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男の名は都井睦男。貝尾に住む若い青年じゃった。両親を早くに結核で亡くし、祖母と二人で暮らしておった。自らも軽度の結核と肋膜炎を患っており、引きこもりがちではあったが学業の成績も良く、まずまず良好な生活を送っておった。 | 男の名は都井睦男。貝尾に住む若い青年じゃった。両親を早くに結核で亡くし、祖母と二人で暮らしておった。自らも軽度の結核と肋膜炎を患っており、引きこもりがちではあったが学業の成績も良く、まずまず良好な生活を送っておった。 | ||
そんな中、租唖という奇病が出来する。睦男の祖母にも症状が表れた。みるみるうちに祖母は衰弱し、寝たきりとなった。薄い布団の上で呻き続け、日々の生活も儘ならない。じゃが、唯一の肉親を見捨てることも出来ぬ。その内、村では租唖の患者がみるみる増えていった。死人も出始め、睦男の心には絶望の澱がじわじわと積もっていった。軈て、祖母の食事や下の世話をしているうち睦男は、祖母の近いうちの死と自らの感染を疑わなくなった。 | |||
睦男は、租唖の正体を伝染病と見做しておった。公害病という概念が無い時代、一般人としては甚だ常識的な判断じゃったと言えよう。現に、学のある人間の殆どは、この説を信じておった。故に、実際にはインジウムを含んだ作物さえ摂取し続けねば罹患しないのじゃが、睦男は感染者に近づけば感染すると考えておった。この如何ともし難い事実の錯誤が、破局を生む。 | 睦男は、租唖の正体を伝染病と見做しておった。公害病という概念が無い時代、一般人としては甚だ常識的な判断じゃったと言えよう。現に、学のある人間の殆どは、この説を信じておった。故に、実際にはインジウムを含んだ作物さえ摂取し続けねば罹患しないのじゃが、睦男は感染者に近づけば感染すると考えておった。この如何ともし難い事実の錯誤が、破局を生む。 |
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