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「正直、怖いな、って思ったんです。もちろん、娘の物は『跡奉』のために一旦置いているだけであって、持ち帰ること自体はいつでもできると言っていました。しかし、妻はあの時、本当に娘の持ち物をすべて持って行こうとしているくらいの気持ちに見えました。何というか、とにかく、異様だったんです。……でも、妻の話を聞く限りでは、『家族の会』は良い団体です。だから、ある日曜日、不安な気持ちを払拭するために、私も妻と一緒に『家族の会』の施設に行ってみることにしたんです。
「正直、怖いな、って思ったんです。もちろん、娘の物は『跡奉』のために一旦置いているだけであって、持ち帰ること自体はいつでもできると言っていました。しかし、妻はあの時、本当に娘の持ち物をすべて持って行こうとしているくらいの気持ちに見えました。何というか、とにかく、異様だったんです。……でも、妻の話を聞く限りでは、『家族の会』は良い団体です。だから、ある日曜日、不安な気持ちを払拭するために、私も妻と一緒に『家族の会』の施設に行ってみることにしたんです。


 カーナビに従い、数時間ほど車を運転して着いたのが、彼らが『本館』と呼んでいる建物でした。東京と言っても、かなり田舎の方で、近くの道路も往来はまばらでしたね。『本館』の外見は、コンクリートの打ちっぱなしの直方体といった感じで、シンプルなつくりになっていました。しかし、中に入ってみると、意外に重厚感のある内装で驚いたのを覚えています。壁は落ち着きのあるクリーム色で塗られていて、小さいシャンデリアのようなものが天井に吊り下げられていました。そこで妻に紹介してもらったのが、『家族の会』の代表という立場にあるらしい、アミさんという同年代くらいの女性でした。アミさんによれば、この建物は『家族の会』の先々代、すなわち四代目の代表が、被害者家族たちの憩いの場となるようにと造り上げたものだそうです。」
 カーナビに従い、数時間ほど車を運転して着いたのが、彼らが『本館』と呼んでいる建物でした。東京と言っても、かなり田舎の方で、近くの道路も往来はまばらでしたね。『本館』の外見は、コンクリートの打ちっぱなしの直方体といった感じで、シンプルなつくりになっていました。しかし、中に入ってみると、意外に重厚感のある内装で驚いたのを覚えています。壁は落ち着きのあるクリーム色で塗られていて、小さいシャンデリアのようなものが天井に吊り下げられていました。そこで妻に紹介してもらったのが、『家族の会』の代表という立場にあるらしい、アミさんという同年代くらいの女性でした。アミさんによれば、この建物は『家族の会』の先々代、すなわち四代目の代表が、被害者家族たちの憩いの場となるようにと造り上げたものだそうです。
 
 さらに案内されたのが、奥の扉の先にあった、『跡奉』のために用意されたという広い場所でした。そこにはたくさんの仮設トイレのような個室が並べられており、私は妻に連れられてその中の娘に割り当てられているという個室のところへ行きました。渡された鍵で扉を開けると、その中には確かに、妻が持ち出した娘の物がきれいに収まっていました。妻は、これで納得しただろう、というふうにこちらを見てきました。……しかし私は、ますますこの団体のことを疑わしく思うようになりました。というのも、私がいた間中ずっと、その部屋のあちこちの個室から、ずっと子供の泣き声がしてきたからです。妻によれば、誘拐児童のきょうだいを連れてきている親も大勢おり、その子供がぐずっているだけだというのですが、聞こえてくる泣き声は明らかに赤ん坊のものだけではありませんでした。物心ももうついているくらいの子供の声で、号泣しているのが、あちこちから聞こえてきたんです」
 
 「跡奉」のための部屋に、その被害児童の「きょうだい」……この状況は、前回出てきた「きょうだい跡奉」という儀式に何か関係しているのだろうか?
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