「利用者:Notorious/サンドボックス/ピカチュウプロジェクト」の版間の差分

<br>「そうだ。普通のトリックってのは、'''犯人が被害者やら探偵やらに仕掛けるもの'''だろう？　ほら、例えば」

<br>　そこで椅子が軋む音が微かに聞こえた。兄さんは立ち上がったみたいだった。俺はベッドに座ったまま黙って話を聞いていた。

<br>　まさにそう質問しようとしていた俺は慌てて口を噤んだ。兄さんはエアーで簡易トリックを実演し始めたようだ。

<br>　ゴトッとギターが倒れる音がした。

<br>「どうだケン、兄さんが何したかはわかったか？」

<br>「うん！」

<br>「ならどんなトリックなの？」

<br>「さっきも言ったが、作者が読者に仕掛けるトリックだ。具体例を挙げるなら、こんな感じだ。

<br>「花子！」

<br>　俺はすぐに答えた。

<br>「ブブー、残念！　実は次郎は女で、花子は男だったんです！　というわけで正解は次郎でした！」

<br>　俺は唖然としていた。だって、そんなことないだろ？　すると兄さんは少し焦ったような声で付け足した。

<br>　当時の俺は分かったような分からないような感じだったが、疑問は残った。

<br>「なんでそんなことするの？」

<br>「タケ君は溜め息ばかり吐いてるねえ」

<br>「そんなんだと幸運も逃げていくぜ」

<br>　そう言って三津田さんは銀縁眼鏡を拭き、京極さんは赤ら顔でカラカラと笑った。

<br>　3人のおじさんは揃って僕を子供扱いする。まあ30代の小島さんはともかく、京極さんと三津田さんは還暦が近い。年の差を考えれば当然なのかもしれない。でも、気分のいいことではないからやめてくれと言ってるんだが、本人たちは改善する気がないらしい。僕はまた溜め息を吐こうとして、慌てて口を閉じた。

<br>　午前10時、僕たちは作られた商品をひたすら箱に詰める作業をしていた。まったく、暇で暇でしょうがない。そこで僕は、小島さんに話の続きをするよう催促した。叙述トリックの説明はあらかた終わったと思うんだけど、続きとは何だろう？　京極さんと三津田さんも、目を輝かせて小島さんを見つめている。この人たちホントに50代か？　目の輝きは小学生だぞ？

<br>　小島さんは「しゃあねえなあ」と言いつつも、どこか楽しげに続きを話し始めた。