「利用者:Notorious/サンドボックス/ピカチュウプロジェクト」の版間の差分

下書き
(校訂)
(下書き)
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<br>「わかったよ。丁度叙述トリックについての昔話があってな、聞かせてやるよ。ただし、手を動かしながらだ」
<br>「わかったよ。丁度叙述トリックについての昔話があってな、聞かせてやるよ。ただし、手を動かしながらだ」
<br> 見ると、京極さんと三津田さんがもぞもぞと起き出していた。2人とももう、おじさんというよりおじいさんといった方がしっくりくる歳だ。京極さんは身長が低くて小太り、三津田さんは対照的にのっぽで痩せぎすな体型をしている。話し方も、三津田さんは二回りほど年下の僕にも丁寧語を使うが、京極さんはゴリゴリの関西弁で、対照的だ。いつも同じ時間に起きていると、アラームなぞ無くとも自然と目が覚めてしまうものだ。僕はため息を吐くと、布団を畳むために立ち上がった。
<br> 見ると、京極さんと三津田さんがもぞもぞと起き出していた。2人とももう、おじさんというよりおじいさんといった方がしっくりくる歳だ。京極さんは身長が低くて小太り、三津田さんは対照的にのっぽで痩せぎすな体型をしている。話し方も、三津田さんは二回りほど年下の僕にも丁寧語を使うが、京極さんはゴリゴリの関西弁で、対照的だ。いつも同じ時間に起きていると、アラームなぞ無くとも自然と目が覚めてしまうものだ。僕はため息を吐くと、布団を畳むために立ち上がった。
<br>「あれは俺が小4になりたての4月の出来事だった。」
<br>「あれは俺が小6になりたての4月の出来事だった。」
<br> そう言って小島さんは話し始めた。
<br> そう言って小島さんは話し始めた。


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==結==
==結==
{{格納|中身=
{{格納|中身=「ちょっ、終わり?」
「ちょっ、終わり?」
<br> 思わず大きな声が出てしまった。
<br> 思わず大きな声が出てしまった。
<br>「どういうことですか。お兄さんはプリン嫌いなんでしょう? 説明してくださいよ」
<br>「どういうことですか。お兄さんはプリン嫌いなんでしょう? 説明してくださいよ」
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<br>「じゃんけんほい!」
<br>「じゃんけんほい!」
<br> 勝者は三津田さん。頭を抱えて悔しがる京極さんを尻目に、得意そうに話し始めた。
<br> 勝者は三津田さん。頭を抱えて悔しがる京極さんを尻目に、得意そうに話し始めた。
<br>「タケくん、今までのケンくんの話には叙述トリックが仕掛けられていたんだ」
<br>「タケくん、今までのケンくんの話には叙述トリックが仕掛けられていたんですよ」
<br> そのくらいは見当がついている。そうでもないと、急にプリンの話になった理由がわからない。
<br> そのくらいは見当がついている。そうでもないと、急にプリンの話になった理由がわからない。
<br>「じゃあそのトリックは何だったのか。結論から言うと、始めに出てきた兄とその後の兄は別人なんだよ」
<br>「では、それは何なのか。叙述トリックというのは、きちんと伏線を辿れば見破れるようになっているんですよ」
<br> 兄が別人? 話の展開が急過ぎて理解が追いつかない。
<br>「その伏線っていうのは?」
<br>「厳密に言うと、『幼いケンくんに叙述トリックの解説をした兄』と『ケンくんに怪我をさせ、笑った兄』は別人ということだ。そしてプリンを好かないのは前者、プリンを食べたのは後者というわけだ。ケンくんは3兄弟だったんじゃないかな」
<br>「じゃあタケくん、ギターを使った密室トリックを思い出してください。こら、ゴクさん、じゃんけんに負けた人に解答権はありませんよ」
<br>「よく聞くと、前者は『兄さん』、後者は『兄貴』と呼び分けておったぞ」
<br> 得意気に口を開きかけた京極さんを制して、三津田さんは説明を始めた。
