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 なんせ、全員を幸せにするような理想的な「善」は、存在しえないらしいのだ。トロッコ問題なんて最たる例だ。あの一分の隙も無くモデル化された命の選択に関われば最後、もうそれは「善」ではなくなってしまう。理想的で完全な「善」は、フィクションの世界の「めでたしめでたし」にしか存在しないのだ。そこまで考えて、気づいた。ならばその「フィクション」を作ればいい。
 なんせ、全員を幸せにするような理想的な「善」は、存在しえないらしいのだ。トロッコ問題なんて最たる例だ。あの一分の隙も無くモデル化された命の選択に関われば最後、もうそれは「善」ではなくなってしまう。理想的で完全な「善」は、フィクションの世界の「めでたしめでたし」にしか存在しないのだ。そこまで考えて、気づいた。ならばその「フィクション」を作ればいい。


 こういうわけで、私は小説を書き始めた。どうやって書けばいいのかよく知らなかったが、とりあえず最初に物語に登場する要素を説明した。その後、実況中継風の二人の人物の会話を通じて、数人の犯罪者を登場させた。展開に併せて、彼らの内面を描写した。私は死刑になるらしいから。そういう私が恐ろしく思う考えも書いた。後で使うからだ。そして今、私を投影した人物に、私を代弁してもらっているのだ。
 こういうわけで、私は小説を書き始めた。どうやって書けばいいのかよく知らなかったが、とりあえず最初に物語に登場する要素を説明した。その後、実況中継風の二人の人物の会話を通じて、数人の犯罪者を登場させた。展開に併せて、彼らの内面を描写した。私は死刑になるらしいから、そういう私が恐ろしく思う考えも書いた。後で使うからだ。そして今、私を投影した人物に、私を代弁してもらっているのだ。


 さて、いよいよ、理想的で完全な「善」を行うことができる。それは、誰にでも等しく受け入れられる、とても善く、素晴らしく、現実にはあり得ないような何かだ。今、わたしは、それを行った。すると、今まで出てきたすべての登場人物が喜んだ。彼らは更生し、善人になったのだ。「今上善人王」さえ、発言を撤回してくれた。「死刑制度は廃止すべきだ」「あなたはもう更生して、善人になった」と言っている。
 さて、いよいよ、理想的で完全な「善」を行うことができる。それは、誰にでも等しく受け入れられる、とても善く、素晴らしく、現実にはあり得ないような何かだ。今、わたしは、それを行った。すると、今まで出てきたすべての登場人物が喜んだ。彼らは更生し、善人になったのだ。「今上善人王」さえ、発言を撤回してくれた。「死刑制度は廃止すべきだ」「あなたはもう更生して、善人になった」と言っている。


 そこでわたしは、この小説のタイトルを変更することにした。元々は「善人しか出てこない刑務所」だったのを、今、「善人しか出てこない話」にした。なぜなら、登場人物は今や完全に更生し、善人としか言いようがない存在になっているからだ。わたしだってそうだ。ここにいるわたしは、現実にはあり得ないような何かによって、もはや善人としか言いようがない存在になっている。
 そこでわたしは、この小説のタイトルを変更することにした。元は「善人しか出てこない刑務所」だったのを、今、「善人しか出てこない話」にした。なぜなら、登場人物は今や完全に更生し、善人としか言いようがない存在になっているからだ。わたしだってそうだ。ここにいるわたしは、現実にはあり得ないような何かによって、もはや善人としか言いようがない存在になっている。


 わたしも早くそこへ行きたい。
 わたしも早くそこへ行きたい。
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