「Sisters:WikiWikiオンラインノベル/顔面蒼白」の版間の差分

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 深夜12時57分、川上功大は隣家のインターホンを押した。理由は、住人の森金吾を殺すためである。
 深夜12時57分、川上功大は隣家のインターホンを押した。理由は、住人の森金吾を殺すためである。
<br> 約1ヵ月前、この家に森が引っ越してきた。挨拶に来た森の顔を見たとき、俺は戦慄した。忘れもしない、中学の時俺を虐めていた奴だったからだ。だがそれ以上に恐ろしかったのは、森が俺の顔はおろか名前すら覚えていないことだった。
<br> 約1ヶ月前、この家に森が引っ越してきた。挨拶に来た森の顔を見たとき、俺は戦慄した。忘れもしない、中学の時俺を虐めていた奴だったからだ。だがそれ以上に恐ろしかったのは、森が俺の顔はおろか名前すら覚えていないことだった。
<br> 俺を元同級生とは露知らず、森は順風満帆な近況を得意げに語った。曰く、小さなIT会社を設立し、経営が軌道に乗り始めたのだと。俺に水を掛け、給食を奪い、腹を蹴ったこいつが、キラキラした面でキラキラした生活を送っていやがる。俺は毎日ボロ工場で汗みずくになりながら働いているのに。
<br> 俺を元同級生とは露知らず、森は順風満帆な近況を得意げに語った。曰く、小さなIT会社を設立し、経営が軌道に乗り始めたのだと。俺に水を掛け、給食を奪い、腹を蹴ったこいつが、キラキラした面でキラキラした生活を送っていやがる。俺は毎日ボロ工場で汗みずくになりながら働いているのに。
<br> 許せない。
<br> 許せない。
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<br>「ええ、先日出張に行きまして」
<br>「ええ、先日出張に行きまして」
<br> 真っ赤な嘘だ。
<br> 真っ赤な嘘だ。
<br> 俺たちは廊下を真っ直ぐ歩いていった。森は場を持たせようと何か喋っている。
<br> 俺達は廊下を真っ直ぐ歩いていった。森は場を持たせようと何か喋っている。
<br>「京都ですかあ。中学の修学旅行で行ったきりですねえ」
<br>「京都ですかあ。中学の修学旅行で行ったきりですねえ」
<br> 廊下の突き当たりにある扉をくぐった。ここが居間だ。
<br> 廊下の突き当たりにある扉をくぐった。ここが居間だ。
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<br>「そうでしたか。実は今朝、そこの家の森金吾さんが亡くなっているのが発見されたんですよ」
<br>「そうでしたか。実は今朝、そこの家の森金吾さんが亡くなっているのが発見されたんですよ」
<br>「ええっ⁈」
<br>「ええっ⁈」
<br> 我ながら、いいリアクション。そして、ここはしっかり惚ける。
<br> 我ながら、いいリアクション。そしてここはしっかり惚ける。
<br>「まさか、自殺とか……?」
<br>「まさか、自殺とか……?」
<br>「いや、それが、他殺なんですよ」
<br>「いや、それが、他殺なんですよ」
<br>「えっ……」
<br>「えっ……」
<br> 何もかも先刻承知なのだが、警部補はそんなこと露知らず、話を続けた。
<br> 何もかも先刻承知なのだが、警部補はそんなこと知る由もなく、話を続けた。
<br>「そういうわけで、あなたにちょっと話を聞きたいんです。でも、話が長くなるんで、その……」
<br>「そういうわけで、川上さんにちょっと話を聞きたいんです。でも、話が長くなるんで、その……」
<br> 警部補は俺の後ろ、部屋の奥に目をやった。図々しい奴らだな。だが、内心に反して俺は愛想よく言った。
