。三つ目、恐れていたものが現れた。{{傍点|文章=それ}}を呆然と見下ろす。
<br> それらを抱えて、僕は倉庫を出た。廊下の中途にあるトイレのドアを開けると、人感センサーで明るく光が灯った。眩しさに目を細めながら、ドアを開けたままにして戦利品を床に置いた。祈るような気持ちで、缶の蓋を開けていく。三つ目、恐れていたものが現れた。{{傍点|文章=それ}}を呆然と見下ろす。
<br>「実験なんかじゃなかった……」
<br>「実験なんかじゃなかった……」


266行目: 272行目:
<br> いつの間に後ろにいたのだろう?
<br> いつの間に後ろにいたのだろう?
<br>「佐藤、何をしていたんだ? 物音がしたから、様子を見にきたんだが」
<br>「佐藤、何をしていたんだ? 物音がしたから、様子を見にきたんだが」
<br> 僕が答えられずにいると、権田は床の缶詰に目を向けた。中には、白い粉がいっぱいに入っている。
<br> 僕が答えられずにいると、権田は床の缶に目を向けた。中には、白い粉がいっぱいに入っている。
<br>「この缶がどうかしたのか? これは……まさか<ruby>覚醒剤<rt>エス</rt></ruby>とかか?」
<br>「この缶がどうかしたのか? これは……まさか<ruby>覚醒剤<rt>エス</rt></ruby>とかか?」
<br>「そんな物騒なものじゃないですよ。舐めてみてください」
<br>「そんな物騒なものじゃないですよ。舐めてみてください」
275行目: 281行目:
<br> こうなっては、誤魔化しようもないだろう。僕は重苦しい気持ちのまま、寝台に戻ることを提案した。
<br> こうなっては、誤魔化しようもないだろう。僕は重苦しい気持ちのまま、寝台に戻ることを提案した。


 トイレの床に缶詰は置いたまま、僕は最初の部屋に戻った。後ろを権田がついてくる。先刻のディスカッションのように、僕らはベッドに座った。ただし、権田はベッドの上で胡座をかいているが、僕は端に腰掛け、横を向いた。
 トイレの床に缶は置いたまま、僕は最初の部屋に戻った。後ろを権田がついてくる。先刻のディスカッションのように、僕らはベッドに座った。ただし、権田はベッドの上で胡座をかいているが、僕は端に腰掛け、横を向いた。
<br>「それで、佐藤は何に気がついたんだ?」
<br>「それで、佐藤は何に気がついたんだ?」
<br> 真っ直ぐに権田が問いかけてくる。僕は俯いた。どこから話せばいいのだろうか? こんな残酷なことを、どうやって伝えればいいというのだ? 迷った末に、僕は口を開いた。
<br> 真っ直ぐに権田が問いかけてくる。僕は俯いた。どこから話せばいいのだろうか? こんな残酷なことを、どうやって伝えればいいというのだ? 迷った末に、僕は口を開いた。
286行目: 292行目:
<br>「ここから脱出する方法が、一つだけあるんです。奴らは、{{傍点|文章=僕らにその唯一の手段を取ってほしい}}んです」
<br>「ここから脱出する方法が、一つだけあるんです。奴らは、{{傍点|文章=僕らにその唯一の手段を取ってほしい}}んです」
<br>「その、唯一の脱出方法ってのは、一体何なんだ?」
<br>「その、唯一の脱出方法ってのは、一体何なんだ?」
<br> 権田の性急な問いを無視して、外堀を埋めていく。叶うなら、僕が口に出す前に、権田に気づいてほしい。僕が言わんとしている、残酷な真実に。
<br> 権田の性急な問いを無視して、外堀を埋めていく。叶うなら、僕が口に出す前に、権田に気づいてほしい。僕が言わんとしている、残忍で悪趣味極まりない真実に。
<br>「さっき、なぜ奴らは僕らにしばらく生きていてほしいのか、と言いましたね? その答えは、脱出には時間がかかるからです。1年、いや3年、もっとかかるかもしれない。その間僕らを生かすために、生きられると判断させて僕らにその脱出方法を取らせるために、これだけの設備を用意したんです」
<br>「さっき、なぜ奴らは僕らにしばらく生きていてほしいのか、と言いましたね? その答えは、脱出には時間がかかるからです。1年、いや3年、もっとかかるかもしれない。その間僕らを生かすために、生きられると判断させて僕らにその脱出方法を取らせるために、これだけの設備を用意したんです」
<br>「その方法ってのは、何なんだ……?」
<br>「その方法ってのは、何なんだ……?」
<br>「取るのは、踏み台戦法です。足りない1メートルを、稼ぐ方法があるんです」
<br>「取るのは、踏み台戦法をひねった方法です。足りない1メートルを、稼ぐ方法があるんです」
<br>「しかし、ここにあるものでは、どれも高さが足りないという結論に至ったじゃないか」