<br>「じゃんけんで負けた者に解答権はないぞ。大人しくしとれ」
<br>「あのトリックは、ドアが内開きだから成立するものです。外開きならつっかえ棒なんてできませんからね。つまりこの事実から解ることは、<ruby>小島さんのお兄さんの部屋の扉は内開き<rt>、、、、、、、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>だということです」
<br> 京極さんはすごすごと退き下がった。小島さんは僕らの様子をニコニコと見守っている。一方の僕には疑問が生まれた。
<br> 全く予期していなかった方向に話が転がっている。三津田さんは微笑んで説明を続けた。
<br>「でも、小島さんは4人家族だと言ってませんでした?」
<br>「でも幼き頃のケンくんが鼻に傷を負ったとき…」
<br> 三津田さんは見事足し算に正解した孫を見るような顔をした。
<br> その瞬間、ようやく三津田さんの言わんとしていることが理解できた。
<br>「その通りだが、正確には『その時は』『4人暮らし』と言っただけだ。上の兄はもう一人暮らしを始めた頃だったんじゃあないかな。そう、この4月からだろう」
<br>「<ruby>ドアは外開きだった<rt>、、、、、、、、、</rt></ruby>!」
<br> そこで京極さんが口を挟んできた。
<br> 僕は思わず叫んでしまった。小島さんは相変わらずニコニコしている。すると京極さんが口を挟んできた。
<br>「『何かと心労の絶えない時期』ってのは長兄の大学受験とかじゃろうな。それに、ダイニングにお誕生席があったのも、5人暮らしの名残じゃろう」
<br>「どっちの場合も、部屋は兄の自室やと明言されとる。部屋に扉が二つもあるっちゅうのは考えづらいやろう」
<br> 三津田さんは京極さんを止めるのを諦めたらしい。
<br>「ということは、導きやすい結論はこれです。<ruby>小島さんに兄は2人いるんです<rt>、、、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>」
 
「兄が、2人…?」
<br> 一瞬思考が止まる。そんなことあり得るのか? 戸惑う僕を尻目に、2人は解説を続けた。
<br>「始めに出てきた兄とその後の兄は別人なんです。厳密に言うと、『<ruby>幼いケンくんに叙述トリックの解説をした兄<rt>、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>』<ruby>と<rt>、</rt></ruby>『<ruby>ケンくんに怪我をさせ<rt>、、、、、、、、、、</rt></ruby>、<ruby>笑った兄<rt>、、、、</rt></ruby>』<ruby>は別人<rt>、、、</rt></ruby>ということですね。そして<ruby>プリンを好かないのは前者<rt>、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>、<ruby>プリンを食べたのは後者<rt>、、、、、、、、、、、</rt></ruby>というわけです」
<br>「気いつけて聞いとると、『兄さん』と『兄貴』ちゅうて呼び分けとったで。ケンは3兄弟だっちゅうことやないかな」
<br> 話の展開が急過ぎて理解が追いつかない。僕の頭には当然の疑問が生まれた。
<br>「でも、小島さんちは4人家族だって言ってたじゃないですか」
<br> 兄が2人いるなら家族は5人いないとおかしくなる。すると三津田さんは足し算に見事正解した孫を見るような顔をした。
<br>「その通りですが、正確には『その時は』『4人暮らし』と言っただけです。<ruby>上の兄<rt>、、、</rt></ruby>、<ruby>つまりプリンが嫌いな兄は<rt>、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>、<ruby>もう一人暮らしを始めた頃だった<rt>、、、、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>のではないですかね。そう、その年の4月から」
