「Sisters:WikiWiki麻薬草子/海辺のカフカを読んで」の版間の差分

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<br>「君は芥川龍之介の作品を読んだことがあるかい?」
<br>「君は芥川龍之介の作品を読んだことがあるかい?」
 <br> 返事はない。僕は彼との会話にまともな返事は求めてないし、彼も返事することを望まない。
 <br> 返事はない。僕は彼との会話にまともな返事は求めてないし、彼も返事することを望まない。
<br>「彼は天才だと思うんだ。彼の文章はまるでがちがちに固まった銀の檻のようだ。もちろん、いい意味でね。全てが計算し尽くされたロジックでできている。でも多分それは彼自身が計算した物ではないんだ。彼は彼が生きている世界を隅から隅まで捉えて、それを端から端まで文章にしただけなんだ。その世界の澱を、自由を、含みを、必要な分だけ絶妙に取捨選択して、選んだ全てで造る。もちろん作家は基本的にそうだ。彼が他と一線を画して天才たる所以はこの時の“捉える”という工程にあると思う」
<br>「彼は天才だと思うんだ。彼の文章はまるでがちがちに固まった銀の時計の檻のようだ。もちろん、いい意味でね。全てが計算し尽くされたロジックでできている。でも多分それは彼自身が計算した物ではないんだ。彼は彼が生きている世界を隅から隅まで捉えて、それを端から端まで文章にしただけなんだ。その世界の澱を、自由を、含みを、必要な分だけ絶妙に取捨選択して、選んだ全てで造る。もちろん作家は基本的にそうだ。彼が他と一線を画して天才たる所以はこの時の“捉える”という工程にあると思う」
 <br> 彼は難しい顔をして黙々と前へ進んでいく。僕は話題を変える。
 <br> 彼は難しい顔をして黙々と前へ進んでいく。僕は話題を変える。
<br>「まあ、そんなことはいいんだ」
<br>「まあ、そんなことはいいんだ」
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<br>「君はどんな音楽を聴くんだい?」
<br>「君はどんな音楽を聴くんだい?」
 <br> 彼は画面から目を離さずに答える。
 <br> 彼は画面から目を離さずに答える。
<br>「最近は…マイケルジャクソンを聞くんだ」
<br>「最近は……マイケルジャクソンを聞くんだ」
 <br> 僕は右隣に歩く彼の表情を見る。
 <br> 僕は右隣に歩く彼の表情を見る。
<br>「確か…こうしたら流れるはずなんだけど……」
<br>「確か……こうしたら流れるはずなんだけど……」
<br> 彼は操作に手間取っているようだ。
<br> 彼は操作に手間取っているようだ。
<br>「いい趣味だ」
<br>「いい趣味だ」
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