「Sisters:WikiWikiオンラインノベル/それいけ!ルサンチマン」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
251行目: 251行目:
 青年の困惑は増しにも増した。{{傍点|文章=資本家を襲撃した存在はいない}}?
 青年の困惑は増しにも増した。{{傍点|文章=資本家を襲撃した存在はいない}}?


 「じゃあルサンチマンはいったい何なの?って顔ね。ふふ、とっても笑える話よ。答えはこう……{{傍点|文章=資本家のお引っ越し}}!」
 「じゃあルサンチマンはいったい何なの、って顔ね。ふふ、とっても笑える話よ。答えはこう……{{傍点|文章=資本家のお引っ越し}}!」


 青年は唖然とする。
 青年は唖然とする。
263行目: 263行目:
 青年は、何も考えられなかった。あらゆる人間の愚かさを嫌と言うほど眼前に突きつけられ、得意の自嘲さえできず、ただ茫然とするしかなかった。
 青年は、何も考えられなかった。あらゆる人間の愚かさを嫌と言うほど眼前に突きつけられ、得意の自嘲さえできず、ただ茫然とするしかなかった。


 「黴金卿も馬鹿な奴ね。これを止める方法ならいくらでもあったわ。少しでも腰を入れてこの{{傍点|文章=反逆の芽}}を潰していれば良かったのにさ、{{傍点|文章=皇帝}}の座に胡坐をかいて何もしなかった。私ならそんな{{傍点|文章=へま}}はしないわ。……そうだ、君は『アンパンマン』という作品を知ってるかな? まあ、知らないだろうけどね。遠い東の島国で有名な物語なの。あれで例えるなら、黴金卿は『かびるんるん』といったところね。あらゆる食品――財産のメタファーかしら?それを蝕み、壊し、貪る……それに、無限に湧いて出てくるところなんかもうそっくりさ!」
 「黴金卿も馬鹿な奴ね。これを止める方法ならいくらでもあったわ。少しでも腰を入れてこの{{傍点|文章=反逆の芽}}を潰していれば良かったのにさ、{{傍点|文章=皇帝}}の座に胡坐をかいて何もしなかった。私ならそんな{{傍点|文章=へま}}はしないわ。……そうだ、君は『アンパンマン』という作品を知ってるかな? まあ、知らないだろうけどね。遠い東の島国で有名な物語なの。あれで例えるなら、黴金卿は『かびるんるん』といったところね。あらゆる食品――財産のメタファーかしら? それを蝕み、壊し、貪る……それに、無限に湧いて出てくるところなんかもうそっくりさ!」


 青年は、すべてを諦めて、すべてを放棄して、ぼうっとしていた。窓の外に横たわる、美しい山々の、その奥の奥の方を眺めていた。この話が終われば、自分は邪悪な扇動者――{{傍点|文章=次の皇帝}}――の弾丸を受けて死ぬ、そのことが分かりきっていたからだ。青年の感情を司るところは、急速に、氷のように冷たくなっていった。
 青年は、すべてを諦めて、すべてを放棄して、ぼうっとしていた。窓の外に横たわる、美しい山々の、その奥の奥の方を眺めていた。この話が終われば、自分は邪悪な扇動者――{{傍点|文章=次の皇帝}}――の弾丸を受けて死ぬ、そのことが分かりきっていたからだ。青年の感情を司るところは、急速に、氷のように冷たくなっていった。


 「あれ……おーい!聞いてる?もう飽きちゃったの? はあ。つまんないなあ。{{傍点|文章=あの犬}}も最期はこんなだったよ」
 「あれ……おーい!聞いてる? もう飽きちゃったの? はあ。つまんないなあ。{{傍点|文章=あの犬}}も最期はこんなだったよ」


 青年は、旗子が引き金に指をかけていることに気づいた。しかし、不思議と恐怖は無かった。それどころか、愚鈍にも、いかなる感情さえもが湧いてこなかった。そのあらゆる毛先から骨の髄に至るまで、自身の全てをしてもなお、何も感じ取ることができなかったのである。何にも感動することなく、極めて浅薄に、怠惰の内に、青年は自身の生涯を終えようとしていた。
 青年は、旗子が引き金に指をかけていることに気づいた。しかし、不思議と恐怖は無かった。それどころか、愚鈍にも、いかなる感情さえもが湧いてこなかった。そのあらゆる毛先から骨の髄に至るまで、自身の全てをしてもなお、何も感じ取ることができなかったのである。何にも感動することなく、極めて浅薄に、怠惰の内に、青年は自身の生涯を終えようとしていた。
8,864

回編集