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(にょーん) |
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公民館には多くの人が見物に来ていた。前庭には人だかりができており、大道芸人すらもいてちょっとした祭りのようだった。それだけでなく、公民館の中にも少なくない人が物珍しげに辺りを見回していた。中にはカメラを構えて何かを話している者もいる。しかし、志仁田は気にせずキッチンに向かった。志仁田は観衆の目は気にならなかったが、冬の夕方とあって寒さがさすがに厳しくなってきたため、ドアと窓を閉めた。部屋には志仁田と何人かの買い物を手伝ってくれた人たち、それと数人の野次馬が残された。そこには大きな調理台と用具一式、小型発電機に繋がれた冷蔵・冷凍庫までもが用意されていた。手伝いを頼んだ人々が事前に準備を進めてくれていたのだ。 | 公民館には多くの人が見物に来ていた。前庭には人だかりができており、大道芸人すらもいてちょっとした祭りのようだった。それだけでなく、公民館の中にも少なくない人が物珍しげに辺りを見回していた。中にはカメラを構えて何かを話している者もいる。しかし、志仁田は気にせずキッチンに向かった。志仁田は観衆の目は気にならなかったが、冬の夕方とあって寒さがさすがに厳しくなってきたため、ドアと窓を閉めた。部屋には志仁田と何人かの買い物を手伝ってくれた人たち、それと数人の野次馬が残された。そこには大きな調理台と用具一式、小型発電機に繋がれた冷蔵・冷凍庫までもが用意されていた。手伝いを頼んだ人々が事前に準備を進めてくれていたのだ。 | ||
各人が入手した具材は、低温保存が必要なら冷蔵庫の中に、そうでなければ黒いクロスの敷かれた長机に置かれるシステムになっていた。様々な材料がテーブルの上に置いてある。志仁田はそのことを農家のおじさんから聞くと、自らの戦利品を机の上に置いた。そして、家庭科の授業で作ったクマのキャラがプリントされたエプロンを着けると、セーターの袖をまくり、いまさらの制作に取り掛かった。 | |||
===調理=== | ===調理=== | ||
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そこへ一台のタクシーが乗りつけ、中からは舞妓さんが出てきた。運転手も降りて、トランクから液体窒素入りの重いボンベをなんとか下ろした。室内の整備を終えてちょうど外へと出てきた農家のおじさんが、自慢の腕っぷしでボンベを室内に運び込み、数輪の薔薇を持った舞妓さんが後に続いた。中では、おばさんの詮索の矛先が雪女に移っていた。「あなた、どうして薔薇を咥えてるの?」「あ、あの……好きなんです。狩野英孝」「そうなの⁉︎」 | そこへ一台のタクシーが乗りつけ、中からは舞妓さんが出てきた。運転手も降りて、トランクから液体窒素入りの重いボンベをなんとか下ろした。室内の整備を終えてちょうど外へと出てきた農家のおじさんが、自慢の腕っぷしでボンベを室内に運び込み、数輪の薔薇を持った舞妓さんが後に続いた。中では、おばさんの詮索の矛先が雪女に移っていた。「あなた、どうして薔薇を咥えてるの?」「あ、あの……好きなんです。狩野英孝」「そうなの⁉︎」 | ||
そして街が夕焼けに染まった午後五時、志仁田が公民館に戻ってきた。志仁田に気がついた数人は彼女に着いて公民館に入り、そこでいまさらの調理が始まった。この際、農家のおじさんが全ての材料を把握してはいなかったこと、そして志仁田が農家のおじさんの言を鵜呑みにし食材のチェックをあまりしなかったことが、いまさらの危険性を大きく下げることに繋がった。サンドバッグはテーブルクロスとなり、和傘とゴールボールは外で使われており、YS-11とまきびしは<s>ギリギリ</s>食べられるものに変わっており、自学帳と三階フロアに至っては用意すらされていなかった。しかし、それでも用意された材料の種類が膨大であったこと、普通サラダには食べられるものばかりが入っているという偏見が手伝い、志仁田はこれに気づくことなくいまさらの作成に取り掛かったのだ。 | |||
十分ほどで作り終え、志仁田が食べ始めたいまさらは、しかし、決して安全なものではなかった。トリカブトとフグの存在である。 |
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