<br> 警部補は俺の後ろ、家の奥に目をやった。図々しい奴らだな。だが、内心に反して俺は愛想よく言った。
<br>「ああ、どうぞお上がりください」
<br>「ああ、どうぞお上がりください」
<br>「ありがとうございます! いやー、本当助かります」
<br>「ありがとうございます! いやー、本当助かります」
<br>「いいんですよ、外は暑いですからね」
<br>「いいんですよ、外は暑いですからね」
<br> 一瞬、昨夜のことが頭をよぎった。だめだ、俺は何も知らない無辜の市民でなければならない。
<br> 一瞬、昨夜のことが頭をよぎった。だめだ、俺は何も知らない無辜の市民でなければならない。
<br> 俺は警官2人を招き入れた。
<br> 扉を大きく開き、警官2人を招き入れた。
<br>「どうぞどうぞ。なにぶん男の独り暮らしですから、むさ苦しいし汚いですが」
<br>「どうぞどうぞ。なにぶん男の独り暮らしですから、むさ苦しいし汚いですが」
<br>「いえいえ、気にしませんよ。私の家の方が汚いですから」
<br>「いえいえ、気にしませんよ。私の家の方がずっと汚いですから」
<br> 警部補はそう言うとカラカラと笑った。人当たりのいい警官だ。一方、巡査はさっきから全く喋らない。無言で靴を脱ぎ、周りを見回しながら警部補の後をついてくる。正直不気味だ。
<br> 警部補はそう言うとカラカラと笑った。人当たりのいい警官だ。一方、巡査はさっきから全く喋らない。無言で靴を脱ぎ、周りを見回しながら警部補の後をついてくる。正直不気味だ。
<br> 俺は家中からどうにか椅子を3脚かき集め、食卓に並べた。
<br> 俺は家中からどうにか椅子を3脚かき集め、食卓に並べた。冷蔵庫から麦茶を出し、3つのコップに注ぐ。それをテーブルに置き、俺の向かいに警官2人が並ぶ形で、俺達は座った。
<br>「コーヒーでも淹れましょうか?」
<br>「いやいや、お構いなく。あまり長居しても悪いですから」
<br> なら遠慮なく。俺の向かいに警官2人が並ぶ形で、俺達は座った。
<br>「で、俺に聞きたい話ってのは?」
<br>「で、俺に聞きたい話ってのは?」
<br> どうせ、怪しい人を見なかったか、とかだろうが。
<br> どうせ、怪しい人を見なかったか、とかだろうが。
<br>「ああ、その前に事件のあらましをお話ししておきましょうか」
<br> 一口茶を飲むと、警部補は口を開いた。
<br>「そうですね。お願いします」
<br>「その前に事件のあらましをお話ししておきましょう」
<br>「事件の発覚は、今朝の6時頃です。犬の散歩をしていたご婦人が、森さん宅の裏手の窓が割られているのを見つけたんです。そして声をかけても返事がない。不審に思って警察に通報し、駆けつけた私たちが事切れた森さんを発見したってわけです」
<br>「お願いします」
<br>「事件の発覚は、今朝の6時頃です。犬の散歩をしていたご婦人が、森さん宅の裏手の窓が割られているのを見つけたんです。そして声をかけても返事がない。不審に思って警察に通報し、駆けつけた私達が事切れた森さんを発見したってわけです」
<br> 発覚は思ったより早かったのだな。もう5時間以上経っている。現場の捜査に時間がかかったのだろうか。
<br> 発覚は思ったより早かったのだな。もう5時間以上経っている。現場の捜査に時間がかかったのだろうか。
<br>「森さんは一体誰に殺されたんです?」
<br>「森さんは一体誰に殺されたんです?」
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<br> まずい。最初に浮かんだ感想はそれだった。
<br> まずい。最初に浮かんだ感想はそれだった。
<br> どうして、気づいた? 今、俺の顔は引き攣っていないだろうか?
<br> どうして、気づいた? 今、俺の顔は引き攣っていないだろうか?
