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 <br> '''映画研究部同好会'''
 <br> '''映画研究部同好会'''


 <br> 映画研究部同好会の部室は、校舎東棟3階の理科室の奥にある、こじんまりとした部屋だった。そこには4人くらいが使えそうな机と3つのパイプ椅子、なぜか新しめのホワイトボード、そして雑多に機材が入った学校らしい棚があるだけだった。なかなか良い雰囲気だ。その狭さはまるで秘密基地のようで、僕の男の子の心が嫌でもくすぐられる。窓は北側にひとつ。そこからは先ほど一階から見ていたより高い位置から校庭が見下ろせる。
 <br> 映画研究部同好会の部室は、校舎東棟3階の理科室の奥にある、こぢんまりとした部屋だった。そこには4人くらいが使えそうな机と3つのパイプ椅子、なぜか新しめのホワイトボード、そして雑多に機材が入った学校らしい棚があるだけだった。なかなか良い雰囲気だ。その狭さはまるで秘密基地のようで、僕の男の子の心が嫌でもくすぐられる。窓は北側にひとつ。そこからは先ほど一階から見ていたより高い位置から校庭が見下ろせる。
<br> 「へえ、同好会でも部室ってもらえるんだね。」
<br> 「へえ、同好会でも部室ってもらえるんだね。」
 <br> 僕はニヤリと笑って言う、
 <br> 僕はニヤリと笑って言う、
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<br> 「ミステリ小説には大きく分けて5つくらいの種類がある。それは……」
<br> 「ミステリ小説には大きく分けて5つくらいの種類がある。それは……」
 <br> 僕はホワイトボードの上部に“ミステリ小説”と書き、その下に5つの点を並べた。そして喋りながらペンを走らせていく。
 <br> 僕はホワイトボードの上部に“ミステリ小説”と書き、その下に5つの点を並べた。そして喋りながらペンを走らせていく。
<br> 主にサスペンス小説、警察小説、スパイ小説、ハードボイルド。そして最後に……本格ミステリ。」
<br> 「主にサスペンス小説、警察小説、スパイ小説、ハードボイルド。そして最後に……本格ミステリ。」
 <br> 僕は最後に挙げた本格ミステリの点に大きく丸をつけた。
 <br> 僕は最後に挙げた本格ミステリの点に大きく丸をつけた。
<br> 「祐介がやりたいのは映画だろう?なら、この本格ミステリが良いよ。何故かと言うと、他のミステリは比較的映像化の敷居が高いから。サスペンス小説やスパイ小説ならギリギリ行けるかもしれないけど、警察小説なんかはまず無理だとと思うな。」
<br> 「祐介がやりたいのは映画だろう?なら、この本格ミステリが良いよ。何故かと言うと、他のミステリは比較的映像化の敷居が高いから。サスペンス小説やスパイ小説ならギリギリ行けるかもしれないけど、警察小説なんかはまず無理だとと思うな。」
<br> 「本格ミステリは映像にしやすいのか。」
<br> 「本格ミステリは映像にしやすいのか。」
<br> 「まあ、僕が言ったことをまとめるとそうだけど、厳密には結構違う。本格ミステリって言う言葉はあまりに広義的で曖昧な物なんだ。その中に沢山の種類があるから、一概には言えない。しかし、そのぶんやり易そうなものも多いってことさ。僕が映像化しやすいジャンルとして真っ先に思い付くのは“暗号解読”とか“日常の謎”とかかな。どちらも、製作の上でどうしてもネックとなる演出―例えばリアリティが必要な人の死体とか、より専門的で高度な知識が必要な場面とか―を回避しやすいと思う。」
<br> 「まあ、僕が言ったことをまとめるとそうだけど、厳密には結構違う。本格ミステリって言う言葉はあまりに広義的で曖昧な物なんだ。その中に沢山の種類があるから、一概には言えない。しかし、そのぶんやり易そうなものも多いってことさ。僕が映像化しやすいジャンルとして真っ先に思い付くのは“暗号解読”とか“日常の謎”とかかな。どちらも、製作の上でどうしてもネックとなる演出――例えばリアリティが必要な人の死体とか、より専門的で高度な知識が必要な場面とか――を回避しやすいと思う。」
<br> 「それは良いな。ところで、“日常の謎”ってなんだ?」
<br> 「それは良いな。ところで、“日常の謎”ってなんだ?」
<br> 「“日常の謎”って言うものは、文字通り日常に潜む謎に迫ったミステリー作品の事なんだ。現実に起こり得るかもしれない身近な謎が多いから、物語に入り込みやすいことも特徴だよ。これは僕たち学生でも作りやすい。ひとつ例を挙げるとするならこんなのはどうだろう。“喫茶店で、三人の女子高生がサービスで置いてある砂糖を大量に競い合うように入れる不可解な行動をしている”」
<br> 「“日常の謎”って言うものは、文字通り日常に潜む謎に迫ったミステリー作品の事なんだ。現実に起こり得るかもしれない身近な謎が多いから、物語に入り込みやすいことも特徴だよ。これは僕たち学生でも作りやすい。ひとつ例を挙げるとするならこんなのはどうだろう。“喫茶店で、三人の女子高生がサービスで置いてある砂糖を大量に競い合うように入れる不可解な行動をしている”」
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 <br> 僕は立ち止まって暫し一考した。
 <br> 僕は立ち止まって暫し一考した。
 <br> 僕がここで祐介の手伝いをすると、真っ正直な祐介のことだから必ず僕のことを話してくれるだろう。そうすれば彼からの評価も上がる。勿論その場合出来が悪いのを作るわけにはいかない。うんといいものを作らなければ。僕はメリットデメリットを考え、憧れの有吾さんに良いところを見せたいと思った。
 <br> 僕がここで祐介の手伝いをすると、真っ正直な祐介のことだから必ず僕のことを話してくれるだろう。そうすれば彼からの評価も上がる。勿論その場合出来が悪いのを作るわけにはいかない。うんといいものを作らなければ。僕はメリットデメリットを考え、憧れの有吾さんに良いところを見せたいと思った。
<br> 「分かったよ。しょうがないな…」
<br> 「分かったよ。しょうがないな……」
 <br> そう言って振り向くとそこには鼻に掛かる笑みを湛えた祐介が立っていた。
 <br> そう言って振り向くとそこには鼻に掛かる笑みを湛えた祐介が立っていた。
<br> 「はい、お願いさん。」
<br> 「はい、お願いさん。」
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<br> 「やってくれると思ってたぜ。」
<br> 「やってくれると思ってたぜ。」
 <br> などと言う。
 <br> などと言う。
<br> 「なあ、祐介。手伝ってやるよ…手伝ってやるけどよ…」
<br> 「なあ、祐介。手伝ってやるよ……手伝ってやるけどよ……」
 <br> 僕は手に持っていた紙をテーブルに置いた。
 <br> 僕は手に持っていた紙をテーブルに置いた。
<br> 「いっぺん殴らせろ!」
<br> 「いっぺん殴らせろ!」
 <br> そして、まさに祐介の後頭部を|叩《はた》いてやろうと手を上げたその時、こんこんとドアをノックする音と共に、
 <br> そして、まさに祐介の後頭部を<ruby>叩<rt>はた</rt></ruby>いてやろうと手を上げたその時、こんこんとドアをノックする音と共に、
<br> 「ねえ、コータ居る?」
<br> 「ねえ、コータ居る?」
<br>と聞き慣れた声が聞こえた。聞き慣れてはいるがいつも学校では殆ど聞かない声だ。それが今聞こえたと言うことは…まずい。ガラッと扉が開いた。
<br>と聞き慣れた声が聞こえた。聞き慣れてはいるがいつも学校では殆ど聞かない声だ。それが今聞こえたと言うことは…まずい。ガラッと扉が開いた。
<br> 「あー、えっと、喧嘩中だった?」
<br> 「あー、えっと、喧嘩中だった?」
 <br> これは…まためんどくさい事になりそうだ。
 <br> これは……まためんどくさい事になりそうだ。
 
