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(ページの作成:「<big>'''第一章 めっちゃデカい屋敷と死体'''</big> ──二月二十日・深夜── 二月二十日午前一時、めっちゃデカい屋敷に悲鳴が響き渡った。 八名しかいない屋敷の中で、その主人である実業家<ruby>律家<rt>りつけ</rt></ruby><ruby>几帳男<rt>きちょうめん</rt></ruby>の遺体が発見されたのだ。 しかし、こういうミステリー小説にありがちな探偵…」) |
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「もう、ちゃんと説明するってば。だからつまり、このときママの前の人と後の人の組み合わせは二通りしかないの。ママの前に四人、後に一人のときと、前に三人、後に二人のとき。そしてこの二つの場合で、ウソツさんの順番は取り敢えずそれぞれ一通りずつに定まるわ。 | 「もう、ちゃんと説明するってば。だからつまり、このときママの前の人と後の人の組み合わせは二通りしかないの。ママの前に四人、後に一人のときと、前に三人、後に二人のとき。そしてこの二つの場合で、ウソツさんの順番は取り敢えずそれぞれ一通りずつに定まるわ。 | ||
えーと、じゃあまず、{{傍点|文章=ママの前に四人、後に一人のとき}} | えーと、じゃあまず、{{傍点|文章=ママの前に四人、後に一人のとき}}。ママの次に出される飲み物がコーヒーであること、ママの直前に来た世哉おじさんの二つ前に出された飲み物がミルクであること、そしてミルクとコーヒーは三回ずつ出されていることから、このとき、一番目の人は『ミルクかコーヒーを飲んだ誰か』、二番目の人は『ミルクを飲んだ誰か』、三番目の人は『ミルクかコーヒーを飲んだ誰か』、四番目の人は『コーヒーを飲んだ世哉おじさん』、五番目の人は『ミルクを飲んだママ』、そして六番目の人は『コーヒーを飲んだ誰か』だとわかる。ウソツさんはコーヒーを飲んだんだから、この中でウソツさんであり得る人は、一、三、六番目の人になるわね。 | ||
じゃあまず、ウソツさんが一番目だとしましょう。……あれ? でもウソツさんが一番最初の人なら、『ウソツさんの二つ前の人』が存在しなくなっちゃうわ。よってこの可能性はなくなる。次に、ウソツさんが六番目だとするわ。ここで、『ウソツさんの二つ前の人』である世哉おじさんは、『ミルクを飲んだ人』であるはずなのに、実際はコーヒーを飲んでいる。これもおかしいからあり得ない。 | じゃあまず、ウソツさんが一番目だとしましょう。……あれ? でもウソツさんが一番最初の人なら、『ウソツさんの二つ前の人』が存在しなくなっちゃうわ。よってこの可能性はなくなる。次に、ウソツさんが六番目だとするわ。ここで、『ウソツさんの二つ前の人』である世哉おじさんは、『ミルクを飲んだ人』であるはずなのに、実際はコーヒーを飲んでいる。これもおかしいからあり得ない。 | ||
なら、ウソツさんが三番目なら? 三番目の二つ前、すなわち一番目の人は『ミルクを飲んだ人』で充分あり得る。よってこのとき、一番目の人は『ミルクを飲んだ誰か』、二番目の人は『ミルクを飲んだ別の誰か』、三番目の人は『コーヒーを飲んだウソツさん』、四番目の人は『コーヒーを飲んだ世哉おじさん』、五番目の人は『ミルクを飲んだママ』、六番目の人は『コーヒーを飲んだ誰か』といえるわね。 | |||
これはさっき挙げた三つの条件を全て満たしているわ。ちゃんとミルクとコーヒーの数もあってる。――だけど、この状況はあり得ない。なぜなら、{{傍点|文章=コノイエさんと孔ちゃんの前後関係が成立しない}}から。思い出して。コノイエさんが飲んだのはコーヒー、孔ちゃんが飲んだのはミルク、そしてコノイエさんの次は孔ちゃんであることが確定している。だから、『コーヒーを飲んだ誰か』の次に『ミルクを飲んだ誰か』がいる、という状況が存在していないこれでは、条件の一つが成り立たなくなるのよ。 | これはさっき挙げた三つの条件を全て満たしているわ。ちゃんとミルクとコーヒーの数もあってる。――だけど、この状況はあり得ない。なぜなら、{{傍点|文章=コノイエさんと孔ちゃんの前後関係が成立しない}}から。思い出して。コノイエさんが飲んだのはコーヒー、孔ちゃんが飲んだのはミルク、そしてコノイエさんの次は孔ちゃんであることが確定している。だから、『コーヒーを飲んだ誰か』の次に『ミルクを飲んだ誰か』がいる、という状況が存在していないこれでは、条件の一つが成り立たなくなるのよ。 | ||
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橘地の脳味噌は熱暴走し、コトコトという音を立て始めた。しかしラレは意に介さず続行する。 | 橘地の脳味噌は熱暴走し、コトコトという音を立て始めた。しかしラレは意に介さず続行する。 | ||
「さっきと同じように考えると、このとき、一番目の人は『ミルクを飲んだ誰か』、二番目の人は『ミルクかコーヒーを飲んだ誰か』、三番目の人は『コーヒーを飲んだ世哉おじさん』、四番目の人は『ミルクを飲んだママ』、五番目の人は『コーヒーを飲んだ誰か』、六番目の人は『ミルクかコーヒーを飲んだ誰か』となる。この中でウソツさんであり得る人は、二、五、六番目の人になるわ。 | |||