<br> 落ち着け。決定的な証拠があれば、問答無用で俺をしょっ引いているはずだ。こうして直接話して、怪しい挙動をしないか見極めているの
<br> 俺はコップを引っ掴み、茶を含んだ。落ち着け。決定的な証拠があれば、問答無用で俺をしょっ引いているはずだ。こうして直接話して、怪しい挙動をしないか見極めているの
だ。
だ。
<br> 戦闘態勢を整えろ。一字一句聞き逃すな。ボロを一切出すな。
<br> 戦闘態勢を整えろ。一字一句聞き逃すな。ボロを一切出すな。
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<br>「さっき言ったようなことが起こったのなら、盗人は当然、{{傍点|文章=森さんを正面から襲ったことになる}}。でも、{{傍点|文章=森さんの傷口から噴き出た血飛沫は}}、{{傍点|文章=綺麗に床に散っていた}}んです」
<br>「さっき言ったようなことが起こったのなら、盗人は当然、{{傍点|文章=森さんを正面から襲ったことになる}}。でも、{{傍点|文章=森さんの傷口から噴き出た血飛沫は}}、{{傍点|文章=綺麗に床に散っていた}}んです」
<br> そういうことか! 俺は歯噛みした。
<br> そういうことか! 俺は歯噛みした。
<br>「そこは丁度壁と机に挟まれたところで、盗人が血飛沫を横っ跳びに避けたというのも考えづらい。これはおかしい。{{傍点|文章=正面から森さんを襲った盗人なんてのは}}、{{傍点|文章=いなかったんじゃないか}}、と考えられるわけです」
<br>「状況からして、犯人に返り血が当たるはずなのに、血が遮られた形跡が無い。そこは丁度壁と机に挟まれたところで、盗人が血飛沫を横っ跳びに避けたというのも考えづらい。これはおかしい。{{傍点|文章=正面から森さんを襲った盗人なんてのは}}、{{傍点|文章=いなかったんじゃないか}}、と考えられるわけです」
<br> 警部補はニヤリと笑った。
<br> 警部補はニヤリと笑った。
<br> だが俺は、半ば落ち着きを取り戻しつつあった。確かに血痕については考えが至らなかったが、流石に根拠が薄弱すぎる。いくらでも言い逃れはできる。
<br> だが俺は、半ば落ち着きを取り戻しつつあった。確かに血痕については考えが至らなかったが、流石に根拠が薄弱すぎる。いくらでも言い逃れはできる。
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<br> そこまで言って、俺は戦慄した。慌てて付け加える。
<br> そこまで言って、俺は戦慄した。慌てて付け加える。
<br>「まあ、{{傍点|文章=森さんがどこを刺されたか知らない}}ので、何とも言えないですけど」
<br>「まあ、{{傍点|文章=森さんがどこを刺されたか知らない}}ので、何とも言えないですけど」
<br> 危なかった……。{{傍点|文章=実際俺は森をそのような体勢で殺している}}。{{傍点|文章=これでは}}、{{傍点|文章=俺がこういう風に殺したので知っていますよ}}、{{傍点|文章=と言っているようなもの}}じゃないか。
<br> 危なかった……。{{傍点|文章=実際俺は森をそのような体勢で殺している}}。{{傍点|文章=これでは}}、{{傍点|文章=現場の状況を知っていますよ}}、{{傍点|文章=と言っているようなもの}}じゃないか。
<br> 余計なことは言わないようにせねば。俺の動揺を知ってか知らずか、警部補はまた口を開いた。
<br> 余計なことは言わないようにせねば。俺の動揺を知ってか知らずか、警部補はまた口を開いた。
<br>「森さんは右の肋の下、肝臓の辺りを一突きでしたよ。だから、川上さんの仰るようなこともあり得る。確かに、あれだけで決めつけるのは早計でしょうな」
<br>「森さんは右の肋の下、肝臓の辺りを一突きでしたよ。だから、川上さんの仰るようなこともあり得る。確かに、これだけで決めつけるのは早計でしょうな」




 しかし、警部補は笑みを一層強め、右手の人差し指を立てた。
 しかし、警部補は笑みを一層強め、右手の人差し指を立てた。
<br>「でも、もう一つ、気になるところがあったんです」
<br>「でも、もう1つ、気になるところがあったんです」
<br> まだあるのか? 俺は焦りを覆い隠し、問うた。
<br> まだあるのか? 俺は焦りを覆い隠し、問うた。
<br>「何です?」
<br>「何です?」
157行目: 155行目:
<br> 警部補の返答は、予想外のものだった。
<br> 警部補の返答は、予想外のものだった。
<br>「{{傍点|文章=木刀です}}」
<br>「{{傍点|文章=木刀です}}」
<br> 瞬間、雷のように衝撃が走った。森は「木刀は{{傍点|文章=まだ持ってます}}」と言っていた。なら、どこにあったのだ。傘立て? いやそんなもの無かった。待て、そもそも木刀をなぜ持っていたんだ?