 


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<br> 「ところで、部活はどうしたんだよ」
<br> 「ところで、部活はどうしたんだよ」
 <br> 僕は話の腰を折って、どうにか有耶無耶にできないか、苦し紛れに質問をしてみる。
 <br> 僕は話の腰を折って、どうにか有耶無耶にできないか、苦し紛れに質問をしてみる。
<br> 「そう、そうなの。部活のことなんだけど…」
<br> 「そう、そうなの。部活のことなんだけど……」
 <br> …おっと、やってしまったようだ。祐介が隣で紅茶を少し吹き出した。笑ってるんじゃねぇぞ。
 <br> …おっと、やってしまったようだ。祐介が隣で紅茶を少し吹き出した。笑ってるんじゃねぇぞ。
<br> 「いつもは部活に来る由紀がね、今日はなんか態度がおかしくて、ちょっと体調悪いのかわからないけど、もう帰っちゃんたんだ。」
<br> 「いつもは部活に来る由紀がね、今日はなんか態度がおかしくて、ちょっと体調悪いのかわからないけど、もう帰っちゃったんだ。」
 <br> ふむ。瞳はいつも通りよくわからない。
 <br> ふむ。瞳はいつも通りよくわからない。
<br> 「そんな事、由紀さんの友達に聞いてみればいいんじゃないかい?」
<br> 「そんな事、由紀さんの友達に聞いてみればいいんじゃないかい?」
<br> 「由紀はそんなに友達作るタイプじゃなくて、1番の親友は私なのよ。」
<br> 「由紀はそんなに友達作るタイプじゃなくて、1番の親友は私なのよ。」
 <br> 胸を逸せて誇らしげにそう言う彼女を、僕はとりあえずパイプ椅子に座らせた。
 <br> 胸を逸せて誇らしげにそう言う彼女を、僕はとりあえずパイプ椅子に座らせた。
 <br> しょうがない…逃げられないなら、じっくり聴いてやろうじゃないか。
 <br> しょうがない……逃げられないなら、じっくり聴いてやろうじゃないか。


 <br> '''エルサの真実'''
 <br> '''エルサの真実'''
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