ウソツさんが二番目だとすると、『ウソツさんの二つ前の人』が存在しなくなるのであり得ない。五番目だとすると、『ウソツさんの二つ前の人』である世哉おじさんは、やっぱりミルクではなくコーヒーを飲んでいるのであり得ない。ウソツさんが六番目だとしても、さっきと同様にコノイエさんと孔ちゃんの前後関係が成り立たなくなるからあり得ない。 | |||
さて、これで、{{傍点|文章=ママの直前の人が世哉おじさんであるとき}}の全ての場合が成立しないことが分かった。ということで、今度は{{傍点|文章=ママの直前の人がウソツさんであるとき}}だけど……覚えてる? 世哉おじさんとウソツさんの条件はほとんど同じなの。どっちもコーヒーを飲んでるし、どっちも二つ前の人がミルクを飲んでいる。――世哉おじさんの順番としてあり得るものは、この二つによって絞り込まれたわよね。当然、ママの条件は共通。だから、世哉おじさんさんの順番に関しても、ウソツさんの直前、それか一番最後、この二つにまで絞れるわ。すると結局、どちらの場合でもコノイエさんと孔ちゃんの前後関係が成立しなくなる」 | さて、これで、{{傍点|文章=ママの直前の人が世哉おじさんであるとき}}の全ての場合が成立しないことが分かった。ということで、今度は{{傍点|文章=ママの直前の人がウソツさんであるとき}}だけど……覚えてる? 世哉おじさんとウソツさんの条件はほとんど同じなの。どっちもコーヒーを飲んでるし、どっちも二つ前の人がミルクを飲んでいる。――世哉おじさんの順番としてあり得るものは、この二つによって絞り込まれたわよね。当然、ママの条件は共通。だから、世哉おじさんさんの順番に関しても、ウソツさんの直前、それか一番最後、この二つにまで絞れるわ。すると結局、どちらの場合でもコノイエさんと孔ちゃんの前後関係が成立しなくなる」 | ||
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「そ、そうよ。ママの直前に人がいるとき、全ての場合で矛盾が発生する。ということは必然的に、ママの直前には誰もいなかった……つまり、{{傍点|文章=ママは一番最初の人だった}}ということになる。『直前に出された飲み物がミルクではない』――これは『直前に出された飲み物がコーヒーである』というだけでなく、『直前に出された飲み物が{{傍点|文章=無い}}』」という可能性も含んでいるもの。 | 「そ、そうよ。ママの直前に人がいるとき、全ての場合で矛盾が発生する。ということは必然的に、ママの直前には誰もいなかった……つまり、{{傍点|文章=ママは一番最初の人だった}}ということになる。『直前に出された飲み物がミルクではない』――これは『直前に出された飲み物がコーヒーである』というだけでなく、『直前に出された飲み物が{{傍点|文章=無い}}』」という可能性も含んでいるもの。 | ||
ママが一番最初の人であることから、ママの直後の『コーヒーを飲んだ誰か』がコノイエさんで確定するわ。コーヒーを飲んだ人には、他にも世哉おじさんとウソツさんがいるけど、彼らには『二つ前の人がミルクを飲んでいる』という条件がある。さっきも言ったように、『二番目の人の二つ前』なんてあり得ないものね。 | |||
コノイエさんの直後は孔ちゃんだから、ドミノ倒しで最初の三人が確定するわね。一番目の人は『ミルクを飲んだママ』、二番目の人は『コーヒーを飲んだコノイエさん』、三番目の人は『ミルクを飲んだ孔ちゃん』。で、残っているのは世哉おじさん、ウソツさん、凱兄の三人。こうなると、四番目の人も確定できるわ。四番目の人の二つ前――つまり二番目の人は、『コーヒーを飲んだコノイエさん』。二つ前の人がミルクを飲んでいる世哉おじさんとウソツさんは、四番目の人ではあり得ないから、ここには凱兄が入るわね。 | |||
五、六番目の人の二つ前は、それぞれ『ミルクを飲んだ孔ちゃん』と『ミルクを飲んだ凱兄』となる。矛盾はないから、あとは世哉おじさんとウソツさんの順番ね。――さっきは直後の人がママで確定していたから考慮しなかったけど、世哉おじさんの帰り際に、パパはコーヒーの粉を片付けている。このことから、{{傍点|文章=世哉おじさんの直後の人はコーヒーを飲んでいない}}ことが分かるわね。粉はコーヒーを淹れるのに毎回必要になるんだから、次もコーヒーを淹れなきゃならないってときに片付けるなんて非合理的よ。パパはそこまでクレイジーな人じゃないわ。 | 五、六番目の人の二つ前は、それぞれ『ミルクを飲んだ孔ちゃん』と『ミルクを飲んだ凱兄』となる。矛盾はないから、あとは世哉おじさんとウソツさんの順番ね。――さっきは直後の人がママで確定していたから考慮しなかったけど、世哉おじさんの帰り際に、パパはコーヒーの粉を片付けている。このことから、{{傍点|文章=世哉おじさんの直後の人はコーヒーを飲んでいない}}ことが分かるわね。粉はコーヒーを淹れるのに毎回必要になるんだから、次もコーヒーを淹れなきゃならないってときに片付けるなんて非合理的よ。パパはそこまでクレイジーな人じゃないわ。 |
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