<br> 木刀? どこかで聞いたような……。
<br> 瞬間、雷のように衝撃が走った。森はあの時、「木刀は{{傍点|文章=まだ持ってます}}」と言っていた。なら、どこにあったのだ。傘立て? いやそんなもの無かった。待て、そもそも木刀をなぜ持っていたんだ?
<br> ふと、答えがよぎる。簡単なことだ。
<br> ふと、答えがよぎる。簡単なことだ。
<br> ── {{傍点|文章=護身用}}。
<br> ── {{傍点|文章=護身用}}。
<br> なら、どこに置く? 玄関ではない。残るは……。
<br> なら、どこに置く? 玄関ではない。残るは……。
<br> ── {{傍点|文章=寝室}}かっ!
<br> ── {{傍点|文章=寝室}}かっ!
<br> ギリリと奥歯が鳴った。気づいていないのか、警部補は饒舌に喋り続けた。
<br> ギリリと奥歯が鳴った。気づいていないのか、警部補は饒舌に喋り続ける。
<br>「森さんの寝室、ベッドの脇に、恐らく護身用の木刀が置かれていたんです。おかしいですよね? {{傍点|文章=不審な音で目覚め}}、{{傍点|文章=様子を見に行くなら}}、{{傍点|文章=当然木刀は持っていくはず}}。独り身の男として、当たり前の備えですな」
<br>「森さんの寝室、ベッドの脇に、恐らく護身用の木刀が置かれていたんです。おかしいですよね? {{傍点|文章=不審な音で目覚め}}、{{傍点|文章=様子を見に行くなら}}、{{傍点|文章=当然木刀は持っていくはず}}。独り身の男として、当たり前の備えですな」
<br> ──しまった。
<br> ──しまった。
<br> あの時、ちゃんと寝室の中を確認すべきだった。だが、後悔しても遅い。
<br> あの時、ちゃんと寝室の中を確認すべきだった。だが、後悔しても遅い。
<br>「血痕と木刀、この二点を鑑みれば、{{傍点|文章=誰かが盗人の犯行に見せかけたのではないか}}、という疑いが俄然強まる」
<br>「血痕と木刀、この二点を鑑みれば、{{傍点|文章=誰かが盗人の犯行に見せかけたのではないか}}、という疑いが俄然強まる」
<br> カラカラの喉を震わせ、俺は言い募った。
<br> 喉がカラカラだ。茶を呷り、俺は言い募った。
<br>「でも、あくまで疑いでしょう……?」
<br>「でも、あくまで疑いでしょう……?」
<br>「その通り。だから、徹底的に調べました」
<br>「その通り。だから、徹底的に調べました」
<br> 警部補は明るく言った。
<br> 警部補は高らかに言った。
<br>「犯人は盗人の仕業に見せかけようとした。なら、犯人はどこから家に入ったのか。当然、客として玄関から、でしょう。だから、玄関から死体のあるリビングまでを、隈なく調べました。するとね、出たんですよ」
<br>「犯人は盗人の仕業に見せかけようとした。なら、犯人はどこから家に入ったのか。当然、客として玄関から、でしょう。だから、玄関から死体のあるリビングまでを、隈なく調べました。するとね、出たんですよ」
<br>「……何が?」
<br>「……何が?」
179行目: 178行目:
<br> {{傍点|文章=スリッパは黒かった}}。だから、見落としたのか……。
<br> {{傍点|文章=スリッパは黒かった}}。だから、見落としたのか……。
<br> 警部補は尚も喋り続ける。
<br> 警部補は尚も喋り続ける。
<br>「検査の結果、丁度犯行が為された時間帯に付いた、森さんの血液だと判明しました。つまりこれは、{{傍点|文章=スリッパを履いた来客が森さんを殺した証拠}}なんです」
<br>「検査の結果、丁度犯行が為された時間帯に付いた、森さんの血液だと判明しました。スリッパがひとりでに靴箱へ戻るわけもない。つまりこれは、{{傍点|文章=スリッパを履いた来客が森さんを殺した証拠}}なんです」
<br> そこまで判っていたのか。こいつらがこの家に来た時点で、とっくに……。
<br> そこまで判っていたのか。こいつらがこの家に来た時点で、とっくに……。