<br>「『何かと心労の絶えない時期』っちゅうのは長兄の大学受験とかやろな。それに、ダイニングにお誕生席があったのも、5人暮らしの名残やろう」
<br> なんでこの爺さんたちはそんなに細かいところまで覚えてるんだ。
<br> なんでこの爺さんたちはそんなに細かいところまで覚えてるんだ。
<br>「ほお、それは気づかなんだ。だが、わしは次男の名が分かるぞ。多分『<ruby>政治<rt>せいじ</rt></ruby>』というんだろう、どうじゃ?」
<br>「ふむ、それは気づきませんでした。ですが、私は次男の名前が分かりますよ。多分『<ruby>政治<rt>せいじ</rt></ruby>』というんでしょう、どうです、ケンくん?」
<br>「ああ、その通りだ。ちなみに漢字もまんままつりごとだよ」
<br>「ああ、その通りだ。ちなみに漢字も、ちゃんとまつりごとだよ」
<br> 小島さんも2人の洞察力に苦笑いしている。
<br> 小島さんも2人の洞察力に苦笑いしている。一方、僕は釈然としない。
<br>「でも小島さんは亮二お兄さんと話してたじゃないですか」
<br>「じゃあ、最初の場面で小島さんとお兄さんが話してたのはどういうことです? 亮二お兄さんの部屋に2人ともいたじゃないですか」
<br>「ありゃ電話じゃろ」
<br>「ありゃあ<ruby>電話<rt>、、</rt></ruby>やろ」
<br> 京極さんはこともなげに言う。
<br> 京極さんは事も無げに言う。
<br>「電話って…ええ? 言われてみればあり得なくもないのか…?」
<br>「<ruby>同じ部屋にいるという記述は<rt>、、、、、、、、、、、、、</rt></ruby>、<ruby>実はない<rt>、、、、</rt></ruby>んですよ」
<br>「でも電話って…ええ? 言われてみればあり得なくもないのか…?」
<br> 確かにその時代には携帯電話は普及し始めていただろうけれども。
<br> 確かにその時代には携帯電話は普及し始めていただろうけれども。
<br>「それにしても2人とも、どうして気づいたんですか? 兄が2人いるって」
<br>「ガキん頃のケンは、プリンを平らげた犯人は両親やないとわかった時点で、政治兄しか選択肢があらへんかったんや。『無駄な思考』っちゅうのは、もう巣立った亮二兄を考えの範疇に入れとったことやな」
<br> 得意気に口を開こうとした京極さんを制し、三津田さんが説明し始めた。
<br>「というわけで、プリンを食べた犯人は、政治お兄さんだとわかるんです」
<br>「ギターの密室トリックを思い出すんだ。あれは扉が内開きでないと成立しない。だが幼きケンくんが鼻に傷を負ったとき…」
<br> 三津田さんと京極さんはこうして説明を締めくくった。
<br>「ドアが外開きだった!」
<br> 僕は思わず叫んでしまった。小島さんは相変わらずニコニコしている。三津田さんは解説を続けた。
<br>「どちらも兄の『自室』と言っている。同じ部屋に2つ扉があるというのも考えにくい。だからそれぞれの部屋の主は違うのではないかと思ったわけだ。そうなれば必然的に上の兄は巣立った後だと分かる」
<br>「そして『無駄な思考』ちゅうのは、もうこの家にいない上の兄を考えの範疇に入れていたこと。そうすれば答えは歴然、消去法でプリンを食べた犯人が解るっちゅう塩梅じゃ」
<br>「さすがだな、みっちゃん、ゴクさん。まあタケ、叙述トリックってのはこんな風に、気をつければ見抜けるようになってるものなんだ」
<br>「さすがだな、みっちゃん、ゴクさん。まあタケ、叙述トリックってのはこんな風に、気をつければ見抜けるようになってるものなんだ」
<br> 僕は2人の注意深さと推理力に感嘆した。もちろん話を組み立て、叙述トリックをこれ以上ないくらい分かりやすく説明してくれた小島さんにも。どうやら僕はこの人たちを見くびっていたらしい。
<br> 僕は2人の注意深さと推理力に感嘆した。もちろん話を組み立て、叙述トリックをこれ以上ないくらい分かりやすく説明してくれた小島さんにも。どうやら僕はこの人たちを見くびっていたらしい。
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