<br>「しかし、ここにあるものでは、どれも高さが足りないという結論に至ったじゃないか」
<br>「その通りです。ここにあるものでは、1メートルに届かない。だから、{{傍点|文章=ここに無いものを使う}}んです」
<br>「その通りです。ここにあるものでは、1メートルに届かない。だから、{{傍点|文章=ここに無いものを使う}}んです」
<br>「外から何かを調達する方法があるのか?」
<br>「外から何かを調達する方法があるのか?」
<br>「そうじゃありません。{{傍点|文章=今はここに無いけど}}、{{傍点|文章=後でここに現れるものを使う}}んです」
<br>「そうじゃありません。{{傍点|文章=今ここには無いけど}}、{{傍点|文章=後でここに現れるものを使う}}んです」
<br>「どういうことだ?」
<br>「どういうことだ?」
<br>「まだわかりませんか⁈」
<br>「まだわかりませんか⁈」
305行目: 311行目:
<br>「そして、三人目を用意するのは、僕らにとって不可能なことではない」
<br>「そして、三人目を用意するのは、僕らにとって不可能なことではない」
<br>「不可能だろう⁉︎」
<br>「不可能だろう⁉︎」
<br>「なぜです? 食料も衛生環境も、時間もある。あの缶の中身は、{{傍点|文章=粉ミルク}}ですよ、先輩。おあつらえ向きに、風呂では70℃の湯さえ用意できる」
<br>「なぜです? 食料も衛生環境も、時間もある。あの缶の中身は、{{傍点|文章=粉ミルク}}ですよ、先輩」
<br>「まさか……まさか……」
<br>「まさか……まさか……」
<br> 権田は驚愕に目を見開いて叫んだ。
<br> 権田は驚愕に目を見開いて叫んだ。
312行目: 318行目:
<br>「赤ん坊が数年育てば、身長は1メートルに達するでしょう。そして、ここには{{傍点|文章=成人男女が一組いる}}んです。これが、脱出方法ですよ」
<br>「赤ん坊が数年育てば、身長は1メートルに達するでしょう。そして、ここには{{傍点|文章=成人男女が一組いる}}んです。これが、脱出方法ですよ」
<br>「でも、でも……色々ないだろう、その、病院とか……」
<br>「でも、でも……色々ないだろう、その、病院とか……」
<br>「原始時代でも、人類は繁殖できたんです。不可能ではないでしょう」
<br>「原始時代でも、人類は繁殖できたんです。不可能ではないでしょう。それに、いくつか工夫も凝らされてるんですよ。粉ミルクは母乳が出ない不測の事態に備えたものでしょうし、それを溶く70℃の湯だって風呂で用意できます。流動食も、離乳食を兼ねているんでしょうね」
<br>「でも……え……そんな……」
<br>「でも……え……そんな……」
<br>「だから言ったでしょう。とてもやろうとは思えない方法だと」
<br>「だから言ったでしょう。とてもやろうとは思えない方法だと」
<br> 権田は絶句していた。でも、僕は事実を押し通さねばならない。
<br> 権田は絶句していた。でも、僕は事実を押し通さねばならない。
<br>「これでわかったでしょう? ここは、{{傍点|文章=セックスしないと出られない部屋}}なんですよ」
<br>「これでわかったでしょう? ここの正体は、{{傍点|文章=セックスしないと出られない部屋}}なんですよ」
<br>「セッ……そんな……」
<br>「セッ……そんな……」
<br> 権田の整った顔が赤く染まったのが、闇の中でも見えた。思わず僕は権田の両肩を掴んで、マットレスに押し倒す。ボブカットの黒髪がふわりとシーツに広がり、ぱっちりした両眼が驚きに揺れる。いくら鍛え上げているとはいえ女の細腕では、同じく警察官の僕を押し退けることはできない。僕は、権田の腰にまたがった。マットレスが軋み、薄着の下の乳房が魅力的に揺れる。
<br> 権田の整った顔が赤く染まったのが、闇の中でも見えた。思わず僕は権田の両肩を掴んで、マットレスに押し倒す。ボブカットの黒髪がふわりとシーツに広がり、ぱっちりした両眼が驚きに揺れる。いくら鍛え上げているとはいえ女の細腕では、同じく警察官の僕を押し退けることはできない。僕は、権田の腰にまたがった。マットレスが軋み、薄着の下の乳房が魅力的に揺れる。
<br>「これが、脱出する唯一の方法なんです。……先輩、いいですか?」
<br>「これが、脱出する唯一の方法なんです。……先輩、いいですか?」
<br> ほのかな灯りの下、権田の目の奥が、微かに揺らいだ。
<br> ほのかな灯りの下、権田の目の奥が、微かに揺らいだ。
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