「ところで、川上さん。殺された森さんは、あなたの中学校の時の同級生らしいですね」
「ところで、川上さん。森さんは、あなたの中学校の時の同級生らしいですね」
<br> ハッと思わず顔を上げた。そこまで、調べがついているのか。想定より、ずっと早い。
<br> ハッと思わず顔を上げた。そこまで、調べがついているのか。想定より、ずっと早い。
<br> 警部補は顔に憐憫の情を滲ませた。
<br> 警部補は顔に憐憫の情を滲ませた。
192行目: 191行目:
<br>「ところで、川上さん。先程、血痕の話をした時、あなたは{{傍点|文章=強盗が森さんを刺した}}、と仰いましたよね?」
<br>「ところで、川上さん。先程、血痕の話をした時、あなたは{{傍点|文章=強盗が森さんを刺した}}、と仰いましたよね?」
<br> 何を当たり前のことを。俺は思わず頷いた。
<br> 何を当たり前のことを。俺は思わず頷いた。
<br>「私はあなたに事件のあらましを伝える際、こう言ったんです。『{{傍点|文章=盗人は金槌か何かで窓を割り}}』『{{傍点|文章=鉢合わせし}}』『{{傍点|文章=そのまま森さんに襲いかかり殺してしまった}}』と。そして、{{傍点|文章=私は森さんが刺殺されたとは一言も言っていない}}」
<br>「私はあなたに事件のあらましを伝える際、こう言ったんです。『{{傍点|文章=盗人は金槌か何かで窓を割り}}』『{{傍点|文章=鉢合わせし}}』『{{傍点|文章=そのまま森さんに襲いかかり殺してしまった}}』と。そして、{{傍点|文章=私は森さんが刺殺されたとは一言も言わなかった}}」
<br> 口から、得体の知れない息が漏れた。
<br> 口から、得体の知れない息が漏れた。咄嗟にコップを掴むが、茶はもう残っていない。
<br> そうか、そうだったのか。
<br> そうか、そうだったのか。
<br>「{{傍点|文章=普通}}、{{傍点|文章=森さんは金槌で撲殺されたと思うでしょう}}。{{傍点|文章=なのになぜ}}、{{傍点|文章=あなたは森さんが刺殺されたことを知っていたんです}}?」
<br>「{{傍点|文章=普通}}、{{傍点|文章=森さんは金槌で撲殺されたと思うでしょう}}。{{傍点|文章=なのになぜ}}、{{傍点|文章=あなたは森さんが刺殺されたことを知っていたんです}}?」
200行目: 199行目:
<br> 駄目だ、嫌だ!
<br> 駄目だ、嫌だ!
<br> 俺は立ち上がって叫んだ。
<br> 俺は立ち上がって叫んだ。
<br>「い、言いがかりだ! 俺が犯人だって証拠は一つも無いだろう!」
<br>「い、言いがかりだ! 俺が犯人だって証拠は1つも無いだろう!」
<br> 警部補は声色を変えることなく言った。
<br> 警部補は声色を変えることなく言う。
<br>「ええ。今はまだ」
<br>「ええ。今はまだ」
<br> 続けて、警部補は隣の巡査に尋ねた。
<br> 続けて、警部補は隣の巡査に尋ねた。
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<br>「よし」
<br>「よし」
<br> 警部補は俺の目を真っ直ぐ見て言った。
<br> 警部補は俺の目を真っ直ぐ見て言った。
<br>「川上さん、あなたが森金吾さんを殺していないと仰るのなら、あそこを開けて、天井裏を見せてくれませんか?」
<br>「川上功大さん、あなたが森金吾さんを殺していないと仰るのなら、あそこを開けて、天井裏を見せてくれませんか?」
<br> 俺は、自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
<br> 俺は、自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
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